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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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旅のはじまり * シャオロン * 1話

 一番最初に見えたのは青い瞳だった………


 せつなそうな………
 悲しそうな瞳………


 泉よりも、尚、澄んだ、それが………


 細められ、優しい笑みを形作る。


 何か話しかけられる。
 けれども、最初、声は意味をなさなかった。ただ笛の音のように綺麗な声だと、ぼんやりと思うだけだった。
 しばらくして、『共通語』で話しかけられているのだと気がついた。
『共通語』なんて、隣村の学問所で習ったきりだった。遠くの町まで出れば耳にする機会もあったけれど………こんな田舎では、普段、誰も『共通語』を使わない。
 外の国から来た人なのだ………
 青い瞳………
 白い肌………
 金の巻き毛………
 白銀の鎧を纏った………女神のように美しい(ひと)
「もう大丈夫よ。あなたは助かったのよ」
 右手を掴まれたのを感じた。
 体が鉛のように重い………
 動く気にすらならない………
「私の名前はセレスよ。あなたは?」
 やさしく微笑むその顔を見つめていると、冷たい体に生気が戻ってくるような気がした。
 自然と口元に笑みが浮かぶ。
「………シャオロン、です」


「そう、シャオロンってお名前なの、よろしくね、シャオロン………本当に、もう大丈夫だから………何もかももう終わったから………今は眠って………体を休めて」


 夢を見た………


 夏風邪が村に流行っていた。だから、(とこ)にふせた家族(みんな)の為に、山まで薬草を摘みに行ったのだ。
 いつもは元気な、ヤン兄さん、フェイホン兄さん、ティエンレン兄さん、タオ兄さんも………
 働き者の母さんも………
 熱が高く………
 父さんですら咳こんでいたのだ。シャイナ(いち)の武闘家の父さんが!父さんが病にかかったのなんて初めて見た!
 山で六人分の薬草を摘んでいる時………
 ふと空を見ると………
 黒い煙が見えた………
 山裾の村から煙が立ち上っていたのだ。
 火事だ!
 父さん!
 母さん!
 兄さん!
 慌てて山道を駆け下りた。
 下生えの草や木の根に足をとられ、何度も転んだ。
 むちゃくちゃに枝をかきわけ進んだせいで、あっちこっち切り傷だらけだったけど、ただ、走った。
 村に近づくにつれ、黒煙がひどくなり、木材が焼ける匂いが濃くなってゆき………
 そして………
 村は燃えていた………
 十軒の家が全て………
 赤らかな炎に包まれていたのだ。
 オレの喉がふるえる。
 何かを叫んでいるんだけど、自分でも何って言ってるんだかわからなかった。
 必死に叫んで見回した。
 誰か………誰かいないのか?
 父さん、母さん、兄さん、テジュン、レン、チュンランさん、リーさん、ウォンさん………
 誰か………
 家を目指した。
 村の一番奥に………
 家がある………
 オレの家が………
 正面の扉から入ると、そこは道場で………
 三人組手ができる広さで………
 村のみんなが毎日、修練に来ていたそこには………
 いつも、父さんが………
 父さん………母さん………兄さん………
 どうか、無事で………
『まだ生き残りがいやがったのか』
 背後からの声………
 背に激痛が走り………
 血が舞い上がった。
 オレは地面に倒れた。
 這って逃げようとすると………
 何度も何度も………
 刃が振り下ろされてきた………
 見たこともない………知らない男達が………笑いながらオレに剣を………
『ガキじゃ材料にならねえよな』
『運ぶ必要はない。サリエル様がお望みなのは武闘家の肉体だ。こんな痩せっぽちの子供からでは、何も造れん』
………武闘家?
………父さん?
………兄さん?
 皆、無事なのだろうか………?
 怖くて、痛くて、たまらなく不安だったのに………
 やがて、何も感じなくなった。
 死にかけているのだと思った時………
 馬の蹄の音が聞こえた。
 誰かの怒声が響いた。
 女の人が悲鳴をあげた。
 誰かが抱き起してくれた。
 あたたかな光に包まれるのを感じ………


 そこで、全てが真っ暗になった。


 目覚めると、又、青い瞳が見えた。
「おはよう」
 にっこりと微笑む綺麗な………優しい顔があった。


 木漏れ日………
 朝の光だ………
 鳥が鳴いている………
 この女性と森で野宿したのだろうか?体に毛布をかけられている。
 でも、何か……変な………
 匂いが………
 金髪の女性が、改めて自己紹介をした。
「私はセレス。勇者ラグヴェイの末裔………大魔王ケルベゾールドを倒すべく旅をしている者よ。それから」
 と、金髪の女性は、右手に控えていた禿(ハゲ)頭の大男を掌で示した。
「彼はナーダ。インディラの武闘僧よ。彼が癒しの魔法であなたの怪我を治癒してくれたの」
「よろしく、シャオロン」
 武闘僧が笑みを浮かべ、会釈する。頷きは返したけれども………頭が、まだ、ぼうとしていた。
「それからあっちで見張りに立っている、背の高い赤毛の戦士がアジャン。私達は三人で旅をしていて」
「セレス」
 少し離れた位置に佇んでいる赤毛の戦士が、責めるような顔で女の人を見ていた。
「とっとと話を聞き出せ」
「でも………」
 女の人が心配そうに、顔を覗いてくる。
「もうちょっと待って。この子、まだ意識が朦朧としているみたいなの」
「ふん」
 近寄ってきた赤毛の男がしゃがみこみ、ぐいっと肩をつかんだ。
「起きろ、ボーズ。しっかり目を覚まして見ろ。おまえの村がどうなったのかを、な」
 体を支えられて起こされる。
 森の先には………
 焼け焦げた大地があった。
 瓦礫と炭からなる焼け残った建物の残骸が点々としていた。
 それは元の形がわからないほど崩れていたけれども………
 その残骸の並び………
 地形から………
 そこが何処かはわかった。
「火は、そこの坊主が、村に結界を張って真空にして消した」
 村にはオレの家を含め、十軒の家があった。父ユーシェンを慕って弟子達が集まって、いつの間にか村になってたんだって前にヤン兄さんが教えてくれた。
 そんな昔のことはオレは知らない。オレが物心ついた時から、ここは村だった。皆、半猟半農となって暮らしながら、毎日、父さんの道場で鍛錬を積んでいた。みんな家族みたいだった………デキの悪いオレにもみんなやさしくて………
 家族持ちも多かった。みんな、ここに根ざして暮らしていたんだ………
 幼馴染もいた。テジュン、レン………すぐ上のタオ兄さんと一緒に冬の間は、オレ達は隣村のインディラ寺院の外房に下宿させてもらって学問所に通っていた。年が近いオレ達は何をするのも一緒だった………
「ここいらを真空にする前に、呼びかけを続け、可能な限り見て回ったんだが」
 オレ達は何をするのも一緒だったんだ………
 ずっと………
 ずっと………


「生き残りはおまえ一人だった」


 赤毛の男の声が耳に届いた。


 生き残りはおまえ一人………?


 では、あの夢は………


 夢ではなく……… 


 現実を思い出していたのか………?


 走った。
 ただ一直線に。
 体は多少ふらついたが、迷わず走った。
 ひきとめようとする声が聞こえたが、止まる気はなかった。
 村の一番奥に………
 丘の上に家はある。
 そこで生まれ………
 そこで育ってきたのだ………


 けれども………


 そこには、焼け焦げた家の残骸があるだけ。


「父さん!母さん!」
 兄さん達の名前も叫んだが、答えはなく………
 焦げた匂いを風が運んでくるだけだった………


「シャオロン」
 振り返ると金髪の女の人が立っていた。今にも泣き出しそうな悲しそうな顔で。
「ごめんなさい………シャオロン」
 そして、ぎゅっと抱きしめてくる。
「ごめんなさい………間に合わなかったの………私達が駆けつけた時には、もう………」
 白銀の鎧をが小刻みに揺れていた。
「許して………シャオロン」


 オレを抱きしめて女の人が泣きじゃくる。
 泣くまいと思ったのに………
『武闘家たる者、何時、いかなる時にも涙を見せてはならぬ』と、教えられ続けていたのに………
 涙があふれてきて………
 女の人に抱きついて、そのまま泣いた。
 声を限りに泣き叫んだ。


「オレ、山に行ってたんで、何があったのかわからないんです。ただ、オレが山から戻った時………」


 思い出せる限り、三人に話した。
 オレを殺そうとしていた男が口にした名『サリエル様』が首謀者であろう事、その目的は『武闘家の肉体から何かを造る事』だとも話した。
 その後、武闘僧がいろいろと質問をしてきた。オレに親類縁者はいないかで始まり(親戚はいないけど、隣村の人達は父さんを拳法の師匠として慕っていたと答えた)、家族や村人の名前や人数、それから信教となった。
「オレの家族はシャイナ教です」
「お弟子やそのご家族は?」
「同じです」
 と、答えると、武闘僧はちょっと困ったような顔をして、インディラ僧の私が弔っては死者への礼を欠いてしまいますねえと首を傾げる。武闘僧は赤毛の戦士に視線を向けた。
「この辺に、シャイナ教の神官、居ませんかねえ?」
「………何で俺に聞く?」
「あなたの勘で、どこら辺にいるかパパーッ!とわかりません?」
「わかるかっ!」
「この辺にはシャイナ教の神殿はありません。隣村にあるのもインディラ寺院ですし………もっと都に行かないと無いんです。村での祭礼は全て村長の父さんがやってました。だから………役不足だけど、オレがみんなを送ります」
「シャイナ教の葬式がどんなだか俺は知らんが」
 赤毛の戦士は不機嫌そうだった。
「時間をかければかけるほど敵は逃げるぞ、略式でやれ」
「略式………?」
「ああ、シャオロン、アジャンの言うことは気にしなくていいです。葬儀はあなたがやりたいように執り行ってください。ちゃっちゃと終わらせたところで、どうせ敵を追っかけられないんですから」
「え?」
「あのね、シャオロン」
 金髪の女性が申し訳なさそうな顔で説明する。
「普通は、多人数で村を襲撃した場合、襲撃者は必ず痕跡を残しちゃうものなのよ。馬の蹄の跡、武器や火薬を運ぶ馬車や荷車の跡、足跡なんかが、地面に残ってしまうわけ。そうゆうものを辿れば、敵がどちらの方角に行ったのかわかるんだけど………不思議な事に、あなたの村の周囲には襲撃者の痕跡が全く無いのよ」
「その上、アジャンが村に残っていた大魔王教徒を皆殺しにしてしまうし………」と、武闘僧。
「うるせえ!ちゃんと一人は口を割らせる為に生かしておいた!それを勝手に舌を噛んでくたばりやがったんだ!」
 女の人が溜息をつく。
「敵は移動魔法を使ったのかもしれないし、浮遊魔法を使ったのかもしれないし、巨大鳥のような魔法生物を使役しているのかもしれないのだけれど、その方法を探る手段すら私達には無いの………ごめんなさいね」
「そうなんですか………仇は、もうどこかに行ってしまったんですね」 
 でも、手がかりはある。
 サリエル………
 その名を名乗るものが………
「シャオロン………」
 女の人が、又、心配そうにオレを見ている。
 オレは、今、どんな顔をしてるんだろ?
 泣きそうな顔でもしてるんだろうか?
 仇を追うのは後だ………
 まずは………
「………セレス様?でしたっけ?」
「え?ええ、私の名前はセレスだけれど………」
 女の人に頭を下げた。
「命を助けてくださって、ありがとうございました。セレス様と、えっと………」
 武闘僧に顔を向けると、やさしそうな笑みが返された。
「ナーダです」
「ナーダ様、癒してくださってありがとうございました。それで、えっと、あちらの方は………」
「アジャンだ」
「アジャン様?」
 赤毛の戦士が、きつい眼差しで睨んでくる。
「『様』づけで呼ばれるほど、お偉い身分じゃねえ」
「じゃあ、あの、アジャンさん、助けてくださってありがとうございました。オレ、あのままだったら、絶対、死んでました。今、オレが生きているのはみなさんのおかげです。本当、ありがとうございました。オレまで死んじゃったら、村のみんなを送る人間が居なくなる所でした。みんなの魂が迷わないように、葬ってあげたいんです。それで………すみませんが、少しでいいですからお金を貸してもらえないでしょうか?せめて別れのお酒ぐらいはみんなに捧げたいし、葬礼の舞用の布が欲しいんです。お願いします」
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