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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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悩ましの君

「お留守みたいですね」
 シャオロンが残念そうにセレスに話しかける。
「カルヴェル様、何処に行かれたんでしょうね?」
 女勇者一行は、大魔術師カルヴェルの居城のすぐ近くまで来ていた。しかし、そこからでは城の内部はまったくうかがい知れなかった。見えるのはどこまでも続く白い壁だけ。山の頂にあるカルヴェルの城は、四方を天に向かって聳える白い壁に囲まれている。壁の上部は雲に覆われており、途方も無く高い。乗り越えられるものではない。城に近づくには門を開けてもらうしかないのだ。
 セレスは息を吸い込んだ。後、もう一度だけ、師匠に呼びかけるべく。
「お師匠様ーっ!」
 城の周囲の岩場からセレスが、波紋のような模様が施された部分に向かって叫ぶ。壁の中の模様のある箇所が、魔法で開く『門』なのだ。
「セレスです!今後の事で、ご相談したい事があるのです!門を開けてください!」
 セレスは必死だった。
 今、頼れる相手はカルヴェルしかいないのだ。
 エウロペから始まった大魔王討伐の旅も、シルクド、シャイナ、ジャポネ、再びシャイナ、インディラ、ペリシャ、トゥルク、エーゲラときて、又、エウロペに戻ってきてしまった。各地で魔人や大魔王教徒を退治し、大魔王四天王サリエル・ウズベル・イグアスを倒して、今世の大魔王の力の弱体化してきている。けれども、大魔王の本拠地は未だにつかめず、大魔王の憑代となっている人物もわからないままだ。
 来訪した国で、国主や政府機関、各宗教団体に、大魔王に関する情報調査は依頼してきている。何らかの有力な情報があれば、エウロペ国王宛か、インディラ寺院総本山に連絡を入れてもらうよう頼んであるのだが、ケルベゾールドに関する情報は旅の開始からずっと、皆無であった。
 大魔王は何処に潜んでいるのか?
 国交のない北方三国か、ユーラティアス大陸より南のアフリ大陸(十一代目勇者の時代、四天王の一人がアフリ大陸北部を支配し、エーゲラに戦争を挑んできた。当時、大魔王本人はアフリ大陸にはいなかったのだが、今世もいないとは言い切れない)か、世直しの旅をしてきた国々で見逃してしまったのか……
 北方にしろアフリ大陸にしろ向うには、特別な通行許可書が必要だ。エウロペ国王、海運国エーゲラ、アフリ大陸と縁深いトゥルク、魔術師協会、北方やアフリ大陸の事情に精通している学者等々、さまざまな国々、関係者・組織、機関と連絡を取り合わなければいけないだろう。
 今後の方針を決める為にも、世界情勢に明るいカルヴェルに会いたかったのだが……
 セレスの呼びかけに返事は返らず、『門』のはずの壁は閉じられたままだった。
 勇者一行は困ったように、顔を見合わせた。
「前もこうでしたよね」
 両腕を組んだ武闘僧ナーダが溜息をつく。
「前にここを訪ねてから、一年ともうすぐ四ヶ月です。『勇者の剣』に嫌われて困っていたセレスは、カルヴェル様を頼って山を登ったというのに……」
「ジジイ、居留守を使ってたな」
 と、赤毛の傭兵はおっくうそうにボリボリと頭を掻いた。
「セレス、この前のアレやって、ジジイを呼び出せ」
「え?」
 女勇者がビクッと身構える。
「この前の……アレ?」
「おまえ、鎧脱いでやってたろう、馬鹿みてぇな声だして、こう胸と腰を」
「キャァァァァァ!」
 駆け寄って、セレスは慌てて赤毛の傭兵の口を塞いだ。顔中を赤く染め、わなわなと震えながら。
「覗いたのね……あれほど見るなって頼んだのに!」
 女勇者の手をはがし、赤毛の傭兵はにやにやと笑う。
「アレやってジジイが出てくりゃ居留守、出てこなきゃ本当に出かけてるんだろ。やってみろよ」
「軽々しく言わないで!お師匠様をうならせるようなアレでなきゃいけないのよ!」
「やりゃいいだろ」
「できないわよ!そう簡単にはいかないんだから!」
 セレスは怒りと羞恥に真っ赤となりながら、傭兵を睨み続けた。
 アジャンは品性に欠ける笑みを刻みつつ、女勇者を見下ろしていた。
 やれやれと肩をすくめ、ナーダが二人の間に入り、セレスへと視線を向けた。
「落ち着いてください、セレス。あなたがここで何をやっていたかは、アジャンから聞いたので私も知っています」
「何ですって!ナーダまで知ってるだなんて、そんな……」
 女勇者はキッ!と、赤毛の男を睨んだ。
「アジャン、あなた、私が、アレをやってた事、吹聴して歩いてるんじゃないでしょうね!」
「馬鹿言え、ンな考え無しな真似はしない」
 赤毛の戦士はにやりと笑った。
「ゆすりたかりってのはな、相手が秘密を抱えてるからできるんだぜ。おまえのアレが世に知れ渡っちまったら、その気になった時に、金をせびれねえ。だ・か・ら、胸の内にずっと秘めてきてやったよ。安心しな、お姫様、俺はもう誰にもしゃべらない。おまえさんがきっとたっぷりと、俺の喜ぶものをくれるだろうからな」
「アジャン……」
 怒鳴りたいのを必死に堪え、涙目となりながら女勇者は赤毛の傭兵を睨んだ。
「まあ、ともかく」
 ナーダがコホンと咳払いをした。
「その手の専門知識なら、アジャンとジライが豊富に持っているはずです。二人に助手になってもらえばいいじゃないですか」
 話題にあげられた忍者ジライが岩場の陰から姿を見せる。しかし、無言。
「助手ぅ?」と、セレス。 
「そう。助手というか、あなたの先生ですね。セレス、しっかり彼らの言う事を聞いて、カルヴェル様をおびき出してください」
 武闘僧は東国の少年に声をかけた。
「護衛も二人に任せれば充分です。シャオロン、私達は来た道を引き返しましょう」
「え、でも……」
「カルヴェル様を呼び出すのには精神集中が必要なのです。あなたや私が居るとセレスの気が散ってしまいますからね、道を引き返して麓の村で待っていましょう。カルヴェル様がご在宅なら、移動魔法で私達もすぐに拾ってもらえますから、離れていても大丈夫ですよ」
「はあ」
 東国の少年はしょんぼりとした。
「セレス様、オレ、お側にいない方がいいですか?」
「そうね……」
 セレスの顔はひきつっていた。
「ごめんなさい、今だけは……私の側から離れていて。お師匠様を呼び出したら、すぐに迎えに行くわ」
「はい」
 シャオロンは自らを納得させるかのように頷いてから、拳をぎゅっと握り締めた。
「がんばってください、セレス様!よくわかんないけど、セレス様なら、きっとアレというのが出来ると思います!オレ、応援してます!」
「あ、ありがとう」
 泣きたい気持ちをどうにか堪え、セレスは山を下りていく二人を、手を振って見送ったのだった。


「で、(わたくし)めは、何をすればよろしいのでしょうか、セレス様」
 事情が飲み込めていない忍者に、アジャンが簡潔に説明する。
「ストリップの指導だ」
「ちが〜〜〜う!セクシー・ポーズの指導よ!」
「せくしーぽーず?」
「男の人がぐっとくるような、Hっぽくて、いやらしくって、お色気たっぷりで、思わずうなっちゃうような……そういうポーズを私がしなきゃいけないの!」
「何ゆえ?」
「……お師匠様のご機嫌をとる為よ」
 セレスはがっくりと肩を落とした。
「お師匠様に何か頼みごとがある時には、お師匠様をうならせるセクシー・ポーズをしなきゃいけないの。昔、ここで神聖魔法の勉強をした時から、そういうルールになってるのよ」
「ほう。さすがカルヴェル様、乙な趣味ですなあ」
「オツなんかじゃないわよ!」
 女勇者は忍者をねめつけた。
「私、この手のこと、すっごく苦手なんだから」
「てなわけで、スケベな俺とおまえが助手なんだとさ」
 アジャンは面白そうににやにや笑っている。
「で、どうする? おまえが先に助手になるか?それとも、俺か?二人いっぺんってのは意見が合わんだろうし」
「ふむ」
 忍者ジライは覆面の下の横目でアジャンを見つめた。
「我からやろう」
「よし、いいぜ。俺は見学させてもらう」
 アジャンは岩の上にどっかりと腰を下ろし、左腿の上に肩肘をついて顎を載せる。
 怯えた顔のセレスに、忍者は笑みを見せた。もっとも覆面に覆われているので、見えるのは目元だけだったが。
「ご心配なさりますな、セレス様。このジライ、カルヴェル様のご趣味も心得ております。大船に乗ったつもりで、この私めにお任せください」


『勇者の剣』を外し、白銀の神聖防具を取り、セレスはシャツとズボン姿になった。恥ずかしくって落ち着かない彼女に、忍者がずけずけと注文をつける。
「セレス様、ズボンを脱いでください」
「え――っ!」
「素肌に大き目の男物のシャツ、こぼれる太腿……このへんもカルヴェル様のツボのはず」
「嫌よ!絶対に嫌!」
 セレスは噛み付かんばかりに、忍者を怒鳴りつけた。
「私が教えて欲しいのは、セクシー・ポーズよ!いい? ポーズなの!何でズボンを脱がなきゃいけないのよ!」
「しかし、セレス様、同じポーズでも、素肌が見えるのと見えないのでは、もたらす効果が違います」
「衣服をきちんと着てても、それでもお師匠様をうならせられるポーズを考えてちょうだい!」
「しかし」
「命令よ!」
「むむ」
 忍者は両腕を組み、しばしうつむいていた。
「……いた仕方がござりませぬなあ」
 忍者は小声でぶつぶつと呟いてから、懐から取り出したものを素早く地面に放り投げた。
 クナイだった。
 それは、セレスの影の胸を貫き、大地に突き刺さった。
 途端、セレスは動けなくなった。
「忍法、影縫いの術」
「ジライ、あなた、影を縛ったわね!」
「続きまして」
 再び懐からクナイを取り出し、自分の左の小指を浅く切って、滲み出た血で右の二の指をぬらし、クナイの刀身にすらすらと血文字を書いてゆく。そのクナイも、又、セレスの影に突き刺さる。
「邪法、傀儡(くぐつ)の術」
「ジライ……」
 セレスは自由に動く目で、黒装束の忍者を睨みつけた。
「邪法は封じるって私に誓ったでしょ!」
「申し訳ございません、セレス様、緊急事態にござりますれば」
「どこが緊急事態よ!」
「なにせ、私めは若輩」
 フーッと忍者は溜息をついた。
「色の道の達人カルヴェル様をうならせるポーズなど、おいそれとは思い浮かぶはずもござりません。やはり、何事も形から入りませんと」
 と、そこで忍者ははたと気づいた風に女勇者を正面から見つめた。
「セレス様、神聖魔法の使用は禁止します」
「う」
 邪法の呪を返そうと半ばまで小声で唱えていた神聖魔法の呪文が、セレスの口の中に消える。傀儡の術の強制力によって、神聖魔法を唱えようとすると舌が動かなくなるのだ。
「わ、私の命令に逆らう気? 邪法と忍法を、早く解きなさい!ジライ、命令よ!」
 忍者は不敵に笑った。
「フフフ、セレス様、ズボンをお脱ぎください」
 ジライがそう口にした瞬間……
 セレスの両の手が勝手に動き出して、着替えをするかのように自然にズボンを脱ぎだしたのだ。
「キャーッ!キャーッ!キャーッ!キャーッ!」
 ズボンはストーンとセレスの足元に落ちてしまった。
 大き目のシャツに守られて下着こそ見えないが、半ば露になった太腿や、すらりとした長い脚が色っぽい。
「ほほう、こりゃ、すげえ」
 アジャンが身を乗りだし、忍者に話しかける。
「上もひっぺがしちまったらどうだ?」
「阿呆。全て脱がしてしまっては、カルヴェル様の歓心は買えぬ。カルヴェル様は殊の外、チラリズムがお好きなお方。見えそで見えぬ。これが良いのだ」
「ふ〜ん。俺ぁ、半裸より素っ裸の方が好きだがな」
 横目で赤毛の戦士を睨み、相手に聞こえぬほどの小声で忍者はポツリと呟きを漏らした。
「……二流」
 それから、にっこりと笑みを浮かべ(やはり、目元しか見えないのだが)、セレスへと指示を与えるのだった。
「セレス様、襟を緩めてくだされ。上から三つ目のボタンまで外していただきとうございます」
 言われた通りに、セレスの両手がボタンを外してゆく。豊かな胸と下着が、乱れた胸元からチラリと見える。
「ジライ〜〜〜〜〜」
 セレスは涙目で忍者を睨み続けていた。
「覚えてらっしゃい!動けるようになったら、ギッタンギッタンのバコンバコンに叩きのめしてあげるわ!」
「ギッタンギッタンのバコンバコン……」
 忍者は覆面の下の顔をポッと赤く染め、右手でときめく己の心臓を押さえたのだった。
「……それは楽しみな」
「何? 何か言った?」
「いえいえ、何も。それではポーズといきましょう。セレス様、腰を後ろに突き出し、上体をかがめ、左腕を力なく股間の間に垂らし、右手を後方に、はい、そこで、右手でシャツの尻の辺りの布をつかみ、ほんの少しだけチラリとめくる」
「うひぃぃぃぃぃぃ!」と、悲鳴をあげたのはセレス。
「うむ、まずまず」
「そっか? 刺激に欠けると思うが」と、アジャン。
 そのまましばらく待ったが、『門』が開く気配はない。
「それでは次と参りましょう。今度は両手でシャツの尻の部分をまくりあげ、悩ましげに後方を振り返り、あっは〜んと喘ぐ感じに首を傾げるのです」
「ジライ〜〜〜〜〜」
「セレス様、そんな親の仇を睨むような顔をしていては、せっかくのセクシー・ポーズが台無しにござりまする」
「馬鹿!馬鹿!馬鹿!あなたなんか死んじゃえばいいのよ!この変態!ド助平!あなたなんて虫けら以下よ!生きている価値もないわ!もう顔も見たくない!どっか行っちゃって!」
 泣きながら女勇者が、そうののしると、
「あああぁぁぁぁ」
 忍者ジライは、力なく、その場にへたりとしゃがみこんだ。
「顔も見たくないだなんて……あぁ、そんな……」
 忍者は顔を伏せ、蹲っている。早鐘のごとく打ち鳴る心臓を押さえ、被虐の悦びに我を忘れて酔いしれているのだ。
 しかし、傍目から見れば、その姿はセレスに容赦なく責められて、落ち込んでいるように映る。
 赤毛の傭兵アジャンは大きく息を吐いた。
「うるせえぞ、わめくな、馬鹿女。女らしい所作がまったくできねえ、おまえが悪いんだろ。こっちは協力してやってんだ、有難く従え」
「嘘よ!協力なんて嘘!面白がってるくせに!あなた達なんか、大嫌い!」
「ああああ」
 と、罵倒にはしっかりと反応する忍者。
「黙れ、馬鹿」
「何よ!馬鹿はあなたよ!アジャンの馬鹿!こっちは、もう恥ずかしくって顔から火を噴きそうなのに、いやらしい顔してニヤニヤ笑って!下劣だわ!そんなに私の不幸が楽しい?」
 アジャンはムッと顔をしかめた。
「ああ、楽しいぜ。お高くとまったお姫様のあられもない姿を見られるなんざ、最高に楽しいねえ。酒を片手に見物したいくらいだ」
「何ですって、この色情狂!体が自由になったら、あなたもジライも叩き殺してあげるわ!」
「あぁぁぁぁ」
 と、低くうめく忍者の横で、赤毛の傭兵のご機嫌は完全に斜めになっていた。
「………やってみせろよ」
 言うが早いか背の大剣を抜き、やや後方に飛び退りながら、セレスへと刃を閃かせる。
 凄まじい剣圧と共に……
 セレスのシャツの前ボタンが全て宙に舞い、大きな胸が激しく揺れ動く。
「あきゃ!きゃ!きゃ〜ん!」
 セレスはわけのわからない悲鳴を上げた。ボタンが全部弾け飛び、前がはだけたのだ。清楚な白い下着もおへそも、そこから覗いてしまっている。
「きゃぁ、いやぁ、やぁん!」
 セレスは真っ赤になって悲鳴をあげ続けた。隠したいのに、隠せない。両手がまったく動かないのだ。
「どけ、クソ忍者!セクシー・ポーズとやらを俺がつけてやる!」
「しかし、傀儡の術の術師は我のみ。おまえが命じても、セレス様は動かれぬぞ」と、ジライ。
「触りゃ、木偶(でく)なみには動くだろ?」
「うむ、まあ」
「じゃ、問題ねえ」
「ちょっと待って……いやん!触らないで、アジャン!H!H!H!H!」


 それから一時間近く、アジャンとジライは、ああだ、こうだ、と、セレスの体を動かし、悩ましいポーズをとらせ続けたのだが……
『門』は一向に開かなかった。
 二人は『門』を睨みつけた。
「居ねえんじゃねえのか、あのジジイ」
 ジライと激しく意見を戦わせすぎて、アジャンは少々、息切れぎみだった。
「ここまでやって欲情しねえんなら、男じゃねえ」
「うむ。いかなカルヴェル様でも、全てがお気に召さなかったなどありえぬ。やはり、お留守なのでは……」
「そうよね……だいぶ前から、私も、そう思っていたわ」
 二人の前から凄まじい殺気が伝わる。
 女勇者セレスが、スッと右手をあげる。
 その手に『勇者の剣』が握られる。
 持ち手の求めに応じ、剣が移動魔法で現れたのだ。
「む?」
 忍者は後ずさりながら、セレスとその影に視線を走らせた。
「しまった!時間をかけすぎた!日が傾き、影が動き、呪具のクナイからセレス様の影が離れてしまったのだ!」
 セレスはかわいらしい眉をしかめ、そのサファイアの瞳で、二人を睨みつけていた。『勇者の剣』を鞘から抜く彼女は、かろうじてシャツが体にとまっているだけで、ほとんど下着姿だ。
「……忍法も邪法も解けたわ」
 大剣を構え、セレスは低い声で二人を恫喝した。
「覚悟はいいわね、二人とも……」
「おい、おい、本気か?本気で俺達を殺す気か?」
「私といたしましては殴り殺していただく方が……」
「問答無用!」
 セレスは『勇者の剣』を振り回した。岩が粘土のように砕け、礫が舞う。
 赤毛の傭兵と忍者は、追いかけて来るセレスから必死に逃げ回った。
「たまんねえなあ……女勇者のヒステリーは。物騒な武器を持ってるだけに始末が悪い」
「しばし逃げ回っていれば、そのうちお気持ちも静まるとは思うが」
 多少、後ろめたいところがあったので、二人は反撃せず、セレスが怒りを吐き出す間、逃げに徹していた。
 日が完全に傾き、あまりの寒さに女勇者がくしゃみをするまで、追いかけっこは続いたのである。


 セレス達は、翌日も、カルヴェルの城の前で待った。が、主人が戻って来る事はなく……
『門』は堅く閉ざされたままだった。
『悩ましの君』 完。

次回は『勇者の家』。舞台はエウロペ。
従者達は、セレスの生家――侯爵家を訪れます。
+注意+
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