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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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シャオロン奮戦す VSナーダ

 武闘僧ナーダは、公式には無役の一介の修行僧に過ぎなかった。しかし、大僧正候補である彼は、教団内においては大僧正の次に敬意を払われる立場にあった。他の僧侶から、嫉妬や羨望の的とされ続けているのだ。
 ナーダには、護衛役兼諜報員の部下達がいた。大僧正候補の彼の為に、手足となって働く忍である。彼らはナーダが女勇者の従者となって旅に出た後もずっとナーダの為に働き、陰ながらセレスの旅を支えているのだ。
 そんな部下から鳥を介して届いた報告書に目を通してから、大柄な武闘僧は糸目を一層細め、溜息をついた。
「仕方ありませんねえ……又、あの手でいきますか」


「明日、シャオロンを連れてアフロディのインディラ寺院支部を訪れようと思うのですが」
 ナーダがそう言うと、セレスは意外そうに首をかしげた。
「あら、まだ行ってなかったの?」
 セレスがそう思うのも当然で、ナーダはシルクドからトゥルクまでの旅の間、首都を訪れた時には当日か翌日にインディラ寺院支部に挨拶に行っていたのだ。
「王宮にお世話になって、今日で三日目でしょ? ずいぶん遅いわねえ」
「……仕方ないでしょ、今日まで寝込んでいたんですから」
 ナーダは溜息をついた。オクタヴィア女王の毒気にあてられ、断っても断っても次々にやって来るサービス過剰な凹凸の激しい体格の女官達に辟易とし、薔薇と香水の香りに満ちた部屋にめまいを感じで……なかなか体力が回復しなかったのだ。
「まあ、行ったところでたいした情報もないってわかってるんですがね……行かないとカドがたつし……」
「?」
「それで、明日、シャオロンを供に連れて行きたいのですが」
「え、また?」
「ええ。アジャンはずっと外泊中ですが、ジライが居るし、構いませんよね?」
「そりゃあ、構わないけど……あなた、シャオロンに何させてるの? シャオロン、お寺の中の事は外では話せないって、いつも何も話してくれないけど……」
 悪い事させてるんじゃないでしょうね? と、セレスが睨みつけてくる。
 ナーダは、肩をすくめてみせた。
「格式にうるさい方とお会いする時は、供の一人も連れて行かないと困るのです。格好がつかないし、大僧正候補たる者が一人で行動するなどけしからんと延々とお説教されてしまうので」
「あら、そうなの?」
「そうなんですよ」
「あなた、もしかして意外と苦労してるの?」
「残念ながらインディラ寺院も、他の組織と同じで一枚岩じゃないんですよ。私のような信仰心も学問も武術も魔法も超一流な逸材に、ケチをつけたがる愚かな身の程知らずも少なくありません」
 それはあなたの性格に問題があるからじゃないかしら? と言いたかった。が、言ったら、『私の完璧な性格のどこに問題があるのです? 具体例を挙げてその根拠もそえて説明してください』とか何とか前言を撤回するまでつきまとわれそうな気がしたのでセレスは言わなかった。
「でも、お供は誰でもいいんでしょ? シャオロンじゃなくてもいいのよね?」
「セレス……あなた」
 武闘僧は、憐れむかのように女勇者を見つめた。
「こんな自明の事がわからないなんて、そこまで愚かだったとは……」
「なっ? なに、それ!」
「……アジャンに、私のお供役が務まるとでも思ってるのですか?」
「うっ!」
 セレスの顔はひきつった。女好きで下品でふてぶてしくって偉そうな態度の赤毛の傭兵が、僧侶の後ろについて寺院にお供に行く? ありえなさすぎる。
「それとも、ジライなら出来ると? そう思ってるのですか?」
「うっ!」
 セレスの顔はひきつった。もと大魔王教徒で、未だにめっきり暗黒系の性格の忍者が、僧侶の後ろについて寺院にお供に行く? ありえなさすぎる。
 ナーダは、にっこりと笑みを浮かべた。
「納得いただけました?」
「……納得したわよ。明日はシャオロンと寺院に行くのね、気をつけて行ってらっしゃい」


 シャオロンはナーダのお供という立場なので、ナーダから少しはなれてちょこまかと後ろをついて行った。東国人であるシャオロンには、インディラ寺院は馴染みのある場所だった。冬の間、村の他の子供と一緒に、インディラ寺院外房に下宿させてもらって学問所にも通っていたぐらいだ。
 一般参詣者とは違うコースで、ナーダは寺院の奥へと進んで行く。美しい庭園を通り、荘厳な建物をいくつも抜け、寺院にふさわしくない華美な装飾がほどこされた建物の前でナーダは足を止めた。僧房というより、貴族の別荘のようだ。
「やれやれ、悪趣味ですねえ」
 建物の景観を眺めてから溜息をつき、ナーダはシャオロンを振り返りこっそりと囁いた。
「いいですか、シャオロン、最初は私一人で入りますから、いつもの通りにお願いしますよ」
「はい! ナーダ様!」
 と、東国の少年は元気に答えるのであった。


「これはこれは大僧正候補のナーダ様、遠路はるばる、よくぞ拙僧の房までいらっしゃった。アフロディにご到着なさってから、実に四日もかけて。王宮から寺院までの道は、いやはや遠い。いやいや、王宮の中が険しすぎたのですかな? 美女に金銀財宝、あなた様のお目を惑わすものもさぞや多かった事でしょう」
 ナーダは目を覆いたかったのをかろうじて堪え、挨拶を返した。相手を視界に入れたくないので、深々と頭を下げて。
「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。この地を訪れた日に病を得まして、昨日まで伏せておりました。この地の水は、どうも私の性に合わないようで……美と快楽の都とも称えられるアフロディで、堅固な信仰を貫いていらっしゃる僧正様の徳にあやかりたく存じます」
 脂ぎった肉饅頭がピカピカの僧衣を着て、フカフカのトゥルク製の赤と金の絨毯の上に座っている……
 品が無さ過ぎる……目が腐りそうだった。
(さすが……あのお方の一族ですね)
 相手への軽蔑は内に秘めて、表面上はにこやかにナーダは談話を続けた。
 この寺院の僧正は、ナーダとは不仲のインディラ国王第二夫人アヌラーダの親族。本当なら顔も合わせたくない相手だったが、各地の僧正の元へ挨拶に伺うのも大僧正候補の義務の一つだった。時間の無駄とわかっていてもサボるわけにはいかなかった。
 僧正は親しげな態度をとりながらも、ナーダの話の揚げ足をとり、ネチネチと嫌味を言ってくる。
 大魔王軍の進行を嘆くような口ぶりで、大魔王を倒せない女勇者の実力を疑い、それにつき従う僧侶の能力に問題があるのではないかと……どうも話をそっちへもっていきたいような感じだった。
「やはり、勇者が女というのが問題なのでしょうなあ」
 僧正が手を叩いた。茶を催促したのだ。
 奥からしずしずと、まるで侍女のように、年少僧が二つの茶碗を載せた盆を捧げ持って現れる。ほっそりとした、女顔の年少僧だ。
 僧正自慢の美童なのだろう。
「いやいや、しかし、お役目とはいえ、ナーダ様は本当にお気の毒な……女と共に旅をしなくてはならぬとは、まことにお気の毒」
 茶の給仕を終えてから、媚びるような笑みを浮かべて年少僧が僧正の斜め後ろに控える。
 僧正は脂ぎった顔を歪ませ、口元に笑みを刻んだ。
「もう一年以上、旅をなさっておいでなのでしたなあ。女と共に一年も。しかも、その女勇者は十代の若さの美少女とか。いやいや、疑うわけではありませんが、若い僧侶は、とかく女に惑い、還俗せねばならぬハメに陥りやすいもの。女の魔力に逆らえぬのでしょうなあ。ほんに若い者は堪え性がありませんから。一年以上、女と寝起きを共にしておれば、自然と………」
 そこで、ノックが響いた。
 不快そうに、僧正は声を荒げた。
「誰じゃ?」
「失礼いたします!」
 と、元気良く入って来たのは………
 長い黒髪を首の後ろで一つに束ねた、小柄な少年だった。
 体つきは細いのだが、きびきびとした足取りで、道着から出ている手足にも若々しい筋肉がついている。幼さのめだつ面差しだったが、つぶらな黒い瞳には光があふれ、眉は細く、鼻も口元もかわいらしく、溌剌とした健康的な美しさに満ちていた。
「もうしわけございませんが、ナーダ様に、かきゅうのようがあると、しのびのものがもうしております。おひとばらいをしたおへやをおかしいただけませんか?」
 難しい言葉使いは苦手だとばかりに、たどたどしく言うところが、又、かわいい。
 僧正は、黒髪の少年に心を奪われた。
「よろしゅうございますか、そうじょう様?」
 と、少年に尋ねられ、僧正はハッと正気を取り戻す。
「うむ。用意させよう」
「ありがとうございます!」
 にっこりと笑う顔が、すごく愛らしい。
 僧正は低くうなり、斜め後ろに控えている年少僧を目の端で睨みつけた。この黒髪の少年に比べると、美童と目をかけていた年少僧は脆弱すぎる。青瓢箪のようだ。
「一の客間に、ナーダ様をお通しいたせ」
 年少僧が慌てて復唱し、廊下へと急ぐ。
「……こちらへ」
 と、ナーダに一礼してから、年少僧は悔しそうに黒髪の少年を一睨みし、それから廊下へと消えた。睨まれた当人は、ぽかーんとするばかりである。
「それでは、失礼いたします」
 ナーダは僧正に会釈をし、廊下へと向かおうとした。
「待たれよ」
 僧正の声に、ナーダは足を止め振り返った。
 僧正は顔を朱に染め、黒髪の少年を見つめていた。
「その子供は、ナーダ様の従者にございますか?」
「ええ、まあ、それに近いですね」
 にっこりと、ナーダが余裕の笑みを見せる。
「なにゆえ、剃髪をしておらぬのです?」
「剃髪はしません。この子は、東国の格闘家の家を再興する夢を持っています。武闘僧の私の、いわば弟子となって一緒に旅をしているのですよ」
「一緒に……旅を?」
 僧正は蛸のように赤くなって、口をぱくぱくさせている。息もかなりあがっている。
 ナーダは、フフフと意味ありげに笑った。
「そうですよね、シャオロン?」
「はい! ナーダ様には、いつもてとりあしとり、いろんなことをおしえていただいています! オレ、ナーダ様の『ねんてい』になれて、ほんとしあわせです!」
「念弟……」
 僧正は悔しそうに、くぅぅ〜と声を漏らし、手の中の茶碗を握りつぶした。
 ナーダはこの上ないほど意地の悪い顔を僧正に向け、それから少年に対しにっこりと微笑むのだった。
「それでは、共に行きましょうか、シャオロン」
「はい! ナーダ様!」


「ナーダ様、いつも何でこんなお芝居するんです?」
 客間で二人っきりになってから、シャオロンがこっそりと耳打ちしてきた。
「忍の者なんて居ないのに」
「いいんです。インディラ寺院で部下と会う約束してますから、待ってればそのうち現れますよ」
「お話、途中になっちゃったけど、いいんですか?」
「ええ。あんなくだらない嫌味、聞くに値しないです。さっさと終わらせるに限ります」
「……あんなんで、オレ、お役に立ってるんでしょうか?」
「ええ、もう大助かりですよ。シャオロン、あなたにはいくら感謝してもし足りないくらいです。お礼に帰ったら新しい技を教えてあげますよ」
「本当ですか、ありがとうございます!」
 部下からの報告書に『アフロディの僧正は美童狂い』とあったので、いつもの手を使ったのだ。僧侶には美童趣味の輩が多い。嫌な相手の時には、シャオロンの美をもって、その口を黙らせるに限る。
「あ、でも、シャオロン、くれぐれも寺院での事を外でしゃべってはいけませんよ。寺院には寺院にしか通じない専門用語がありましてね、それを外で使うと意味が違うので誤解を招く恐れがありますから」
「わかってます! たとえば『ねんてい』って、寺院じゃ『内弟子』の事だけど、よそじゃ違うんですよね?」
「その通りです。よく覚えていましたね。本当、あなたは素直でかわいいですよ」
 武闘僧は、にこやかに微笑んだ。
『シャオロン奮戦す VSナーダ』 完。

次回は……

* 十八歳以上で男性の同性愛話でもOKという方 *
 ムーンライトノベルズの『女勇者セレス――夢シリーズ』をご覧ください。
 『夢のつづき』。舞台はエーゲラ。ナーダとジライの話です。

* 十八歳未満の方、男性の同性愛ものはパスという方 *
 このまま『小説家になろう』で。
 『悩ましの君』。舞台はエウロペ。
 大魔王の本拠地を見つけられないまま、振り出しに戻った女勇者一行。困った時に頼るのなら、あの方しか居ません。
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