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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 こぼれ話 ナーダ&アジャン(4話と5話の間)

「きゃあん、若様、すてきぃ」
「お体は逞しいし、二枚目だし、アレも最高。好きよ、若様。今夜もいっぱいかわいがってぇ」
 四人の酌婦に囲まれているのは、禿頭をカツラで隠した大男。ここ数日、この娼館の上客になっている貴族風の男だ。その向かいの席には赤毛の野性的な美男子(ハンサム)とビール樽のように太った中年男が居り、それぞれ両手に女を抱えていた。
「かわいい事、おっしゃいますねえ……みなさん、今日は何が欲しいのです?」
「ん、もう、イケズぅ。私、本気なのに。お金目当てじゃないのよ。商売抜きで若様に惚れちゃったんだから」
「おや、そうですか」
 大男が懐から袋を取り出し、酌婦達に中身の一部を見せた。異国風の指輪だ。使われている石は高価なものではないが、細工の細かい凝ったデザインで、北方にはないものだ。
「今宵一の美姫に差し上げようかと思ったのですが」
 そこで酌婦達を見渡し、からかうように笑う。
「持って帰っちゃいましょうか、要らないんなら」
「ああん、意地悪!」
「若様、今日はアタシよ! アタシが一番最初よ!」
「何、言ってるの、若様のお相手をするのはこの私よ」
「うるさいわよ、あんた達、若様のお相手は、この宿一の売れっ子のあたしがするのよ。子供は下がってなさい」
「二日続けてなんてズルいわ。今日こそ、あたしよ」
「私は構いませんよ、四、五人いっぺんでも。みなさんへのプレゼントも山のようにありますしね」
「さすが若様!」
「素敵ぃ!」
 きゃいのきゃいのと抱きついてくる娼婦達。その相手をしていた大男は、笑みを浮かべ、静かに頭を横に振った。
「……少々、酔ってしまったようです。夜風にあたってきますから、みなさん、良い子で待っていてくださいね」
「はぁい」
「私の連れの相手をしてくださる方にも、プレゼントはあります。ちゃんとサービスしてくださいよ」
「はぁい」
 サロンに娼婦達やシベルア軍人ゲオルグとアジャンを残し、悠然と廊下に出たナーダは……しばらくすると足を速め、トイレに駆け込み、胃の中の内容物をぶちまけたのだった。
「うぅぅぅぅ」
 ゲロゲロと吐き続ける主人を、ヤルーとクルグが介抱する。客を装って娼館に入り込んだナーダの部下は、主人に同情の眼差しを向けていた。
 しかし、遅れてその場に現われた赤毛の傭兵は、ニヤニヤ笑うばかりだった。
「酒は飲んでるフリだけで、喉の布にこぼしてるんだろ? 女にまとわりつかれるだけで、よくも、まあ、毎回ゲーゲー吐けるもんだ。女嫌いもそこまでいくと立派なもんだぜ」
「……誰のせいだと思ってるんですか」
 ナーダは口元をハンカチで覆い、便器から顔をあげた。
「あなたをアジソールズの元へ連れて行く為に、娼館通いをしてあげているんですよ! ぶよぶよだるだるしたお肉の塊なんて、目にも入れたくないのに。しかも、臭いし! 何であんなビチョビチョに香水かけてくるんでしょ! 白粉プンプンの顔でまとわりついてくるし! すぐに私の腕を取ろうとかするし! 太腿なでてくるし! もぅ、嫌です!」
「おまえが上客を装うから、不必要にモテるんだ」
「……私の事を金づるだと、ゲオルグに思わせたいんです」
 そこで、ナーダは溜息をついた。
「でも、正直言って、もう限界を突破してます……血は下がるし、吐き気はひどいし、めまいでクラクラです。私、このままじゃ死んじゃいますよ。昼間、目が回るほど忙しいのに、食べた物、みんな戻しちゃうんですから」
「吐くのがわかってるんなら、喰うな。もったいねえ」
 ナーダはジロリと赤毛の戦士を睨んだ。
「いい加減、アジソールズと話をつけてくださいな」
「話し合うだけ無駄だって言ってるだろ? 決着なんざつくもんか」
「なに言ってるんです、彼等は大魔王退治の旅が終わるまで待つと言ってくれてるんです。あなたが『大魔王退治が終わったら、アジ族の元へ戻る』と、おっしゃってくだされば、全て解決」
「絶対に言わん」
 きっぱりとアジャンは言い切った。
「俺はアジの部族王になる気はない」
「……このままでは、私、衰弱死しちゃうんですけど」
「会見の場を作ってるのは俺じゃない。おまえが勝手にやってることだ。俺の良心に訴えたところで無駄だぞ。それに」
 アジャンがニヤリと笑う。
「衰弱死ぃ? おまえが、そんなヤワな(タマ)かよ」
 ナーダはむむむ〜と眉をしかめた。
「わかりました! 通う店を変えてもらいます!」
「ん?」
 ナーダは糸目を更に細めて笑った。
「男娼の店に」
「なにぃ!」
 赤毛の戦士が目を剥いて怒った。
「ンな気色悪い店、お断りだ! 第一、ゲオルグが」
「あのビール樽、両刀です。そっち方面の良い店も知ってるそうですよ」
「俺は行かんぞ! おまえ一人で行け!」
「馬鹿な事言わないでください、アジャン。当地の情報屋の元締めアジソールズが用があるのは、私じゃありません。あなたです。あなたが行かなきゃ、アジソールズのご機嫌が悪くなります。あなた、プロの傭兵ですもの、好き嫌いで護衛対象に不利な状況をつくったりなんかしませんよね?」
「ナーダ……」
 武闘僧はツーンとそっぽを向いた。
「今日を含め三日の猶予をあげます。その間にアジソールズと話をまとめてくださいね。でなきゃ、しあさってには、夜に通う店、変えてもらいます。あなたが、とてもとても大嫌いなお店に、ね!」


 二日後の夜……アジャンは失踪した。
 だが、あの脅しとは関係ない。
 男娼館通いが嫌で逃げたわけではない、絶対に!
 とはいえ……
 男娼館に通うと言って脅迫していたことはセレス達には内緒にしておこう……ナーダはそう決めた。
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