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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 ナーダ&カルヴェル(終1)

「おぬし、大魔術師たるこのわしをだましたわけではあるまいな?」
 老魔術師カルヴェルは、不機嫌そうな顔で、ナーダの部屋の中をふわふわと漂っていた。空中浮遊の魔法だ。
「もうすぐ半月じゃぞ。いつになったら、写本を寄こす?」
「騙してなんかいませんよ」
 書き物の手を止める事なく、ターバンにインディラの王族姿のナーダが答える。
「ちゃんと写してさしあげますよ、大僧正様が写しても良いとおっしゃった本でしたら」
「大僧正の許可はもらってきた」
 ほれと、ナーダの目の前に書簡をぶらさげる。
 ナーダは手紙を開き、口元に笑みを浮かべた。懐かしい書跡を目にし、幸せそうな顔となる。
「確かに、大僧正様のお手ですね」
 手紙には、写本にして老魔術師に渡して良い原書の名が記されていた。 
「ご所望は、『聖なる武器に関する記録』と、『世界宗教建築 覚え書き』、『少数民族の歌舞と楽器』に、『古代王朝 占星術』、ハワン師の『薬草学』……ですか。意外なご趣味で」
「魔族、魔法、インディラ教の経典教義関係の本は駄目じゃと言われたのでな」
「わかりました。写せましたら、連絡いたします。では、また後日に」
「……じゃから、その後日が何時になるか聞いておる」
「さあ」
 ナーダはにっこりと笑みを浮かべて、
「私、お伝えしたはずですけど? 『大僧正様からご許可がいただけた本のみ、時間がある時に写しましょう』と」
 机の上の書類の山を掌で指した。
「私、超多忙なんです。時間がありません」
「……その書類の山が片付けば、暇になるのかの?」
「さあ、どうでしょうねえ。ケルティはもう上皇様にお任せして大丈夫そうですが、バンキグ行きの準備もありますし、魔族を討伐しなきゃいけないし、女勇者様の護衛も務めなきゃいけないし、私、いつ暇になるんでしょうねえ」
「……おぬし、最初から、わしへの支払い、する気はなかったのじゃな?」
「とんでもない! 今のケルティがあるのは大魔術師カルヴェル様のおかげ。支援物資運搬の役は、今は、カルヴェル様の分身だけではなく上皇様も引き受けてくださってますけどね。カルヴェル様のご助力がなければ、多くの人間が雪の中で亡くなっていたでしょう。その貢献に感謝して、働かせてもらいますよ、私」
 ナーダはカルヴェルのごとき意地の悪い笑みを浮かべた。
「大魔王を倒し、インディラに凱旋した後に、ね」
「むぅ、そうくるか」
「ええ。大魔術師様ご所望のご本は、皆、門外不出の寺院秘蔵の書でしょ? 物質転送でここまで運んでもらうわけにもいきません。インディラに戻らねば写せないというのに……私、超多忙な上に、今、インディラに戻れない身の上なのですよ」
「ほほう」
「大魔王を倒すまでインディラに帰らないと、大僧正様と約束してしまっているんですよ。申し訳ありません、カルヴェル様の為に働きたいのは山々なのですけれども」
「……ならば、既に写本が存在している『聖なる武器に関する記録』、とりあえずアレだけを貰っておこう。他はおぬしの帰国まで待ってやるゆえ」
「あああ、残念」
 ナーダはにやりと笑った。
「アレが私物でしたら、喜んでカルヴェル様に差し上げたのに!……アレは寺院の書庫の本なのです。原書に代わる閲覧用の、ね。寺院所蔵のモノを、私の一存では好きにできません」
「……なるほど」
 ふむふむと老魔術師は頷いた。
「では、『聖なる武器に関する記録』のおぬしの写本をここに運ぶゆえそれを写せと、わしが言うたらおぬし何と言う?」
「『契約と違う』と言いますね。私、『写本』をカルヴェル様に差し上げると約束したのです。『写本の写本』ではなく……ね」
 老人はしばし沈黙を守り……それから、ホホホホと笑い声をあげた。
「さすが、ナラカの甥。悪知恵が働くところが、ほんにそっくりじゃ。おぬし相手に曖昧な契約を結んだわしの負けじゃな。次、何ぞ、おぬしに頼む時は、言い逃れできぬ形で頼む事にいたそう」
「……ケルティにおけるご助力、心より感謝いたしております」
 ナーダは席を立ち、インディラ式拝礼を老人に対してとった。報酬に関しては半ば以上騙したも同然だが、感謝する気持ちに偽りは無かった。
「大魔王退治の旅が終われば、私は帰国します。少しでも早く写本をお手になさる為にも……これからも、是非、私達の旅を助けてくださいね、大魔王退治の旅が早く終わるように」
「気が向いたら、の」
 老人の姿がパッと消える。移動魔法で別所に移ってしまったのだ。
 ナーダは会心の笑みを浮かべたまま、席に座り、書類へと目を戻した。
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