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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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あなたがいれば 《セレス》

 女勇者セレス様。
 とてもお美しくて、おやさしくって、お強くって………
 オレがこの世で一番、尊敬している方です!
 セレス様は本当は『こーしゃくれーじょー』という貴族のお姫様なんだそうです。でも、この世を救う為、男の人みたいな鎧を着て旅をしているのです。
 大魔王は『勇者の剣』でなきゃ倒せません。その剣を振るえるのは、セレス様だけなのだとか!


 だけど、セレスは女の方なので、『勇者の剣』を思うように扱えないのだそうです。
 普段、『勇者の剣』はナーダ様が背負っておられます。『勇者の剣』はナーダ様にはものすごく軽いのに、セレス様にはアジャンさんを担ぐのより重いのだそうです。
 でも、それでも、セレス様は、毎晩、努力しておられます!重たい『勇者の剣』を扱えるようになろうと、アジャンさんとの剣の稽古を欠かしません!
 本当に、えらい方です!





「お待ちもうしあげておりました、女勇者様………」
 と、村長と村人達に深々と頭を下げられた者は………
 自分を指さし、『女勇者とは自分に対して言っているのか?』と目で尋ねた。たいへん大柄な人物で、シャイナ人の老村長とは大人と子供ほど身長差があった。頭を上げた村長が力強く頷きを返すと、その者は青ざめ、右手で顔の半分を覆った。
「どこをどー見たら、筋骨逞しいこの私が女に見えるんです………そんなわけないでしょ!」
 ああああああ、おぞましい!と言いたいところをグッと堪え、武闘僧ナーダは顔を伏せた。
「失礼いたしました。お人違いをして申し訳ございません」
 と、村長が次に頭を下げたのは………まばらに無精髭を生やした赤毛の傭兵アジャンだった。赤毛の戦士も、ぴくぴくと頬をひきつらせている。
「気色悪いことぬかすな!」
「おや、ですが、そうなると………どなたが?」
「勇者ラグヴェイの末裔は私です!」
 落ち込んでいる武闘僧と、怒り爆発寸前の赤毛の戦士を押し退け、セレスが村長の前に身を乗り出す。
 村長は白銀の鎧姿の金髪の少女に視線を向け、いぶかしそうにその背の弓矢と腰の小剣を見つめた。
「あなた様が女勇者様?ですが、『勇者の剣』はどこに?身長ほどもある大きな大剣を背負う者こそ勇者だと、私は幼い頃から昔話に聞いておりましたが?」
「ゆえあって、『勇者の剣』はそちらにいる武闘僧に預けているのです。でも、勇者として魔族と戦う覚悟は、歴代勇者様に負けていません!魔族の事でお困りとの噂を聞いてやって来ました。何なりとご相談ください!」
 しかし、セレスを見つめる村長の目は冷たい。ざわめく村人達も、あからさまに不審のまなざしを向けてきている。
 赤毛の戦士は不機嫌そうな顔で、仲間にしか聞こえないほどの小声で吐き捨てるようにつぶやいた。
「ンな気分悪い村は無視して、先に行こうぜ、先に」
「おや、珍しいですね、アジャン、あなたと意見が一致するなんて」
 武闘僧もボソボソとセレスに話しかける。
「村長さん、私達をカタリだと思ってますよ。心を開いてくださる気もないようですし、助けるだけ無駄じゃ」
 セレスは二人をキッ!と睨みつけた。
「魔の危機に瀕している方々を無視しろって言うの?一人でも多くの方を救うのが私の務めでしょ!私は勇者としての使命を果たすわ!」
「ですが、セレス………」
「相手にどう思われようが構わないわ!魔族を倒すのは、人々から感謝されたいからでも、謝礼が欲しいからでもない!私は誰にも、私のせいで死んでもらいたくない!私が何もしない為に人が死ぬのは、絶対に嫌よ!」
 赤毛の戦士と武闘僧は顔を見合わせ、やれやれと肩をすくめた。


 その時、シャオロンは………
 感動のあまり泣きそうになりながら、セレスを熱い瞳で見つめていた。自分を侮る者すら見捨てず、セレスは正義の為に戦っているのだ。
(すごい!さすがです!セレス様!)
 うるうると瞳をうるませながら、シャオロンは考えた。旅の途中、セレスが女性であるという理由だけで侮る男達を見た。何度も見た。そして、今、『勇者の剣』を背負っていない為に、勇者の偽者と思われているのだ。セレスが辱められるのは、自分が侮辱されるよりも百万倍、悲しかった。
 世の人々に、セレスの素晴らしさを理解してもらうにはどうすればいいのか?
 シャオロンは頭をひねった。
 何の役にも立たない子供を従者にとりたててくださった恩を万分の一でもお返しするのだ!と、シャオロンは真剣に考え………
 良い案を思いついた。


 昼間のうちにシャオロンは、村長宅の武闘僧ナーダ用の部屋に相談に行った。魔族は夜遅くに、村はずれにある村長の父祖の墓の辺りを徘徊しているのだそうだ。夜になる前に相談を終わらせようと、少年は思いつく限りのことを懸命に語った。どちらかというと口下手な方なので、うまく説明できなかったが。
 しかし、武闘僧は笑みを絶やさず聞いてくれ、説明不足の時は言葉を補って彼なりの解釈でこういう意味か?と質問までしてくれるので、話しやすかった。
「とてもよくわかりました。素晴らしい策ですね、シャオロン。あなたが策士だったとは、本当に意外です」
「『さくし』?」
「策士とは謀のうまい人の事です」
「『はかりごと』………?オレは、ただ、単に、村長さんにお願いしようと思っただけです。でも、オレみたいな子供が言うより、ナーダ様のお言葉の方が説得力があると思ったから、それで」
 武闘僧は得意そうに胸をそらせた。
「その通りです。人選も正しい。セレスやアジャンではなく私に相談したあたり、センスも良いですよ」
「はあ」
「後は任せてください。交渉は私の得意分野です」


 ナーダは日が沈む前に、村長と内密に面談して魔族退治の報酬について交渉し、諜報員の部下と鳥で連絡をとった。
 そして………何も知らない女勇者は従者達と共に、その夜のうちに、村長の父祖の墓を穢していた魔族を退治したのだった。


 で、一月後………勇者一行は、シャイナの首都ペクンを訪ねたのだが………
 シャオロンは初めての大都会で、その大きさに驚き、建物の高さと豪華さと数の多さに驚き、人の数に驚き、そして、流行りものに驚いたのだった。
「すごい!すごい!あっちこっちセレス様の姿絵(ポスター)だらけですよ!ほら、本屋さんも!」
「『女勇者セレス 悪霊鎮魂編』?『女勇者セレス 早春、旅立ち編』?なに、これ?」
 セレスは下馬し、露店の本屋の共通語の本を手に取って目をぱちくりさせた。同じ表紙のシャイナ文字で書かれた本も山積みになっている。
「セレス様!あっちでは、セレス様が村長さん()のお墓を守った事件がお芝居になってますよ。チラシがあります、ほらほら、血わき肉躍る冒険活劇なんですって!」
 ペクンでは、すっかり女勇者ものが流行だった。彼女の活躍が、芝居や詩歌、本になってあふれていた。
 ふと気づけば、一行の周囲を本を手にしたシャイナ人達が囲んでいた。顔を真っ赤にし早口のシャイナ語で話しかけてくる彼等に、セレスは戸惑うばかりだった。
「みなさん、何て言ってるの?」
「『女勇者セレス様か?』って尋ねてらっしゃいます、『本物か?』って」と、シャオロン。
 セレスが頷きを返す前に、馬上の武闘僧がにっこりと笑みを浮かべシャイナ語で何かを叫び西を指さし、群衆を散らしていた。
「え?え?え?」
 シャイナ語のわかるシャオロンは不思議そうにナーダを見つめている。セレスは武闘僧に尋ねた。
「何て言ったの?」
「『旅の一座です、三日後に公演いたします、チラシはあちらで配っておりますのでどうぞよろしく』です」
「はぁ?」
「馬鹿正直に名乗ったら、(サイン)責めにあって動けなくなります。まずは、どこかの宿に落ち着きましょうよ。王宮にも連絡しなきゃいけないし」


「どういうこった、これは?」
 宿屋の武闘僧の部屋で、赤毛の戦士がジロリと僧侶を睨みつける。
「おまえ、何しやがった?」
「私の策ではありません。シャオロンの策ですよ」
 ナーダはおもしろそうに笑っている。
「あの子、魔族や大魔王教徒退治の暁には、被害者に『セレス様のおかげで助かった』と、声高に言って欲しいと考えたんです。セレスがいかに強く美しく優しかったかも、ね。で、私はシャオロンの策に則って、この一月、我々の働きへの報酬として被害者の方々にセレスの宣伝をお願いしてきたのです。セレスの評判は噂が噂を呼んで膨らんで………今、ペクンですごい事になっています。ここは流行の発信地ですからね、じきにシャイナ中、いえ東国中に広まるでしょう。最初は私も人気を煽る為に、詩歌を作らせたり芸人を雇ったりしてたんですがねえ。今やってるのは『女勇者セレス』シリーズの版元に最新情報を流すくらいで、後のお祭り騒ぎはノー・タッチですよ」
「こんな事して何の意味がある?」
「地道に続けていれば、セレスの評判が高まります。なにしろ、女勇者ですからね。最初から世の期待は薄く、評判も地を這っています。セレスが人気者になれば、私達も、もっと活動しやすくなると思うのですが?」
 赤毛の戦士は扉をかすかに開け、向かいの部屋の様子を伺った。
 セレスの部屋の前にはこの宿の客やら使用人やらが、集まっていた。物見高い(さが)のシャイナ人達はそれぞれ自分だけでも女勇者に会おうと、がやがやと騒いでいた。
「群衆に囲まれちまったら、護衛どころじゃなくなる。あの女、暗殺者に刺されるぞ」
「大丈夫ですよ」
 武闘僧はしれっと答える。
「じきに王宮から迎えが来ますから。一般大衆はセレスに近寄れなくなります」
「………なんでわかる?」
 武闘僧はにっこりと笑った。
「この国の大臣の間でも『女勇者セレス』シリーズは人気ですし、皇太子殿下の西国語の教師も通俗小説の愛読家です………確たるところから得た情報です」
「ケッ!」
 赤毛の戦士は肩をすくめた。
 武闘僧のアレンジが入ったとはいえ、被害者を利用してセレスの評判を高めようとしたシャオロンの発想は悪くない。
 だが………
「すっごい人気ですね!やっぱ、セレス様はすごいです!」
 セレスの部屋から、興奮しきっている少年の声が響く。
 素質はあるのかもしれないが、素直すぎるあの性格では策士など無理だ。
 アジャンは笑いを堪え、口元を押さえた。
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