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女勇者セレス 作者:松宮星

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英雄の墓―――バンキグ編 1話

 女魔法使いユーリア。
 二代目勇者ホーランの従者。後にバンキグ国王に即位するゲラスゴーラグンに求愛されていた彼女は……
 大魔王ケルベゾールドとの戦いの最中に魔に堕落し、勇者一行を裏切った。
 彼女を救おうと必死に戦ったゲラスゴーラグンの思いむなしく、ユーリアはホーランの命を狙い続け、従者仲間のシャダムによって討たれ今世より消えた。
 ゲラスゴーラグンはユーリアが消えた後に残った一握の塩を握り締めて、天を仰ぎ、血の涙を流して号泣したと伝えられている。


 女魔法使いユーリアは稀代の悪女とされている。
『勇者の剣は女を嫌う』という風評が広まったのも、セレスの代まで勇者一行に女性が加わらなかったのも、ユーリアの堕落に負うところが大きかった。


 けれども……
 シャオロンは真実を知っていた。ペリシャで英雄シャダムの霊が教えてくれたのだ。女魔法使いユーリアは仲間の為に自らを犠牲にした正義の士であったのだと。


 大魔王ケルベゾールドは勇者ホーランに憑代である肉体を討たれた時、その周囲に居た者の中からユーリアを選び、憑依してその体を奪おうとした。
 ユーリアは魔力をもってケルベゾールドに抗い、従者仲間のシャダムに『大魔王と共に殺して欲しい』と願ったのだ。周囲の時を止め、彼と二人っきりとなった空間で。
 だが、シャダムが己の信仰を捨てる覚悟で愛を告白し、彼女の死を拒んだ為……ユーリアは己の内にケルベゾールドを封印する道を選んだ。
 魔界の王であるケルベゾールドは憑代に宿らねば今世に存在できない。憑代を失えば、次の肉体へと移ろうとするだろう。
 ユーリアは自分が命を絶ってもシャダムや仲間達が次の宿主に選ばれる恐れがあると気づき……魔法でケルベゾールドと自分を完全に融合させた。その結果、大魔王は彼女の肉体を媒介に多大な力を今世にもたらせるようになったのだが、次の宿主に移れなくなった。彼女の死と共に地上との縁を失う運命となったのだ。
 ユーリアはシャダムの記憶を消して、心を操り、自分を憎ませた。自分の分身に勇者の命を狙わせシャダムにその分身を討たせたのも、全て仲間の為だった。
 心やさしき勇者ホーランが、仲間であった人間を斬れるはずがない。ユーリアは自分の死を装った後、その美しい容姿を捨て、おぞましい魔王の姿をとり続けた。
 大魔王として勇者一行を迎え、ホーランの手にかかって地上より消滅したのだ……


 魔族を憎み地上の和を求め集った二代目勇者とその従者は、己の武器と名とそれぞれの神にかけて仲間を信じ助け合う事を誓っていた。
 ゲラスゴーラグンはその神聖な誓いを守り、ユーリアの無実を訴えた。魔に堕ちる形となったのには何らかの理由がある、彼女が誓いを破って仲間を裏切るはずがない、と。
 しかし、ユーリアの魔法で洗脳されていたシャダムは、ゲラスゴーラグンの言葉を恋に惑った愚か者のたわごとと切り捨て、女魔法使いの悪名を世に広め、『勇者の剣は女を嫌う』という噂を流し続けた。
 ケルティとペリシャ。大魔王を退治し、故国に戻った後も、二人は書簡にて激しく口論を続けた。シャダムはユーリアと共にゲラスゴーラグンをも侮辱し、生涯、ゲラスゴーラグンの誇りを傷つけ続けたのだった。
 セレスがケルベゾールド退治に旅立った事で、シャダムにかけられていたユーリアの術は解けた。死の眠りより目覚めた英雄は、過去の己を悔い、シャオロンを墓所に招いて頼んだのだ。ゲラスゴーラグンに真実を伝え、謝罪の気持ちを伝えて欲しい、と。
 友を信じなかった愚か者が詫びていたと伝えて欲しいと……


 女勇者一行は、間もなくバンキグに入国する。
 しかし、ホーランの時代より既に六百年以上の時が流れているのだ。バンキグ国王に即位したゲラスゴーラグンも、当然の事ながら、遥か昔に亡くなっている。
 けれども、ゲラスゴーラグンの魂は天に召されていないと、シャダムの霊はシャオロンに教えてくれた。
《あれは得心がゆくまで、一歩たりとも前に進まぬ頑固な男。ユーリアの無実を主張し続けていたあの男が、彼女の汚名がすすがれぬまま、今世を去るはずがない》
 以前、バンキグの旧都の北東部の山中にゲラスゴーラグンの慰霊塚があると、武闘僧ナーダが教えてくれた。
 幽霊は必ずしも墓所にいるわけではない。生前の思い出深い場所に留まっているかもしれないし、子孫を守護する為に人に憑いているかもしれない。
 シャオロンは、バンキグを訪れたら可能な限りゲラスゴーラグン所縁(ゆかり)の地を訪れ、ゲラスゴーラグン所縁の人間を探したく思っていた。
 けれども、勇者一行は魔族退治の為にバンキグを訪れるのだ。従者である自分が勝手な行動をとるわけにはいかないと、シャオロンは自覚していた。
 それに、北方諸国は南――ケルティ・バンキグ・シベルア以外の国を、敵視している。百年もの間、国境を閉ざし、国レベルでも民間レベルでも交流を拒否しているのだ。
 ケルティでは、ケルティ新王朝が事実上崩壊するまで、女勇者一行は常に監視下に置かれ、行動を制限されてしまった。バンキグでも、同じ扱いをされるだろう。
 ゲラスゴーラグンの墓所を訪れる事は可能なのだろうか? シャオロンは不安だった。


「ゼグノスの血の宴の時に運良くと言いましょうか、悪運強くと言うべきなのでしょうか、バンキグでお仕事をしていた為に死なずにすんだ、アジャンLOVEの情報屋の元締めアジソールズから情報を買ったのですが……」
「気色悪い表現を使うな、クソ坊主!」
 ケルティとバンキグの国境近くの村の宿屋で、ターバンに王族の衣装という格好の武闘僧ナーダは、勇者一行をセレスの部屋に集めて、バンキグの現状を説明し、今後についてある事を提案した。
「バンキグには、やはり、勇者一行を歓迎する意思はありません。ケルティ新王朝を通じて来訪の意志を伝え、セレスにもシベルア語でルゴラゾグス国王宛にお手紙を書いてもらいましたが、それに対するバンキグ国のお返事は国境を軍隊の精鋭で固める事でした。その数は五百だそうです。つまり、バンキグは数で我々をねじ伏せ、行動を制限しようって腹なわけです」
 セレスはがっくりと肩を落とした。魔族退治の旅をしているのに、何故、今、人間から敵意を向けられねばならないのだろう?
「まあ、私達、ケルティじゃ上皇制度復活の後押しをしたりと、派手にやっちゃいましたからねえ。南からの介入を嫌っている北方人が警戒するのもわからなくはないのですが……はっきり言って、私、ケルティの二の舞は御免です。軍隊の監視下に置かれ、国のほぼ九割を立ち入り禁止区域とされては、大魔王討伐も魔族退治もできるはずがありません」
「その通りよ!」と、セレス。
「何か策があるのか?」と、アジャン。
「あります」
 ナーダはにっこりと笑みを浮かべた。
「私達にとって、ものすごぉ〜〜〜く幸運なことに、バンキグはケルティとは異なり、バンキグ人が王位に就いています。バンキグ人はケルティ人と気質が似ており、戦士を最も貴い職業と考えています」
「確かに」と、アジャン。
「そんな国の王は、当然、戦士の中の戦士です。現国王のルゴラゾグス王は怪力無双の豪傑で、その強さでカリスマ的人気を誇っています。暗愚ではないってぐらいのまあまあの政治手腕しか無いみたいですが、人を見る目が確かなのと、臣下の進言をきちんと容れる度量はあるので、大国シベルアの属国となりながらも国の対面は保てているのです」
「ふぅん」と、セレス。
「そんなルゴラゾグス王が三度の飯よりも、酒よりも女遊びよりも好きなのは……」
 ナーダは一同を見渡した。
「軍事教練の名を借りた武術大会です。雪に閉ざされる冬には娯楽が少ない事も手伝って、毎月のように武術大会が開かれるそうですよ。参加者は主に王のお気に入りの戦士と、ルゴラゾグス王本人です。ルゴラゾグス王は武術は何でもこなすそうですが、戦斧が一番得意なようです」
「戦斧……」
 東国の少年シャオロンが、ハッと目を見開く。ゲラスゴーラグンは戦斧の名手だったのだ。
「シャオロン……前にも教えましたが、ゲラスゴーラグン様の家系は三代で絶えました。今の王家はゲラスゴーラグン様とはまったく関係ありません」
「はい、ナーダ様、わかっています」
「ですがね……アジソールズからの情報によると、ルゴラゾグス王はゲラスゴーラグン様をものすごぉ〜く尊敬してるらしいんですよ」
「え?」
「王宮に銅像を作らせ、朝な夕な拝んでいるとか。ゲラスゴーラグン様を戦斧の神様と思っているみたいです」
「じゃあ……」
 笑みを浮かべた少年に、ナーダも笑みで応じた。
「私達ルゴラゾグス王に気に入られれば、道は開けるんです。超一流の戦士に対してならば、あの国の人間は礼節を尽くしてくれますしね。行動の自由を認めてくださるでしょうし、ゲラスゴーラグン様のお墓参りの許可もいただけるでしょう。なので……武術大会に出場し、バンキグの戦士達をあっと言わせてやりませんか?」
 ナーダの提案に対し、腕に自信のあるアジャンは嬉しそうに不敵な笑みを浮かべ、シャオロンは決意をこめて拳を握り締め、忍者ジライは軽く頷き、セレスは、
「やりましょう」と、二つ返事で答えた。
「だけど、ナーダ、武術大会ってどういう形で行われるの? 勝ち抜き戦?」
「大会ごとにルールを決めているみたいで、一定の形はありません。精鋭だけで行う事もあれば、一般から出場者を募る事もあり、刃物を禁じる事もあれば真剣勝負しか認めない事もあるといった感じで、まちまちです。とはいえ、名目は軍事教練ですから、生死をかけた戦いはそうそうないそうです」
「そうそうないって事は、たまにはあるわけね」
「おや、セレス、珍しく鋭いではありませんか」
 珍しくは余計よと、ぷぅと頬を膨らませてから、女勇者は尋ねた。
「その大会、今度はいつ開催されるの?」
「予定は半月後ですが、いい加減な大会だから、開催日時などは王の裁量でどうとでもなるんです。ですから、私、セレスの名前で挑戦状を送っちゃいました」
「え?」
「王宮来訪時に、武勇の誉れの高いバンキグ王及びその家臣と武術で親交を深めたい、戦斧・大剣・格闘・弓・自由武器の五部門で勝負したいと、まあ、そういう内容の手紙を」
「んもう! 勝手に人の名前、使わないでよね!」
「まあ、それはどうでもいいが」
 赤毛の傭兵はボリボリと頭を掻いた。
「誰が何に出るんだ? 俺は大剣担当か?」
「いいえ、大剣はセレスの担当です」
「私?」と、セレスが目をしばたたく。
「あなた、『勇者の剣』の持ち手なんですよ、他の武器で参加したらみっともないじゃないですか」
「でも、『勇者の剣』を使ったら、剣を交わしただけで相手の剣を折っちゃうわ。『勇者の剣』の破壊力は凄まじいのよ、岩だってサクッと斬っちゃうんだから」
「ですから、まずデモストレーションとして相手の剣を折ってやるんですよ。あなたが『勇者の剣』の真の力を引き出していると知ったら、バンキグの人達、あなたを女と侮らず、敬意を払ってくれますよ」
「……そういうものかしら?」
「そういうものです。デモストレーションの後、普通の大剣を借りて普通に勝負してください。相手の命を奪わないで勝敗を決するルールにしてもらいますから。言っておきますが、セレス、絶対、負けないでくださいよ。勇者は地上最強の戦士なんです。負けたら恥ですよ」
「わかったわ」
「クソ坊主、セレスが大剣なら、弓は誰がやるんだ? 前にも言ったが俺は弓は不得手だぞ」と、アジャン。
「オレも……弓は使った事ありません」と、シャオロン。
「ジライにお願いします」
 指名された忍者は無言のまま、武闘僧を見つめる。
「バンキグの祖先は狩猟民族でした。弓は剣や斧と並ぶ歴史ある武器なのです。これを五本勝負から外すわけにはいかないので、あなたにお願いしたいのですが……」
「よかろう」と、忍者は言葉少なく答えた。
「的に的中させる回数を競う勝負となるはずです。ライバルは一人になるのか複数になるのかは今後の話し合い次第ですが、最後まで的に的中し続けた者が勝者となるでしょう」
「それでは弓の名手とあたったら、決着がつかぬぞ」
 不満そうに忍者が言う。
 セレスは首を傾げた。ジライが弓を使っているところなど見た事はなかったが、東国忍者は矢を全て的中させる自信があるようだ。
「良いんですよ、勝負は引き分けでも。多少は相手に花を持たせてあげなきゃ、怨まれかねません」
「むぅぅ」
「おい、戦斧は誰がやる? 俺にやらせる気か?」
 俺は勝てない勝負はしないぞという顔の赤毛の戦士に、ナーダは肩をすくめてみせた。
「私がやりますよ」
「おまえが?」
「戦斧部門の対戦相手は十中八九(じゅっちゅうはっく)、ルゴラゾグス王ですからね、無様な戦いはできません。あなたが大剣なみに斧を使えるんなら、代わってあげてもいいんですけど」
「ケッ! 斧なんざ使ったことねえよ」
「じゃあ、やはり、私がやるしかありませんね。斧は幼少の頃、学んだくらいなんですがねえ……槍と似たり寄ったりです」
「充分すぎるじゃねえか、クソ坊主!」
 アジャンはナーダを睨んだ。ナーダは僧侶のくせに、あらゆる武器が扱える。以前は槍の名手しか持つ事が許されない武器『雷神の槍』を使っていたのだ。
「バンキグに着くまで毎日鍛錬すればそれなりにはなると思うのですが……どんなに頑張ってもルゴラゾグス王には勝てないと思います。国王の戦斧の腕前は神の領域まで達しているそうですから」
「良いじゃねえか、王様に花を持たせてやりゃあ! その分、俺が勝ってやる! 俺は自由武器担当だな?」
「いいえ。あなたは格闘担当です」
「へ?」
「え?」
 アジャンとシャオロンが顔を合わせる。
「俺が格闘だと?」
「そうです。アジャン、あなた、北方出身のくせに忘れちゃったのですか?北方における格闘は、組み合うのが基本のレスリングです、立ち技だけのね。非力なシャオロンじゃ、力負けしてしまいます。あなたか私でなきゃ勝負になりませんよ」
「あ」
 そうだったと、赤毛の戦士が顔を歪める。
「北方では屋内の遊び(スポーツ)として、レスリングが、昔から行われてきました。戦士の鍛錬としてね。歴史ある遊び(スポーツ)なんで、これも外せないんですよ」
「レスリングねえ……ガキの頃、遊びでやったぐらいだ」
「この部門、私が出場すれば確実に優勝できると思うんですけれどね」
 ナーダは赤毛の戦士に対し、皮肉な笑みをみせた。
「大剣の無いあなたは二流の戦士になっちゃいますからねえ。一分ともたず、床に転がされちゃうかも……」
「ケッ! 俺ぁ、傭兵だ。武器を奪われても、敵を仕留めてきたんだぜ。たかが遊び(スポーツ)で負けるかよ!」
「うわ、そんな大言壮語しちゃって良いんですか? 負けたら恥ずかしいですよ」
「俺が負けるか!」
 と、アジャンが吠える。
 ナーダはにっこりと笑った。これで、赤毛の傭兵は格闘部門の出場を拒まないだろう。
 後は……
「あの、自由武器部門って事は……『龍の爪』を装備して戦っても良いって事……ですよね?」
 自信なさそうにシャオロンが尋ねてくる。シャオロンは格闘以外の武術とは無縁に過ごしてきたのだ。他のものをやれといわれても、できるはずがない。
 北方における武術の中には、少年でもできそうな『小剣』があった。動体視力がよく素早く動ける者ほど有利な部門なのだが、それは直径三メートル程度の狭い決闘場での小剣による斬り合いなのだ。出場者は避ける場所もない狭い空間で血だらけとなって戦う。どちらかが降参を宣言するか、足が外に出てしまうまで。そんな部門にシャオロンを出場させようものなら、無謀なところのある少年は出血多量で意識が無くなるまで闘い続けかねない。
 少年が実力を発揮するには広い場所が必要だ。
 自由武器部門などというわけのわからない部門をもうけたのは、シャオロンに爪を装備させて広い場所で戦わせる名目が他に思いつかなかったからだ。自由武器はシャオロンの為にもうけた部門だが、そう正直に言っては少年が『ご迷惑をおかけして、すみません』と気をつかいかねないので、ナーダはそんなことはおくびにも出さず、
「むろん、爪を装備してください。自由武器は格闘大会でいうところの無差別級です。あなたの対戦相手は、剣の名手になるか槍の名手になるかわかりませんが、相当、腕に覚えのある一流の戦士が出場してくるはずです。なにしろ、『無差別級』ですからね。厳しい闘いとなると思いますが、『龍の爪』の所持を真龍と古の神主(かんぬし)から許されたあなたなら、相手が誰であれ良い闘いができると私は信じていますよ」
 と、少年を励まし、奮い立たせるのだった。
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