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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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シャオロン奮戦す VSアジャン

「エーゲラによくぞ参られた、女勇者セレス様、そして、従者の方々。心より歓迎いたしますぞ」


 (ろう)たけた女性が玉座から一同を見渡す。艶やかな女性だ。大地母神を思わせる豊満な体にまとうのは、体にぴったりとした軽い布地のドレス。ドレスの胸の下には細いベルトがついているので、大きな胸が一層強調され、胸元からこぼれそうなばかりだ。結い上げられた白金髪を飾るのは、大粒の真珠のティアラ……この国の女王の証だ。


 エーゲラ女王と対面した時……


 女勇者セレスは緊張していた。
(この方が、アジャンを私の従者に推挙してくださったオクタヴィア女王様……小国とはいえ、王亡き後、このエーゲラを十五年も治めておられるのよね。確か四十を超えてらっしゃるはずだけど……お若く見えるわ)
 失礼があってはいけない! と、セレスは気を張った。


 武闘僧ナーダは青ざめ、うつむいていた。
(うわ、もう、最悪。化粧濃すぎ。しかも、若くもないのに、あの露出した品のない服……ああ、いやだ、香水もキツい。気持ち悪い。このままでは……吐くかも。しかし、アジャン、こんなバケモノみたいな方の愛人を、よくやってましたねえ……守備範囲が広いというか何というか……非処女なら誰でもいいんですかねえ)
 ともかく相手をまともに見るまいと、ナーダは床に目を落としていた。


 忍者ジライは冷ややかな眼で、女王を見つめていた。
(太りすぎじゃ……せっかくの()の女王様じゃというのに、三段腹のデブではときめかぬ。多少容色は衰えておられるものの、最高権力者として男どもを見下す眼差しは魅力的じゃ。さすが、本物。しかし、いかんせんお体が……。肥満を高貴の証と尊んだ末のお体は我が美学とは相容れぬ。やはり、女王様はセレス様のように美脚でなければ……)
 己が女主人の美しさを再認識し、ジライはうっとりとした。


 赤毛の傭兵アジャンは、平然とした顔をしていた。
 女王は利口な女だ。今更よりを戻そうとはすまい。
 だが、女王の周囲に侍る大臣達は不快を隠そうともせずアジャンを睨んでいた。女王の情人は一夜限りの相手も含め数多くいたが……アジャンが寵愛を得ていた時期は一年半と長く、その間、女王の私兵として、さまざまな事に首をつっこんでしまったので……エーゲラ貴族達からは毛虫のように嫌われているのだ。
 面倒ごとは御免だ、とっとと王宮を出ようと、アジャンは思った。


 そして、東国の少年シャオロンは……
 毎度の事ながら、玉座に座っている者を見ていなかった。
 身分の低い自分が高貴な方を見つめては失礼だ! と、ひたすら恐縮し、頭を下げていたからだ。


 それ故、シャオロンは気づかなかった。
 勇者一行の中で女王が最も注目していた人物が、自分である事に……


 王宮への滞在が許可され、女勇者一行は、それぞれに用意された部屋に分かれ、夕方まで休憩をとる事になった。今宵は女王主催の晩餐会に全員で出席するよう招待されたのだが……
「セレス……私、晩餐会は欠席(パス)します」
 セレスの部屋に現れた武闘僧は、真っ青な顔で口元を覆っていた。見るからに具合が悪そうだった。
「どうしたの、ナーダ? 風邪? 暑気あたり?」
「ええ、まあ、似たようなものです……ああああああ、セレス、そばに来ないでください。今日は化粧っ気のないあなたでも、そばに来て欲しくありません……」
「どうゆう意味よ!」
「大声は、やめてくれません?……吐きそうなんです」
「ごめんなさい……治癒魔法を使ったら?」
理由(ゆえ)なく自分を癒すのは禁じられているのです。私が自分を癒してもよいのは、緊急時や、務めや使命の妨げとなる場合、或いは生命の危機に関わる場合のみなんです。私、今日は部屋で寝てますね、おあとよろしく……」
 ふらふらと廊下へ消えた武闘僧と入れ違いに、忍者ジライがセレスの部屋を訪れた。
 が……
「え〜、あなたも欠席なの!」
 驚くセレスに、忍者は恐縮し、頭を低く下げた。
「申し訳ございませぬ。私めは忍にござりますれば、人前では覆面を外せませぬ。とはいえ、つけたままでは飲食は不可能。晩餐会に招かれながら、一切、飲食を拒むのも無礼かと……」
「ま、それは、そうかも……」
「女王陛下には情報収集に行ったとでもお伝えくだされ。では、御免」
 と、ジライが消えると、今度は東国の少年シャオロンがおそるおそる現れたのだった。
「オレ……晩餐会、欠席してもいいでしょうか?」
「え〜! シャオロン、あなたまでどうしたの?」
「だって……」
 シャオロンは困ったように、うつむいた。
「オレなんかが同席したら、セレス様に恥をかかせてしまいますから……」
「え?」
「西国風のテーブル・マナーなんて、まったく知らないんです。ナイフもフォークもうまく使えないし、絶対、マヌケな事しちゃいます。だから……」
「まあ、シャオロン」
 セレスは少年の手をがっしりと握り締めた。
「そんなこと、全然気にしなくていいのよ! あなたは東国人なんだから、遠慮なく箸を要求すればいいのよ!」
「え、でも」
「それに、晩餐会にはアジャンも出るのよ! あの品性を疑っちゃうほどテーブル・マナーが悪くて、お酒ばっかりがぶ飲みしているアジャンもよ!」
 マナーが必要な場ならきちんと食ってる! と、本人が居たら怒って反論するだろう事を言ってから、セレスはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫! 先に西国風のテーブルマナーは知らないんだって宣言しちゃえば、多少、失敗をしても目立たないわよ! なにしろ、あのアジャンも出席するんだから!」
 と、赤毛の傭兵がそばに居ないのを良いことに、セレスはシャオロンを説得した。五人中二人の欠席が確定しているのだ。この上、シャオロンにまで逃げられてはマズい。
「はあ」
 結局、シャオロンはセレスの畳みかけるような説得に負け、晩餐会への出席を無理やり約束されられてしまったのだった。


 自分用の部屋に戻ったシャオロンは、寝台に座り頭を抱えていた。セレスは励ましてくれたが、やはり不安なのだ。
 ため息をついていると、扉がノックされた。


「もっと、こっちへ参れ、アジャン。(わらわ)とそなたは知らぬ仲でもあるまいに」
 女王の寝室に呼び出された赤毛の傭兵は、不機嫌そうな顔をしていた。エーゲラを旅立ったとき、女王との関係は清算している。今更、昔の女と寝る気はなかった。
 が、赤毛の傭兵は女王の贅をこらした部屋を見渡してから、わざと好色そうな顔をつくり、寝台の上の女王を値踏みするかのように眺め始めた。
「俺が居なくて、体が夜泣きしていたのかい、女王様?」
「ホホホホホ。夜の相手ならば腐るほどおるわ。そなたよりも逞しい男も、見目麗しい男子も、数え切れぬほど居る。しかし……」
 女王は艶っぽい笑みを浮かべた。
「そなたほど役立つ男は一人も居らぬ。腕が立ち、頭が良く、めはしがきき、美男で、性技も巧み……ほんに惜しい。そなたと後五年早く出会っておったら、イレーネの夫にそなたを選んだものを……」
「フン。また、そのよた話か」
「よたではない。アウグストのまぬけよりも、そなたの方が妾の娘の夫にふさわしい。そなたにならば、王位を譲っても構わなかった」
「それこそ、よた話だな」
 アジャンは寝台に近寄った。女王は豊満な胸を誇示するかのように、両手で丸みを帯びた大きな胸をもちあげていた。胸の谷間にあるものに気づき、アジャンは胸を愛撫する振りをして、それを抜き取り懐にしまった。折りたたまれた小さな紙だった。
「あんたは、人の下に立つのが嫌いな女だ。生涯、女王に君臨したいんだろ? 御しやすいアウグストならば、自分の傀儡(かいらい)にできる。だから、娘婿にしたんだろ? 俺みたいな物騒な男は、あんたの手下向きじゃねえ」
「オホホホホ。猛獣を飼うのも、王侯貴族の遊びじゃ。知らぬのかえ?」
 女王は乱れた髪を整えるかのように、右手で髪を撫でつけた。白金の豊かな髪は彼女の魅力の一つでもあった。アジャンはその髪に口づけ愛しそうに撫でる振りをしながら、右耳の上にあった紙を抜き取り、それも懐にしまった。
「そういやあ、まだ伝えてなかったな。おめでとう、女王様。東国に居る時、噂で聞いたぜ。イレーネ様が男子をお産みあそばしたそうで……待ちに待った世継ぎの誕生だな」
 女王の眼が、きらりと輝く。
「そなた、勇者の従者の務めを終えたら、この国に戻って参れ。世継ぎの家老にしてやるゆえ」
「あん?」
「ボンクラな侍従どもに囲まれては、世継ぎが愚かに育つ。野性味あふれるそなたのような、危機に屈せぬ男に育てたい」
「高く買ってくださるのは有難いが……宮仕えする気はさらさら無いんでね、世継ぎ様のおばあ様」
 ニヤニヤ笑いながら、赤毛の傭兵は女王の体の上に覆いかぶさり、その右頬に口付た。
 女王は口をほとんど動かさず、アジャンにしか聞こえない小声で言った。
「良いから、妾の芝居にあわせろ」
「誰が覗いてるんだ?」と、小声でアジャン。
「アウグストの手の者じゃ。あの馬鹿、王位を狙い、大魔王教徒とつるんだ」
 なるほど、先ほどの二通の手紙はその陰謀を記したものかと、一応の得心はいった。
 監視者がいるのを意識した上で、アジャンは下種(げす)な顔をつくった。卑しい傭兵にふさわしい顔だ。
「まあ、金次第じゃのってやってもいいぜ、女王様。たんまりもらえるんだろ?」
「位もやろう」
「当然だな。ただの家老じゃ俺を縛りつけておけないぜ」
「手始めに右将軍にしてやろう。その後の出世は、おまえ次第じゃ」
 現在、右将軍の位に居る者がアウグストの手下の一人かと、赤毛の傭兵は察した。女勇者とアジャンの来訪をきっかけに、女王は娘婿の陰謀を叩き潰す腹のようだ。
 と、なれば仕方がない。昔の女とよりを戻すのは面倒だったが、アウグストを焦らせる為にも、女王の愛人に返り咲いた方が芝居しやすい。
(手を出すか……この女、名器だし、犯りゃあ犯ったで楽しめる。ま、いいか)
 と、アジャンが心を決めた時だった。
 ノックが響いた。
「お連れしました」
「お通し」
 続き部屋から近習が現れる。その者が伴って来た者の姿を認めるや、赤毛の傭兵は慌てて上半身を起こし、女王から離れた。
「シャオロン!」
「アジャンさん? あ、えっと、すみません!」
 東国の少年は慌てて、女王に対し頭を下げた。一国の君主に対し、顔をあげて接するなんて恐れおおいと言いたそうに。
 女王はにっこりと笑みを浮かべ、共通語で少年に話しかけた。
「よくぞ参られたな、勇者の従者殿。さ、さ、もっとお楽に」
 近習に隣室にお茶の準備を命じ、女王は優美な仕草で寝台から離れ、赤毛の傭兵に笑みを見せた。
「妾は用事ができました。そなた、もう帰ってよいぞ。又、夜にでも参れ」
 赤毛の傭兵に対しては、女王はエーゲラ語を使った。
「おい……」
 アジャンはギン! と女王を睨む。
「シャオロンをどうする気だ?」
「ホホホホ。お茶の相手には、そなたのようなむさくるしい男より、かわいい子供の方が心が和む。それだけじゃ」
「本当ぉだな? 手を出すなよ、そいつは、まだ童貞だ」
「童貞? それは、又、魅力的な響きだこと」
 高らかに声をあげて笑う女王に、赤毛の戦士は尚も詰め寄った。が、軽くいなされてしまう。
「今のところ、かわゆい子供をどうこうする気はないが……明日や明後日にはどうなるや知れぬぞ。なにしろ、妾は男好きの好色女だからの」
「………」
 大事な弟分に手を出されたくなかったら、とっととアウグストの陰謀を潰して来いと言っているのだ……
 赤毛の傭兵は、がくっと肩を落とした。二年前、女王の従兄弟の反乱を未然に防いだ時も、この女にいいように使われていたのだ。
(……人使いの荒い女だぜ)
 アジャンはすれ違いざまに、シャオロンの肩をポンと叩いて『気楽にやれ』と、だけ言って、部屋を後にした。


 女王とアジャンの会話は早口のエーゲラ語だったので、シャオロンには二人が何と言っているのかわからなかった。
 それで、お茶を勧められ、女王と同じテーブルにつく事に非常に恐縮しながらも、シャオロンは意を決して尋ねてみようとした。
「女王陛下さま(共通語もあまり得意ではないので、尊称が二つ重なっている事に気づいていない)、アジャンさんと、どんな事をお話しだったんですか?」
「気になるのかえ?」
「……アジャンさん、怒ってたみたいなので」
「オホホホホ。仕官せぬかと尋ねてみただけじゃ。少々折り合わなくての、それで不機嫌に……ん? どうした? そのような悲しそうな顔をして?」
「あ! いえ、あの……すみません」
「よい、よい。あの男が仕官し、おまえの側を離れるかと思うと寂しいのだな」
「はい……」
「……あの男、おまえから見てどんな男じゃ?」
「アジャンさんは超一流の戦士です。とっても強くて、やさしいです」
「ふむ」
「セレス様の危機を何度も助けてらっしゃいます。オレにも体術とか旅のコツとか、いっぱい教えてくれて……本当に親切な方です」
「旅の仲間とは馴染んでおるのか?」
「それは……えっと、ジライさんとは、その……。でも、ナーダ様とは」
「ホホホホ。焦らずともよい。あの男が仲間と手を取り合って仲良くしておるはずはない。あれは腕の中の女にすら本心を明かさぬ孤高の男……」
 女王は瞳を細め、愛しそうともせつなそうともとれる眼差しで東国の少年を見つめた。
「あれが少しでも情を見せるのは……そなたのような、真っ直ぐな気性の子供に対してだけ。エーゲラでも、そうであった。アジャンは、妾の小姓の一人に目をかけ、いたく可愛がっていた。あまりにも親密で目にあまるゆえ、あの男、男色の気があるのかと疑ったが……そうではなかった。あれは弟の代わりとして、妾の小姓を愛しんでおったのだ」
「弟さん……」
 女王は嫣然と微笑んだ。
「あの男が妾の話にのるのだとしても、大魔王を倒した後のこと。それまでは、今まで通り。あの男は、女勇者様の元に居る。のう、少年、あの男の側に居てやっておくれ。アレが人の情を失わぬように、な」
 シャオロンは、ふくよかで美しい女性を静かに見つめた。今、目の前にいる女性は、威厳あふれる女王ではなかった。母を思わせる慈愛あふれる笑みに満ちた方だ。
(ああ……この方は、アジャンさんが好きなんだ)
 そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
 少年は力強く頷きを返した。
「わかりました! 女王陛下さま!」


「……なんで、アジャンまで晩餐会に欠席するのよ」
 セレスは泣きたい気分だった。五人中の三人も欠席なのだ、女王陛下が気分を害されるのでは? と、心配になった。
 が、まったくの杞憂だった。
 女王は、つたなくナイフとフォークを使って懸命に肉と格闘する少年を楽しそうに見つめ、にこにこと上機嫌で二人に話しかける。
 晩餐会が険悪にならなかったのは、シャオロンの人徳のおかげだわ! と、女勇者は少年に感謝した。


 五日後……
 女王の娘婿と右将軍他数十人の家臣が、何者かの手にかかり亡くなった。犯人はわからなかったが、被害者達の屋敷には魔族の痕跡があり、王宮の女王の娘婿の部屋からは被害者達全員の連名の魔族との契約書すら見つかった。
 女王はエーゲラ国の名誉の為、被害者全員を病死扱いにすると決め、議会もそれを承認した。
 女勇者一行は、その翌日、王宮を離れ、野に散った魔族・大魔王教徒の討伐へと旅立ったのだった。
『シャオロン奮戦す VSアジャン』 完。

次回は『シャオロン奮戦す VSナーダ』。舞台はエーゲラ。
ナーダが、たまにインディラ寺院にシャオロンをお供に連れて行くのは何故か? と、いう話です。
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