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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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勇者の家 後日談 セレス&アジャン

 王宮に通い始めて五日。
 ついに、女勇者の堪忍袋の緒は切れた。
 供のシャオロンもジライも置いて単身、赤毛の戦士の部屋に乗り込んだ彼女は、ベッドの上に昼間から寝っ転がっている仲間に向って叫んだ。
「起きて! アジャン!」
「ん?」
「今すぐ起きなさい!」
「っせぇな……」
 顔の上に開いた本をのせて昼寝していた男が、のっそりと体を起こす。彼の顔から落ちたのは、『アフリ大陸主要部族口語集』。 
「何か用か……馬鹿女?」
 ボリボリと頭を掻く男に、女勇者は噛み付くように怒鳴った。
「何か用か、じゃないわよ! アジャン!毎日、毎日、ゴロゴロして! しかも、うちのメイドさんとHしたんですって?」
「あ? あぁ」
 眠そうにアジャンはあくびをした。
「向こうから誘ってきたんだぜ、寂しい後家さんの相手をしてやっただけじゃねえか」
「三人もいっぺんに?」
「バーカ、4Pなんかするかよ、違う日にそれぞれ相手したんだよ」
「あの三人、今、あっちで喧嘩してるのよ! あなたのせいよ! 何で三人とHしたの? 不誠実だわ!」
「遊びだぜ、遊び。向こうも承知の上だ」
「あなたが甘いこと言うから、みんな騙されて本気になっちゃうのよ! いい? もう、うちのメイドさん達に手を出さないでちょうだい!」
「ケッ!」
「Hしてる暇があるんなら、あなた、働きなさいよ! 大魔王の本拠地探しが、一向に進んでないのは知ってるでしょ?」
「情報収集は契約外だ。俺の仕事はおまえの護衛と魔族及び大魔王教徒の討伐だぜ」
「その護衛すら、最近、全然してないじゃない!」
「外出時にゃ、必ずシャオロンかクソ忍者がくっついてってるんだろ? 魔族のマの字もない、永遠の平和の都クリサニアに居るんだ。俺の護衛なんか必要ねえ」
「面会、面会、面会で、私、毎日、すっごく忙しいのよ! 食事だって不規則だし、睡眠時間もほとんどないし、偉い方にばかりお会いするから気づかれしちゃうし」
「頼る相手を間違ってるぜ。話し合いが難航してるんなら、クソ坊主に助けを求めろ」
「私が問題にしてるのは、あなたの態度よ! 聞こえなかったの、私、超忙しいのよ! あなた、日がな一日ゴロゴロしてるんなら、ちょっとは助けてあげようって気にならない?」
「ならねえな」
「何でよ!」
「お偉いさんとのお話し合いは、旅のリーダーの勇者様のお仕事だろうが。うまくいかねえからって、俺に八つ当たりするな。七つまで寝ションベンたれてやがったくせに」
「……え?」
 セレスはカーッと頬を赤く染めた。
「い、今、何って言ったの? アジャン……?」
「七つまで寝ションベンたれてやがったくせに」
 更に赤くなったセレスに、アジャンはにやりと笑った。
「あのジジイどもの話、どうやら本当らしいな」
「ジジイども……? あ、まさか、ボッチェおじいさん達?」
「名前は知らん。おまえの親父の護衛役のジイさん達だ」
「じゃあ、やっぱり、ボッチェおじいさん達ね……」
「十三代目勇者ともなろうお方が……七つまで寝ションベンねえ」
「違うわ!」
 セレスは声を荒げた。
「あの日はね、寝る前に、ボッチェおじいさん達が、旧クリサニアの亡霊の話をしたのよ! 夜ごと夜ごと邪龍の炎に焦がされる痛みを訴えながら亡霊が街の中を彷徨うんだって……そういう話をしたのよ、七つの子供に! しかも、うちの庭園の噴水の石は旧クリサニアから運ばれた物だって教えたのよ! ひどいと思わない? 私の部屋、噴水の前なのに!」
「『セレス嬢様、夜、聞いたことありませんかい? 水をくれ……と、いう消え入りそうな声を……。お水をちょうだい……って泣く子供の声を……。哀れな声に心痛めても、決して、その姿を見ちゃいけませんよ。近寄っちゃいけません。炎にまかれていない人間を見たら亡霊は……抱きついてくるんですよ! 共に同じ地獄に堕ちようってね!』」
「そうよ! そう言って脅したのよ!」
「で、夜中にトイレに行けずにやっちまったわけか」
 赤毛の戦士が、ゲラゲラと笑う。
「他にもいろいろ聞いたぜ。蜂に刺されて左頬を腫らしたとか、馬に噛み付いたとか、ジイさん達が教えたカンカンダンスをバスタオルを巻いてやったとか」
「……アジャン」
「けど、きわめつけは九つまでオムツをしていた事だな」
「違〜う! 九才の時に、ひどい熱病にかかって、ものすごい下痢になったの! それでお医者様が付けなさいって……」
「九つまでオムツ」
「アジャン〜」
「この話、ナーダにしてやろうか?」
「う」
「それとも、シャオロンのがいいか?」
「……わかったわよ。あなたが屋敷でゴロゴロしてても文句は言わない。合意ならメイドさん達とHしてもいいわよ。その代わり、ボッチェおじいさん達から聞いた話は誰にも話さないでちょうだい! 絶対よ!」
「……それだけじゃ、黙っていてやれるのは、寝ションベンの件ぐらいだな」
「何ですって!」
「あのジジイどもから聞いた話、全部、胸に秘めといて欲しいんなら、それ相応の報酬を俺に払わなきゃな」
 嫌らしい笑みを浮かべる赤毛の戦士。
 セレスは顔中を真っ赤にして、ぷるぷると震えていた。
「……何かというとお金、お金……あなたねえ、何でそんなにお金が欲しいの? 何か欲しいものでもあるの?」
「欲しい物なんざ無い。俺が欲しいのは金そのものだ」
「あなた、相当、貯めこんでるんじゃない? それでも、まだお金が欲しいの?」
「ああ、欲しいね。金はいくらあっても困らない。いざって時、頼りになるのは金だけだ」
「……いざって時、頼りになるのは、友や家族じゃないかしら?」
 赤毛の傭兵は女勇者を嘲るように、フンと鼻で笑った。
 他人の考えを頭から拒絶している態度だ。
 思わずセレスはつぶやいてしまった。


「お金しか頼るものが無いなんて……さびしい人ね、あなたって……」


 口にしてから、セレス自身、失言だと気づいた。
 慌てて口を閉ざし、両手で口元を覆った。
 だが、手遅れだった。
「さて、と……」
 赤毛の傭兵は、ベッドから体を起こした。
「……ナーダの部屋にでも行くかな」
「待って!」
 セレスは真っ青になって、相手の腕を掴んだ。
「ごめんなさい! 今のは失言よ! 無礼すぎたわ! 私が悪かった! 許して! ごめんなさい!」
「許すぅ?」
 不機嫌そうな顔のまま、赤毛の傭兵がセレスを睨む。
「謝罪の意志があるんなら、それ相応のものは準備できるんだろうな?」


 アジャンはもともと拝金主義者だったものの、このところ輪をかけてひどくなってる気がする……
 セレスは相手の要求を呑みながら、誓った。
 いつか、きっと……
 アジャンの子供時代の恥ずかしい話を掴んで、逆の立場になってやる!……と。 
『勇者の家 後日談』 完。

次回は……

* 十八歳以上で男性の同性愛話でもOKという方 *
 ムーンライトノベルズの『女勇者セレス――夢シリーズ』をご覧ください。
 『夢と現実(うつつ)』。舞台はエウロペ。ナーダとジライの話です。

* 十八歳未満の方、男性の同性愛ものはパスという方 *
 このまま『小説家になろう』で。
 『シャオロン奮戦す VSカルヴェル』。舞台はエウロペ。
 大魔王の本拠地探しに難航していたセレスに、大魔術師が救いの手を差し伸べます。 

 『シャオロン奮戦す VSカルヴェル』をもって
  第二章 勇者として は、終わります。
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