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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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英雄の墓―――ペリシャ編 3話

 宿屋のシャオロンの部屋で、女勇者一行は聖戦士シャダムの願いを伝え聞いた。
 普段は幽霊の存在を否定する赤毛の戦士(降霊の為の魔法や儀式無しには幽霊と対話できないと言い切っているのだ)も、シャオロンが真剣な表情の為か茶々をいれず、真面目に聞き、話を受けいれた。
 考えなければいけないのは、バンキグのゲラスゴーラグン本人(もしくは子孫)に真実を伝える手立てと、女魔法使いユーリアの名誉回復の(すべ)
 過去の英雄達や東国の少年の為に、良いアイデアを出したいころのなのだが………


「日記にこの事を書くわ」
 女勇者セレスは両手を握りしめた。
「それから、お父様とお姉様にもお手紙を出すわ。次代勇者の甥っ子のグスタフにもこの事を知っておいてもらわないとね。それから、エウロペの国王陛下にも」
「それは、ちょっと待ってください、セレス」
 糸目を細めつつ、武闘僧ナーダが言う。
「シャダム様の語られた真実は、ペリシャ教の聖人であるあの方を辱める内容です。シャダム様が教えを捨て、ユーリア様への愛を選ぼうとしていただなんて、あなたが世に広めたら大変な事になります」
「たいへんな事?」
 ナーダは肩をすくめた。
「良くて、女勇者一行の処刑。悪くすれば、ペリシャ・エウロペ宗教戦争です。己の教義の聖人を辱められれば、敬虔な信徒ほど怒り狂うものです。真実を流布する事には賛同しかねます」
「だけど!」
「俺もナーダに賛成だ」
 ぼりぼりと赤毛を掻きながら、アジャンが言う。
「ユーリアって女魔法使いは、真実を世に広めて欲しかったわけじゃないんだろ?愛する男の経歴を穢すのを恐れる………そんな女だったんだろ?俺達が真実を広めたら、逆に怨まれるんじゃないか?」
「………でも」
「おまえが日記に書き残す分には構わないし、勇者一族が口承として伝えてもいい。だが、おせっかいはやめろ。女魔法使いの名誉回復なんざ必要ない。シャダムって奴の願いは、ゲラスゴーラグンって友人に真実を伝えてほしいってだけだったんだろ、シャオロン?」
「あ、はい、そうでした」と、シャオロン。
「なら、その方法だけ考えればいい」
「………そうかもしれないけど」
 うなだれる女勇者を気遣い、忍者が声をかける。
「セレス様、私めも、バンキグの英雄に真実を伝える策を探すのが先決かと心得ます。ゲラスゴーラグンとやらの幽霊に出会い、意志を尋ねてみてはいかがでしょう?」
「え?」
「女魔法使いの名誉回復を望むか否かにござる。真実を世に広めて欲しいのか、仲間だけがその真実を知っていればよいのか。故人の意志を尊重すべきかと………」
「………」
 女勇者は溜息をつき、東国の少年を見つめた。
「それでいい、シャオロン?」
「………はい。ユーリア様が悪人のように言われ続けるのは悲しいですけど………今、オレ達が勝手に本当の事を話して回っちゃいけないんだって、わかりました」
 少年は一度、頭を垂れ、それから元気よく顔をあげた。
「納得しました!今はユーリア様の事は誰にも話しません!」
「じゃあ、後はどうやってゲラスゴーラグン様か、その子孫に真実を伝えるかだけど………う〜ん、バンキグ王家にお手紙を出すとか」
「あ、それは無駄です」
 武闘僧がさらっと言う。
「ゲラスゴーラグン様の王家は三代で絶え、今の王家はまったくの別家系ですから。ま、庶子や兄弟の分家は残ってるかもしれませんが、百年前まで表だって活躍した記録はありませんでしたからねえ、望み薄かと」
「あら、そうなの?」
「そうですよ」
「よく知ってるわね、北方の歴史なんて」
「これぐらい常識です。正確な年月日まで暗記しろとは言いませんが、勇者ならば世界史ぐらい頭に入れておきなさい。でないと、恥をかきますよ」
 セレスは不満そうに、唇をとがらせた。
「それじゃあ、ゲラスゴーラグン様のお墓が何処にあるのかもご存じよね?大僧正候補様は、と〜ても博識ですもの」
 と、セレスは嫌味のつもりで言ったのだが。
「確か………バンキグの旧都の北東部の山中に慰霊塚があるはずです。四百七十年ほど前にマハラシ様の血族の子孫の方が訪れた記録がありますから。寺院の書庫で見た事があります。国交が断絶しているこの百年の間に何事も無ければ、まだそこに慰霊塚があるでしょう」
「………あなた、そんな事まで暗記してるの?」
 どういう頭してるのよ!と睨むセレスに、あなたとは構造自体が違うんです!と冷たく答えるナーダ。
 二人を無視して、アジャンはシャオロンに話しかけた。
「ジジイに移動魔法で運んでもらったらどうだ?」
「カルヴェル様にですか?」
 確かに、老魔術師に運んでもらえば、国境もものともせずゲラスゴーラグンの墓所に直接行けるが。
「だけど、誰にも知られずこっそり墓所に行ったんじゃ、オレがユーリア様の真実を伝えに来たって事、誰も見てくれないわけで………ゲラスゴーラグン様がユーリア様の名誉回復を望まれても、子孫の方にすらその真実を告げられません。そこに居るはずもない人間なんて幽霊や夢も同然です。オレが何を言ったって、真実と受けとめてもらえないかも」
「………ふむ」
 赤毛の傭兵は腕を組み直した。素直すぎる性格なので普段埋もれがちだが、シャオロンは結構鋭い人間観察眼を持っている。ナーダに言わせると、『策士の才もある』そうだ。
「おまえの言い分もわかるが、まともな手段じゃ、北には行けないぞ。北方側から発行される特別な通行許可書がなきゃ国境は越えられんのだが、この百年、数えるほどしか許可書は発行されてない。ゲラスゴーラグンの墓参りを願ったところで、許可書はおりまい」
「………そうですね」
「俺達は勇者一行だからな、ケルベゾールドがバンキグに居るのなら踏み込めるかもしれないが………居るんだとしても許可書は出ねえような気もするが、まあ確たる証拠がありゃ、大義名分をもって国境を越えられるかもしれん」
「はい」
「だが、ペリシャ、トゥルク、エーゲラのどっかで退治してしまうかもしれない。そうなっちまったら、勇者一行は解散。むろん、北方に行けるわけもない」
「………わかってます」
 東国の少年は力強く頷いた。
「これからも勇者の従者として働き続け、バンキグを訪れる機会を待ちます。でも、北方三国に着く前にケルベゾールドを倒しちゃうんなら、それはそれでいいと思います。だって、大魔王がいなくなれば、それだけ平和が早くくるんですから」
「だが、それでは」
 少年は、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫です!オレ、必ずバンキグに行きます!シャダム様は急がなくてもいいとおっしゃっていました。だから、何年、何十年かかってもいいから………正式に国境を越えて、シャダム様が見せてくださった真実をゲラスゴーラグン様に伝えに行きます」
「そんな事、あなた一人にさせられないわ!」
 セレスはしっかりと少年の右手を握った。
「シャダム様はホーラン様の末裔にその役目を託したいって願っていたのでしょ?私に任せなさい、シャオロン!あなたにはお父様の跡を継ぐ夢や、村のみなさんをきちんと葬りたいって願いもあるでしょ!」
「でも、セレス様では………失礼ですけど………」
 少年は言いにくそうに言った。
「ゲラスゴーラグン様にお会いできないと思います」
「え?」
「そーですね、あなた、私同様、霊感ゼロですものね。眼の前にゲラスゴーラグン様の幽霊が立ってても、気づきもしないでしょうね」
 と、横から武闘僧の冷たい突っ込みが。
 ぐっと喉を詰まらせた後、セレスは身を乗り出した。
「じゃ、一緒に行くわ!あなたの望みを叶える為、私も努力するから!」
「え、でも、そんな………」
「やるったら、やるわ!私達、勇者と従者でしょ!仲間を信じ、助け合わなきゃ!ケルベゾールドを倒す前も倒した後も、私達の絆は変わらないわ!あなたは私のケルベゾールド退治に付き合ってくれてるんだから、その後は私の番よ!あなたの願いの成就の為に、私が協力するわ!」
「セレス様!」


 ひしっと抱き合うセレスとシャオロン。
 その横の忍者は『セレス様がいらっしゃるのなら、北方だろうが魔界であろうがお供いたします』と、言い、『いざとなったら通行許可書を偽造いたしますゆえ、ご入り用の時はご指示を』とか言って、二人の感動の抱擁に水を差していた。
「ケッ!馬鹿らしい!」
 赤毛の傭兵はボリボリと頭を掻いた。
「あいつらの頭の中には、旅の途中で命を落とすとか、大魔王に敗れるとか、ねえんだよな。大魔王戦後も生き延びてるのを前提に話をしてやがる」
「悲観主義者の私やあなたでは、ああはいきませんよね」
 抱き合っている二人を少し羨ましそうに見つめながら、武闘僧は言葉を続ける。
「ユーリア様の事、大僧正様に書面でお知らせしておきます。私達が大魔王と相討ちとなって全滅しても、勇者一族とインディラ寺院さえ真実を知っていれば、いつかは必ず、ユーリア様の真実をバンキグにもたらせるでしょう」
「ふん」
 傭兵は顔を歪めた。
「………死ななくても五体満足じゃなくなるかもしれん。俺の昔の仲間には、両足を失った奴もいる。失明した奴も、な。けど………」
「けど?」
「馬鹿女もシャオロンも、生きてる限り、どんな体になっても、バンキグを目指すんだろうな。嫌になるぐらい馬鹿な奴等だからな………ま、北方なんざ行けるわけがない。許可書なんか絶対、出るもんか。夢見たけりゃ、夢みてりゃいい」
 夢なんか見るのも御免だとばかりに頭を振って、アジャンは部屋から出て行った。
「やれやれ、素直じゃありませんねえ、まったく」
 ナーダは溜息をついた。
 口では二人をなじっていた。が、傭兵は二人と一緒に行くつもりだ。もったいつけて、さんざん文句を言いつつも、行くとなったら二人を守る為に、きっと………
 武闘僧は両腕を組んだ。ナーダが俗世に交われるのは、大魔王を倒すまでだ。大魔王討伐後は、総本山に戻り、修行を再開しなければいけない。
 けれども………
(大魔王討伐後にバンキグを目指す事になったら、仕方ありません、同道しましょう。インディラ教を邪教扱いする北方には正直行きたくありませんが、私の優れた頭脳と交渉術それに魔法が無ければ女勇者一行は全滅してしまうだろうし。過去の勇者の従者の為の旅なのです、大僧正様もお許しくださるはず)


 抱き合う女勇者と従者の少年。
 二人は信頼という絆で結ばれていた。
『英雄の墓―――ペリシャ編』 完。

次回は………

* 十八歳以上で男性の同性愛話でもOKという方 *、
 ムーンライトノベルズの『女勇者セレス―――夢シリーズ』をご覧ください。
 『三度の夢』。舞台はトゥルク。ジライの話です。


* 十八歳未満の方、男の同性愛ものはパスという方 *
 このまま、『小説家になろう』で。
 『彷徨う光』。舞台はトゥルク。
 スルタンの王宮を訪れた勇者一行の話です。
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