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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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シャオロン奮戦す VSジライ

「シャオロン、おまえを見込んで頼みがある。しばらくの間、我が荷物、預かってもらえまいか?」
「いいですよ」
 東国の少年シャオロンは、忍者ジライの頼みごとを二つ返事で引き受けた。
 このところ街に泊まる度に、シャオロンは赤毛の傭兵アジャンの荷物を預かっていた。アジャンは夜になると『いろいろ忙しくてな』と、にやにや笑いながら出かけてしまう。宿に泊まらない傭兵の荷物をずっと預かってきたのだ。それにジライの分が加わったとしても困りはしない。
 それに……
 シャオロンは、セレスも、アジャンも、ナーダも、カルヴェルも尊敬していた。が、最近ジライをも尊敬し、好意を抱くようになっていた。
 ジライが仲間に加わった当初は、さすがに(セレスがいくら許そうが)警戒心は消えなかった。セレスの命を狙っていたジライを許せない気持ちも強かった。
 しかし、トゥルクの王宮で、ジライに命を救われ、彼のすごい忍の技を見せられてから、シャオロンは考えを改めた。
 忍者を仲間と認め、自分より戦士としての力量が高い彼を、尊敬に値する人物として認識するようになったのだ。
「荷を増やさないようにはしていたのだが……」
 覆面に黒装束の男は背の革袋を下ろし、シャオロンが今宵泊まる部屋の隅の壁にたてかけた。
「いろいろと入用のものがあっての……捨てるわけにもいかぬし」
「部屋の隅に置いておけばいいんでしょ?」
「うむ」
「そのまま置いて行っちゃっていいですよ」
「すまんな」
「いいえ」
 シャオロンはにっこりと微笑んだ。
「又、情報収集に行かれるんですか?」
「うむ。諜報活動が忍の本分ゆえ。この国の水面下で、敵が気になる動きをしておる。長くかかるやもしれぬ。出立の時までに(われ)が戻らぬ時には、その荷物をおまえの馬で運んで欲しいのだが」
「わかりました」
「くれぐれも袋の口を開けぬように」
「開けませんよ、やだなあ、オレ、そんな事」
「無理に開けると、爆発するゆえ」
「……ばくはつぅ?」
「うむ」
 シャオロンは硬直し、忍者を見つめた。覆面から覗く目はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
「絶対、火のそばには置くな。多少の衝撃であれば問題ないが、袋が破けぬように注意せよ」
「破けると……爆発するんですか?」
「そういう事もある」
「………」
 忍者はジーッとシャオロンの顔を見つめ、ポツリと呟いた。
「めんどうなら、捨てて行って良いぞ」
「いえ、そんな!」
 シャオロンはグッと拳を握り締めた。
「人からお預かりしたものを捨てるだなんて! ありえません! そんな失礼なことは、ぜったいにしませんよ!」
「……処分に困ったときは水の中に捨てよ。ただし、飲用水系は避けるように。毒が流れ出るゆえ」
「だから、捨てませんって!」
 ジライの目がスッと細くなる。まるで微笑むかのように。
「おまえがそれを捨てても怨まぬ。気楽に預かってくれ」
 そう言い残し、忍者の姿が部屋から消えてしまう。
 シャオロンは周囲を見渡し……部屋の隅の革袋に目を留めた。
 多少埃をかぶった、ごく普通の荷物入れにしか見えないが……あれは爆発危険物なのだ。


 荷物が爆発しないかと冷や冷やしながら一晩を過ごし……ろくに眠れぬままシャオロンは朝を迎えた。


「今日中に、アフロディまで移動しましょう」
 食堂でセレスがエーゲラの首都までの移動を提案すると、すぐに武闘僧は頷いた。
「そうですね。エーゲラでは今のところの大規模な魔族戦はありませんし、治安もたいへんいい。けれども、裏で魔や大魔王教徒が暗躍してる可能性も否定できません。アフロディには王宮もインディラ寺院支部もあります。情報収集の為にも、早く移動した方がいいでしょう」
「俺も移動に賛成だ」
 と、あくびまじりに言ったのは、赤毛の傭兵だった。
「首都に近すぎる娼館は駄目だ。外れが多すぎる。昨日はさんざんだった。ガバガバ、ユルユル、ダレダレのババアばかり。で、ちゃっかり、金はとるんだから、恐れ入る。エーゲラ人の、投げやりな商売と(つら)の皮の厚さは、大陸一だぜ」
「下品ね!」
「アジャン、怒って暴れてないでしょうね? 勇者の従者の評判を堕とす真似だけは、絶対にやめてくださいよ」
 と、セレスもナーダも不機嫌そうだったが……
 全員の意見は今日中に出立でまとまっている。
 今日中に出立?
 シャオロンは慌てた。
「でも、セレス様、ジライさんが情報収集に出かけたまま戻ってきてません!」
「ジライ? ジライなら大丈夫。先に行っても、後から追いついてくるわよ」
「いえ、そうじゃなくって」
 シャオロンはごくっと唾を飲み込んだ。
「実は、オレ、ジライさんの荷物を……」


「で、これがその爆発危険物なのか?」
 シャオロンの部屋にあるジライの荷物を、アジャン、セレス、ナーダが遠巻きに見つめた。
「ただの荷物入れにしか見えないわねえ」
「あ、でも、これ、確かにジライの革袋です。見た事あります」
「あら、そう?」
「その時は放り投げたりして、結構、ぞんざいに扱ってましたけど、本当に爆発するんですかねえ?」
「野郎のハッタリじゃないのか? 見られたくないモノが入ってるんで、嘘ついてシャオロンを脅したんだぜ、きっと」
「でも、それなら水の中に捨てろとは言わないと思うわ」
 一同は、しばらく無言で革袋を見つめ続けた。
「……捨てちまえ」
 忌々しそうに、アジャンが吼える。
「ンな面倒なモノ押し付けた奴が悪い。シャオロン、構う事ぁない、風呂桶に水張ってその中にコレを突っ込め」
「え! でも、そんな!」と、シャオロン。
「駄目よ、そんなの!」と、セレスも反対する。
「中に大事なものが入ってるかもしれないじゃない! ジライが戻るまで出発を遅らせるわ! それなら荷物も無事だし、爆発もしないし」
「ですが、何時、戻るんですかねえ」と、ナーダ。
「この街に一週間も二週間も滞在するのは、嫌ですよ。お忘れかもしれませんが、私達は女勇者一行なんですよ? 世直しの旅をしてるんですよ? 観光でも避暑でも静養でもありません。先を急ぐべきです」
「ここは、娼館も最低だしな。留まる理由はない」と、アジャン。
 又も、一同に沈黙が訪れた。
「セレス様……お先に出立してください」
 声を震わせながら、東国の少年は言う。
「オレ、ここでしばらくジライさんが戻るのを待ちます」
「シャオロン、でも、ジライはすぐに戻らないかもしれないんでしょ?」
「五日ほど待ってジライさんが戻られなかったら……オレ、これしょってセレス様の後を追いかけます」



 アジャンは『馬鹿か、死ぬ気か?』と怒り、セレスは『無茶しちゃ駄目よ』とたしなめ、ナーダは『宿に荷物を預けて、あなたも出立すればよいのでは?』と助言した。
 彼等に対して、シャオロンは……
「ご心配をおかけしてすみません! でも、これはオレがお預かりしたものなんだから、オレが責任もってジライさんにお返しするのがスジです! セレス様、オレ、大丈夫ですから、先、行ってください! わがまま言って、しばらく勝手します! すみません!」
 と、元気よく頭を下げるのだった。
 少年のあまりの潔さに言葉を失う三人。
 と、そこへ……
「義理堅い奴じゃのう。さすが(われ)が見込んだだけのことある」
 シャオロンの背後には……何時の間に現れたのか、忍者が佇んでいた。
「ジライ!」噛み付くように叫ぶ三人。
 そして、シャオロンは……
「良かったぁ、ジライさん、戻って来てくれたんですね」
 と、心から嬉しそうな顔をした。
「お荷物をお返しします」
「うむ。助かった」
 と、会話を交わす二人の間にセレスが割り込む。
「ジライ! あなた、何で、シャオロンに危ないもの押し付けたのよ!」
「危ないものとは……(わたくし)めの荷物の事にございますか?」
「そうよ! 爆発物なんでしょ!」
「ですが、セレス様、取り扱いさえ間違えねば爆発の危険はございませぬ。火薬玉よりむしろ安全な」
「馬鹿! ぜんぜん、安全じゃないわよ! あなたの安全基準は、はっきり言って、世間からズレてるわ! あなたの荷物は爆発危険物なの! 誰がどう見ても危ないものよ!」
「む」
「もう二度と、変なものシャオロンに預けないでちょうだい!いいわね!」
「待ってください! セレス様!」
 すごい剣幕で忍者に食ってかかっていたセレスを、シャオロンが止める。
「確かに、オレ、爆発するんじゃないかって怖かったんですけど……荷物を預けてもらえたことは嬉しかったんです」
「え? 嬉しい?」
「だって、ジライさんはオレに大切な荷物を預けてくださったんです。オレのこと、信頼してくれたわけでしょ? 勇者の従者としてはまだまだ半人前のオレを……認めてくれたってわけで……本当、嬉しいです」
 シャオロンは、ジライに対しお日様みたいに明るい笑みを浮かべた。
「これからも、オレができそうな事でしたら、どんどん申しつけてください! オレ、頑張りますから!」
 シャオロンがあまりにもニコニコ笑っているので……セレスは怒る気も失せてしまった。『あんま無茶な物この子に預けたら、許さないわよ』と、たしなめる程度で忍者を解放してしまうほどに。


 しかし、その後、ジライはどんどんエスカレートしていってしまった。
「引火の危険があるゆえ、日陰に置くように」
「虫がたかるやもしれぬが、気にするな」
「夜中にガリガリ音が聞こえるやもしれぬが、案ずるな。中身が袋を食い破って外に出る事はありえぬ」
 などと言って、シャオロンの部屋に荷物を置いてゆくのだ。どうもそれは忍者の基準でいえば『無茶な物』ではないらしい。
 その度にひきつった笑顔を見せながらも、シャオロンは喜んでいた。
 他の誰でもない自分を、ジライが頼りにしてくれている事が嬉しかった。
『シャオロン奮戦す VSジライ』完。

次回は、『シャオロン奮戦す VSアジャン』。
舞台はエーゲラ。エーゲラの女王陛下ついに登場です。
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