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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 カルヴェル&アジャン(終2)

「あのくそ馬鹿女!」
 アジの村の部族王の館で、赤毛の戦士は吠えた。移動魔法で現われた大魔術師カルヴェルの分身が、今日、セレス達がホルムを旅立つと知らせてくれたからだ。
「何で俺を待たねえんだ! すぐに戻るって言っておいたのに!」
「まあ、セレスにもセレスなりの考えがあるのじゃろ」
 大魔術師カルヴェルの分身は、楽しそうにニコニコ笑っている。分身とはいえ能力も性格もカルヴェルそのもので、分身の見聞きした事は本人に伝わる。カルヴェル本人がそばにいるのと変わりがないのだ。
 アジャンは荷物をまとめ、急いで旅の支度を整えた。右肩から左の腰にかけて斜めに革のバンドをつけて、『極光の剣』を背負う。
「ジジイ、間違いなく種はついたんだな?」
「うむ。透視と未来予知の魔法で確認した。おぬしがこの三週間の間に抱いたおなご十五人のうち八人が子を宿した。順調にいけば、来秋、男三人に女四人が産まれる」
「そんだけいりゃあ、アジの王の血はこの地に残るな。もう俺はお役御免だ。心置きなく馬鹿女を殴りに帰れるぜ」
 旅の支度をする赤毛の傭兵に、魔術師は尋ねた。
「アジスタスフニルよ、おぬし、本当に良いのか?」
「ん?」
「故国を捨て……二度と戻らぬつもりなのであろう? 復讐を果たさぬまま家族が眠る地を離れ、おぬしはおぬしとして生きていけるのか?」
「ケッ! 腹黒い奴はゼグノスの血の宴でくたばったんだ。アジカラボスも死んだし、仇なんざ、どうせ生きちゃいねえよ」
「シベルア移民は? 奴等は放っておくのか?」
「ああ。ハリハールブダンは、シベルア移民もシベルア文明に染まったケルティ人も、等しく民として受け入れる気だ。上皇様がシベルアへの憎悪を封じるってのに、俺が暴れられるかよ。あいつにゃ、でかい借りができちまった。アジの生き残りをあいつに託すんだ。迷惑はかけられねえ」
「おぬし、本当に良いのだな? 望めばおぬしとて上皇になれる。『極光の剣』を所有しケルティの魔を祓ったおぬしには、それだけの資格があるのだぞ」
「未練なんざかけらもない。国の頭は一つで充分。二人も上皇が居たら、騒乱の元となる。それに、上皇なんて、めんどうな役、俺にゃむかねえよ」
 赤毛の戦士は背の大剣を肩越しに見つめた。
「俺ぁ、傭兵だ。自分の腕だけを頼りに、これからも生きていくさ」
「………」
 カルヴェルはにっこりと笑みを浮かべた。
「おぬしが光の道を選んでくれて、ほんに嬉しく思うぞ、アジクラボルト殿の息子よ。おぬしの心には、もはや迷いはなく、大剣を通じて先祖の霊がおぬしを守護しておる。高位魔族といえども、もう二度とおぬしには手出しできまい。新たに魔除けのペンダントをくれてやろうかと思っておったが、今のおぬしには必要ないな」
 老魔術師がホホホホホと笑った時だった。
 館の扉が開き、毛皮をまとった戦士達と女達が飛び込んできたのは。
「アジスタスフニル様! 旅立たれるとはまことにございますか? せめて後、三日、とどまっていただけませんか?」
「せめて年明けまで……」
「いえ、せめて雪どけまで……」
「いやいや、せめて、初子が生まれるまで……」
 うんざりと顔をしかめるアジャン。その逞しい体に、女達がすがりつく。
「私達にはまだ子種がついておりませぬ」
「お慈悲でございます、私達にもお子を……」
「ねーねー、アジスタスフニル様ぁ、今日も抱いてよぉ」
 アジャンにまとわりつく女達は、二十代から三十代前半まで。ぽっちゃり系もいれば痩せた女も居り、美人もいればさほどでもない顔の者も居る。アジャンは分け隔てなく彼女らを可愛がり、底なしの体力で彼女達を愉しませ、その心をつかんでいた。
 しかし……彼女等は、ほとんどが未亡人かアジの戦士の妻か妾。娼婦あがりの若い娘も混じってはいるものの、アジャンが生娘(きむすめ)には手を出さなかったので、年齢が高めの女性が多かった。
 本人は『後家殺し』なんだと己の技術(テク)を誇っていた。が……処女を怖がり、処女を避けているだけなのだ。
 処女は血を流す。その血を目にする度に、赤毛の戦士は思い出すのだろう。無残に犯されて処女の証を散らした姉を……切り刻まれ大量の血を流して亡くなった最愛の姉を……


 赤毛の傭兵は、生涯、処女を厭い続けるに違いない。


「悪いが、もう、おまえらにつきあっている暇は無い! 俺ぁ、本業に戻らせてもらう!」
 老戦士と女達にそう宣言し、アジャンはカルヴェルに向って叫んだ。
「頼む、ジイさん、馬鹿女の所へ送ってくれ!」
「うむ。わかった、達者での、アジスタスフニルよ」
 大魔術師がほんの少し魔力を高めただけで、赤毛の戦士の姿が消える。移動魔法で運ばれたのだ。アジャンを旅立たせ役目を終えたカルヴェルの分身も、又、間もなくその場より消滅する。
 アジの戦士と女達は、アジの王が消えた宙をいつまでも見つめ、ただ、ただ、別離を惜しむのだった。
『極光の剣 こぼれ話』 完。

《第三章 ケルティの闇と光》完結です。

+ + + + +

次回は……

* 十八歳以上で男性の同性愛話でもOKという方 *
 ムーンライトノベルズの『女勇者セレス――夢シリーズ』をご覧ください。
 『現実の夢』。舞台はケルティ。ナーダとジライの話です。

* 十八歳未満の方、男性の同性愛ものはパスという方 *
 このまま『小説家になろう』で。
 次回より《第四章 得るもの失うもの》が始まります。

 最初の話は『たとえ死すとも』。舞台はケルティ。 
 ガルバの一の部下ムジャは、最近、胃痛に苦しんでいた。それというのも東国忍者が……

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 第三章、おつきあいありがとうございました。
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