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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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希望の光 2話

 初代勇者ラグヴェイの従者バラシンは、大魔王討伐後、大陸のほぼ中央やや南の彼自身が神の啓示を受けた山を聖山と定め、寺院を建立した。インディラ教の始まりである。大陸中央部から東のシャイナ・ジャポネはインディラ教を受け入れ、国教と定めてすらいる。
 寛容と慈悲の心をもって和を貴び魔族のみを敵とするインディラ教は、他宗教と摩擦を起こした(ためし)がない。北方諸国を除く全ての国々は、インディラ寺院の建立を許可し、インディラ教徒の国内での活動を容認している。各国の首都や大都市には必ずインディラ寺院支部があり、その国における宗教活動を統括する僧正位の上級僧が存在するのだ。
 大僧正候補であるナーダは、女勇者の従者になるよう大僧正から命じられた際に、各地の僧正の元を訪れ親交を結ぶようにも命じられていた。大僧正は全ての寺院の頂点に立つ最高位、各地の僧正と信頼関係を築いておいた方がいい………これが表の理由だ。
 裏の理由は、インディラ教団の情報網を利用した情報収集の為と、ナーダの個人的な部下と(セレス達にも内密に)接触する為であった。
 ナーダには護衛役兼諜報員の役目を果たす部下達がいた。普段、彼等との連絡には鳥を使っており、口寄せで招きよせた鳥を魔法で操り、部下に(ふみ)を送ったり部下からの文を受け取ったりしているのだ。
 旅立って間もなく、森に隠しておいた『勇者の剣』が消失した事件があったが、その事実をナーダがいち早く知ったのは部下からの文を受け取ったからだった。二人には『鳥が教えてくれた』と、あたかも鳥と意思疎通ができるかのような嘘をついたのは、ナーダの部下は非公式な存在の為、表に出すわけにはいかないからだ。
 シルクドの僧正と歓談し、僧正に用意してもらった人払いをした客間で部下との接触を終えると、全ての用事は済んだ。
 シルクド国内では、大魔王教徒はさほど活動をしておらず、魔族絡みの大きな事件もない。
 ただ、東北部の草原地帯に、魔族のものと思われる事件が幾つかあった。シルクド国軍、聖職者達・魔術師達も積極的に魔族討伐をしてはいたが、広大な国土全てをカバーできるはずもなく、都市や街道ぞいで魔族討伐は行われている。シャイナ国への道中は、魔族出現の噂のある閑散とした土地を訪れ、可能な限り妖しいものを片付けてゆくべきだろう。
 王宮に戻り、セレス達と話し、シルクド東北部に向かう準備をすべきだと頭ではわかっていた。
 だが、ナーダの足取りは重かった。刺々(とげとげ)しい傭兵も不愉快なら、泣きわめくばかりの脆弱なセレスにも鳥肌が立つ。あの二人の元に戻りたくなどなかった。
(何であそこまで相性が悪いんでしょ、あの二人。セレスがウブすぎるせいで、アジャンは具体的な説明をしすぎてどんどん下品になってゆくし、抑えがきかなくなっていくし………セレスも子供っぽい正義感はナニですが、貴族のわりに階級を鼻にかけない、素直な子なのに………処世術に長けてるアジャンがどうしてあれほど反発するんでしょう?)
 ナーダは仲裁役などやった事はなかった。
(気に喰わない奴の面目を潰してやるとか、馬鹿をからかって話をぶち壊すとかなら得意なのですが………)
 と、インディラ教大僧正候補にあるまじき事を思いながら、落日の日に染まる寺院内の庭園にさしかかった時だった。
「ナーダ様」
 背後から声をかけられた。振り返ればそこには、涼しげな顔立ちの二十代前半の僧侶が居た。まとった上級僧の衣からも、しなやかな所作からも、僧正付きとわかる。ナーダは笑みを浮かべた。
「おや、ヴァジュラではありませんか」
 ナーダがそう言うと、僧侶は嬉しそうに微笑んだ。
「感激です。ナーダ様、私の名前を覚えていてくださったのですね」
「忘れるものですか。三年前、あなたが総本山での修行を終え、生国の寺院に戻られた時、私もたいへん悲しく思ったものです。なにしろ………私とあなたは魂で語り合った仲ですものね」
 僧侶は恥じらうように頬を赤く染めた。
「ナーダ様、今、お時間よろしゅうございますか?私も僧正様からほんお少しですが、お暇をいただいて参りました。私の房にて、人間の根源について再び語り合えたら、望外の幸せにございますが………」
「………」
 ナーダは顎の下に手をそえて、首を傾げた。
 早く戻った方がいいのは当然であったし、目の前の僧侶ヴァジュラとは数回肌を重ねてはいたものの、数多くいた遊び相手の一人に過ぎなかった。
 今、何をなすべきかは明らかだったが………
 結局、帰りたくないという欲求が勝ってしまった。
 ナーダはヴァジュラの肩を抱き、大柄な体で年下の僧侶を包みこむように寄り添った。
「私も忙しい身の上ではありますが、ここでお会いしたのも神のお導き………共に語り合わねばなりませんね」
「ああ………ナーダ様」


 と、いうインディラ寺院での、男同士の乱れた関係はさておき………


「………遅い」
 アジャンは苛々しながら、ナーダ用の部屋の中を歩き回っていた。
「もう夜中じぇねえか、何してるんだ、クソ坊主!」
 アジャンは隣室に繋がる壁を睨んだ。昼前に部屋を飛び出したっきりセレスとは会っていない。女勇者は部屋に籠ったまま、うんともすんとも言ってこないのだ。
(まさか………まだ泣いているなんて事はねえよな)
 アジャンは眉をしかめた。ナーダが戻ったら、様子を見に行かせようと思っていたのだが………


 セレスの部屋の前で逡巡し、ノックしようとしては果たせず手を下げて………そんな事を何度か繰り返してから、アジャンは頭を滅茶苦茶に掻きむしった。
(馬鹿か、俺は!)
 ノックも無しに、セレスの部屋の扉を開ける。
「入るぞ」
 蝋燭の明かりはついていたが、三間もある豪奢な部屋にも浴室にもトイレにも人影はなく………
 突き当りの部屋のバルコニーに、セレスは居た。
 月明かりの下で………
 部屋に背を向ける形で………
『勇者の剣』を持ち上げようとしてはふらついて足元に落とし、掛け声と共にほんの少し宙に浮かせては、又、落とす。その繰り返しをしていた。
「何やってんだ、おまえ」
 セレスは振り返った。
「アジャン!」
 多少腫れぼったい顔をしていたが、もう泣いてはいない。セレスは不機嫌そうに唇を尖らせた。
「見てわからない?素振りをしていたのよ」
「見てもわかんねえよ」
「これでもだいぶマシになったのよ。こうやって毎晩続けていれば、そのうち頭の上まで持ちあがるようになるわ」
「毎晩やってるのか、それ?」
「ええ。敵襲の危険のある野宿の時は無理だけど、できるだけやってるわ」
 セレスは苦笑を浮かべた。
「早く一人前の勇者になりたいもの」
「………」
 アジャンは、手近にあった椅子をひっぱってきて跨いで座った。
「アジャン?」
「俺に構わず続けろ」
 セレスはチラリチラリと背後を気にしながら、やがて素振り(と、本人が言い張る動作)を再開した。『勇者の剣』をほんの少し持ち上げてはよろけ、ほんの少し持ち上げてはよろけ、その繰り返しだ。
 しばらく見つめてから、アジャンは立ち上がった。
「もういい、やめろ。やるだけ無駄だ」
 セレスはムッとして傭兵をねめつけた。
「無駄かどうかは、まだわからないでしょ。ずっと続けていればそのうち」
「先の事はどうでもいい。今、そんな訓練を積んでも、実戦じゃ何の役にも立たんと言っているのだ、俺は」
 アジャンは腰をかがめ、部屋の中で背の大剣を抜き、刃の切っ先を床へと向けた。
「無理に持ち上げる必要はない。床を這うように剣を構え、体をひねらせたり、回転させたりして、剣を振り回せ。敵が近づいて来たら、その一瞬だけ、気合を入れて持ち上げればいい」
 手本を示すかのように、アジャンは腰を低くし、床にかかる形で大剣を構え、ぶんと振り回し、一瞬だけ微かに刃を上げ、又、下げる。
「この構えの弱点は、弓矢を防げない事と、跳躍して空中から攻撃をしかける敵への対応が遅れる事だ。はっきり言えば、今、おまえが戦闘時に『勇者の剣』を使ったって危ないだけだ。だが、ここぞという時に使う分には、或いは効果があるかもしれん。敵はおまえが『勇者の剣』を使えんと思いこんでいる。その油断をつけ。『勇者の剣』を隠し玉として使えるよう、重い物でもそれなりに扱える訓練を積むべきだ」
「………」
 背に大剣を戻すアジャンに、セレスは素直に気持ちを伝えた。
「ありがとう、アジャン………これからは、あなたの助言に従って訓練をつむわ」
「俺は傭兵だからな………」
 赤毛の戦士はそっぽを向いた。
「料金分の仕事はする。気に喰わない女でも護衛するし、女が死なないよう助言もするさ」
「そうね………あなた、傭兵としてついて来てくれているのよね。私みたいな馬鹿女、大嫌いなのに………」
 セレスは溜息をついた。
「私ね、子供の頃から、ご先祖様の勇者様達の活躍のお話を聴くの、大好きだったの。勇者様に協力する従者の方々も、とても個性的でご立派な方達ばかりで………。勇者様と従者が信頼し合って共に戦うなんて素敵だと思ったわ。だから、私、大魔王退治の旅が決まった時、従者の方達と、絶対、仲良くなろうと誓ったの。おじい様が従者の方々と義兄弟の契りを交わしたように、私も、あなた達とう〜んと仲良くなろうと………」
「あなた方と義兄弟だなんて、ゾッとしますね」
 二人が驚いて振り返ると、部屋の扉の前に武闘僧が両腕を組んで佇んでいた。扉自体はアジャンが開けっ放しにしていたので開閉音がしなくても当然なのだが、人の気配に敏い傭兵までもが何時入って来たのかわからなかったのだ。
「セレス、あなた、あなたのおじい様が従者とどういう義兄弟だったのか、ご存じなのですか?」
「え?義兄弟って、意気投合した人達が絆を深め合う為に兄弟の約束を交わした関係………でしょ?違うの?」
「違いませんが、あの三人の場合………」
「え?まさか義理の兄弟とか?それとも配偶者の兄弟?じゃなかったら、兄弟姉妹に婚姻関係の方がいらっしゃるの?」
「違います!血縁関係でも縁戚関係でもありません!あの三人と同じ関係になろうとしたら、あなた方と穢らわしくも」
「おい、クソ坊主」
 赤毛の戦士がじろりと武闘僧を睨む。
「やけに遅かったじゃねえか。半日かからねえで用事は終わるんじゃなかったのか?」
「ええ、まあ………情報収集に忙しかったので………」
 平然とした顔で、武闘僧はしらを切った。
「それで、いくつか情報を掴んだのですが、この国の東北部の草原で」


 三日後、勇者一行は王宮を離れ、シルクド東北部のティンザを目指した
 赤毛の傭兵が先頭で馬を走らせ、その後をセレスが続き、『勇者の剣』の運び役のナーダが後尾を務める。荒野や砂漠を越えるので、全員、日よけ・埃よけのフードマンを目深に被っている。
 アジャンには不思議な能力があった。彼は地図をほとんど見ない。一瞥しただけでかなり細かい記載まで記憶してしまうからだ。旅の途中で地図を確認するのはもっぱらナーダで、アジャンは迷うことなく馬を進めてゆく。砂漠をできるだけ迂回する最短ルートを選んで。しかも、地図にないオアシスや井戸に一行を導いたり、隊商の接近に気づいたり、夜盗をやり過ごしたりと、『旅慣れている』の一言では説明できない独特の勘の良さを発揮して。
「何となくわかる」と、アジャンは言う。
「どの方角に何があるのかまではわからんが、どっちに行けばいいのかはわかる。ろくでもないものが待ち受けている方角は、その方向に体を向けただけで総毛立つ。逆に役立つものがある方角を向くと、気分がいい」
「便利な勘ね」と、セレスが素直に驚く。
「その勘、外れた事ないんですか?」と、ナーダ。
「無い。俺はこの勘を頼りに今まで生きてきた」
「戦場でも?」
「ああ。何となくどっちが勝つかわかる。俺は勝ち組にしか自分を売り込まんから、負け戦の経験はない」
「ほう」
 ナーダが感嘆の声を上げる。
「それは一種の予知能力ですね。アジャン、あなた、きちんと寺院か神殿で修行を積めば、預言者になれますよ。それだけの資質があると思います」
「ケッ!くだらねえ!」
 僧侶になる気も神官になる気もねえと、アジャンは話を打ち切った。ナーダは『もったいないですねえ』と残念そうだったが、本気でアジャンを僧侶に勧誘する気はなさそうだった。


 ガダーラの王宮を旅立ってから十二日後、ついに乾燥地帯を抜け、山岳地帯に入った。
 まばらだった緑が、少しづつ周囲に息をふきかえしてゆく。山に登るに従って、丈の低い草や木が増え始め、水も容易に手に入るようになっていった。
 セレスは喜んで小さな川で、顔を洗った。全身や髪も洗いたそうだったが、その欲求を口に上らせる事はなかった。多少は大人の判断ができるようになったという事だ。
 アジャンとセレスはこの十二日の間、ほとんど口をきかなかった。セレスはアジャンに遠慮し、アジャンはセレスを故意に無視していた。だが、そのくせ就寝前にはセレスに剣の稽古をつけてやったりしていた。必要最低限の指示しか与えずに、だったが。


 更に四日後………
 山ふところの原野。そこは山腹でもあり、青々と草が茂った原野が果てしなく遠く山まで続いている。遠くに山羊や羊の群れが見えた。遊牧民の家畜だ。しかし、家畜を追う人の姿は見当たらなかった。
「そろそろ目的地ですね」
 いつものように野鳥を肩にのせ、ナーダ(道なき道を強行軍で来たので身なりを整えていない。黒い髪や髭が薄く生えている)は地図を開いた。地図からおおよその距離を測ろうと思ったのだ。
 だが、アジャン(こちらも髭が伸び、一層、野性味あふれる顔となっている)は、周囲をしばらく見渡した後、
「こっちだ」
 と、絶対の自信をもって馬を走らせて行ってしまう。慌ててセレスが後を追い、やれやれとナーダが鳥を空に放し二人に続く。
 アジャンが二人を導いたのは、草原の果て、南に面した斜面だった。崖崩れでもあったのか、山肌はめくれ、草木一本なく岩ばかりがごろごろと並んでいる。なだらかに下降していく斜面がずっと遠くまで続いている。
「ここが………何?」
 そこでセレスは気づき、びくっ!と体を強張らせた。
 岩と見えたものの中には、しゃれこうべも混ざっていた。人骨が点々と散らばっている。
「ここはもともと風葬儀礼の斎場だったそうです」
 と、合掌してインディラ式拝礼をしつつ、ナーダが説明をする。
「この地方では、風葬がさかんに行われています。屍は、見通しの良い場所に岩によりかからせる形で置いておき、鳥や野獣に食してもらうのです」
「風葬………」
 セレスもエウロペ教の印を切った。死者を弔う意味をこめて。エウロペ教では死者は土葬で眠りに就かせる。死骸を獣に食べさせるなど、馴染みのない考え方だ。
「なんでも、早く骨だけになる人の方が善人なのだとか。死者の魂は死後、白い鳥になるとも信じられています。だからでしょうかねえ、獣よりも鳥に食べられる事を望み、この先の麓からわざわざ、鳥の多いこの山腹の辺りまで死体を運んでくる喪主が多いのですよ。亡骸は、ここ、南に面する斜面の岩に横たわらせて安置されるのです」
「ふぅん」
「その風葬儀礼の斎場が一変しました、二月ほど前からです。ありうべからざる『岩の怪』によってね」
「『岩の怪』?」
「この地方で死者を岩によりかからせるのは、その岩に人の魂を染み込ませる為です………しかし、その魂の安息は破られました。二月ほど前から、人の魂と縁を結んだ岩を憑代にして魔族が続々と出現しているのです。ロック・ゴーレムです」
「五代目勇者様や八代目勇者様が戦った魔人よね、ロック・ゴーレムって」
「ええ。この地方の宗教上、ありえない怪異です、ロック・ゴーレムなんて………」
「よその国の大魔王教徒が邪法を用いたのかしら?」
「かもしれませんが、何でわざわざこんな辺鄙な場所で?って疑問は残りますね。二月ほど前から夜ごとロック・ゴーレムが旅人や遊牧民を襲っているようなのです。彼等は動きは遅いのですが攻撃力は凄まじく、馬の首もひとひねりで落としてしまうとか。岩なので刃が通らず、火にも屈せず、執拗に攻撃してくるそうです。足が遅いし活動できるのは夜だけなので、襲われたら馬に乗って一目散に逃げればまず無事だそうですが、地元の方々、ロック・ゴーレムに大切な家畜をずいぶん奪われているようです」
「………なんか、みみっちい話だよな」
 アジャンはボリボリと頭を掻いた。
「シルクド軍が放置して後回しにしてるわけだ。どんな魔族が絡んでいるか知らんが、ロック・ゴーレムを操って家畜泥棒とはな!」
「みみっちい話じゃありません。魔族が利用しているのは斎場の岩なのですよ。父祖の魂が穢されているのです、地元の方には大問題です」
「だが、死人が出ているわけでもない」
「そういうことではなく、宗教上の」
「宗教?魂が白い鳥になるんだか、岩にこもるだか知らんが、岩は岩だ。魔族に利用されている物なら壊すだけだろ?」
 赤毛の戦士の不敬な発言に、武闘僧は片眉をしかめた。
「この地方では、死者の魂は、一時、岩で安息し、それから白い鳥になると信じられているのです。斎場の岩は死者の亡骸も同然なのですよ」
 不愉快そうに眉をしかめたまま、武闘僧は説明を続けた。
「それから、ロック・ゴーレムの家畜泥棒は、多分、最終目的じゃありませんよ。ロック・ゴーレムは日ごとに数を増し、最近は軍事教練の真似事を行っているようです。いずれは都市を攻めにゆく気なのかもしれません」
「ほう、軍事教練の真似事だと?その話は初耳だな」
 赤毛の傭兵はじろりと武闘僧を睨む。
「何処で仕入れた情報(ネタ)だ、そりゃ?」
 おまえ、この所、ずっと俺達と一緒に居ただろう?との突っ込みに、ナーダは澄まして答えた。
「むろん、鳥に教えてもらったのですよ」
「ふ〜ん、世の中にゃ『鳥目』って言葉もあるよな。鳥って、夜、目が見えないんじゃなかったっけか?」
「うっ………」
 一瞬、ナーダは喉を詰まらせたものの、
「………夜に活動する鳥もいますよ、梟とか、みみずくとか」と、ひるまず答えたのだが、
「おまえが梟とかミミズクを肩にとまらせているのは見た事がないな」
 と、にやりと笑われてしまう。
「ま、いい。夜までこの辺で休むぞ。頭と顎でも剃って暇潰してな、クソ坊主。ケルベゾールドが自らやってるたぁ思えねえセコイ事件だが、魔族絡みの事件を解決してゆくのが勇者様の務めだ。とっとと片付けちまおう」
 そこで不機嫌そうな顔で武闘僧が傭兵に嫌味を言う。
「いいですけど………今夜、多分、あなた、ほとんど役立たずですよ、アジャン」
「何?」
「相手がロック・ゴーレムだからです。岩を相手に、ご自慢の大剣を刃こぼれさせたくはないでしょ?」
「俺の剣は岩をも斬れる」
「そういう問題じゃないんです。ロック・ゴーレムは魔人です。邪法によって今世の物質と融合した魔族に、物理攻撃は効果がありません。斬っても斬っても再生してしまいます。滅するには、魔界と今世を結んでいる絆を浄化するしかありません」
「まわりくどい言い方はよせ。どういう事だ?」
「ロック・ゴーレムを滅ぼせるのは、神聖魔法か聖なる武器による攻撃だけって事です。聖なる武器とは人ならざるものが鍛えし武器、つまり『勇者の剣』や『虹の小剣』『エルフの弓』がそれにあたります。あなたは魔法は使えませんしねえ………」
 ナーダは意地の悪い笑みを浮かべた。
「セレスから『虹の小剣』か『エルフの弓』を借りられてはいかがです?」
 赤毛の傭兵と女勇者が顔を合わせる。カルヴェルから借りた『虹の小剣』を鞘ごと腰から抜き、セレスは傭兵へと差し出した。
「アジャン、あの、良かったら………」
 皆まで言わせず、赤毛の傭兵は大声を出した。
「ンなオモチャみてえな武器、使えるか!」
「でも、私、神聖魔法なら使えるし、武器がなくても」
「いらん!」
 セレスから顔をそむけ、アジャンはナーダを睨んだ。
「確か、僧侶は、武器に祝福を与える魔法が使えたよな。刃に神聖魔法を宿らせる手もあるはずだ」
「その手も、まあ、ありますけどねえ」
 嫌そうにナーダが言葉を続ける。
「効果時間短いですよ、五分ぐらいしかもちません」
「効果が切れる度に魔法をかけ直せ」
 ナーダはツーンとそっぽを向いた。
「嫌です」
「何だと?」
「そんな面倒くさいこと、やってられません」
「きさま!」
 赤毛の傭兵が、武闘僧の僧衣の胸元をぐいっと掴む。横でセレスがはらはらと二人を見つめている。
「………どういうつもりだ?」
 脅されるように睨まれても、武闘僧は涼しい顔だ。
「あなたのわがままにつきあってなんかいられません」
「わがままだと?」
「ええ。『虹の小剣』を借りられないのは、あなたの勝手でしょ?はっきり言いまして、次の戦いで一番役に立つのは高位の神聖魔法まで使えるこの私です。邪法を浄化する役目は、セレスでは荷が重すぎます。あなたのお手伝いができるほど、私、暇じゃないんですよ」
「………」
「でも、どうしても、大剣に神聖魔法をかけてもらいたいのでしたら」
 ナーダは、にっこりと笑みを浮かべた。
「セレスに頼みなさい。セレスも剣に祝福の魔法をかけられます。ね、そうですよね、セレス」
「え?ええ………」
 セレスは戸惑った顔で、アジャンを見つめていた。
「私の魔法じゃ三分も効果は続かないけど、一応、使えるわ」
「と、いうわけです」
 武闘僧は強引にアジャンの手をふりほどいた。力勝負ならば、武闘僧は赤毛の戦士よりも遥かに強いのだ。
「戦闘中は仲良くくっついていてください。離れすぎると困るのはセレスではなく、アジャン、あなたですよ」
 歯ぎしりを漏らす赤毛の傭兵に背を向け、武闘僧は鼻歌を歌った。苦手な仲裁はやってみた。これで、二人の仲がどうなるかは神のみぞ知るだが。
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