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女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

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極光の剣 15話

 心話による合図が届いた。
 ケルティ全土に散っていたハリのシャーマン達は、各地で行動を開始した。それぞれに課せられた使命を果たすべく。
 シベルア軍隊の武器庫爆破、要人暗殺、放火……
 ゼグノスの分身であったハリレーレクに支配の魔法をかけられ傀儡となった彼等には、死への恐怖はなかった。ハリの輝かしい未来を信じ、その礎となるべく、年若いハリのシャーマン達は次々に己が命を捧げていった……


 ほぼ同時刻、ケルティ全土のシベルア教会で鐘が高らかに鳴らされ、その音がケルティ中に響き渡った。
 ケルティ新王朝の宗教政策によって、街のみならず、小さな村にもシベルア教会は建築されている。司教も司祭も聖職者が在住しない田舎の教会であっても、聖堂や鐘楼など教会としての設備は一通り揃っているのだ。
 鐘は人が住む場所、全てで鳴り響いた。
 鐘は邪を祓う尊き音、天上の神の世界の音楽なのだが……数日前からゼグノスの分身である司教・司祭達によって、細工が施されていた。人間の本能を揺さぶり、憎悪・羨望・嫉妬・殺意・残虐性を煽る、精神系の魔法の発信源に変えられてしまったのだ。
 それは、強力な術だった。鐘を耳にした者は、シベルア教徒・ケルティ人の別はなく、誰しも悪感情を昂ぶらせる。不平不満を知らない人間などいない。ほとんどの者があっけなく己が善の感情を凌駕する悪しき思いに憑かれてしまう。衝動のままに、破壊・殺戮を繰り返し、血に酔いしれ、ゆるやかに魔に堕してゆくのだ。
 各地で軍隊と民がぶつかり合い、貴族の館では召使が主人を血祭りにあげた。小さな村の中でも、父がシベルア教育に染まった息子を殺し、主婦が日頃不仲だった隣人をためらいもなく殺していた。
 魔の気に聡いシャーマンや司教の中には、易々と魔の誘惑に屈しない者もいた。彼等は己の保身の為、或いは信者や一族を守護する為に、神にすがり聖なる結界を張って庇護者達と共にその内に籠もった。結界の内ならば、鐘の音は聞こえない。正気を保てるのだ。しかし、魔になりきれぬ心優しい者達は、殺戮の宴の標的とされた。数多くの魔人や狂人に襲われ……結界を破られ、家族・友・隣人・敵勢力に殺され宴の生贄とされる者も少なくなかった。


 忍者ジライは、ホルムの王宮を駆けていた。
 最初は、セレスの教えに従い、無駄な殺生はしないよう心がけたのだが……とうに教えは守れなくなっていた。敵は無尽蔵にわき続け、魔へと堕ち或いは魔に操られ牙を剥いて来る。忍術・忍法・薬品・『小夜時雨(ムラクモ)』を駆使して戦い続け、何百という敵を倒しているのにキリがない。忍者装束は既に返り血に染まりきっていた。
 一時はナーダの部下八人を、魔の呪縛から解放したのだが、彼らは数十分前に耳を両手で押さえて突然苦しみ出し、再び黒の気をまとい始めたのだ。『鐘の音が聞こえる……』と、訴える彼等を気絶させて縛ってその場に転がし、ジライは王宮内のシベルア教会へと走った。
(又しても、鐘の音か……)
 ジライは舌打ちを漏らし、己の行く手を塞ぐ者達を切り捨てていった。浄化の水で内なる魔を祓っても、皆、すぐに黒の気に囚われる。『鐘の音が聞こえる……』と、言いながら。
 眠り粉としびれ粉は尽きてしまった。気の練りも不充分の為、忍法も後一回使えるかどうかだ。邪魔者は、魔族であれば浄化する、人間であれば殺すか深手を負わせて止めるしかない。王宮内の邪法を解くのが早いか、体力の限界がくるのが早いか……
 回廊から王宮内のシベルア教会を目指す。雪の積もった中庭を突っ切った方が早いのだが、結界に閉じ込められているので外へは出られない。回廊や渡り廊下を通らねば、建物の移動ができないのだ。身を隠す場所のない回廊には、進むべき方向からも通り過ぎた方向からも、敵が押し寄せて来る。
 ジライは覆面の下に苦笑を浮かべた。
(セレス様がこの場に居られなくて、ほんに良かった)
 東国忍者は懐から取り出した油紙で包んだ二つの球を、前方と後方に投げつけ、その場に伏せた。
 球は人波に飲まれ……破裂した。
 爆風。
 爆炎。
 爆煙。
 火薬玉だったのだ。威力はさほど大きくないが、一つにつき、五、六人は殺せたはずだ。周囲の者も火傷を負い、見る見る広がる火災に巻き込まれてゆく。しかし、物理結界の張られている回廊自体は微塵も傷ついていない。
 ジライは伏せている間に、胸元から金属を取り出して、そのからくりを外していた。人の頭ほどもあるそれを左手に、右手に『小夜時雨(ムラクモ)』を持ち、右往左往する宮廷人の間を風のように駆け抜け、爆炎の彼方からやって来る新手に向かい左手の武器を投げつける。
 巨大な卍手裏剣『大風車』。ジライ最強の遠距離武器は、押し寄せる敵を次々に血祭りにあげた後、主人の左手へと戻って来た。
 たった一人で宮廷内の人間全てを敵に回している東国忍者は、さながら鬼神だった。群がる敵を容赦なく葬り、その身を血に染めている。
 けれども、殺戮の宴で最も華やかに立ち回っているこの男は……宴を奏でる楽の音を聞けずにいた。王宮中を狂わせている鐘や鈴の音が聞こえないのである。
 回廊から見える中庭の先に、シベルア教会独特の屋根――ねぎ坊主が見える。大聖堂そばの鐘楼で鐘が鳴らされているのならこの距離で耳に届かないはずはないのに、まったく聞こえないのだ。
 耳に異常は無い。敵の奇声、足音、剣戟、爆音などは普通に聞こえている。鐘の音だけ聞こえないのだ。
(術に踊らされずにすんでいるのは有難いが……何故、我にだけ聞こえない……? 気に喰わんな)
 何の気負いもためらいもなくジライは迫り来る敵を片付け、走った。シベルア教会を目指して……


 女勇者セレスと赤毛の戦士アジャンは、驚きと共に目の前の人物を見つめた。
『極光の剣』を背にする形で移動魔法で突然現れた人物。その者が現れるやいなや放った浄化魔法を浴びて、ハリレーレクは消滅した。魔と化した体は浄化の光の前にあえなく無に帰し、一握の塩を残して消滅したのだ。
 ハリのシャーマンがまとっていた衣服も剣も同様に消えうせた。が、祭器である金の指輪だけが残り、甲高い金属音を立てて岩の上に落ちた。
「わしがアジクラボルト殿と共に幾重にもかけた封印をよくぞ解いた。森、洞窟、剣。その全てを解くに十日かからなかったのは、まあ、褒めてやるが、詰めが甘かったの、ハリのシャーマンよ。きさまでは、最後の封印は解けぬ。このわしが最後の封印……この剣を所有するにふさわしき者にしか、この剣は譲らぬ」
 厳かな口調でそう言ったのは、黒のローブの魔法使い。右手に魔術師の杖を持つ、長い白髪白髭の、やさしそうな顔だちの老人だ。ハリレーレクの死と共に消えかけた洞窟の明かりを代わりに維持し、にっこりと笑みを浮かべる。
「お師匠様!」
 呆然とするセレスに対し、老人は笑みで応えた。
「久しぶりじゃの、セレス。白銀の鎧姿以外の男装も、新鮮でいいのぅ。商人にしては、少々、凛々しすぎるがなかなか悪くない。それに、赤毛の傭兵、元気そうで何よりじゃ」
 のほほんと挨拶をするセレスの魔法の師――大魔術師カルヴェルを赤毛の戦士は睨みつけた。老人の背後の剣も同時に睨みつつ。
「……どういうこった、ジジイ……? 何故、ここに来たとか、まあ、いろいろ聞きたい事はあるが……あんたの口ぶりからすると、『極光の剣』はあんたの所有物って聞こえたんだが……俺の勘違いが?」
「いいや」
 えっへんと老魔術師が胸をそらせる。
「『極光の剣』の現在の所有者は、正真正銘、このわしよ」
「嘘をつけ!」
「嘘ではない。赤毛の傭兵、以前、わし、ジャポネで言うたであろう? わしは『虹の小剣』と『エルフの弓』以外に七つの聖なる武器を所有しておるが、そのうちの五つはゆえあって封印してあるとな。『極光の剣』はそのいわくつきの武器の一つよ。約二十年前にわしはアジクラボルト殿の願いを聞き入れ、共に魔法をかけ、剣を封印し、預かったのよ。アジの次代の王が現れるまでという約束で、の」
「何……?」
「あの当時、ケルティ新王朝のアジへの締めつけがやけに厳しくなっておった上に、ハリやアジの一部がやけにキナ臭くての。アジクラボルト殿はアジの行く末を案じていた。優れたシャーマンであるあの方は、己の未来を見てしまった。神との契約の証を息子に託す前に命を落とすという未来をの」
「………」
「何度未来を見ても、どう行動を変えても、予知は変わらなかったそうじゃ。どうあってもアジクラボルト殿は死の運命から逃れられず、多くの未来で一家は全滅し『極光の剣』は持つべき資格のない者の元の手へと渡っていた。それ故、アジクラボルト殿は剣を封印し、あの日あの場所で逃げずに捕まり、司祭を侮辱してその日のうちに処刑される道を選ばれた。数ある未来の中から家族にとって最も最良の未来を選ばれたのだ」
「最良の未来……」
 赤毛の戦士が怒りと不信をこめた瞳で、老人を睨みつける。
「ふざけるな! 最良だと? 俺の通ってきた道が最良だと言うのか? 母とアジンエリシフが陵辱の果てに殺され、アジャニホルトとアジフラウが貧しさの中で亡くなるのが最良だったと?」
「だが、おぬし、生き延びておるではないか」
 老魔術師の声は、相手をいたわるかのように優しい。
「ほとんどの未来で、おぬし、死んでおったそうだ、成人になる前に、な」
「………」
「アジクラボルト殿自身は、神を召喚してケルティ新王朝を葬るなどというくだらぬ計画に乗る気はもうとうなかったのだ。しかし、幼くして王となる息子には、王たる心構えはない。幼いおぬしが王となれば、ハリやアジの好戦派に踊らされ、求められるままに神降ろしを行ったであろう。家族の仇をとる為に、な。多くの未来ではそうなっていたのだ」
「………」
「じゃが、王たる資格のない者に降臨を望まれても、神は怒り、拒むだけ。召喚者に神罰を下し、その者の命を奪うだけじゃ。アジクラボルト殿はおぬしを救う道を選ばれたのだ」
「つまり、こういうことか……」
 赤毛の戦士が冷めた声で言う。
「親父は、俺だけの命を救える未来を選び、他の家族は犠牲にした……と」
「違う。アジクラボルト殿は、おぬしを『ほぼ救えるであろう未来』を選ばれただけ。他の家族がどうなるかは、その後の運命の流れ次第じゃった」
「同じだ……俺は」
 赤毛の傭兵は皮肉な笑みを浮かべた。
「一人だけ生き延びたくなどなかった……」
「おぬしが成人し、この剣の持ち手となる事が、アジクラボルト殿やおぬしの母上、そして姉上の願いでもあった。アジの血が絶えず、アジの契約の証が正しき者に受け継がれる事こそ故人の願いじゃった……弟妹の事は気の毒に思う。じゃが、おぬしが今日、ここに現れた事を、皆、喜んでおるじゃろう」
「………」
 そのままアジャンは口を閉ざし、押し黙る。
 代わりに口を開いたのは、不機嫌そうに眉をしかめているセレスだった。
「お師匠様は、アジャンがアジの次代の王だとご存じだったのですか?」
「うむ、まあ、初めて会った時からの。そうやもしれぬと思ってはおった。アジクラボルト殿は世界中に居るわしの茶飲み友達の一人じゃった。赤毛の傭兵は、どことなくアジクラボルト殿に似ておるし、酒好きの女好き、腕っぷしが強いところ、魔に敏感なところもそっくりじゃ。じゃが、二人が親子と確信したのは、つい先日の事よ。こやつに過去見の魔法をかけ、過去を覗かせてもらったゆえ、『極光の剣』の後継者が現れたとわかったのじゃ。コレクションが一つ減るのは惜しいが……」
 赤毛の戦士を見つめ、老人はニコニコと笑った。
「約束は約束じゃ。今日を限りで、わしは『極光の剣』の所有権をおぬしに譲る」
「………」
 赤毛の戦士は眉をしかめ、老魔術師を睨んでいた。
 その横でセレスは小刻みに体を揺らしていた。怒りを堪えて……
「お師匠様は……全てをご覧になっていたのですね?」
「ん?」
「全てをご覧になっていたのでしょ? 何故……? どうして、いつも……お師匠様は見ているだけ……何故、見ておられるだけなのです?」
 拳を握り締めるセレス。その青の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「当代随一の大魔術師なのに、どうして何もなさらないんです? 二十年前にはアジャンのお父様とはお知り合いだったのでしょ? お師匠様のお力なら、アジャンのお父様だって救えたはずです!」
「いや、アジクラボルト殿は救えなかった」
「嘘です! お師匠様なら救えたはずです! お師匠様の魔力をもってすれば!」
 セレスの頬を悔し涙が伝わった。
「シベルア人の専横を見て、何とも思われなかったのですか? 悪政を見逃し何もせず、死の運命に囚われた友人を救う為にすら動かない。どうしてなんです? どうして……」
「わしに何ができたと言うのだ、セレス」
 老人は静かに微笑んでいた。
「あの時、アジクラボルト殿とご家族の命を救うだけならば、確かにできた。ご家族を移動魔法で他所の国に運べば、皆、死なずに済んだであろう。じゃが……アジの王たる一族に国を棄てさせるのか? 望まぬ者を無理やり国外に連れ去るのが正義か?」
「なら……共に戦えば良かったではありませんか! お師匠様の魔力をもってすれば、シベルアの軍隊だって追い払えたはずです! その時点で、ケルティ人は自国を取り戻していました! お師匠様にはそれだけの力があります!」
「……だからこそじゃ、セレス」
 怒りを露にする女勇者に対し、老魔術師は穏やかな笑みを見せた。
「……わしが味方すれば必ず勝つ。だからこそ、わしは動かぬのじゃ」
「え?」
「人間が百人居れば、百通りの正義があり、百通りの真実がある。そのうちの一人にわしが加担し、わしの力で勝たせても意味は無い。世界の均衡を崩し、救うはずであった者を破滅に追いやるだけじゃ」
「そんな事ありません!」
「確かに、わしがアジクラボルト殿に協力しておれば、二十年前、シベルアの軍隊は追い払えたであろう。じゃが、その後、どうなる? 魔術師の力を借りて平和を築いた王などに……己が武力以外のものにすがった王などに、誇り高きケルティの戦士達が従うと思うのか?」
「!」
「わしが居る間はわしを恐れ、恭順してくれるやもしれぬ。じゃが、誰一人アジクラボルト殿を真の王と認めぬであろう。又、大国シベルアの狙いはこの国に軍事拠点を置く事。わしがこの地を去れば、或いはわしが死ねば、シベルアは再び侵略を始めようし、その時、迎え撃つアジクラボルト殿には味方が一人もいない事となる」
「………」
「わしが戦の中心になっては全てが台無しとなる。ケルティはケルティ人によって解放されねばならぬのじゃ」
「……その通りだな」
 赤毛の傭兵が重い口を開く。
「……親父は死ぬまでアジの戦士だった。老魔術師様のお助けなんざ、話をもちかけられたって要らんって断っていたろう」
「アジャン……」と、セレス。
「だが、俺が親父の立場にあったのなら……部族なんざ捨てて、家族を取ったろう。俺は親父とは違う。卑しい傭兵さ」
 暗く思いつめていた表情を捨て、アジャンはふてぶてしい顔となる。
「だから、使えるものは何でも使う。なあ、ジイさん、あんた、俺にその剣、譲ってくれるって言ったよな? なら、ついでに力を貸してくれねえか? 俺はこの国に……」
 そこで言葉を区切り、アジャンはニヤリと笑った。
「神を降ろす」
「ほほう」
「!」
 セレスは青ざめ、傭兵の左袖を握った。
「駄目よ! 馬鹿な事を言わないで! あなたアジの部族神への信仰心なんてないくせに!」
「ああ、ねえな」
「死ぬわよ!」
「死なねえよ」
「嘘! 『アジの神を信じぬ者に、神の祝福は訪れない』んでしょ? アジンエリシフさんが泣きながら心配してたわ! あなたが神の怒りに触れて命を落としてしまうって! だから、私、急いでここまで来たのよ! アジャン、死なないで……あなたを失いたくないから……私」
「セレス?」
「やめてよ! 神なんて降ろさないで! シベルアの支配からこの国を救う方法なら、他にもあるわ、絶対! だから、やめて! 死なないで、アジャン……お願い」
「………」
 赤毛の傭兵は眉をしかめた。すがるように自分を見つめる女勇者を不思議に思いながら。
「……シベルア人どもなんか、どうでもいい」
「え?」
「今は、な」
「……どういう事?」
「俺ぁ、この国の闇を祓いたい。その為に、のうのうと昼寝している奴を叩き起こすだけだ」
「え? え? え?」
「ケルティ新王朝の転覆を願っていたのは、ハリレーレクとアジのじいさん達だ。俺じゃない。あいつらを騙して、俺ぁ、自分の目的を果たすつもりだったのさ。相棒(パートナー)を騙くらかしてたって点じゃ、ハリレーレクとどっこいだな。大魔術師様がハリレーレクをぶっ殺してしまったが……」
 アジャンの視線が、まずカルヴェルの側に落ちている金の指輪に、それからシャオロンやガルバと共に倒れている人物へと向けられる。
「おまえさんがハリ族を連れて来てくれたから、問題は無い。あいつ、王族なんだろ?」
「ええ。叔父のハリレーレクを止めたいって一緒に来てくれたの。ハリビヤルニ王の長子よ」
「長子! ますます好都合。シャーマンだな?」
「シャーマン戦士よ。接触他心通(テレパス)で私の心を読んだわ」
「上等だ。アジとハリの王族二人に二つの祭器さえありゃ、すぐにも神降ろしができる」
 アジャンは再び、カルヴェルを見つめた。
「で、ジイさん、返事は? 俺に力を貸してくれるのか?」
 老人はいつものようにニコニコと笑っている。
「条件次第じゃ。大魔術師のわしに、しかるべき報酬を払えるのなら、報酬分は働いてやろう」
「よし」
 アジャンは口の端に狡猾そうな笑みを浮かべた。
「じゃ、あんたを雇う」
 老人はあくまでニコニコ笑っている。
「わしに何をさせたい? それによって報酬が変わるぞ」
 アジャンは老人の背後の『極光の剣』を見つめた。
「報酬は神降ろし、そのものだ。何百年も誰もやらなかった魔法と神秘に満ちた神降ろしを見られるんだぜ、道楽者のあんたにゃたまらねえショーだろ?」
「うむ。まあ、確かに」
「あんたにやってもらいたいのは、ショーの制御だ。神降ろしに伴って発生する天変地異をできるだけ抑えてくれ」
「ほほう」
「この役、本当はハリレーレクがやるはずだったんだ。あんたがあいつを殺しちまったんだから、その仕事、代行してくれ。むろん……できるよな? 『知恵の指輪』つきとはいえシャーマン戦士ができるって言ったことだ、当代随一の大魔術師様にできねえはずはない。名前負けじゃない実力を俺に見せてくれ」
「言うたな、こわっぱめが」
 老人はホホホと愉快そうに笑った。
「その意気に応え、働いてやるわ」
「……有りがたい」
「『極光の剣』を手に取り、アジの王たる務めを果たすがいい。赤毛の傭兵……いや、アジクラボルト殿の長子、アジスタスフニルよ……()の剣は汝の物ぞ」
 老魔術師が赤毛の戦士の為に道を開けた。
 それまで老人が背にしていた物が現れる。
 アジ族と神との契約の証――『極光の剣』は鞘ごと岩に刺さった状態で、主人(あるじ)の到着を待っている。自分を呪縛から解き放つ、新たなる振るい手を待っているのだ。
「アジャン……」
 泣きそうな顔で自分を見つめる女勇者。アジャンは、彼女を揶揄する時に浮かべていた表情をつくり、不安に押し潰されそうな彼女にはっきり言い切った。
「俺は死なん」
「………」
「アジの部族神は自分の真の信奉者が滅びていくのを、何もせず見過ごした。信奉者がいなくなったのは、部族神(あいつ)自身の責任だ。俺じゃご不満ってんなら、親父やアジャニホルトを生き返らせればいい」
「アジャン……」
部族神(あいつ)に俺を殺す権利はない。部族神(あいつ)に俺が殺せるものか……俺はこの土地を神から預かった親父の代わりに、親父ならばやる仕事を代行するだけだ」
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