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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 ナーダ&ジライ(6話)

「良かった……ジライ……思ったよりも軽傷で……あなたを癒せて、本当に良かった……」
 回復魔法を唱え終えるなり、抱きついてきた武闘僧。
 東国忍者はおとなしく抱擁されていた。怪我を治してもらったので、多少は相手の好きにさせてやろうと思っているのだ。でなければ、うっとーしいわ! と、怒鳴ってナーダを蹴り飛ばして退かしている。
 床の上で向かい合って座っている二人。ナーダは、愛しい忍者の白い体を抱きしめていた。
 右胸から左腹にかけてをアジャンに斬られジライは重傷。しかし、治療は拒んでいると、娼館で部下の報告を受けた時……ナーダの目の前は真っ白になった。体中から血の気が引き、王宮に戻りジライの姿を目にするまで生きた心地がしなかった。
 部下の案内で向った先は、ナーダ用の客室(ゲスト・ルーム)の寝室だった。ここならば、主人(セレス)も探しに来ないと考え、隠れたのだろう。ナーダが駆けつけた時、ジライは明かりもつけず、部屋の隅に蹲って小さくなっていた……クナイを握って。寝室に入って来た者が誰だかわかっても、忍者は殺気を消そうともせず、武器も手放さなかった。そのぴりぴりと気を張り詰めた姿は、手負いの野生動物を思わせた。
 ナーダが結界を張った後、ようやくジライは衣服や覆面を外し、怪我を見せてくれた。皮膚だけではなく肉までえぐられ、肋骨が折れ、臓器が傷ついていた。心臓や肺が無事だったのは幸いだったが、相当、出血もしたようだ。傷を自分で縫って塞ぎ、人を近づけず、武器を握り締めて痛みを堪えていたジライ。誰も信頼していないその姿は、あまりにも痛々しかった。
 インディラ神に祈りを捧げ、ナーダは治癒魔法を唱えた。ジライの傷をふさぎ、折れた骨を繋ぎ、傷口を縫い合わせていた糸を抜き、疲労回復の魔法も唱えた。
 そして、今、腕の中には怪我が癒えたジライが居る。顔はまだ青白いままだし、血肉や骨がなじむまで、二、三日はかかる。まだ治ったわけではないが、安静にしていれば傷口が開く事はない。(ジライ)が死ぬ事はない……(ジライ)を失う恐れはないのだ……
 内からこみあがってきた衝動のまま、ナーダは愛しい者に口づけを贈った。ジライは拒まなかったが、口の中は乾いており、舌使いもおざなりだった。
「今日は寝ないぞ」
 ぼそっと呟いたジライに、ナーダは苦笑を見せた。
「安心してください。あなたを襲う暇はありませんから。これから私は超多忙になります。本当は今すぐにもセレスの所へ行って、今後の相談をして、あれこあれ手配をしなくてはいけないのですが……」
 ナーダは震える手で愛しい者を抱きしめた。
「もう少しだけ……このままで居させてください」
「………」
 ジライは何も言わなかった。けだるそうに溜息をついて、ナーダに身を預けるばかりだ。
「愛しています……ジライ」
「………」
「あなたを失ったら、私、もう生きていけません……」
 東国忍者は不快そうに眉をしかめ、顔をそむけた。
「……もう良かろう? 放せ、セレス様の元へ行く」
「え? 動いてはいけません。ここでしばらく休んでいてください」
「もう治った」
「まだ治ったわけではありません。おとなしくしていてください。セレスには私から事情を説明します」
「放せ」
「放しません。お願いです、ジライ、ここに居てください、あなたを失いたくない……」
 ジライが不快そうに語気を荒げる。
「黙れ! 我はきさまの所有物ではない! 我のやる事に口をはさむな!」
 尚も放そうとしない相手を、忍者はジロリと睨みつけた。
「放せ。この程度の怪我ならば、仕事や遊びで何度も負っている。治療してもらえばどうという事はない」
「遊び……?」
 仕事はともかく……遊び?
 ジライはフンと鼻で笑った。
「生死の境を彷徨った数など覚えておらぬわ。今、見た目は何ともないが、本来ならば我が体は、刀傷、鞭の痕、火傷、切り傷、焼きゴテの痕だらけじゃ」
「……ジライ」
「幼き頃より、体の表面の傷が増える度、大魔王教の神官の治療を受けてきた。あやつら、金さえ積めば、傷痕を消してくれるからな」
「幼い頃から……ですか?」
「そうだ」
「何時頃から……?」
「知るか。物心つくより前からじゃ」
 フフンと小馬鹿にするように、ジライが笑う。
「おまえが有難がっているこの体は、おまえが嫌悪している大魔王教徒によって表面だけ磨かれたまがいもの……真実を隠した偽りの体だ。自然をこよなく愛するインディラ神ならば、神罰を下したくなるであろうよ!」
「……ジライ」
「とっとと放せ! きさまの甘っちょろい言葉を聞くと、虫唾が走る! こんな穢れきった醜い体を宝のように思うな! 阿呆め!」
 ジライはぎょっと驚き、体を硬直させた。
 ナーダが……ジライの右胸にそっと唇で触れ、軽く接吻してきたからだ。恭しく……まるで聖なるものに触れるかのように。
「あなたの体……二度と、大魔王教徒には触らせません」
 ナーダは胸から肩、首へと口づけを続ける。
「これからは私が癒します」
「………」
「どんな怪我でも治してさしあげます。女王様遊びでついた傷でも構いません」
「ほう? 己の享楽の為だけに、体を傷つけて悦ぶ者を癒すのか? 表面だけとりつくろう手助けをするというのか? 良いのか、それで? 歪んだ性癖の者を救っていては教えに反するぞ。大僧正候補のくせに!」
「表面の傷を癒すか癒さないかなんて……たいした問題じゃありません」
「なに?」
「……私が癒したいのは他のものですから」
 ジライの顎をとり、ナーダは口づけを捧げた。長い接吻の後、ナーダは思いを口にする。
「愛しています、ジライ……」
「………」
「あなただけを愛しています」
 ジライも、又、ナーダを見つめる。
 その白い顔は徐々に赤く染まってゆき……
 その白い体は静かに震え……
 やがて、あがった右の手は……
 容赦なくえぐるように、武闘僧の脇腹を突いていた。
「痛っ〜!」
 痛みを堪え蹲った者を、忍者は怒鳴りつけた。
「阿呆! 何度言えば覚える! 『愛』だの『愛しい』だの連呼するな! 気色悪いわ!」
 そう言い捨てると、ジライは運び込んでいた自分の荷物から替えの忍装束を取り出し、着替え始めた。
「きさまは『セレス様専用回復役』として生かしておいてやっているのだ。でなければ、我が素顔を見たきさまなど、とうに殺しておるわ。一度や二度、我を癒したぐらいで()にのるでない」
「いえ、あの、頭にのったわけではなく……正直な気持ちを口にしただけで」
「やかましい」
 床の上に座り込んだナーダの顎を蹴り飛ばし、床に転がす。
 その後は、武闘僧を無視して、ジライはさっさと着替えを終えた。そして、覆面をつける前にまだ立ち上がれずにいる者の前にしゃがみ、薄く笑ってみせた。
「我はセレス様の元へ行くが、おまえはどうする?」
「……ご一緒しますよ」
 ナーダは深いため息をついた。
「ですが、ジライ、くれぐれも無茶はしないように。おとなしくしてないと、傷口が開きますから。しばらくは護衛は私とシャオロンに任せてください。いいですね」
「……成り行き次第だな」
「ジライ!」
「傷口が開いたら、おまえが癒せ」
 笑いながら、ジライはナーダの頬に口づけをした。
「癒させてやる」
 ナーダはその白く美しい顔を見て、溜息をつくしかなかった。身勝手で無慈悲なこの男には逆らえないのだ。
 この後、マリーの治療をしてからセレスの部屋へ二人で行きます……
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