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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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黄昏の河 9話

「本当に良いのですか、セレス?」
「ええ。良いに決まってるじゃない。王宮と寺院の和解に立ち合うんでしょ、しかも、仲介役で。是非、役目を果たすべきだわ」
「しかし、国王が今回の事件の事後処理を終えてからの会談ですよ。総本山まで片道三日ですし、向こうに着いてからあれこれ儀式もあります。どう少なく見積もっても、二週間はかかりますよ」
「多少、出立が遅れても構わないわ」
「それに………総本山は女人禁制の聖山です。あなたをお連れするわけにはいきません」
「わかってるわ。私、シャオロン達とウッダルプルで留守番してる。シャオロンの武術訓練とかペリシャ語の勉強とか、やっておいた方がいい事はいっぱいあるもの」
「ですが」
「ん、もう!グチャグチャうるさいわね!ナーダ、あなた、総本山に行きたいの?行きたくないの?」
「それは………」
「王宮と寺院の和解に立ち合いたいんでしょ?大僧正様にもお会いしたいはずだわ。だったら、行きなさいよ」
「セレス………」
 武闘僧は女勇者に対し、頭を下げた。
「ありがとう、セレス………お言葉に甘えさせていただきます。なるべく早く戻るようにしますね」


「勇者一行の到着が遅れりゃ、それだけ人が死ぬ。魔族の支配領域も広がりかねん。とっとと旅に出た方が良いに決まってる。あの馬鹿女、一時の気分でおまえの遠出を許可しやがって、後で被害者の山を見てわんわん泣くんだろうさ」
 赤毛の傭兵は、うんざりだ!と言わんばかりに、両手を広げた。王宮の彼の為の部屋で武闘僧と二人っきりなので、口の悪さに容赦がない。
「私も早く旅立った方がいいと思うのですが」
 ナ−ダは苦笑を浮かべた。
「………この和解、できれば見届けたいのですよ。自分の心の闇を葬りきる為にも」
「ふん?」
「もしも、寺院に預けられる事なく、大僧正様にお会いする事もなく、王宮で私が育っていたら………ウズベルは忍者頭のカバーリではなく、私に憑いたでしょう。はっきりいいまして、私は心が狭く、底意地が悪く、プライドばかりがバカ高い浅慮な人間です」
「それは知っている」
「………それはどうも」
「だが、きさまは良い意味で見栄っ張りに育った。僧侶となった以上、人徳あふれる僧侶を演じたいんだろ?」
「ええ。大僧正様に褒めていただきたいので。でも、それは、大僧正様がいらっしゃらなかったら、相当、あくどい人間になっていたという事です。父や王宮への憎悪を、これを機会に完全に葬ろうと思います」
「………好きにしろ」
「ええ。そういうわけで、あなた、留守番お願いしますね」
「ケッ!酒場もねえクソ面白くもねえ街で、馬鹿女のお守りかよ」
「………馬鹿女ねえ」
 武闘僧は顎の下に手をあてた。
「セレス、だいぶ勇者らしくなってきたと思うのですが、まだ馬鹿女なんですか?」
「あれは何処をどうみても、救いがたい馬鹿だ!あいつ、毎日、毎日、夕方に、何処に行ってると思う?」
「さあ?私、最近忙しくって、護衛役をお任せしっぱなしだったので、出かけているのすら知りませんでした」
「寺院の傍の河畔だ!アホ面さげて、来るわけもない忍者を待ちぼうけてるんだ!」
「忍者?」
「暗殺者の忍者ジライだ。あの女、自分の命を狙っている忍者に、妙に肩入れしやがって………死にたいとしか思えん」
「忍者ジライに会いに?何で、河畔へ?」
「ウズベルを倒した後、セレスが奴に手紙を渡したんだ。『夕方に、以前、会った河畔へ行く。ウッダルプル滞在中は可能な限り毎日、行く。会って話がしたい。都合がよい時に顔を見せて欲しい』ってな手紙らしい」
「それで、日参してるんですか?」
「ああ!今日の夕方で三日目だったんだが、今日こそ来てるかもしれないって、毎日、毎日、いそいそ出かけやがるんだ、あの馬鹿!来るわきゃねえのに!」
「で、あなたは、それに付き合ている、と?」
「護衛役だからな」
「シャオロンに任せればいいのに」
「馬鹿言え!相手は忍者なんだぞ!シャオロンと、ついでにセレスの身に何かあったらどうする?」
「………セレスの方がついでなんですか………?」
「くそ!女勇者の従者になんざなるんじゃなかった!エーゲラに居りゃ良かった!何で俺はくそ忌々しい女の従者になりに、エウロペに行っちまったんだ!くそ!」
「ご自慢の危機回避能力は働かなかったんですか?」
 赤毛の傭兵が、ジロリと武闘僧を睨む。
「………あの時、俺は北に………エウロペに幸運が転がっているように思えたのさ。とんだ大外れだったがな。勘が外れたのは、生まれて初めてだ」
「では、今、あなたの勘は、セレスに関して何と告げているのです?」
「とっととケルベゾールドを倒して、あの馬鹿と縁を切れ!大声でそう叫んでいるぜ!」
 あああああ、むしゃくしゃする!と、赤毛の傭兵は赤い髪をかきむしった。
 武闘僧は首を傾げた。
 ナーダはアジャンの勘に信頼を置いていた。
 魔に敏感で、危機察知に優れ、己の進むべき道を無意識に知ってる彼の能力は非凡だ………正式な修行を積めば、未来を見通せる預言者となりうるほどだ。
 だが、どうも………セレスが絡むとアジャンは平常心を失って、その能力を自ら曇らせているように見受けられた。
 セレスへの激しい感情………
 それが、いずれ、傭兵にとって命取りとなるかもしれない………ナーダは漠然とそう思った。


 河畔に通い始めて十四日目………
 岸辺に座り、夕日に照らされ、黄金色に輝く河をセレスは、ぼんやりと見つめていた。
 目立つ『勇者の剣』と白銀の鎧は王宮に置いて来ている。フードマント姿だったが、河べりではフードは被らず、外から金の髪とその顔を見てもらえるようにしていた。何時、待ち人が通りかかってもいいように。
―――その耳に、聞き覚えのある声が届いた。
 セレスは立ち上がり、周囲を見渡した。空耳ではない。聞こえたのだ、『女勇者セレス殿』と呼びかける声が。
「ジライ!何処なの?姿を見せて!」
 斜め後方の木の幹に寄りかかっているアジャンを除けば、行きかう舟が見えるだけだ。周囲に人影はない。
 何ゆえ、ここで待っておられたのだ?と、問う声が聞こえた………ような気がした。セレスは叫んだ。
「だって、私、手紙で約束したもの!ウッダルプル滞在中は、来られる時には必ずここに来るって!」
 日参しておられたのか?との問いには、セレスはかぶりを振った。
「一度、近くの村まで魔族退治に行ったの。三日ほど、ここに来なかったわ。でも、それ以外の日は必ず来たわ。いつ、あなたが来てもいいように!」
 何故、我にこだわる?そうジライは尋ねた。
「あなたと話がしたいのよ!出て来て、ジライ!お願いだから!」
 ゴォォォォーッと音を立てて、突風が吹いた。時ならぬ風に目を細め、セレスは顔に張り付く金の髪を払った。埃を避ける為に目の上に手を当てて、セレスは前方を見た。
 人が居る。風をまといつかせるように、強い風の中、微動だにせず佇む者が。覆面に黒装束。背には忍刀、腰に大小の二刀を帯刀している。
「ジライ」
 セレスは笑顔を浮かべた。
 東国の忍者は横目で、セレスの斜め後方の樹木の下の男を見つめていた。セレスはちらりと背後に目をやった。
「護衛の為についてきてくれたの。気にしないで」
「………」
 アジャンに視線を向けたまま、忍者は口を開いた。
「まだウッダルプルに居られるとは思わなんだ。とうにペリシャに旅立たれたものとばかり………」
「ナーダの、あ!えっと、仲間の都合よ。でも、こうして、あなたと会えたのですもの。良かったわ」
「………来る気はなかったのだが」
 ジライは溜息をついた。
「グジャラが行けとうるさいので、な」
 忍者は懐から取り出した物を左の指に挟み、セレスに見せた。それは、セレスが情報屋グジャラに預けたジライへの手紙だ(グジャラの元へ手紙を届けたのはアジャンで、情報屋に預かり料も取られている)。
「情報屋に伝言を頼むとは常識外れの方だ」
「だって、あなたの知り合い、あの人しか知らなかったんですもの。十日前に預けたのよ、あなたとすれ違いになってしまった時の用心に」
「………中身、読まれましたぞ」
「別に構わないわ。読まれて困る事、書いてないもの」
「これは………」
 と、ジライは手紙を軽く振った。
「………本気なのか?」
「ええ」
 力強く頷くセレスを、覆面の下の黒の瞳が不思議そうに見つめる。
「我はあなたの命を狙っていたのだぞ」
「仕事で、でしょ?」
「しかも、大魔王教徒じゃ」
「もと、でしょ?四天王も斬っちゃったし、今では大魔王教団は敵のはずよ」
「………」
 ジライは口をつぐみ、眉をしかめ、瞳を伏せる。
 セレスは忍者の顔を見上げた。覆面をしてるので目元ぐらいしか見えなかったが。東国人にしては、ジライは背が高い。小柄なセレスは彼の肩ほどの身長しかなかった。
「気が進まないのなら、いいのよ。他にやりたい事があるのなら………」
「何も………」
 忍者はゆっくりと瞼を開いた。
「………やりたい事など、何もないわ」
 セレスは違和感を覚えた。
 何かが違う。何がどう違うのかはっきりとはわからないけれども、ジライから受ける印象が以前とは異なっている。
「ジライ、あなた、今日まで何をしていたの?」
「………仕事を」
「仕事?」
「少々、値のはる情報を買いたかったのでな、斡旋屋に適当な仕事を紹介してもらい小金を稼いでいた」
「どんな仕事?」
「………あなたにはお教えできない(たぐい)の仕事だ」
「犯罪なの?」
「忍者の仕事は本来、そういったものだ」
 セレスはジライの黒の瞳をジッと見つめた。
 刃のように鋭く、冷徹な光をたたえていた瞳は………そこには無かった。
「あなた、これからどうするの?」
「………どうとは?」
「したい事がないんでしょ?何処でどうやって暮らすの?忍の里には戻らないと言ってたわよね?」
「うむ。戻れば死なねばならん。我は掟を破った………任務を捨てて私闘に走り、あげく依頼主を殺してしまった。死をもって償っても許されぬ」
「でも、魔族の方からあなたにちょっかい出してきたんじゃない!あなたは体を盗まれ、部下を殺されたんですもの、反撃して当然だわ!」
「我は里の名を穢したのじゃ、里の忍者であり続けるのなら自害せねばならぬ」
「ジライ!」
「だが、死にとうはなかった。だから、戻らなかった。里を抜け、抜け忍となったのだが………」
 ジライの目元が歪んだ笑みに崩れる。
「何をすれば良いのか、さっぱりわからぬのだ。サリエルもウズベルも消えた。我を辱めた魔族はもはや居らず、インディラに居る限り追い忍すらかからぬ。戦うべき敵はなく、任務もなく、里の拘束もなく、庇護すべき部下もなく、誇りであった二つ名も失った。我は生まれて初めて自由というものを味わっている。しかし、それが………これほど虚しきものとは思わなんだわ」
「ジライ………」
「我は常に誰かに支配されてきた。他者の支配をうとましく思い、はね除けんが為に、己を鍛え、手駒を増やし、里の上層部と繋がり、次期頭領にまで上りつめた。だが、それも、里の枠があっての事。指令を与えてくれる者も部下も居ない今、何をすべきかわからぬ。我は何一つできぬ。やりたい事など何もないのだ」
 セレスは気づいた。ジライの目には精彩が駆けているのだ。今のジライの瞳は、ただ物を映すだけの鏡のようだった。
「やりたい事がないなんて、あなたの勘違いよ」
 セレスはぐっと身を乗り出した。
「だって、あなた『値のはる情報を買いたかった』って言ってたじゃない?知識欲があるって事は」
「里の情報が買いたかっただけだ」
「え?」
「里が魔族の支配下にあるのならば、魔族どもを討ちに戻ろうと思ってな。だが、頭領は、里に居ついておった大魔王教徒どもを一掃しておった。ついでに反乱分子どもも処分し、己が支配を盤石なものとしたらしい。我の出る幕などないわ」
「でも………でも、絶対、何かあるはずだわ!捨て鉢になっちゃ駄目よ!よく考えて、絶対、何かやりたい事があるはずだわ!」
「………」
「ああ、そうね。大げさに考えないで、趣味とかでもいいと思うの。何かやりたいと思う事はない?」
「………新盆はやりたい」
「にいぼん?」
「ジャポネでは、夏に死者の霊を祭る行事をする。それを盆と言う。死後、初めての盆を新盆と言う。この世に未練を残す霊を招き、心残りを無くしてやるのが生者の務めじゃ。魔族との一件では我は不手際で部下を殺し過ぎた。新盆だけはやっておかずばなるまい」
「………そう」
 死者を悼む気持ちが支えとなり、生きる気力に繋がればよいと、セレスは思ったのだが。
「それ故、夏までは生きる」
「え?夏まで?」
「大魔王教徒の新盆は、邪法を用いて彷徨う霊と対話し、心残りを聞き出す儀式。今年は霊どもの願いを何でも叶えてやろうかと思う」
「霊の願いって?」
「さまざまじゃ。恋しいおなごに恋文を届けて欲しい者も居れば、憎い相手を殺してくれと願う輩も居り………死後の世界が暗くて寂しいから共に来てほしいと望む者もいる」
「共にって………あなた、死ぬ気なの?」
「死ぬ気はない」
 否定されたので、セレスはホッと息をついたのだが。
「だが、生き続ける気力もない。我が死を望む者が居れば、聞き届けてやるつもりだ」
 セレスは………
 怒りのあまり顔を紅潮させ、体を小刻みに震わせた。
 そして、右手を振り上げると………
 その平手で………
 忍者ジライを………
 思いっきり張り飛ばしたのだった………


「はぅぅぅぅ!」


 きりきりと宙を舞い、ドタン、バタン、ゴロゴロと、忍者ジライの体は河畔を転がっていった。
 あまりの出来事に、赤毛の傭兵も驚き、身を乗り出していた。
「きゃあああ!ごめんなさい!そんなに強くやったつもりなかったんだけど!」
 セレスは慌ててジライの元へ駆け寄った。
 殴られた左頬を押さえながら、忍者ジライはぶるぶると震えながら蹲っていた。
「痛かった?ごめんなさい!あなたが、あんまり情けない事を言うから、つい手がでちゃったの」
「………情けない?」
「だって、死者に連れて行かれても構わないんだなんて………あなた、馬鹿よ!」
「うっ!」
 ジライは己の心臓を右手で押さえた。
「あなたが死んじゃったら、シャイナで、あなたを庇って亡くなった部下が無駄死にになってしまうわ。あなたは生きなきゃ、駄目よ。生きて生きて生き抜いて、あなたが幸せになる事が部下への恩返しじゃなくって?それがわからないなんて、今のあなたは、大ボケの、大まぬけ、いじけて腐る虫けら以下の人間よ!」
「ああああああああぁっ」
 ジライは己が心臓の動悸を抑えるように、胸を押さえている。
「どうしたの、急に?何処か具合でも?」
「セっ………セレ、ス殿………」
 ハアハアと荒い息を吐きながら、よろよろと忍者が上半身を起こす。
「あなたに殴られた瞬間、閃くものがござった………い、今、一度ぉ………今度は右を………右頬を叩いてはいただけまいか?」
「え?いいの?」
「是非!」
「それじゃあ………」
 セレスは右手をひねり、スナップをきかせた手でジライの右頬にびんだを喰らわせたのだった。


「はぅぅぅぅ!」


 やはり、きりきりと宙を舞い、ドタン、バタン、ゴロゴロと、河畔を転がっていく忍者ジライ。
「そんなに強くやってないわよ!あなた、大袈裟すぎない?」
 セレスが駆け寄ると………
 忍者ジライはガバッ!と体を起こしたのだった。
「目が覚めました」
「え?」
 目をぱちくりとさせるセレス。
 忍者ジライはきらきらと目を輝かせ、その黒の瞳に女勇者の美貌を映した。
「やりたき事が見つかりました」
「え?本当に?」
「はい。セレス殿………いえ、セレス様のおかげにござりまする」
「そう?何だかよくわからないけど、良かったわ、あなたが元気になって」
「かたじけのうございます」
 ジライは片膝をつき、セレスに対し深々と頭を下げた。
「改めてご挨拶に参りますが、今日はこれにて。所用がありますゆえ」
「わかったわ。元気でね」
 忍者の姿がフッと消える。すばやい体術で身を隠してしまったのだろう。
「何なんだ、あの忍者は?ぶん殴られた途端、元気になりやがって」
 呆れ顔のアジャンに、セレスは微笑みかけた。
「アジャン、今日まで付き合ってくれてありがとう。あなたのおかげでジライに会えたわ。本当にありがとう」
「ケッ!」
「彼が元気になって………良かったわ」


 その四日後に、ナーダが王宮に戻った。国王と寺院の和解会談終了後、一人、早馬で戻って来たのだ(国王の王宮への帰還は五日後なので、これ以上、出立を遅らせては心苦しいと急いで戻って来たのだ)。
 一行は旅の支度を整え(ナーダはジャガナート僧正の元に挨拶にも伺っていた)、二日後にインディラの首都を後にし、西のペリシャをめざした。


「はぁぁぁ」
 ナーダが馬上で溜息をつく。
「これで、四十三回目ですよ、ナーダ様」
 その前を進んでいたシャオロンの指摘に、武闘僧は弱々しい笑みを見せた。
「もうそんなになりました?私も溜息をつくまいとはしているんですけれど、どうにも止まらないんですよ」
 そして、四十四回目の溜息をつく。
「放っておきなさいな、シャオロン」
 少年の隣に馬を寄せながら、セレスが言う。
「ナーダは、今、重症のホーム・シックなのよ。この分だと、後、二、三日は使いものにならないわね」
 ああああああ、大僧正様………と、遥か彼方の聖山の方角を見つめ、糸目をうるませる武闘僧。この世で最も尊敬し慕っている人物と別れてきたせいで、すっかりへこんでいるのだ。
「………早く大魔王を倒しましょうね、セレス」
 ナーダの顔には『大魔王を倒して、晴れて大僧正様の下に帰りたい!』と、書いてあるようだった。
「セレス!」
 先頭を進むアジャンが不機嫌そうに声を張り上げる。無駄口はやめろという事だろうか?
「なぁに、アジャン?」
「………おまえに客だ」
 セレスは手を額にかざした。
 街道の先に誰かが居る。馬に乗っている。黒く見えるあれは………
「!」
 セレスは鞭を使い、馬を飛ばした。背後でアジャンが怒鳴っていたが、構わなかった。しゃにむに馬を走らせた。
 馬上の人物はセレスが近づくと、ひらりと馬から降りて膝をついた。黒装束に覆面。背には忍刀、腰には『ムラクモ』と小刀………忍者ジライだ。
 セレスは手綱を引いて、愛馬を止めた。背後から響くアジャン達の馬の蹄を耳にしながら、セレスはにっこりと微笑んでいた。
「お誘い、お受けいたします」
 ジライの左手には、グジャラを通して渡した手紙があった。『あなたが魔族と戦い続けるのなら、共に戦いましょう』と書いた手紙だ。
「一緒に戦ってくれるのね?」
 ジライは頷きを返した。
「このジライ、卑しき忍なれど、セレス様の尊きお心に触れ、あなた様こそ主人と確信いたしました」
「え?」
「セレス様、どうぞ(わたくし)めをあなた様の従者の列にお加えください。私は生まれてこのかた、強者の支配を受け入れて生きて参りました。私には主人が必要です。主人なしでは己を保てず、生きてゆけませぬ。なれど………どうせ支配されるのであれば、あなた様のようなお心美しき女人に従いとう存じます」
「ジライ………」
「路銀は整えて参りました。あなた様から報酬をいただく意思はございませぬ。ただ、お側に侍る事をお許しください。以後、陰ながらセレス様につき従い、セレス様をお守りする事をお許しくだされ」
 セレスは下馬し、ジライの前に立った。
「従者に迎えるのには条件が二つあるわ。一つはケルベゾールド信仰を捨てる事」
「もはや捨てました」
「もう一つは、邪法を封じる事。できる?」
「………ご命令とあらば」
 セレスは大輪の華のような艶やかな笑みを浮かべ、ジライの手を取り、立ち上がらせた。
「なら、今日から、あなたは私達の仲間よ」
「セレス!」
 赤毛の傭兵が吠えるように叫んだ。が、女勇者も負けじと声を張り上げる。
「魔族を敵とする者は味方よ!私達の敵はケルベゾールドとその部下の魔族よ!人間じゃないわ!」
「ま、確かに、その通りですねえ」
 と、のんびりとした口調でナーダが言う。
「人間は誰しも過ちを犯すもの。無垢な人間なんて居ませんよ。改心したって言うのなら良いんじゃないんですか、元暗殺者でも仲間に加えても」
「ありがとう!ナーダ!」と、セレス。
「ナーダ、てめえ!」
 睨みつける傭兵を、武闘僧は無視した。シャイナで逝った好敵手との出会い、そして、インディラでの父との和解が、武闘僧を変えていた。セレスほど楽天的にはなれないが、頭から他人を悪と決めつける事はもうすまい、そう思うようになったのだ。
 セレスは上機嫌になった。
「じゃあ、多数決でいきましょう!ねえ、シャオロン、あなたはどう思う?ジライを仲間に加えてもいいかしら?」
「え?」
 アジャン、セレスと順に見つめてから、少年は忍者に視線を止めた。何度となくセレスの命を狙ったこの男には、敵意しか感じない。ジャポネから、ずっと、この忍者の死を望んできたのだ。
 しかし………
「セレス様がそうしたいのなら………オレは、セレス様のお言葉に従います」
「ありがとう!シャオロン!」
「馬鹿野郎!シャオロン!自分の意志を持て!」
 セレスはベーッと舌を見せた。
「三対一。あなたの負けよ。今日からはジライは私たちの仲間よ、いいわね?」
 ぎりぎりと歯を噛みしめ、赤毛の傭兵はそっぽを向いた。
「好きにしろ!おまえがその忍者に暗殺されても、俺は知らんからな!」
「ん、もう!もう暗殺なんかしないわよ!ね、ジライ?」
「はい。もう二度とお命は狙いませぬ」
「聞いた、アジャン?」
「ああん?聞こえねえな。馬鹿どものたわごとなんざ、何も聞こえねえよ!」
「あなたねえ!何よ、その態度は!誰かれ構わず誰にでも馬鹿、馬鹿、言うあなたって………」


 大魔術師カルヴェルは千里眼の水晶珠から顔を上げ、ホホホと愉快そうに笑った。
 女勇者セレス、赤毛の傭兵アジャン、武闘僧ナーダ、格闘家の少年シャオロン、そして忍者ジライ。
 五人となった勇者一行は、カルヴェルの目から見て、まだまだ頼りなかった。が、それでも、明るい未来を予想させてくれるしなやかさがあった。
「そのうち、又、遊びに行くかの」
 カルヴェルは、五人を愛しく思い、その白髭を揺らし、ホホホホと笑うのであった。
『黄昏の河』 完。

次回は『師と弟子』。舞台はペリシャ。
カルヴェルとセレスの話です。

+ + + + + + + + + + +
   おまけ
――AちゃんとKさんと私(だいたい実話)――

私「Aちゃん、ありがとう。キミの助言通り『逆ハー』のキーワードいれたら、検索増えたよ(第二章開始前、ちょっとだけ書き換えました)」
A「でしょー?(ちょっと得意そう)」
私「あんま逆ハーな感じしないんだけどね。セレスちゃん、最初、いじめられまくってたから」
A「美形、美少年、ホモ、異形、女王様、年の差、身分違い、主人公モテモテに、もと王子様まで加わって、本当なら、萌え要素もりもりのはずなんだけど………もと王子様、ハゲだしな。キーワードに使えないね」
私「禿頭って萌えじゃない?」
A「ごく一部の世界なら、萌えかもね」
私「私的には『忍者』とか『武闘僧』がツボなんですが………」
A「………もうちょっと世の中の流行をリサーチしてから書きなよ」
K「だいたいタイトルが地味なんだよ、『女勇者』じゃ、弱い。見てもらおうと思うのなら、インパクトのあるタイトルでなきゃ」
私「たとえば、どんな?」
K「『姫勇者セレス』!」
私「………」
K「『何だ、これ?』って最初のつかみはOKだ」

 いやいやいやいやいや、それ看板に偽りありだから!
 姫じゃないしw

 てなわけで、たまにキーワードとか変えるかもです。
 本文もたまに手を入れてますが、誤字脱字の修正、わかりづらい文章を直したりぐらいで、大きな変更はありません。
+注意+
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