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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 セレス&ジライ&シャオロン(5話)

「ちょっと、お化粧、濃くない?」
 手鏡を手に首を傾げるセレス。今宵の舞踏会の為に淡い若草色のドレスをまとった彼女に、『お化粧なさるのなら、変装術が得意な私にお任せを』と、ジライが化粧(メイク)をしてくれたのだが……濃い目のアイシャドーに真っ赤な唇……いつもより顔立ちがきつくなったような……?
 セレス付きの召使役の中年くノ一のマリーがおっとりと答えた。
「さようにございますね。そのご衣裳ならば、薄化粧の方がお美しさが引き立つので……」
 殺気を感じ、マリーは口を閉ざした。セレスの背後の東国忍者は覆面から笑みを覗かせてはいた。が、くノ一である彼女は、これ以上余計な事を口にしたら命が危うくなると敏感に感じ取ったのだった。
「あ、あの……でも、そのお化粧もお似合いですわ! 威厳あふれる女主人って感じで! 凛々しくて高貴で!」
「凛々しい?」
 セレスはぷぅと頬を膨らませた。
「そんなの駄目よ。今夜はダンスを踊るんだから可愛らしい感じにして欲しいの。マリー、お化粧、直して」
 くノ一マリーは、サーと顔を青ざめた。東国忍者が目でマリーを殺そうとするかのように、凄まじい殺気を彼女にだけ送ってきているのだ。
「あ、あの、申し訳ございません。私、少々、小用が……お化粧はジライ様にお任せください」
 マリーが部屋から逃げるように出て行った後、結局、忍者ジライはセレスの要求(リクエスト)に負けた。女王様メイクを落とし、淡い薄化粧を女主人に施したのだった。
「チッ。マリーめ。あやつ、後で灸を据えてやる」
「え? なに?」
「いえいえ。何でもございませぬぅ」
 そこで扉のノックが響いた。部屋に入って来たのは、東国の武闘家の少年だった。
「うわぁ!」
 少年は目をぱちくりさせた。
「セレス様、すごぉ〜くお綺麗です! 女勇者の鎧姿も格好良くって素敵ですけど、ドレスもすごくお似合いです! さすがセレス様!」
 少年は両の拳を握り締め、力説した。
「この王宮で一番! いえ、旅の途中でお邪魔したどの王宮の貴婦人よりもお綺麗です! セレス様が一番です!」
「いやだわ、シャオロン。褒めすぎよ」
 と、セレスは頬を染めた。が、東国忍者は、
「当然じゃ。セレス様はこの世の誰よりも美しく貴き御方……この世に咲くただ一輪の大輪の薔薇よ」
 と、完全にシャオロンに同意する。
「セレス様の美貌を一層輝かせるなんて、さすがジライさん! 忍術もすごいけど、お化粧技もお見事です!」
 そう褒められれば、ジライも悪い気はしない。
 実はシャオロンは、東国忍者の機嫌を損ねてしまったとマリーに泣きつかれ、この部屋にやって来たのだ。その効果はてきめんで、ジライはもうすっかり怒りを忘れ、鼻歌まで歌っている。
「でも、舞踏会なんて本当、久しぶりだわ」
 支度を終えたセレスは忍者に尋ねた。
「ステップを思い出さなきゃ。ジライ、あなた、踊れる?」
「諜報術の一環として西国舞踏も習いましたゆえ、嗜み程度には……」
「なら、問題ないわね。ちょっと付き合って」
 椅子やテーブルなどの邪魔なものを素早くどけて、シャオロンが広い場所をあけてくれる。ジライは覆面の下の顔を赤く染め、高鳴る心臓を押さえていた。ドレス姿の女主人と共に踊るなど恐れ多く気恥ずかしいが、でも、やはり嬉しい!
「じゃあ、やるわよ、ジライ!」
 しゃんと背中を伸ばし、セレスは忍者の手を取った。
「あ? あの……セレス様」
「なぁに?」
「手が逆にございます」
「え?」
 セレスは自分の手をまじまじと見つめた。ジライの手を取って、支えてしまっている。
「あ、そうね。今日は、私、ドレスだから、女性の踊りをしなければいけないのよね」
「……女性のパートを踊ったこと、ございますか?」
「ないわ」
 セレスはきっぱりと言い切った。
「あるわけないじゃない、私、男装してるのよ、いつも」
「では、練習したことも……」
「ないわ」
「………」
 ジライの嫌な予感は的中した。
「セレス様、リードは男性がいたすもの。そのように勝手に動き回られては……あ、そこで、ターンにございます。男性のリードに従って体を預けるようにすれば、自然に……。あの、足取りはもう少しかろやかに……」
 セレスは女性の踊りが初めてどころか、三歳以来ドレスを着衣するのも初めてなのだ。女性用の靴になじめず痛みを訴えるわりには、歩幅は大きすぎ、ドタ足だ。
 人前で踊れる技量ではなかった。いや、社交場に女性として顔を出せるだけの立ち居振る舞いすらできてない。このままでは今宵、セレスは宮廷貴族達の前で恥をかいてしまう……
「シャオロン! マリーかローラを連れてまいれ! すぐにじゃ!」


 くノ一が来るまでの間に、ジライは歩き方・お辞儀などの所作を教えた。すぐに雄々しい歩幅をとってしまうセレスには、歩くのすら困難なようだった。
 マリーが着いてからは、ダンス講座となった。ジライはマリーの手を取り手本の踊りをセレスに見せ、次にマリーに男性役をさせてセレスと踊らせてから横から細かい注意を与えた。で、仕上げにマリーとセレス、ジライとシャオロン(踊りの才のある少年は短い時間の見学で、男女両方のステップを覚えていた)の二組で踊り、他者とぶつからない練習までさせたのだった。


 人前に顔を出せる技量となったかどうか微妙なところで時間切れとなった。赤毛の傭兵の部屋に寄りたいとのセレスの希望があった為、舞踏会の時間よりも少し早くセレス達は部屋を後にした。


 女主人との甘い一時を過ごし損ねた忍者は、がっくりと落ち込んでいた。マリーへの仕返しなど忘れてしまうほどに。もっとも、その夜からの騒動のおかげで、それどころではなくなるのだが……
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