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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 シャオロン&セレス(9話)

 セレスは『エルフの弓』で迫り来る魔族を射抜いた。
 人の形すらしてない低級魔族だ。狼や鳥に憑いた魔族は、セレスの弓に敗れ、次々に浄化されていった。
 橇とトナカイを守るのは、老忍者ガルバとその部下のダンルとバイトゥーキ。聖なる武器も神聖魔法も使えない彼等は魔族を倒せない。セレスは彼等から離れすぎないように気を配りながら、敵の間を駆け抜け爪を振るう少年を援護した。


 ガルバ達が出発の準備をしている間、セレスは魔族との戦いの跡を静かに見つめていた。えぐれた地面、折れた木々、飛び散っている奇妙な粘液……セレスの横に立つ少年も、又、変貌した雪景色を眺めていた。
 セレスは拳を握り締める。一刻も早くアジャンに追いつきたいのに……魔族に襲撃される度に橇は止まる。足取りは非常に遅い。果たして間に合うのだろうか?
「アジャン……」
 その口から漏れた声は、東国の少年の耳にも届いていた。金の髪の美しい顔は憂いに曇っている。少年は胸の痛みを感じた。が、前向きな彼はすぐに表情を改め、笑みを浮かべる。
「セレス様、オレ、よく効くおまじないを知ってるんですよ」
「おまじない?」
「願い事が必ずかなうおまじないです」
「必ずかなうの? すごいわね、必ずだなんて」
「はい。オレ、今もまだまだ未熟なんだけど、昔は本当に格闘が駄目で、父さんから道場の出入りも禁じられていました。腕力も闘争心もない臆病者だって言われて……『武術の才なし』って見捨てられたの、すっごく悲しかったんです」
「シャオロン……」
「正直言って、人と殴りあうのは嫌いでした。自分が痛いのも、誰かを傷つけるのも嫌でした。でも、オレ……父さんを尊敬してたんです。父さんの武闘の型は、本当、すっごく綺麗だったんですよ。水が流れるようでいて、それでいて素早くて鋭い。攻撃に移るのはほんの一瞬だけで、それまでは優美な舞のようにしなやかに体を動かしているんです。オレ……父さんみたいになりたかった。道場の出入りを禁じられてもあきらめられなかったんです」
「………」
「稽古がしたいって、何度、お願いしても『おまえは格闘家以外の道を進め』としか父さんは言ってくれなくて……オレ、毎日、メソメソしてたんですよ。そうしたら、母さんが、願い事が必ずかなうおまじないを教えてくれたんです」
「お母様に教えていただいたの……そう」
「オレのやる通りにセレス様もやってください」
「わかったわ」
「まず、深呼吸」
「ええ」
「次に拳を構えて、目を閉じる」
「やったわ」
「で、心の中で願い事を唱えるんです」
「……唱えたわ。次は?」
「ありません。これで終わりです」
「これで終わり?」
「はい。これだけを毎日、欠かさずやるんです。何があっても、毎日、休まずに……」
「いつまで?」
「願い事がかなうまで、です」
 シャオロンは目をあけ、にっこりと微笑んだ。
「オレ、まだ、ずっと続けてるんです。オレの夢は『シャイナ(いち)の武闘家ユーシェンのようになる』です。まだまだ夢までは遠いですけど、一歩、一歩、少しづつ近づいています……オレが一人で格闘の練習をしてたらフェイホン兄さんが、父さんに内緒で朝夕と稽古をつけてくれるようになりました。ティエンレン兄さんも、握力・筋力の鍛錬方法を考えてくれました。村があんな事になってしまった後も……ナーダ様やアジャンさんがオレを教え導いてくれています。だから、オレ……足を止めません。亀みたいな遅い歩みしかできないけど、オレ、みなさんのおかげで、ちょっとづつでも前に進めてるんです。諦めなければ、いつかは……夢に届くと、オレ、信じてます」
 セレスは少年を見つめ、笑みを返した。
「そうね……あなたの言うとおりだわ。諦めたら、そこでおしまいですものね」
「はい」
「とても良いおまじないを教えてくれて、ありがとう。泣き言なんか言わずにがんばるわ、私」
 老忍者ガルバが出発の準備が整ったと二人を呼ぶ。セレスと少年は笑みを交し合い、共に橇に向った。
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