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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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勇者の家 後日談 ナーダ&シャオロン

「シャオロンの話を聞いて、ゲラスゴーラグン様の似顔絵を描けですって?」
 武闘僧ナーダは糸目で女勇者セレスをジロリと睨んだ。
「嫌です、私、絵描きじゃありませんから」
「そんな事言わないで、お願い、ナーダ」
 セレスは両手を合わせた。
「だって、北方に行く事になったら、もしかしらバンキグに行けるかもしれないのよ」
「そうですね」
「バンキグに行けたら、ぜひ、シャダム様の願いを叶えたいわ。何としても、ゲラスゴーラグン様にお会いしなきゃ! でも、お顔がわからなかったら、偶然お会いできてもゲラスゴーラグン様かどうかわからないでしょ? だから」
「そんな心配、するだけ無駄です」
 武闘僧は冷たく答えた。
「あなたは、私と同様、霊感ゼロですから。ゲラスゴーラグン様の幽霊に出会えたとしても見えませんよ」
「でも、アジャンが会うかもしれないじゃない!」
 セレスは拳を握り締め、身を乗り出した。
「もしも、の、可能性を無視しちゃいけないわ。怠りない準備があってこそ、事は成し遂げられるのよ! その為にも、せっかくシャオロンがゲラスゴーラグン様のお顔を知ってるんだから、ぜひ、絵にすべきだと思うの! そう思わない?」
「セレス……」
 女勇者を見つめる武闘僧の目は冷たい。
「あなたの神にかけて誓えます? 興味本位じゃないって?」
「え?」
「……この前のホーラン様の感動をもう一度、とか思ってません?」
「う」
「単に、あなたが過去の英雄の顔を知りたいだけなんじゃないんですか?」
「その願望がある事は否定しないわ!」
 セレスは、正直に答えた。
「勇者の従者の絵姿やら肖像画って少ないのよ。特に六代目様までの、は。エウロペのものは、ロイド様の時代にほとんど燃えちゃってるから。ゲラスゴーラグン様のお顔、すっごく知りたいわ、私! でも、それだけじゃない! シャオロンの為なのよ!」
「シャオロンの?」
「シャオロンは、今は、ちゃんと二代目勇者一行のお顔を覚えているけれど、記憶は日々衰えてゆくのよ。今回、バンキグに行けなかったら、あの子、シャダム様との約束を果たす為に、五年後、ううん、十年後かもっと先にバンキグに行く事になるかもしれない! お願い、シャオロンの為よ! ゲラスゴーラグン様の似顔絵を描いて!」 


「で、引き受けちゃうんだから、私も人が良いですよね」
 シャオロンの部屋で、ナーダはふぅと溜息をついた。
「すみません、ナーダ様」
 恐縮している少年に、武闘僧は軽くかぶりを振った。
「いいえ。過去の英雄の願いをかなえる為ですものね。及ばずながら力を貸しますよ」
 ナーダは少年に、ロイドの書庫にあった壮年男性の人物素描画集を見せ、ゲラスゴーラグンと顔の部位が似ている絵を探させた。
「目はこれがよく似ています。鼻はこの頁の人が似てるけど、もうちょっと高いです。眉毛はすっごく太くて、この絵の人よりもっと太くて、先っぽが二つに割れてます」
「眉尻で上下に分かれてるんですね」
「はい。髭は鼻の下はこっちの人に似てます。でも、顎髭は長いんです。髪の毛に紛れちゃうくらい。あ、すみません、髪の毛は肩を過ぎるぐらいの長さです。アジャンさんみたいな、見事な赤い髪で髭も同じ色でした」
「色は塗らないから、言わなくていいです」
「あ、そうでした、すみません」
 ナーダは描き上がった絵を見せた。が、少年は首を傾げ、納得がいかないという顔をした。
「全体的に、顔のつくりがもっと真ん中に集まった感じでした。目ももっと迫力があったし」
「四ヶ月ぐらい前のことなのに、よく覚えてますね」
「きっと、シャダム様のご助力ですよ」
 シャオロンはにっこりと笑った。
「オレ、人の顔と名前覚えるの、どちらかというと苦手なんです。けど、焚き火を囲むホーラン様達のお姿とか、不思議なほどちゃんと覚えてるんです。心の眼で見れば、すぐに見えるんです。ホーラン様、シャダム様、ゲラスゴーラグン様、ユーリア様、マハラシ様が、今、目の前にいらっしゃるみたいに、はっきりと」
「………」
 武闘僧ナーダは、ペンを動かす手を止めた。
「ナーダ様?」
「……シャオロン、そのぉ」
 ナーダは周囲を見渡し、セレスの姿がない事を確認してから、声をひそめて少年に提案した。
「……どうせなら、二代目勇者一行全員の似顔絵を仕上げませんか?」
「え? いいんですか?」
「ええ。水彩画でよければ、色もつけましょう」
「えっ! 色まで! 嬉しいです! あっ! でも、それじゃ、ナーダ様がたいへんなんじゃ?」
「大丈夫です。私、筆は早いですから。総本山で一時、写本を作る役職の方に師事していましたので」
「写本?」
「原本、つまり、もともとあった本を、字も絵もそっくりに手で写して作る複製本です。印刷技術が発達した今日でも、寺院秘蔵の書は手書きでしか複製は許されていません」
「へぇ、手書きで」
「実は私……マハラシ様のご本を写した事がありまして……『聖なる武器に関する記録』というご本なのですが……マハラシ様はそれはすごく達筆で、著書も多く、名文も数多く残された方で……正直なところ」
 ナーダはこほんと咳払いをした。
「……憧れていました。どのようなお方だったのか、私、非常に興味があるのです」
 あああああ、これでは勇者おたくのセレスと同レベルですね、と頭を抱える武闘僧。
 珍しく取り乱している僧侶。自分の前でそんな動揺をみせてくれたことを、少年は嬉しく思った。
「オレがナーダ様に描いてくださいってねだったって事にしましょう。セレス様にはそう伝えます」
「すみませんね、シャオロン……」
 と、少年の手を取る武闘僧。
 シャオロンは、ニコニコと笑みで応えた。


「ゲラスゴーラグン様の他に、シャダム様、ユーリア様、マハラシ様まで描いてもらったの? しかも、色つきで! わっ! ホーラン様の水彩画まであるの! きゃぁ、色がつくと一層、素敵! すごいわ! さすが、シャオロンね! 私が頼んでも、ナーダ、絶対に、こんなに描いてくれないわ!」
 お抱えの絵師に写させるから絵を貸して〜と、頼むセレスに少年は笑みで応じた。
 二代目勇者一行の似顔絵を手にしたセレスは、上機嫌だった。このうえないほど、の笑顔だ。
 同じようにマハラシの似顔絵を手にしたナーダも上機嫌だった。セレスに渡したのと同じ絵を二代目勇者一行全員分しあげた彼は『物質転送魔法で大僧正様にお送りしましょう』と浮き浮きと自室に戻っている。
 今日はいい日だなあ、と、セレスの手の中にあるゲラスゴーラグンの似顔絵を見ながら、シャオロンは思った。
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