「もっと簡単だと思ったんだけどなあ」
ぶつくさ言いながら、木崎優が参考書を眺めている。
「なんてゆーか、あの英作文、マニアック?予想外?ねえ、聞いてる?」
「聞いてるよ。で、優はなんでここにいるわけ?」
いくらお隣さんとはいえ。
午前0時30分に、男の部屋に来るなんてどういうつもり?
「え」
優は頬を赤く染める。
「そ、それはあれだよ。テスト後の軽い友人トークをしようと、ね」
あたふたと弁解しちゃって、
「俺に会いにきたんじゃ?」
「え、ええっ!?」
取り乱して地団駄を踏む始末。
こいつは……
田丸薫。この世に生まれて、十数年。
僕はこんなに分かりやすい人間を知りません。
「違うよっ、だから、ウルトラ難しかった英語のテストについてトークしに来たっていったじゃん!」
「なんだ。俺に会いたくて来てくれたんじゃないんだ」
「そ、それは、えと」
もじもじし始める親友さん。
うちの兄ちゃん(職業:如何わしいホスト)がいうには、天使顔なこの男は女にモテないわけじゃない。なのに、もう随分前から優は俺に夢中。
自惚れじゃないけど、俺はそういうのには敏感なんだ。
と、いうか野生のカンを働かせなくても優の『好き』は明白で、もうこっちが恥ずかしくなるくらい。これで、本人その自覚がないから大変だ。
そろそろ限界かな。
「あの、ゆー?」
「なあに、薫」
素敵スマイルを向けると、つられたように嬉しそうな表情になる。
柔らかそうな頬に触れたら、その身体を腕にぎゅっと閉じ込めてみたら、どんなに気持ちいいだろうかと考えてみたりする。
でも、基本的に俺、女の子が好きだし。
優のこと大切だから半端に手え出すのはマズいべ、と思ってまして。
「お前さ、俺のこと好きだろ?」
「!」
「……だよな?」
「ぎゃあっ!ち、ちがうって!」
「だって、俺のことそういう目で見てるじゃん。」
「見てないって!そんな、薫のことカッコいいなとか良いカラダしてるなとか指ちょー綺麗とか、思ってないからっ!」
「…………」
「あっ!!」
ああ、なんて分かりやすくて簡単な君。
顔赤くして青くして、しまいには震え出すこの生物へ向かってアナタは残酷な言葉を吐けますか?
……否。
「ゆー、聞いて」
「やだ。聞きたくない。」
「聞いて。悪いけど、優の気持ちバレバレだから」
「っ」
「でさ、俺、考えたんだけど、お前のこと嫌いじゃないんだ。むしろ好ましいっていうか、ラブではなくライクだけどね」
やさしく囁くと、ぎゅっと瞑っていた、どんぐり飴みたいに濡れた目が恐る恐る開く。
「……ほんと?」
「ああ」
「おれのこと……気持ち悪いとか思わない、の?」
「思わないよ」
ひとつひとつの音を区切るようにいう。
安心したのか驚いたのか優が目をますます潤ませた。なんだか苛めている気分になって少しだけ可哀想になる。
大きな目にじっくりと見つめられると変な気分になってくる。
変ってなんだよ……あれ、俺が変なのか?
「じゃあさ、薫」
「ん?」
「俺が」
「うん」
「薫のこと裸にひんむいてカラダ中キスして、突っ込んでもいいってこと!?」
俺は優の薄い背中に回そうとしていた手をぱっと離した。
「はあっ?」
「突っ込んであんあん言わせていいってこと!?」
叫ぶなり、ハーフパンツのポケットに手を突っ込み、大量の何かをベッドにぶちまける。
「大丈夫。ちゃんとこれ使うから!」
「ゴム!?何個持ってんだ、お前のポケットは四次元かよ!?」
「だって、こんくらいは必要だろって一平さんがくれたから」
兄貴ぃぃ?
なに理解しがたいアドバイスしちゃってくれてんだよっ。
「かおるっ、優しくするからね」
「待った。たんま!」
呼吸も荒く、俺を押し倒してきた優の方を掴んで離す。
「落ち着け」
「落ち着けないもん!上から見下ろす薫の顔ってすごく色っぽいんだ。今すぐ食べちゃいたいくらい!」
「……お前、なんで見た目は天使なのに、中身は変態オヤジなんだよ」
「ご、ごめんっ、嫌いになった!?」
あの、ライクとラブの違いはおわかりで?
ふわふわの猫っ毛の頭を撫でてやり、俺は盛大な溜息をつく。
ほんの少し前まで、俺はコイツのこと、とびっきりの愛で巧妙に簡単に振ってやろうと思ってたのに。
この展開は……。
「薫?」
「お前って、チョー不思議」
「…おぉ?」
この生き物は。
なんて奇想天外。予測不能。
ああ、簡単なハズだったのに。
(end.....)
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