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女勇者セレス 作者:松宮星

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英雄の墓―――バンキグ編 3話

 第一部門『大剣』の目玉は、何と言っても女勇者だった。
 腰までの金の髪をうなじで一つに束ね、女勇者は白銀の鎧をまとい、彼女の身長ほどもある巨大な大剣『勇者の剣』を鞘から抜いて下段に構えたまま、試合場に現われた。だが、その勇ましい男装が痛々しく見えてしまうほど、小柄で細い美女なのだ。サファイアの瞳、白い肌、赤い唇……にっこりと微笑むその顔はとても艶やかなのだが、全身からたよりなさそうな可憐な美しさを漂わせている。
 会場からは、聞くに耐えない野次が飛んだ。『お嬢ちゃん、脱いでぇ』、『犯らせてぇ』、『一晩いくら?』などなど。
 しかし、女勇者は魅力的な笑みを絶やす事なく、その野次を聞き流していた。単にバンキグ語がわからないだけなのだが……
 これから、この美女が男勝りに闘うというのだ。セレスの対戦相手に対しては、『お綺麗な顔を傷つけたら承知しねえぞ』、『勝ったら、犯らせてもらえよ』、『色男』と羨望に似た声がかけられていた。
 審判の前までセレスは進み出て、何事かを囁く。審判は頷きを返し、両腕を天に向かって高々と突き上げた。
 途端、野次がぴたりと止まった。審判が両手を挙げるのは、国王に対し何ごとかを告げたいという合図なのだ。周囲がざわついていては王にその声が届かないので、戦士達は口を閉ざしたのだ。遊び気分で試合を観戦していても、彼らは国王に対しては常に礼節を尽くしているのだ。
 審判が会場中に響くほどの声を張り上げる。バンキグ語だ。
「女勇者セレス様よりのご希望にございます」
「聞こう」
 ルゴラゾグス王の声は審判よりも大きかった。
「申せ!」
「は! 女勇者様は鉄剣の貸与を望まれております」
「鉄剣を借りたい? 何故だ? 女勇者殿は『勇者の剣』をお持ちではないか!」
 セレスが、又、審判に対し口を開く。審判は言い返し、女勇者を睨んだ。が、セレスが重ねて同じことを口にしたので、仕方なく、不満そうな顔のままで、彼女の言葉を大声で会場中に伝えた。
「相手の剣がただの鉄剣なので『勇者の剣』を使ったら、一瞬で勝負が決まってしまう。必ず自分が勝つ勝負ではつまらないので、鉄剣を拝借したい……女勇者様はそうおっしゃっておられます」
 どよどよと会場がどよめいた。この美女は、バンキグ戦士に勝つ気なのだ。白銀の鎧姿であっても逞しさは微塵もない、小柄なこの美女が!
 セレスの対戦相手はカーッと顔を紅潮させた。こんな痩せた女に自分が負けるはずがない! 戦士としての自負が彼に口を開かせた。
「ご自分の愛剣を使われよ! 俺は負けん!」
 審判は両手をあげて会場を静めると、国王に対し二人の言い分を伝えた。
 バンキグ国王は、
「一瞬で決まる勝負とやらが見たい! 女勇者殿は『勇者の剣』を使われるがよい!」
 と、裁定を下した。
 女勇者とバンキグ戦士は向かい合い、互いの姿を目で捉えつつ、大剣を構えた。
 怒りの形相のバンキグ戦士に対し、セレスは微笑を見せ下段に剣を構えていた。勝負への気負いは微塵も伺えない。
「始め!」
 審判がそう声を張り上げた途端……
 凄まじい金属音が響いた。
 会場中の者が身を乗り出し、目を見張った。何が起きたのかわからなかった。いや、頭が理解する事を拒んでいるのだろう。
 切りかかってきたバンキグ戦士の刃を、女勇者が下段から突き上げた『勇者の剣』で受け止めたと見えた瞬間……戦士の剣が砕け折れてしまったのだ。 
 呆然としている戦士と審判。二人に対しセレスが申し訳なさそうに頭を下げ、シベルア語で話しかける。
 審判はハッとして己を取り戻し、両腕を高々とあげた。会場に沈黙を促す合図だったが、そんな合図などしなくても観客席は静まり返っていた。戦士達は、皆、あっけにとられて、口をぽかーんと開いているだけ。頭がまったく働いていないのだ。
「女勇者様は再試合を望まれております。今の勝利は己の技量ではなく、この地上に類を見ない名剣『勇者の剣』の力。対等な条件でもう一度対戦したいと、女勇者様はおっしゃっておられます」
「いや! 今のは俺の負けだ!」
 セレスの対戦相手は声をはりあげた。セレスにも通じるように、シベルア語で。
「俺はあなたに『勇者の剣』の使用を許した。あなたをたかが女と侮り、真の力を測ろうとしなかった。負けたのは当然だ。女の身でありながら、あなたは間違いなく勇者だ。この地上最強の両手剣の使い手だ」
 参った!と、声をあげ、男はセレスに対し頭を下げた。すがすがしいほど気持ちの良い敗北宣言だ。
 セレスはシベルア語で相手を称えた。戦士にふさわしい高潔な魂の持ち主だ、と。
 男は照れて頭を掻き、国王と女勇者に対し拝礼した。
「勝者、女勇者セレス様」
 しばらくの沈黙の後、会場は歓声に沸いた。セレスに対し性的侮辱を口にする者は、もはや居なかった。
 国王も巨体を満足そうに揺るがして女勇者を褒め称え、出場者控え席のシャオロンは『さすが、セレス様!』と両手を組んで熱い視線を女勇者に注いでいた。
 会場の空気に染まっていないのは武闘僧と赤毛の戦士ぐらいで、武闘僧の方はセレスの『勇者』っぷりを合格と評価し、赤毛の戦士の方は『誰が、この地上最強の両手剣の使い手だってぇ?』と渋い顔だった。
 予選二回戦は凡戦だった。出場者は二人ともすっかりセレスに呑まれ、気がそがれてしまったのだ。
 決勝戦で、セレスは国王より拝借した鉄剣を用いた。すばやい動きと見事な剣さばきで相手を翻弄して自らの剣術の技量の高さをバンキグの戦士達に披露してから、セレスは相手の剣を楽々と弾き飛ばして勝者となった。
 会場は割れんばかりの拍手を、女勇者に送った。
 優美なしぐさで、国王に対し礼をとるセレス。
 会場の男達の視線を独占するセレス。
 女勇者は、バンキグの戦士達の心を掴んだのである。


 盛り土された試合場から下り、たてかけておいた『勇者の剣』を手にした時、セレスの笑みは一層、輝いた。
 まだまだ重いのだが……
『勇者の剣』が少し軽くなっていた。
 この会場でのセレスの勇者としてのふるまいに『勇者の剣』は機嫌を直してくれたのだ、ほんの少しではあるけれども。
 剣を重たそうに持っているようには見られないように、つとめて軽やかな足取りをこころがけ、セレスは出場者控え席へと向かった。


 会場の喧騒とは弓競技場は無縁だった。
 出場者も審判も拍手喝采を耳にしてはいたが、ちょうど勝負の最中だったので全員が的に集中していたからだ。
 弓勝負は五本を射終えると小休止となる。戦士見習いの少年達に的を交換させる為だ。その間に戦士達は弓を交換したり、汗を拭い体をほぐして休憩を取る。
 バンキグ側の出場者達は、大剣部門の勝者が女勇者と知ってひどく驚いていた。『腐っても勇者は勇者か』とほざいた若造をじろりと横目で睨みつけてから、忍者は目をハートにして玉座へと挨拶をする女勇者を見つめた。
 弓部門の四人は、今のところ全員、的中を続けていた。


「よぉ。まあまあのショーだったぜ。おまえさんにしちゃあ上出来だな」
 競技場から控え席に向かうセレスと逆に競技場に向かう仲間との視線が合う。
 セレスは……硬直した。
「なっ、何よ、アジャン! その格好!」
 ぶるぶると震えながら、セレスはアジャンを指差した。
 赤毛の戦士はにやりと笑った。処女の女勇者が自分の格好に嫌悪感を抱くのをわかった上で、わざとその感情を煽るポーズをとる。
「俺に惚れちまうかい、お姫様?」
「いやん、もう!」
 セレスは真っ赤になってうつむいた。
 アジャンは……ズボンだけを着ていた。足は素足で、上半身は剥き出し……力こぶをつくり、ぶ厚い男らしい筋肉をぴくぴくとこれみよがしに動かすアジャン。セレスは必死に目をそらした。
「H! H! H! 何で服を脱いじゃったのよ!」
「ばぁか! これがこの国の格闘での戦士の格好さ! いや、正式には素っ裸が正しいんだがな! 素っ裸になって互いに武器を隠し持ってない事を見せ合うんだよ!」
「いやん! いやん! いやん!」
「下も脱ぐか」
「いやぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇ!」
 出場者控え席に逃げ帰るセレス。その背をげらげら笑いながら見送った後、アジャンは表情をひきしめた。背後から来るアガナホーゲルを意識して。


 出場者控え席に戻ったセレスに、バンキグの戦士達が話しかけてきた。言葉はわからなかったが、自分を称えてくれている事は雰囲気でわかった。セレスは微笑で応えたが、その笑みは少しひきつったものだった。
「うつむいては駄目ですよ」
 エウロペ語で話しかけてきたのはナーダだった。競技場へと顔を向け、セレスの方を見もしないで、独り言を言っている態度を装っている。
「あなた、今、この会場の注目を集めてるんです。王の御前試合で余所見をしようものなら、せっかく手に入れた戦士達からの支持を自ら捨てる結果となります」
「……わかってるわよ」
「上半身裸の男と男がぶつかり合っては組み合い汗を飛び散らせる姿など処女のあなたには目の毒でしょうが、笑顔で観戦するように」
「うるさいわねえ! わかってるわよ!」
「……アジャンを応援してあげてください。彼、負けるかもしれませんから」
「え?」
「決勝戦の相手が悪すぎます。体格差がありすぎるんです。たとえて言うのなら、私とシャオロンが力比べをするようなもの。アジャンには、ほぼ勝ち目がありません」
「………」
「脂肪の塊の太った方が相手でも私なら勝てるんですが、得意の大剣のないアジャンが何処までやれるのやら……」


 決勝戦は、アジャンとアガナホーゲルの対戦となった。
 アジャンとて五本勝ちの楽勝で予選を勝ち上がったのだが、アガナホーゲルの強さは別次元だった。
 アガナホーゲルはその体格に見合う凄まじい怪力の持ち主だった。
 立ち木のようにただ立っているだけの格闘王に対し、予選の対戦相手は果敢に攻めた。両腕と両肘を使って相手の腕をおさえて封じ、足技・タックルなど多彩な技をしかけたのだ。
 けれども、巨体はびくともしなかった。
 アガナホーゲルは楽々と腕封じを解き、ひょいと相手を持ち上げ軽く床に転ばせた。その後も、相手に攻めさせてから反撃して五本勝ちをした。農夫である彼は対戦相手の顔を立ててしばらくわざと攻撃をくらい、戦士の見せ場をつくってやっていたのだ。


「ねえ、ナーダ、格闘は相手を床に転がした方が勝ちなのよね?」と、セレス。
「ええ。北方の格闘はエーゲラのレスリングとよく似ています。が、寝技がありません。相手の上体、つまり背中か腹を床につければ勝ちの、立ち技ばかりのレスリングです。殴る・蹴る・突く・喉を絞める・髪をひっぱる・睾丸を握る・手首や足先をひねる……ぐらいですかね、禁じ手は。ああ、後、私語も禁止です」
「拳も蹴りも駄目なの? じゃあ、やっぱり、あの巨体を投げなきゃいけないのね」
 アジャン、潰れちゃいそう……と、呟き、セレスは不安そうに試合場を見つめた。
「タイミング良く足払いをかけられれば勝てるでしょうけれど、あの巨体にのしかかられたら終わりでしょうねえ」


 北方の格闘は、戦士が互いに向き合ったまま距離を開いて試合に入る。いつ組み合うか、どんな型で組むか、組み勝てる(自分の意志どおりに組む。有利になれるよう組む)かによって勝敗は左右する。
 審判の合図と同時に、アジャンは奇襲に出た。
 体を低くして勢いよく正面から相手にぶつかる! と、見せかけて激突する瞬間に右へと体をずらしたのだ
 アガナホーゲルは己の左側面に回った相手に警戒し、体の向きを変えようとした。
 すかさずアジャンは全体重をかけて格闘王にぶつかってゆき、倒れしなに両腕で格闘王の右太腿を持ち上げ、左足で相手の左足首を払ったのだった。
 ずしぃぃぃぃん! と、鈍い音が試合場に響き渡った。
 両者共にダウン。しかし、アジャンの上体はアガナホーゲルの腹の上に載っていたが、対する格闘王は背中が床についてる。赤毛の戦士が一本を先取したのだ。
 信じられないものを見た! 観客席からアジャンの健闘に対し歓声が送られる。
 だが、アジャンの表情は硬かった。まずは一本を取ったものの、後二本を取らなければいけない。しかも、地面に転がっている格闘王は、腹の上のアジャンにニカッと笑いかけてきている。『おまえの実力を認める。次は本気で行く』と、その表情は語っていた。もはや相手の虚をつく奇襲攻撃は通じないだろう。
 となれば……
 一か(バチ)か、あの手でいくしかあるまい。
(ちくしょう。剣がありゃあなあ……)
 立ち上がったアジャンが、アガナホーゲルから距離を開いて向き合った。が……
「はぁ?」
 ナーダもルゴラゾグス王も、会場中の戦士達も首をひねる。普通、北方の格闘では、選手は体を前かがみにして両脇をしめ、両手を前方に開いて出し、両脚を肩幅よりやや広くとり、膝を前方に曲げて構える。攻撃をしかけやすい体勢だからだ。
 しかし、アジャンは腰を落として両足を開いて立ち、両腕を前方に垂らしたのだ。右手がやや前、斜め上に左手。何かを握るように、掌で円をつくっている。
 あれは……セレスは口元を覆った。間違いない、あの構えは……
 試合再開の合図と同時に、アジャンは床を蹴り、一直線に格闘王に向かう。赤毛の戦士の動きがいつ変化しても対応できるよう、格闘王は迎撃の体勢を整えている。
 今度は、アジャンは正面からアガナホーゲルにぶつかり、組み合った。右の掌で相手の首筋をつかみ、肘でアガナホーゲルの胸を押した。相手の巨体はびくともしなかった。が、左腕で相手の右上腕も押さえたので、完全に組み勝つ形となった。
 けれども、相手は脂肪の塊、巨漢のアガナホーゲルである。アジャンが幾ら力をこめようが、バンキグの格闘王は微動だにしない。逆にアガナホーゲルは簡単にアジャンの手をふりほどき、すばやく腰を低くし、両手でアジャンの両腿をつかみ……大柄なアジャンを楽々と肩へと持ち上げ、そのまま後方へと投げ飛ばしたのだった。
 勢いよく背中から、アジャンが床に叩きつけられる。
 喚声があがった。これで勝負は一対一。アガナホーゲルは首筋を左手で撫でながら、アジャンをちらりと見つめる。ぶざまに投げ飛ばされ勝負を落としたというのに、赤毛の戦士は不敵な笑みを口元に刻んでいた。
 次の勝負も、赤毛の戦士は奇妙な構えをし、同じ組み方でアガナホーゲルに挑んだ。
 組まれた瞬間、体勢をほんの少し崩したものの、格闘王はアジャンの腕と腰をとらえ、足をすくった。床に腰をついたアジャンは反撃の間もなく、格闘王にのしかかられ背中を床につけてしまう。
 これで一対二。アジャンにはもう後がなかった。が、その表情には焦りは無かった。むしろ、落ち着き無く首を動かし、首筋を撫でる格闘王の方が余裕がなかった。恐れるように南から来た戦士を見つめている。


「アレって反則にとられないかしら?」
 セレスの問いに、ナーダはかぶりを振った。
「ルールには違反していません。殴っているわけでも突いているわけでもありませんから。北方の格闘には気を利用して闘うという発想自体ありませんしね」
 大剣を意のままに操る赤毛の戦士は、大剣に己の気をこめ、振るだけで刃にかけぬ敵までをも斬る事もできた。剣を振る事によって具現化する彼の気(剣圧)には、『龍の爪』が生み出す竜巻すらも斬り捨てる威力がある。
 今まで大剣無しで気を攻撃に用いた経験がなかった為、先の二勝負をアジャンは練習とわりきって捨てたのだ。おかげで、剣の下段の構えから気を右手にこめるコツはだいぶ掴めたようだ。四本目の勝負から、赤毛の戦士は見事な活躍を見せるだろう。
「さすが、アジャンさん!」
 シャオロンは拳を握り締めていた。


 大剣の下段の構えから、三度、アジャンは同じ形でアガナホーゲルに組んでいった。工夫の無い攻めを続けるアジャンを、観客席の戦士達が罵倒する。だが、この勝負の結果をみれば、彼らの罵倒も賞賛の声に変わるだろう……アジャンはニヤリと笑った。
 首を激しく振ってアガナホーゲルは首筋を掴まれまいと抵抗する。アジャンの右の掌が怖いのだ。掴まれると刃に貫かれたような衝撃が走るからだ。
 だが、赤毛の戦士は格闘王を逃さず、気をこめた右の掌を相手の首筋へと押しつけたのだった。
 押しつけたのだが……


「あ?」


 会場は喚声に包まれた。両腕を振り回す者。拍手を送る者。勝者に惜しみない賞賛が送られた。
 しかし……
 やがて、会場は異常に気づいた。勝者が立ち上がろうとしないのだ。審判に幾ら声をかけられようと勝者となった男は無反応で、その体の下敷きとなっている男が悪態をつくばかりだった。
 審判は試合続行不可能と判断し、他審判と四人がかかりで気絶している男をどけた。下敷きになっていた男は体を起こし、悔しそうに床を拳で叩いたのだった。


「アガナホーゲル急病により試合続行不可能。五本目の勝負は勇者の従者アジャン殿の不戦勝とする。三対二で、格闘の優勝者はアガナホーゲル!」


 セレスもナーダもシャオロンも頭痛を堪えていた。
 四本目の勝負でアジャンはやり過ぎたのだ。
 相手の集中をそぐ程度の気を送ってよろめいたところを転ばせれば勝てたであろうに……気を送りすぎてアガナホーゲルを失神させてしまったのだ。意識を失った格闘王の巨体に押し潰され、アジャンは四本目の勝負も敗者となってしまったのだ。



「勝負に勝って、試合に負けたってところですねえ」
 試合場から下がって来たアジャンに、王宮から借りた戦斧を右手に試合場へと向かうナーダが共通語で声をかけた。赤毛の戦士は不機嫌そうにジロリと仲間を睨んだ。
「アジャン、ありがとうございます」
「……なにが?」
「あなたの仇、私が取ってあげますね。あなたが負けてくれたおかげで、私、戦斧部門で優勝できますから♪」
 鼻歌を歌いながらすれ違った仲間に、アジャンは『くたばれ、クソ坊主!』と、中指を立てたのだった。


 弓部門では、ノリエハラスの弟子の一人が脱落した。
 一射、わずかに的中を外し、赤的を射てしまったのだ。
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