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~たぶん、転生者~むしゃくしゃして、ざまぁ系の小説を書いてすっきりしたかった。反省はしていない。

作者:佐倉硯
乙女ゲーしたことないのでよくわかってないけれど、とにかくざまぁな話が書きたくてこんな風になりました。
反省はしていない。いや、してます。
後悔はしていない。いや、しています……などと、犯人は曖昧な供述を続けており……。
前世では確かにそういう類の話が流行っていた気がする。

だからって自分がそう(・・)なるとは夢にも思わない。

前世ではそれほどオタクだったわけではないけれど、一番仲のいい親友が腐っていたたため、それなりに知識はあった。
無理矢理知識を詰め込まされたというか。

そんな中でも彼女の一番のお気に入りだった乙女ゲームがある。

タイトルは『下剋上の恋をしよう』。

時代モノですか? いいえ、学院ものです。というくらい、意外性のあるタイトルだけれど、内容に遵守したタイトルである事には違いない。

舞台は現代。金持ちの子息令嬢が集まる華ノ宮高等学院という学校が舞台で、ヒロインは平凡な家庭ながらも成績優秀で、幼馴染の男の子がワガママを言って一緒の学校に進学する羽目になった超絶愛らしいふわふわ系女子。

ちなみに幼馴染みの男の子ももちろん攻略対象だ。

攻略対象は全部で七人。

ヒロインの彼女は入学当初から、うふふ、おほほ、と笑うだけで次々フラグを立てていく。

恋愛チートってああいう子を指すんだわぁ。と鼻ほじしながら呟けば、私の大好きな親友が、「レディがはしたないよ」と苦笑したのは懐かしい思い出。鼻ほじしても苦笑だけで許してくれる親友、マジ天使。

私? 攻略対象の一人の幼馴染みで、準ライバルキャラとして確立されているアレです。

大好きな幼馴染みを虜にしたヒロインを逆恨みして、ゲスい陰湿ないじめを繰り返し、最後にはあぼーんしちゃう系キャラですが。

もちろん、前世の記憶を持って生まれた私がそんなヘマをするわけがありません。
攻略対象になる幼馴染みとは幼い頃から距離を取ったために、幼馴染みと呼べるか分からないくらい他人になりましたし、むしろ今は別の幼馴染みが存在して、既出している大好きな親友がその人です。

さて。

そんなこんなでフラグをへし折りまくったはずの私が、なぜ彼女をいじめた犯人に仕立て上げられているのか。

この(あま)ぁ、嵌めやがったな。の一言に尽きる。

このままうふふ、おほほ、と笑いながら逆ハー狙いで突っ走ってくれたらよかったものを、恋のスパイスに私を選びやがったから手に負えない。

フラグへし折ったのにコレはどういうことか。

あー、はい。なんとなく想像はできてたんですけどね。

ヒロイン(彼女)も転生者って可能性を。

でなければ、このイベントに行きつくことなんて絶対になかったはず。

ゲームの中では私が彼女をコテンパンにいじめ、最後には彼女自身を傷つけたところを、攻略対象のイケメン達が発見して形勢逆転。
一人でいじめに耐えていた彼女は、とうとうイケメン達に真実を話して同情を引く。
好感度を上げるには最適のイベントだ。

ひっくひっくと酔っ払いみたいに啜り泣きながら、自分を取り囲むイケメン達にすり寄って慰められるヒロイン。

そんなイケメンにド迫力に睨まれる私。

ヒソヒソと遠巻きに見つめるクラスメイトや野次馬達。

「どこまで最低なんだ貴様は」
「ホント、桃姫の私物を壊すだけじゃ飽き足らず、本人まで傷つけるとか最悪」
「はやく桃姫に謝ってください」
「桃姫泣かないで?」
「桃姫に仇を成すものは学院追放が望ましいな」

最後に武士が混じっていた気がするけど気にすんな。

しかし、桃姫(笑)っていうのが、あだ名じゃなくて本名だというから驚きだ。
平民の考える名前ってどうしてこうも奇抜なのかしら、おほほほほっと笑い飛ばしたくなるけれど、今はそれどころじゃあない。
イケメン達が次々に私を罵倒するものだから、周囲も私の悪口を言い始める。

あーマジたるいわぁと。

……そう思った時期が私にもありました。

残念ながら私の前世の腐った友達情報では、逆ハーエンドを目指す、哀愁漂うヒロインに残念なお知らせがあります。

はい。この世界の元となっている乙女ゲームのタイトルを思い出しましょう。

『下剋上の恋をしよう』です。

ヒロインで転生者の彼女は、この世界が乙女ゲームであることを理解しているようですが、内容まではしっかり把握していなかった様子。

実はね、貴方の取り巻きに含まれていない、レア級の攻略対象が一人だけ存在するんです。

ざわめき広がる教室内。四面楚歌となっていたその場所にやってきたのは一人の男子生徒。

「……何を、しているの?」

ざわめきの中に凛とした静かで穏やかな声が響く。

途端、喧騒としていた雰囲気が、ピシリと張り詰めて、発せられた声の主にすべての人の視線が向かう。

それはもう、モーゼの如く群がる連中が自ずと道を切り開く。

「さ、西園寺(さいおんじ)様……」

超一流財閥の御曹司で俺様何様生徒会長様の攻略対象の一人が、突然の訪問者に驚きのあまり目を見開く。

ヒロインの彼女も泣いていたはずなのに、驚きすぎて声が出ないみたい。

西園寺耀(あかる)

ヒロイン最大のライバルであり、この学院に置いて絶対的な立場を確立している男子生徒(・・・・)

見目麗しく、視界に入れたら最後、惚れずにはいられない。
あ、ほら、今だって野次馬の中に失神者が続出してる。

成績は満点以外を取った事がないという化け物じみた頭脳を持ち、しかしながら体が弱いせいで、登校するのは稀。それでも授業を免除されているのは、この学院も彼からの恩恵をごまんと受けているから。
一般中流家庭の出身ではあるものの、生まれながらにして《運》が強く、各界の重鎮達が彼の意見を求めて成功を収めていると噂されるほどの《先読み師》。
故に交友関係がものすごく広く、彼の家族に取り入ろうとする連中も後を絶たないけれど、家族は家族で彼を守り、彼もまた家族に害を成すものは決して許さないからこそ、誰も彼の出生を馬鹿にするものはいない。

穏やかな性格で誰にでも分け隔てなく優しいが、決して彼の機嫌を損ねてはいけないという暗黙のルールは、この学院に来る生徒が両親から言って聞かされる。

以前、懐が海よりも深い、優しい彼の堪忍袋の緒をぶった切った男子生徒が居た。
彼自身を金持ちに寄生する卑しい奴と言ったまでは彼も許していたらしいが、挙句の果てには彼の家族を馬鹿にしたため、彼はしかるべき制裁を行った。

ぶっちゃけ口に出して言えない社会的制裁がマジでヤバい。

どんなに権威があっても、どんなにお金を持っていても、三日足らずで彼の家族を罵った男子生徒はこつ然と学院から姿を消した。
いつの間にかいなくなっていた男子生徒には同情どころか、当然の報いだという視線ばかり向けられていたのも怖い話だ。

そんな事もあって、彼に逆らう人は一人もいない。

いやー、それなんてチート。

って言いたくなりますよね。

そんでもってそんな彼は、ヒロイン最大のライバルキャラ。

男がライバルキャラって……ってなるかもしれないけれど、ヒロインが攻略対象とくっつくには、彼からの好感度も上げておく必要があるのだ。逆ハーもしかり。

攻略対象全員、西園寺耀に様を付けるほど尊敬――否、崇拝している。

それは自分達の高水準の生活が、《先読み師》である彼の力の恩恵によってもたらされたものだと、親から口酸っぱく言われているからこそ。

タイトルの下剋上というのは、攻略対象にとってヒロインが彼を超える存在にならなければいけないということ。
超えると言っても、彼は男だから恋愛対象としてという意味ではなく、彼にも認めさせるという意味で頑張らなければいけないという、二重で好感度アップを必須とする無理ゲー。

前世の腐った友人は目の下にクマを作りながら半年かけて全攻略対象及び逆ハーエンドを成し遂げたと自慢していた。

もちろん、彼単品で攻略対象ともなりうるが、最も攻略が難しいとされていて、難易度はAAA(トリプルエー)
ちなみに腐った友人はネットの攻略に頼らず、自力で彼を落とすのに三カ月かけたと言っていた。

その情熱、リアルにも活かせばよかったのにね。と、前世を終える前にちゃんと伝えておけばよかったなと後悔してる。

説明が長くなってしまったが、そんな彼が現れるはずもないイベントで顔を出したのに驚いたのだろう。

そこに居る全員が沈黙を貫き、彼の言動を見守り続ける。

その静寂を打ち破ったのは空気が読めないヒロインこと桃姫だ。

「さ、西園寺様っ! わ、私っ! 彼女に苛められ――」
「君には聞いていないよ」

ベソって彼に縋り付こうとした桃姫の言葉を一刀両断。いくら転生者の桃姫も、さすがに彼の抑揚のない淡々とした冷たくも穏やかな言葉に口を閉ざす。

何ていうか、逆らってはいけない雰囲気が言動からにじみ出てるんだよね。

「二階堂クン、説明して」
「は、はい」

二階堂クンこと、サポートキャラなクラスメイト兼学級委員。
中小企業の社長の息子で、ここに居る攻略対象からしてみれば平凡系の彼が指名されたのは、むしろ栄誉あることだろう。

「話の流れから汲み取れば、桃……浅生(あそう)桃姫さんが、大乗(だいじょう)妃美香(きみか)さんに呼び出され、浅生さんを逆恨みして彼女の持ち物を滅茶苦茶にした挙句、カッターで彼女自身にも切りかかったところを、そこに居る男子生徒の皆さんが通りかかって助けた、といったところでしょうか」
「ありがとう」

現状を見ていたかのように淡々と述べる二階堂クン。

うん、イベントとしては本当に(・・・)発生していれば(・・・・・・・)おおよそ間違っていない内容だったし、問題ないと思われる。
二階堂クンの説明に穏やかな口調で礼を述べる彼。彼の低姿勢な態度に二階堂クンは顔を赤らめて「いえいえ、とんでもない! 西園寺様のお役にたてて光栄でブー!」と最後まで言い終えないまま鼻血をまき散らした。

二階堂クン……。流石に彼もちょっと引いてたよ?

そんな二階堂クンを放置して、彼は私とヒロイン、それからヒロインを取り巻く攻略対象を見つめて静かに口を開いた。

「現場を目撃した人は?」

実証見聞を始めたらしい彼の言葉に、いち早く反応したのは攻略対象の一人であるワンコ系男子。

「僕見たよ! 教室に入ってきたら桃姫の持ち物が滅茶苦茶になってて、彼女の腕も切られて血が出てて!」
「それは現場を目撃したのではなく、後から見た現状をそのまま語っているだけだよね?」

必死に桃姫の被害状況を伝えようと口を開いたものの、あっさりと彼に論破される。

「で、でもこの状況は、どこからどう見ても大乗さんが桃姫を傷つけたに違いないと思います!」

次に声を荒げたのは勉強一筋、ヒロインにテスト順位を追い抜かされてから恋に落ちた攻略対象の真面目クン。

真面目クンの発言に対しても、彼は静かな口調で冷静な言葉を返した。

「違いないと思う(・・・)――という言い方は、あくまで君の推測であって、真実とは異なるかもしれない」
「で、でもっ!」
「君は自分の思考一つで、誰かを破滅に導く可能性があることをちゃんと理解しているかい?」

淡々と、心に響く優しい声色で紡いだ彼の言葉に、真面目クンはそれ以上何も言えなくなってグッと息を呑んでしまう。

その後も賢明にヒロインの取り巻き連中がギャーギャーと桃姫が被害者であることを切々と語ったものの、総べて彼に論破される程度の事しか言えないのが現実だ。

「それで……浅生さんは何と言われて彼女に呼び出されたの?」

やっと自分の出番が回ってきたと感じたヒロインは、目にいっぱい涙を浮かべて縋るように彼を見つめた。

「わ、私の携帯に、知らないメールアドレスからメールが来てっ……放課後、この教室に来いって。来なければお前の大切な人達が傷つくって書いてあって……っ! 教室に来たら大乗さんが急に私のカバンから中身をばら撒いて切り刻み始めてっ! やめてって言ったのにっ、大乗さんは逆上して私にまでっ……」

最後まで言い終わるか言い終わらないかで、彼女はわーっと泣きだした。
が、彼は彼女をいたわるどころか、スルリと視線を私に向ける。

「それで? キミ……大乗さんは本当に呼び出したの?」
「呼び出してもないし、むしろ私も知らないメールアドレスで来たメールで呼び出されました。教室に入ると浅生さんが自分のカバンの中身をぶちまけ始めて、自分で自分の腕をカッターナイフで切りつけたかと思えば急に叫んで」
「嘘よっ!」

私が説明している間にも彼女は悲鳴に似た否定を繰り返す。
周囲の攻略対象もこぞってだ。

「桃姫がそんなことするはずないだろう!」
「図々しい言い訳もほどがある!」
「こんなに泣いてる桃姫が自分でしたなんて言い訳が通ると思っているのか!?」

……うぜー。

とか思ってゴメン。だってウザいんだもん。

ゲンナリとした表情を浮かべる私に、周囲が再び喧騒とし始める。
けれど彼は静かに私に歩み寄って、手を差し出した。

「メールが来た携帯を借りても?」
「ええ、もちろんです」

そう言って私が携帯電話を渡すと、彼は静かにそれを受け取ってくるりと踵を返す。

「浅生さん。君の携帯も預からせてもらっても?」

途端、彼女はビクッと体を揺らしたが、すぐにふにゃりと泣き顔を見せながらおずおずと彼に言う。

「あ、の……わ、私に来たメールは、読んだら消すように書いてあったので消してしまっていて……」

もしくは元々メールなんて来ていなかったかのどちらかだろう。

彼女が言い訳がましく携帯を差し出すのを躊躇していたけれど、彼は穏やかな表情を崩さないまま告げた。

「消してしまったものは仕方ないよ。それで構わないから貸してくれるかな?」
「えっ……あ、……は、はい」

まさか、消したのに携帯を求められるとは思っていなかったらしい彼女は、結局体のいい言い訳を思いつかなかったらしくておずおずと携帯電話を差し出す。

二つの携帯電話を受け取った彼は、ティッシュで鼻血を押さえながらも行方を見守る二階堂クンを見た。

「警察に連絡をして」
「「「「「えっ!?」」」」」

唐突に告げられた言葉に、ヒロインと取り巻きの連中が驚きの声を上げる。
ヒロインは急に顔面を蒼白とさせて動揺のあまり視線を泳がせているし。

「あの、な、何も警察沙汰にしなくても……」

震える唇でヒロインが言えば、攻略対象の男子生徒達も同意らしく「学院の品位が損なわれる」だの「生徒同士が起こした揉め事なのだから、学院内で解決すべき」だのを口々に言う。

「そ、それに! 西園寺様は中立の方なのですから、現状を見てどちらの言い分が正しいか判断していただければ一番良いと思われます!」

唐突に叫ぶように提案したのは俺様何様生徒会長様。

生徒会長様のお言葉に、周囲はこぞって「そうだそうだ」と口を揃える。
しかし彼は静かに私を見て視線だけで了承を取ると、もう一度彼らに向き直って言い放った。

「僕がいつ中立の立場だと言ったの?」
「え……そ、それじゃあ」

彼の言葉に周囲は動揺し、けれど真っ先に嬉しそうな表情を浮かべたのは桃姫だ。
しかし、残念ながら彼女は大いなる誤解をしている。
その誤解は彼が発した次の言葉によって訂正されたが。

「僕は大乗さん――妃美香の味方だよ。君達が浅生さんを大切にするように、病弱だった僕の傍に、幼い頃からずっと一緒に居てくれた、大親友で幼馴染みの妃美香を大切に思っているからね」
「なっ!!!」

桃姫はじめ、他の連中も寝耳に水と言ったように絶句していた。

「君達が何と言おうが浅生さんを信じていると同様に、僕も誰が何と言おうが、妃美香を信じている。妃美香は面倒臭がり屋だから、絶対こんな事しない」
「ちょ、私の面倒くさがり屋なの、こんなところバラさないでよ」

思わずいつもの口調で話し掛ければ、周囲はますます目を白黒させている。

そりゃそうだよね。

唯一無二、誰も寄せ付けない高嶺の花のような存在の耀に対し、こんな口調で話しかけるヤツなんて初めて見るだろうし。
私が学院内でいつもの口調で話しかけたのが嬉しかったのか、耀は満面の笑みを浮かべて私に振り返る。

「ふふっ。妃美香は平穏を愛しているが故に、僕との友好関係さえも学院で公表してくれなかったものね。やっと公にできて僕は嬉しいよ? これでやっと学院内でも一緒に過ごせるね?」
「この事が無事に解決したらね」
「それじゃあ、やっぱりちゃんと警察を呼んで実況見分してもらわなきゃ」

わくわくとした子供のような笑みを浮かべる耀の姿に、周囲は唖然としたまま時間を止めてしまったようで。

「そ……それでも警察はやり過ぎなんじゃっ」

最後の抵抗とばかりに発せられたヒロインの言葉に、彼の発した次の一言が新たな静寂を生み出した。

「なぜ? これは立派な刑事事件だよ? 器物破損及び傷害罪。罰せられるべきはちゃんと社会的に罰せられるべきだ。素人連中が是非を言い争うより、専門としている人達に任せるのが当然の事でしょう? どうして君達は、その当然に行き当たらないのか、そっちの方が不思議だよ」

相変わらず穏やかな口調ながらもさっくりと切り捨てた耀の言葉に、ヒロインは顔色を失くしてしまったようだけれど。


 ◇◆◇


「妃美香」
「あ、耀。ちょっと待ってて、今いいところで……」
「もうっ、携帯ゲームなんてやめて早く僕とランチに行こうよ。今日の学食メニューはフォアグラのソテーだって。僕、フォアグラなんて初めてなんだよ?」
「もうちょっとだからっ! フォアグラもキャビアも食べられなかったら後でお腹いっぱい食べさせてあげるから!」
「三大珍味にもう一声足りないよ?」
「わかったわかった! トリフも付け……ああっ! ま、負けたぁっ!」
「はいはい、はやく学食行こう?」
「むーっ! もうちょっとだったのにっ! あっ! アイテムないっ! 今月、課金上限越えちゃったのにっ! こうなったらもう一台の携帯でっ」
「ひーめーかー?」
「っ! わ、わかったわよぅ」

ぶつぶつと文句を言いながらも席を立った私を見て、耀はようやく日向に咲くような笑みを浮かべる。
教室を出るとき、背後でバタンバタンと人が倒れる音と悲鳴の両方が聞こえたけれど、いつもの事なのでご愛嬌。
相変わらず耀の殺人スマイルは本当に人を殺してるから怖い。

耀と私の関係が公になった事件から二週間。

事件については既にわかっちゃってる人もいるだろうけれど、一応説明すると。
あの後、本当に警察がやって来て、ヒロインの自作自演という結論に至った。ヒロインは警察が結果を出すまでずっと顔色が悪い状態だったけれど、自白も出頭もしなかったから、随分図太い神経を持っていたと思わずにはいられない。
警察が介入する前に自作自演だったことを自白しておけば、少しは耀の恩恵も受けられたかもしれないのに、というアクションを私が起こさなかったのは、他に居るかもしれない転生者への見せしめのようなもの。

非道と思われるかもしれないけれど、逆を返せば私が犯罪者に仕立て上げられる一歩手前だったのだ。

この世界が乙女ゲームの世界だろうが、生きている私達は現実で、間違っていることは間違っていると正さなければ、一生こじれたままになる。
正義の味方を名乗るわけではないけれど、自分に降りかかった火の粉を払いのけて何が悪いの? って事で。

結局、自作自演であることがバレたヒロインは、攻略対象からも見放され、学院からは一週間の自宅謹慎を言い渡されたけれど、再び登校したところで自分の味方はおらず、居心地が悪くなって自主退学。
噂によれば海外の日本人学校に留学したとかで、日本の高校で起きた出来事を知らないイケメンな連中をまた取り巻きにしているとかしないとか。
一方、攻略対象達からは正式に私に向けた謝罪があった。
面倒事が嫌だったので謝罪を受け入れたものの、攻略対象達に対する印象が耀の中で底辺にまで落ちた。
攻略対象達は慌てて汚名返上のために耀に媚を売り始めるも、彼はそれを難なく袖にしている。
もちろん、彼に唯一無二の幼馴染みであり大親友である私に対しても、仲を取り持ってほしいという依頼が入ってきたが、ぶっちゃけ私もそこまでお人よしじゃないので無理の一言で切り捨てている。

学院内でもヒエラルキーの上位に君臨していたはずの攻略対象達は、学院でも家でも肩身の狭い思いをしている。

社会的制裁を加えることもせず、むしろ知ったこっちゃない、と無視している耀の態度が恐怖以外の何ものでもないらしい。

先入観及び個人的観点から物事を決めつけてはいけないって、ちゃんと勉強になったと身に沁みればいいけれど。

そんでもって、耀はと言えば。

病弱設定はどこへ消えたのかと思うくらい、耀は毎日のように学校へ登校しては私の周りをうろちょろしている。
まぁ、三日目にはしゃぎ過ぎて貧血を起こしてぶっ倒れたおかげで、救急車に運ばれてしまったけれど、それ以外はずーっと私にべったりだ。

事実を知らなかった生徒や先生達は驚きのあまり卒倒しそうになっていたけれど、耀が私を大好きなのは平常運転で、私が耀を適当にあしらっているのも同様なため、次第に二人でいる事が当然とされるようになったのはありがたい。

耀と同様、私の事を『大乗様』と崇めるのはやめてほしいけれど。

学食へ向かう廊下を、耀と二人で手を繋い出歩く。

クールで知的な耀が、実は私にだけ甘えん坊っていうのも私だけの特権だ。

誰よりも優しくて誰よりも強かな耀。

そんな大切な存在に、私は自分が転生者であることを告げていない。

ただ、時々耀は私が転生者であることを知っているような言動を取ることがある。

私も時々、耀は私と同じなんじゃないかと思う時も。

だけど互いにそのことを口にしたことはない。

関係が壊れるとかそういうことじゃなくて、転生者であろうがなかろうが、私と耀の関係はずっと続いていくものだと信じている。

耀の首筋に、前世で私の旦那様だった人と同じく、三つ並んだホクロがあったとしても、私は何も言わないのだ。

「ねぇ、妃美香」
「なぁに? 耀」
「僕、妃美香の事、大好きだよ」
「ふふ、私も耀の事大好きよ」

そう言って微笑み合う二人は。

たぶん、転生者。


2014/04/14執筆了
角界だと、相撲の世界ですよ~。というご指摘を頂きましたので4/15訂正
妃美香「相撲の世界で耀が活躍する姿が脳裏に浮かんだそうよ(笑)すぐに土俵際に追いやられるわね」
耀「どすこーい(笑)」
A「きゃー! 西園寺様ぁああっ!!」
B「私にもどすこいしてくださいましいいっ!!」
C「ずるうぅい! 私も私もっ!」
耀「……」
妃美香「……私、時々、貴方のファンが怖いわ」
耀「奇遇だね、僕もそう思うよ……」
彼女達の琴線に何か触れたらしい。

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