五章 女の執念を甘く見るな。
私は、仲間に友に愛する人に、過去へと置き去りにされた。いくら手を伸ばしても届かなくて、私は刀を握って、すべてを捨てた。・・・・捨てたはずだった。けど、結局は追いかけていた。捨てきれなくて、遠ざけることも出来なくて、私は地に倒れた。
大船の前。
「ここ」
幾野寺綾美は刀を握り、髪を上のほうに結んだ。そして、袖を紐で纏めた。
船の上に上がると、大勢の鬼兵隊たちが綾美を取り囲んでいた。
「・・・・ザコ共が」
「何者だ!?」
「・・・・そうだな。まず名乗るのが礼儀だな。私は、幾野寺綾美だ。お前は?」
「来島また子」
「へぇ・・・。高杉の部下か。さて、アナタは・・・・強いの?」
「え・・・?」
一瞬のことだった。突然目の前から綾美の姿が消え、いつの間にかまた子の背後に立っていた。
「チッ!」
「遅い」
綾美は、また子が銃を構える前に、殴って気絶させた。
高杉のいる部屋に、兵たちがドタドタとやって来た。
「高杉様!女が・・・、女の侍が!!」
「ふん。来たか」
「捕まえて、全部吐かせます!」
「・・・・出来るならな」
高杉は、クツクツと笑った。兵たちはそれに恐怖を感じ、汗を浮かべて去っていった。
その頃、真選組屯所では、いつまで経っても帰って来ない綾美を心配し、誰一人として眠れない状況が続いていた。
「綾美」
『決着。つけてくるよ』
綾美の部屋にあった置手紙。それには涙の跡。書きながら、流した涙の跡だった。きっと、もう帰って来ないつもりだろう。生きて、帰って来れないことを承知してのことなのだろう。けど、彼等は決して動かない。彼女の誇りとプライドのために。彼等は、彼女の帰って来る場所で待ち続ける。
大人数の浪士たちに対して、立ち位置をまったく変えず、倒していく。すべて峰打ちで。
「退きなさい。用があるのは高杉だけです。時間の無駄です」
綾美は、一歩一歩進み、鬼兵を倒してある部屋に辿り着いた。
「よォ。綾美」
そこにいたのは、煙管を吹かして微笑む高杉晋助。
「高杉。・・・・決着、つけよう」
汗ばんだ腕で刀を上げ、高杉に向けて言い放った。 |