挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
女勇者セレス 作者:松宮星

ケルティの闇と光

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

67/151

極光の剣 2話

 赤い髪のおさげの少女がたたずんでいた。
 十三歳ぐらいだろうか? 幼さの残る顔には、きりりとした気品があった。長いアンダードレスは血と泥に汚れており、少女の右手には鉄製の片手剣があった。


 少女が何かを叫んでいた。
 凛とした美しい顔を悲痛なまでに歪めて。
 しかし、セレスには彼女が何と叫んでいるのか、さっぱりわからなかった。


「××!××××××××、××××××××、アジャニホルト×××××××××××!×××××××××!×××××××××!×××××!」


 少女はまっすぐにこちらを見つめたまま緑の瞳を細め、左手を払った。
 早く立ち去れ!と、叫ぶかのように。


「×××××××××××××××××××××、××××××××××××。×××××……」


 その頬を涙が伝う。悲しそうな顔で少女が微笑む。
 彼女はセレスには理解できない異国の言葉をしゃべっているのだが、不思議な事に、最後に彼女が何と言ったのかはわかった。


「あんた達は生き延びるのよ……。愛しているわ、常に神のご加護があんた達と共にあらん事を!」



 体を揺さぶられている……
 重い瞼を開くと……覆面の忍者が見えた。まだ薄暗い……夜明け前なのだろうか?
「シッ……」
 忍者は口のある位置に右の二の指を立てている。何をしているのだろう? ぼんやりとした顔で忍者を見つめているうちに、視界に信じられないものが映った。
「!」
 忍者の左手が口をぎゅっと押さえてくれたので、大声をあげずにすんだ。
 顔を真っ赤にしつつ、覆面から覗く忍者の眼に頷きを返し、周囲を見渡した。ここは、ケルティの宿屋の一室だ。寝台の側においてある荷物からして、間違いなく、自分一人にあてがわれた部屋だ。
 それなのに、何故……
 寝台の中にセレスが居るのだ〜!
 忍者の手振りの指示にあわせ、そっと寝台から抜け出す。渡されたガウンをまとい足早に、しかし、足音をたてないように部屋を後にした。廊下に出て、扉を閉めると、大きな溜息が漏れた。
「何で、セレス様がオレのベッドに……」
「寝ボケられたのだ」
 一緒に廊下に出た忍者が簡潔に答える。
「小用から戻られたセレス様は、真っ直ぐにおまえの部屋に向われ、おまえのベッドに滑り込まれたのじゃ」
「何で?」
「さあ? おまえの眠っているベッドならばぬくいとでも思われたのやもしれぬ。北国の夜は冷えるゆえ。まあ、半分寝ている人間のやられた事、たいした理由などないのやもしれぬ」
「……ジライさん、又、一晩中、セレス様を覗いてらっしゃったんですか?」
「人聞きの悪い事を言うでない。一晩中、屋根裏より護衛していただけの事よ。夜中過ぎであったな、セレス様がおまえの寝床に入られたのは……」
「見てたんなら、すぐに起こしてくださいよ!」
「阿呆。あのような中途半端な時間に騒ぎを起こせるか」
「え?」
「セレス様が起きてしまわれたら、どうする? セレス様のすこやかな眠りをお守りするのも我が務めよ」
「……で、でも」
「おまえ、眠りは深い方ゆえ、セレス様がいらっしゃったの、気づかなかったであろう?」
「う」
「それ故、男女の間違いなど起きぬとみて、放っておいた。セレス様の爽やかな目覚めを妨げぬよう、おまえが先に起き、この後、(われ)がもとのご寝所までお運びすれば何の問題も無い。わかったか、シャオロン?」
 セレスに寝床を奪われた――東国の少年シャオロンは唇をとがらせ、うつむいた。
 動悸が早い。顔中も熱い。目の前にセレスが眠っていたのだ。ぬいぐるみを抱くかのように、やわらかな体に抱きしめられていたのかもしれない……
 顔がますます赤くなってゆく。
 シャオロンは自分の中の甘酸っぱい感情に溺れ、思いに沈んでいた。その為、気づかなかった。忍者が無言でジーっと見つめている事に……


 セレス達の馬車は、二日目から屋根付きのシベルア風馬車に変わっていた。
 寒い!風邪を引いてしまう!と、監視役の軍人ゲオルグ男爵に訴えたところ、近隣の貴族の館から貴婦人用の馬車を徴集してきたのだ。
 とはいえ、六人がけの馬車に、大柄なナーダとアジャン、それにビール樽のような体型のゲオルグを加えた六人で座るのだ。馬車の中は非常に狭苦しかった。多少でも広くする為に、『勇者の剣』とアジャンの大剣は荷車に移した。セレスは『虹の小剣』、アジャンは『聖王の剣』のみの武装に減らしたのだが、それでもまだ狭かった。
 一席にゲオルグ・シャオロン・アジャンが座り、向かいにジライ・セレス・ナーダが腰かけていた。
 ナーダは口元をハンカチで覆い、セレスから顔をそむけ、扉窓につけられたカーテンをめくって外を見ていた。
 顔色が良くないので車酔いかとセレスが尋ねたところ、そうではなく馬車の中の匂いが耐えられないのだという答えが返った。香水の匂いがキツいとナーダは言う、前の持ち主の香りが馬車に染み付いているのだと。言われて見れば、ほのかに香るような気もした。が、その程度だ。臭いと言うほどではないと、セレスは首を傾げた。
 そんな二人の会話を聞いていた赤毛の傭兵が、武闘僧に席を替わろうか? と尋ねた。
「お姫様のお守りは任せな。具合の悪い奴は寝てろ」
 ナーダはちらっと視線をゲオルグに向けた。シベルア貴族の出を自慢しているこのデブな五十がらみの軍人は、共通語とエウロペ語が話せるそうで、馬車の中ではシベルア語まじりのあやしげな共通語でセレスに話しかけている。ゲオルグの共通語はいわば百年前の古語なのだが、こちらがしゃべる言葉をほぼ理解できているとみていい。
 今までセレスが不用意な発言をしそうになる度に、武闘僧は彼女を軽く小突いたりして、合図を送って制してきた。しかし、香水臭い狭い馬車の中でセレスと密着しているのもそろそろ限界だった。鳥肌が引かないし、吐き気も耐えられないところまできている。いつ戻してしまうことか。
「アジャン……今日のところはお言葉に甘えさせていただきます。後はお任せしますね……」
 席を替わると、武闘僧は帽子を被り直し、目を閉じた。顔はあいかわらず、扉窓の方に向いたままだ。
 セレスは監視役の軍人に、にこやかに語りかけた。そうしろとナーダに指示されているのだ。
 国境が封鎖されていた為、この百年の北方の歴史はつまびらかになっていない。
 セレスがナーダから習って知っている事といえば、微妙なバランスの上に成り立っていた三国の同盟がこの百年で形ばかりになった事、五十年前からシベルア・バンキグの連合軍がケルティ侵略を始め、約三十年前にシベルアの王子がケルティの王を名乗りケルティ新王朝を立てた事、バンキグもシベルアの属国扱いをされている事、シベルア語が三国の共通語として用いられている事ぐらいだ。
「偉大なるケルティの国王陛下は、シベルア王家の出身の方と伺っております。私のような南の女にはよくわからないのですが、ケルティとシベルアではお国柄がかなり異なるのではないのですか?」
「さよう。女勇者様はご存じなかろうが、ケルティは、文明の開けぬ、国と呼べぬ土地でした。古来より、国を統べる王が存在しなかったのです」
「国王が居なかったのですか?」
「はい。ケルティは十六の部族がそれぞれ勝手に王を名乗り、内戦と他国への略奪を繰り返しておりました。我が母国シベルアが、この地を統治してやらねば、馬鹿どもは未だに戦に明け暮れていたでしょう」
「はあ」
「百年前にはそれでも各部族がもう少し団結しており、『上皇』なる国王に近い存在もありもうした。上皇は部族王の中の部族王で、各部族の自治を認めた上で全部族を統括する存在でした。百年前、我が母国の皇帝陛下とバンキグ国王そしてケルティの上皇が同盟を結び、南とのくだらぬ関係を絶ちました。上皇制度がその後も続けば良かったのですが、三十年ほどで崩壊し、以後、ケルティに上皇は存在しておりません」
「何故です?」
「おや、おわかりになりませぬか? 野蛮だからです。あやつらは身の程知らずの欲深い存在なのですよ」
「……そうなのですか?」
「ええ。水争いだ、土地争いだ、仇討ちだで、部族抗争が絶えず、全ての審議を公平に扱えなかった上皇は権威を失墜しました。馬鹿どもは上皇を殺し、欲望のままに内戦を始めました。七十年前のことです」
「大規模な内戦だったのですか?」
「いやいや」
 軍人は侮蔑の笑みを浮かべた。
「我が母国における村同士の小競り合いのレベル。しみったれた争いにございます。ただ、部族が十六もあった事が問題で……同盟だ、戦争だ、裏切りだ、で、国が一向に落ち着きませんでした。それで、やむなく我が母国の皇帝陛下はイヴァン王子をこの国の王にすえ、馬鹿どもを教え導く事にしたんですよ」
「それって、しんりゃ……!」
『侵略』と言いかけたが、言えなかった。アジャンに足を踏まれ、止められたからだ。事実は紛れも無く『侵略』だが、支配者側に『シベルアがケルティを侵略したんですね?』と、言っても相手を怒らせるだけだ。
「えっと……どうして、シベルア皇帝は、ケルティの内戦を放っておけなかったのですか?」
「……ケルティの隣国がエウロペにござりますれば」
 女勇者は眉をひそめた。
 つまり、ケルティの内戦につけこんで、エウロペが北方諸国に進軍してくる事態をシベルアは憂慮したのだ。ケルティとエウロペの国境を自軍で固めるべく、シベルアはケルティを侵略したのだ。
「しかし、国家統一は思いの外、難しきものにございました。何しろ、馬鹿どもはてんでバラバラに暮らしておりましたからな。十六の部族をそれぞれ制圧していかねばなりませんでしたし、都市も建設せねばなりませんでした。シベルア王家の王子がこの国の統治に乗り出されたのは約五十年前……それから国の体裁を整えるまで二十年かかったのです。今からあなた方をお連れする首都ホルムは、最初にこの地に築かれた都市でもあります」
 セレスの横のジライは、うとうとと首を上下に動かし、うつむいていた。昼寝をしているような態度を装いつつ、忍者は軍人のシベルア語まじりの古い共通語を、セレスにしか聞き取れぬ小声で共通語に言い直したり特殊な単語を解説したりして通訳につとめているのだ。
「ケルティでは部族王といえども、みすぼらしい木造の建物に住んでおりましてな、宮殿と呼ぶにふさわしい建築物など皆無でした。偉大なる我が王ゴドゥノフ陛下の父君初代ケルティ国王イヴァン陛下は母国シベルアより、文化人や学者、職人を呼び寄せ、愚かなるケルティ人を教え導き、文明を教えたのです。首都ホルムは生まれて三十年の歴史の浅い街ですが、シベルア文化の粋を尽くしたそれは美しき都ですぞ」
「それは楽しみですね」
 セレスは薔薇のように艶やかな笑みを浮かべながら、尋ねた。
「ホルムには後どれぐらいで着きますか?」
「このまま順天に恵まれれば、一週間ほどでござりましょう」
「私の母国よりも寒さは厳しいですが、雪はまだあまり見られませんね。私、北方はもっと雪が多いものだと思い込んでいました」
「ここはケルティの南部にございますからな」
 ゲオルグは嫌らしい眼で、美貌の女勇者を見つめていた。
「ですが、北部は半年も雪に埋もれます。冬の間は海も凍りつき、ドラゴン船を出せず、陸に閉じ込められるのです。なのに、馬鹿どもは、北部が好きでしてなあ、南部に住みたがらないのです。重税を科しても土地にしがみつきおり、強制連行せねば人手が足りず、いやはや、昔は苦労をしもうした」
 強制連行?
 セレスは顔をしかめた。
 この軍人の話を聞くにつけ、ケルティのひどい現状がわかってくる。ケルティはシベルアに侵略され、ケルティ人はシベルアからの移民に不当に差別され、虐げられているようだ。
「馬鹿どもをシベルア教に改宗させるのも、なみなみならぬ苦労がござりました。あやつら、生贄を求める邪教を信じておりましてな、かたくなに偉大なる教えを拒んだのです。わしは司祭様のお供でよく十六の部族の部落を訪れました。邪教の寺院を焼き払い、偶像を壊すぐらいでは、馬鹿どもは従いません。改宗を拒む者を教え導くには、やはり拷問に限ります」
「!」
 セレスはぎゅっと拳を握り締めた。女勇者が不快を表情に表している事に、しかし、シベルア出身の軍人は気づかず、得意そうに己の過去を語り続けた。
「一人一人、鞭打ち、財産を奪ってやった事もありますが、部族王を殺す方が効率が良かったです。馬鹿どもの王はシャーマン王、宗教の要ですからな。できるだけむごたらしく殺すに限ります。部族王に反乱の意志ありとの密告があれば、すぐにも乗り込み、ケルティ新王朝とシベルア教の名の下に処刑を行いました。よくやったのは処刑を一日待つ方法です。部族王を牢屋に入れ、わざと一日の猶予を与えて信仰する神に救いを求めよと命じました。が、無論、奇跡など起きませぬ。翌日、大衆の前で部族王を神像と共に縛り上げ火あぶりにしてやったものです」
 セレスのサファイアの瞳が、怒りにきらめく。
 武闘僧は目の端で向かいの席の女勇者を見つめた。顔中を真っ赤にしているセレス。赤毛の傭兵はまだセレスを止めないのだろうか? このままでは彼女、ゲオルグを張り倒しかねないぞ、と、いぶかしく思いながら。
「処刑方法も火あぶりばかりではあきるので、司祭様といろいろ考えもうした。その中でも、蛇を使った処刑、アレはおもしろかった。まずは中が空洞の杖を用意いたします。その中に蛇を入れ、穴の開いた杖底を部族王の口の中に押し込んでやるのです。胃の中に落ちた蛇は暴れ、胃から脇腹までを食い破り、外へと逃れます。苦しみのたうちまわりながら、シャーマン王がゆっくりと惨めに死んでゆくのです。馬鹿どもも、己が宗教のむなしさを実感し、進んで改宗に応じましたよ。一番最初に蛇の処刑を試したのは、アジ族の」
 ガタン!と、音を立て、軍人の向かいの席に座っていた者が立ち上がった。
 けれども、それは女勇者ではなかった。
 ぶるぶると体を震わせ、蒼白な顔でゲオルグを睨みつけているのは……赤毛の傭兵アジャンだった。狭っ苦しい馬車の中なので、身を折ってはいた。が、緑の瞳は怒りに燃え、今にも腰の剣を抜きそうな形相だった。
「な!何だ、きさま!何を!」
 軍人はうろたえ、ぶざまに尻で後ずさった。とはいえ、馬車の中にいるのだ。さがっても背もたれにぶつかるばかりだ。
 馬車の中に緊迫した空気が満ち始めた時……
 ゲオルグの横の少年が、すっとんきょうな叫び声をあげた。
「ああああああ!」
 東国の少年は立ち上がり、隣に座るゲオルグにぺこりと頭を下げた。
「すみません!アジャンさんが、ご無礼を働いて!でも、悪気があったわけじゃないんです!アジャンさん、蛇恐怖症なんです!」
「へ?」
 シャオロンの思いがけない言葉に、馬車の中の一同の目が点になる。アジャンですら目を丸めていた。
「蛇恐怖症なんです!だから、さっきのお話でびっくりしちゃったんです!そーですよね、ナーダ様?」
「あ? ああ!」
 武闘僧は頷きを返した。少年の意図がわかったのだ。
「実はそうなのですよ。この者の身内に毒蛇に噛まれて亡くなった者がおりまして……このように逞しい外見のくせに、蛇となると小蛇まで怖がる、蛇のへの字も駄目な蛇恐怖症なのです。どうかお許しください」
 ナーダも立ち上がり、アジャンの頭をぐいっと下げさせた。シャオロンの機転で怒気を抜かれたのか、アジャンはされるがままに軍人に頭を下げた。
 むちゃくちゃな言い訳だったが、面子を守られて満足したのか、ゲオルグは芝居がかった寛大な態度で赤毛の傭兵を許していた。


「すまなかった……」
 野原に馬車を止めての小休止の時、ゲオルグが馬車を離れた後、赤毛の傭兵は勇者一行に苦渋に満ちた顔を見せた。
「怒りに我を忘れるところだった……助かった、シャオロン、おまえが止めてくれなきゃ、あのデブ、叩き斬っていた……後先考えずにな……」
 アジャンは重苦しい溜息をつくと、セレスに頭を下げた。
「……今日の俺は護衛の仕事を果たすどころか、護衛対象を窮地に追いやる行動をとろうとした。すまない。今日の分の護衛料は精算時に引かせてもらう。あと、違約賠償として成功報酬の三十分の一を放棄する旨を文書にして」
「そんな事、どーでもいいわよ!」
 セレスは赤毛の傭兵を正面から見つめた。
「教えて、アジャン、あなた、何を苦しんでるの?」
「………」
「ケルティに来る前から、あなた、ずっと変よ。この地に何か、あなたの心を暗くさせるものがあるのでしょ? 教えて」
「……セレス様」
 ぼそっと呟いたのは、ジライだった。馬車の扉を指差している。この会話、外にいるケルティ軍の者に盗聴されていると合図を送っているのだ。
「……国交断絶直前に、俺のひい祖父(じい)さんのアジクレボスはエウロペにやって来た。帰るに帰れなくなったひい祖父さんはエウロペで家族を持ち、死んだ。しかし、その魂はケルティにあり、部族の教えを子供達に伝えていったのさ……つまり」
 アジャンは顔を歪めた。
「ケルティは俺の血の故郷……だから、(がら)にもなく熱くなった。それだけだ」
 セレスは瞳を細めた。
 それは真実?
 それとも、ケルティ軍から真実を隠すための嘘?
 アジャンの顔をどれほど見つめても、セレスにはわからなかった……


 セレス達は民との接触を禁じられていた。南の悪しき思想を伝えられては困るとの理由で。
 しかし、セレスは世直しの旅に来ているのだ。通行許可書を見せ、そこに記された『魔族討伐権の保障』を強調し、魔族の進行状況を自分の眼や耳で確かめたいと主張した。
 ゲオルグは軍人を伴っての情報収集であればと不承不承セレスの要求を容れ、村に着く度に数時間の自由時間を認めた。
 けれども、ゲオルグが一行に同行させた兵士達は柄の悪いチンピラのような外見と品性の者ばかりだった。住民を脅しては、勝手に家の者を盗むような。
 粗末な村の痩せた住人達は、軍隊と女勇者を恐れへつらうばかり。ケルティ新王朝とシベルア教を讃える言葉以外は、口が重く、魔族など見た事も無いと言うだけだった。
 ケルティは、偉大なるゴドゥノフ国王陛下とシベルア教の威光に満ちあふれ、邪な魔族など入りこむ隙間などない、と。


 旅を始めて三日目の夕方、宿泊宿から、セレスは街道を行く、檻でできた馬車を見かけた。檻の中にはみすぼらしい服装の男達がひしめくように佇んでいた。
 翌日、見たものの事を口にすると、ゲオルグは、港町ハーグナ近辺の湾岸工事に向う囚人護送車だろうと答えた。
 昔と違って、今は良い時代になったと軍人は言った。抵抗運動者(レジスタンス)、税金滞納者、邪教信徒(この場合の邪教は部族信仰を指す)、ケルティ新王朝への不敬者……監獄には常にケルティ人が集められている。
 昔のように国中に散らばっているケルティ人を駆り集めずとも、囚人で人手は足りる。荒地開拓や坑道採掘、道路整備、灌漑工事等の重労働の働き手には困らないと。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ