弐章 こういう時に限って置き傘がないことに物凄く腹立つ!!!
瓦の屋根の上で寝転がる銀時と高杉。二人の間に座る綾美。
「ねぇ、銀時、晋助。この戦が終わったら、アタシどっちかのお嫁さんになってあげる。兄上も『二人なら、綾美を任せられる』って言ってた」
「そりゃいいや。じゃ、明日で最後にしようぜ。絶対生き延びてやる」
「晋助は?」
「・・・・」
「って・・・寝てるし」
「じゃ、俺の嫁ってことで」
「フン。まだ返事もらってないもん」
「チッ。モテるな〜、高杉は」
悔しそうに寝直す銀時。
「絶対やぞ、銀時。もう・・・死んでほしくない」
と、私は呟いた。
―――・・・・・。
薄っすらと憶えている。
思い出したくないあの夜。
いつまでも背負っている過去。
いつまでも引きずっている過去。
忘れたいあの忌まわしい過去。
彼らは、そのように感じている。アタシは・・・・・。
血塗られた遠い記憶。・・・よく憶えていない。
「おーい。起きろ」
土方の声。
「ん〜・・・・。今日は土曜日よ、お父様。まったく、ボケが激しいんだから」
「誰がお父様だ!!!ボケてねーし、今日は月曜だ!!!」
「あ。トシ、おはようございます」
「テメーはその呼び方で呼ぶな!!」
「ケチくさいな。いいじゃない、十四郎さん」
「っ―――!!!」
「ウソ。冗談よ。昨日、山崎さんから聞いたの」
「っ・・・・山崎のヤロ・・・余計なことをっ!!」
「土方さん、着替えるから出てけ」
と、土方を部屋から追い出した。
昨日、旧友の坂田銀時に会いに行った女隊士、幾野寺綾美。銀時には入隊を反対され、しかたなく条件付きで綾美は入隊。その条件とは・・・・。
「おーい。来たぞ、綾美」
そう。毎日屯所に銀時は顔を出すこと。今日は、連れの二人も。
「よろしくネ。アタシ、神楽」
「僕は、志村新八です。でも、ホントに銀さんと二歳違いなんですか?綾美さんのほうが大人っぽいです」
「そうネ。なんか大人の匂いがするネ」
「そ、そう?」
「ちょっとヤミ臭くなったんじゃねぇか?おーい多串くーん。まさかとは思うけど、ウチの綾美ちゃんに手ェ出してないよね?」
「んなわけあるか。俺がこんな餓鬼に・・・ぶほっ!!!」
「誰がガキだ」
土方は勿論、綾美の鉄拳を喰らった。すると、綾美の後ろで昼寝していた総吾が起きた。
「なんでィ。旦那じゃねぇですかィ」
「なんネ、サドアルカ」
「よぉ、チャイナ。今日こそ決着つけてやる」
と、やり合い始めた神楽と総吾。それを見て、綾美はクスクス笑い出した。それに銀時、沖田、土方は、ミツバと重ねた。土方は思わず口からタバコを落とした。
「・・・・」
「あ、土方さん!タバコ、落としましたよ?・・・・土方さん?」
「・・・いや。なんでもねぇ」
「ふぅん。・・・・なんでも、ミツバさんと重ねるんですね」
「「「!!!!」」」
「・・・・ふぅ、さてと。私はちょっと道場のほうへ行ってきます。長刀は久し振りだからね。慣らさないと」
静かに去っていった綾美を見て、銀時はポリポリと頭を掻いた。
「あー・・・なんでこういう時だけ勘強いんだか」
「ああいう女は、どーも苦手だ」
と、タバコに火を点けた土方。
竹刀を振るう綾美。竹刀を一度下ろすと、懐から2つに折ってある紙を取り出した。静かに開くと、そこには家族の姿が写った写真だった。
「・・・・兄上、母上、父上。私は・・・・元気よ」
「幾野寺義明」
「!銀ちゃん」
「よぉ。相手してやろうか?」
「・・・・いい。ねぇ、どうして私が助かったか・・・知りたい?」
「いや」
「じゃ、これは独り言」
「・・・・・」
―――あれは、最後の夜を終えた次の日の朝。
「じゃ、行ってくるわ」
「・・・・」
「終わる?これで戦は終わるん?」
「あぁ、終わるとも。綾美、良い子で待っていろよ?」
「・・・うん」
綾美の頭を撫でて、義明は銀時たちを連れて戦に出掛けた。
小屋で数人の武士たちと帰りを待つ綾美。その時に小屋に投げ込まれたのが、火玉だった。小屋どんどん燃え上がり、しかたなく怪我人を担いで皆で外に逃げた。しかし、それが天人たちの思う壺だった。外にいた見張りはすべてやられ、外で私達を待ち構えていた。その時は、足が竦んで立てなかった。そして、私の足元に転がった刀。それを手に取った。しかし、すでに囲まれていた。
「おい。この女、ボスの土産にしね?」
「いいな」
と、綾美のほうへ手を伸ばした。
ブシュッ
天人の手は、バッサリ斬られた。ゆらりと立った綾美の目の色は完全に赤く染まっていた。
「なっ!よくも・・・・小娘がぁぁぁ!!!!!!!!」
「やっちまえ!!!」
数時間も経たないうちに綾美の足元には、天人の死体が転がった。正気を取り戻した綾美は、その光景に絶叫した。
「あ・・・あ・・・・うああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
刀を落とし、その場から逃げ出した。その後は・・・・よく覚えていない。
そして、ある老夫婦に拾われ、そのまま置いてもらった。戦の終戦後、私は家へと戻った。そして、兄の死を知らされた。
―――・・・・・。
「ま。そしてここにいるの。・・・・・まだ忘れられない。あの肉を斬った感触が・・」
「・・・・」
「あれ以来、人を斬る時はいつも理性が飛ぶ。気が付いた時には、足元にいつも死体がある。それが、怖くて人は斬れない」
「・・・・じゃ、どうしてテメーはここにいる?」
「え・・?それは、祖父が亡くなって、祖父が真選組の近藤局長に言ってここに・・・」
「違うな」
「?」
「テメーは他人を斬るのが恐ろしいんじゃない。いつか、大切なモンまで斬っちまうんじゃないかって恐れてるんだ」
「・・・・これ以上、何かを失うのが怖いの。銀時!」
綾美は、泣き顔を晒し、銀時に飛びついた。そっと抱きしめると、綾美の顔を上げ、そっと口付けした。
ポトッ
それを目にしてしまった土方は、タバコを口から落とし、舌打ちしてその場を静かに去った。
鬼兵隊
「晋助、面白い情報が入ったでござるよ」
「なんだ、万斎か」
「あの幾野寺義明の妹、幾野寺綾美が真選組に入隊したでござるよ」
「・・・・そうか。・・・ククッ、面白いことになってきた」
嵐の予感に今の私はまったく気づかなかった。 |