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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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黄昏の河 5話

 ウッダルプル郊外の岩山の山頂には、要塞城跡がある。
 三百年ほど前の勇者ロイドの時代、大魔王討伐が遅れ、ユーラティアス大陸は魔に席巻された。インディラも例外ではなく、首都ウッダルプルは焦土と化し、国の中枢は壊れた。
 燃え盛る王宮から逃れ落ち延びた第六王子が、国王軍やインディラ僧侶達と共にたてこもったのが、この山の要塞だった。
 最後まで抵抗を続けたその第六王子が、ロイドの大魔王討伐後、国を取り戻し、ラジャラ王朝国王となるのだが………
 三百年前に魔族と戦い抜いた強者(つわもの)どもの要塞も、今は使用する者もなく、朽ち果てていた。
 過去の歴史を語るだけの、遺跡となっていた。 
―――その無人の遺跡を利用する者達がいた。
 大魔王教徒だった。
 昨年の大魔王復活の託宣から、九月までの間、大魔王教徒は、度々、この地で集会をしていたようだ。十月より大魔王教徒はなりを潜めているので、あやしげな集会も無くなってはいたが。
 王宮から提出された資料にはそう記されていたし、グジャラの情報から裏は取れている。今更行ったところで手がかりがあるように思えなかったものの、他に手がかりが無い状態ならば一度は訪れようと思うはず。王宮から提出された資料で、大魔王教徒関連で具体的な地名まで記されていたのはここだけなのだから。
 その上、現在、城塞跡には人気(ひとけ)が無い。
 あの資料を作った者は、この地に女勇者を招きたかったに違いない。
 襲撃に最適な場所の為………
『勇者の剣』を背負った白銀の鎧姿の女勇者セレスと、東国の武闘家の少年シャオロン。二入は山頂への坂道を騎乗で進んでいた。
 シャオロンはがちがちに硬くなっていた。無理もない。何時、敵の襲撃があってもおかしくない状態なのだ。命に代えてもセレス様を守る!と、覚悟を決めているのだ。
 表情に出さないように気を付けてはいたが、セレスも、又、かなり緊張していた。赤毛の傭兵も武闘僧も、今は居ない。二人が二人とも故意に護衛から離れるのは初めてではないか?それに、今はシャオロンが一緒なのだ。セレスは少年の保護者を自負していた。彼の命を守らなくては………
 山頂に登り、眼下を見下ろすと、ウッダルプルの街が一望できた。巨大な王宮と巨大な寺院、街の西を流れる河、整然とした街並み。河の周囲は、王宮や寺院同様、緑に包まれていた。しかし、豊かに流れる河も街より先は荒野へと繋がっている。
 崩れた城壁の境目から中に入る。
 左右には、廃墟となった堅固な建物が並んでいた。昔は、兵士の宿舎や倉庫だったのだろう。
 建物の間を抜け、軍隊の閲兵式ができそうな広さの広場に足を踏み入れる。
 見るとはなく、そこから廃墟を眺めていると………
 空が揺れた。
(来た………)
 セレスは拳を握りしめた。
 シャオロンが戦闘準備を始める。背の革袋から、爪を取り出し装備したのだ。
 移動魔法で現れたのは―――忍者だった。
 東国の忍者とも寺院付きの忍者とも装束は異なっており、威圧的な黒い兜で素顔を隠し、黒のチュニックにズボン、その上に肩・胸・腕・脚に黒い装甲をつけている。腕と脚の装甲の側面には、トゲのような装飾がついていた。
 忍者は両腕を組み、馬上のセレスを見上げた。
「そのような子供一人を供につけ、かような地までいらっしゃるとは………命がいらないものと見受けられる」
「あなた、王宮付き忍者ね?忍者頭のカバーリなの?名乗りなさい」
 忍者は声をたてて笑った。
「死にゆくあなたに名乗る必要があろうか?」
 忍者が右手をあげると………
 その背後から、人間が湧いてくる。剣や槍、弓などの武器を装備した、屈強そうな男達。全員、目を爛々と輝かせて、異常なほど興奮していた。口からだらしなくよだれを垂らしている者、ハアハアと息を乱している者もいる。
(薬物中毒?)
 セレスは魔薬屋でもあるグジャラから聞いた『戦士の矛』の事を思い出した。
『飲めば、一時的に筋力が増強し、痛覚を失い、死の恐怖を忘れる。しかし、中毒性が高く、一度でもこの味を覚えると止められなくなる。たいていの奴は三カ月で廃人だな』。
 忍者が右手を振り下ろす。
 それを合図に、忍者の背後の者達が襲いかかってきた。
 シャオロンが『龍の爪』を顔の前で交差させ、それから前方に突き出した。
 両爪の前の空気が揺らぎ、竜巻が生まれる。竜巻は近づきつつあった者達を後方へはじき飛ばした。しかし、忍者は微動だにしない。
 馬上から飛び降り、シャオロンが爪を閃かせる。
 黒兜の忍者を狙って。
 けれども、その攻撃は、忍者の背後から飛び出して来た者に阻まれた。
 着物と袴からなる黒装束に覆面、東国の忍者だ。シャオロンとさほど変わらない背の忍者が、忍刀で爪を弾いたのだ。続いて、同じ背丈の三人の忍者がシャオロンに襲いかかる。順番に攻撃しては退き、退いては、又、攻撃をしかける。四人の連携攻撃に、素早さで勝るシャオロンが押されてゆく。
「シャオロン!」
 下馬したセレスが『勇者の剣』を振るう。
 四人の忍者は、サッと身をかわして引いた。跳躍して、後方に移動したのだ。
 代わりに押し寄せて来た大魔王教徒を、セレスは大剣で薙ぎ払った。
 血が舞いあがる。
 だが、傷を負っても、敵は前進を止めようとしない。腕を斬られようが、肩を砕かれようが、腹を斬られようが、立ち上がり迫って来る。
 痛覚が無いのだ。
 セレスは『勇者の剣』の切っ先を下に向けて、敵の足を狙った。岩をも砕く聖なる武器は、邪教徒達の足を断ち切っていった。
 血と肉が舞い散る中で………
 斬られた瞬間に、塩となって消える敵が居る事に。セレスは気づいた。魔人が中に交じっている。
「シャオロン、魔人も居るわ!」
 少年が爪を振るい、再び竜巻を生み出す。
 竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされる敵の中に、浄化されてゆく者も居た。又、遠方より放たれる弓矢やクナイ、手裏剣も竜巻が吹き飛ばしてゆく。
 しかし、竜巻の影響を受けない者も居た。黒兜の忍者と、東国の四人の忍者だ。吹き荒ぶ風の中、黒兜の忍者は両腕を組んだまま佇み、その左右の四人の東国忍者は忍刀を手にたたずんでいる。竜巻に煽られる事なく真っ直ぐに立って。
(結界?)
 竜巻が止むのを待たず、セレスは『勇者の剣』を構え、忍者達に向かって行った。うなる風の中では、敵もクナイや手裏剣を使えない。
 黒兜の忍者を狙って振り下ろした大剣は………
 左右から飛び出して来た二人の忍の、忍刀に防がれる。
「!」
 岩をも砕く『勇者の剣』と刃を交えても忍刀は折れなかった。
 聖なる武器か、魔法の祝福が与えられた武器でなければ、『勇者の剣』の凄まじい攻撃に耐えられるはずはないのだが。
 東国忍者は二人がかりとはいえ、大剣を受け止めている。
 そして、無防備となったセレスの両脇から、残りの二人の忍が襲いかかる。忍刀を手にした彼等の狙いは、鎧の無い頭部だった。
 セレスは素早く後方に倒れるように身を引いて、左右からの急襲を避けた。しかし、無理に退いた為、よろめき、ふらついてしまう。その隙を東国忍者四人がつかないはずはない。
 体勢を崩したセレスを、四人が代わる代わる襲う。猿のような身軽な動きで、攻撃を仕掛けては退く。セレスからの反撃は必ず二人で受け止め、残りの二人が死角をつくように襲い来るのだ。
「セレス様!」
 シャオロンが援護に走ろうとすると、大魔王教徒が壁をつくり、進路を塞いだ。
「どけ!」
 爪を振るい、敵を蹴散らすシャオロンの前に………
 ふいに、黒兜の忍者が現れた。
 龍の鋭い爪で、シャオロンは敵の胸部から腹部を切り裂こうとした。が、敵に触れる寸前、爪が火花を散らし弾かれてしまう。目には見えないが、障壁がそこにはあるのだ。
「結界!」
 黒兜から覗く双眸が、血のごとく赤くきらめく。
 その不気味な眼に、シャオロンはゾッとした。何かとてつもなくいびつな、触れてはいけない黒く醜いものに触れてしまったような………そんな恐れを抱いたのだ。
 だが、それも一瞬のこと。次の瞬間には、凄まじい風圧で、シャオロンは後方に吹き飛ばされていた。
 セレスは四人の連続攻撃を避け、徐々に後退していた。
 その真横に、黒兜の忍者が現れる。小距離の移動魔法だ。黒兜の忍者のカタール(刺し刀、短剣の一種)がセレスに迫る。
 かろうじてカタールは避けられたのだが、体勢を崩し、両足がもつれ、セレスは背から地面に倒れた。
 そこへ、四つの忍刀が襲い来る。
『勇者の剣』を手放さないまま、セレスは地を転がり、次々と突いてくる彼等の攻撃を避けた。
 空がうなり、セレスの上を竜巻が駆けぬける。
 シャオロンだった。
 地面に片膝をついた姿勢で、両爪の『龍の爪』を振るい、続けざまに竜巻を生み出していた。東国の忍者は全員、その場で刀を正眼に構えていた。竜巻は彼等を切り裂く事かなわず、左右に割れ、他の敵へと向かってゆく。右手にカタールをつけた黒兜の忍者も、動かず、その場に佇んでいる。
 黒兜の忍者も東国忍者も、強力な結界が張れるのだ。その結界は『龍の爪』が生み出す浄化の竜巻も、聖なる武器すらも弾くのだ。だが、シャオロンが浄化の竜巻を放ち続ける限り、敵は結界を張り続けるしかない。セレスを攻撃できないのだ。
 セレスは身を低くして地面を転がって竜巻を避けきると、素早く体を起こして、背に『勇者の剣』を収め、シャオロンの横を通り過ぎ、愛馬達の元に急ぐ。
 シャオロンの馬の手綱をひいて馬首を城壁の割れ目へと向かせると、セレスは馬の尻を思いっきり叩いた。馬は驚き、真っ直ぐに走りゆく。続いてセレスは愛馬にまたがり、少年の元へと向かった。
「シャオロン!」
 少年は振り返り、最後の竜巻を放つと、セレスの乗馬の上に飛び乗った。そして、長い爪でセレスや馬を傷つけぬように気を配りながら、白銀の鎧をまとうセレスに背後からしがみつく。
 セレスは馬を返し、城壁の割れ目へと急いだ。
 だが、間もなく………
「逃げるのかよ、女勇者様!」
 宙から四人の忍者が襲い来る。移動魔法で運ばれてきたのだ。彼等の忍刀の攻撃を、(左手で手綱を握りつつ)セレスは腰の『虹の小剣』を抜いて防ぎ、シャオロンも左手で竜巻を生んで応戦した。忍者達は馬とほぼ同じ速さで移動できるようだったが、シャオロンの竜巻が牽制となり、徐々に距離は開いていった。
 四人の東国忍者が、大魔王教徒達が、セレスの後を追い、走る。
 今世の光を消すべく。
 セレスを殺そうと、群がり、奇声をあげ、走る。
 セレス達の馬は左右に廃墟が並ぶ通路を通りぬけ、尚、走る。
 城壁の割れ目に向かう彼女の背後で、バサッ!と大きな布のようなモノが落ちる音が響いた。
 セレスは馬の速度をゆるめ、手綱をひいて、馬を返した。
 口元に笑みを浮かべながら。
 見上げれば、廃墟や城壁に複数の人の姿があった。兜にチュニック、ズボン姿のインディラ忍者―――寺院付き忍者だ。セレスに協力するようナーダに命じられた彼等は、ずっと廃墟や城壁に身を潜めて待っていたのだ。囮役となって敵をひきつれた女勇者が、廃墟の傍を通り、そして、通りすぎるのを。
 セレス達が避難した後、左右の廃墟、そして城壁から、忍者は魚の投網のようなモノを次々に敵に投げたのだ。
 今、網の下となった敵は、死骸のように動きを止めている。通りを埋め尽くすほどに広がっている網は、『麻痺』、『眠り』、『魔法結界』、『浄化』の呪文を唱えつつ、インディラ僧侶が長い年月をかけて編み上げた特殊な魔法道具(マジック・アイテム)なのだ。
 網に囚われた敵は、人間であれば麻痺・眠りの状態となり、魔人であれば浄化される。又、魔法結界の機能もあるので、魔法生物であっても内に囚われれば命の源(魔法)を失って消滅する運命にあった。
 セレスとシャオロンは………
 敵を投網の下に誘いこむ為の囮役だったのだ。逃げるとみせかけて、敵を見事、罠にはめたのだ。
 ナーダの今回の作戦は―――
一、敵の数を減らす。
二、『戦士の矛』を消耗させる。
三、敵として現れた場合は『新たな魔人』と呼ばれるモノの型を調査する。
四、ウズベルの正体を探る。
 であった。黒兜の忍者が全く会話にのってこなかったので、ウズベルの正体は探れなかった。が、それ以外は良好な結果といえそうだ。
 セレスとシャオロンは互いに笑顔を見せあい、下馬した。
「セレス様、さっきの東国忍者達、オレ、シャイナで一度、戦っています」
「あら、そうなの?」
「多分、あの動きはそうだ思います。セレス様のお命を狙っていた忍者の手下ですよ」
「ジライの………」
 寺院付き忍者達が建物からわらわらと現れ、網の下に捕らえた者達を改めてゆく。
 セレス達も中を覗き込んだ。
 網の下に東国の忍者装束があった。が、中身が無い。寺院付きの忍者がそれを網の上からつかむと、中から砂のようなものがこぼれてきた。
「あの四人の東国忍者………魔法生物だったんだわ」
「魔法生物?」
 シャオロンは首をかしげ、セレスから寝物語に聞いた歴代勇者の冒険談を思い出した。物語の中に、魔法で生み出した巨大鳥に乗る魔術師や、人語を話す邪悪な植物を操る呪術師が出てきたりした。
「魔法で造られたモノが、魔法生物ですよね?」
「ええ。邪法によって、生み出されるもののうち人型のものが魔人。魔力によって造られるのが魔法生物よ」
「えっと………どう、違うんでしょう?」
「どちらも偽りの生命体という点では同じ。不老不死の体。でも、魔法生物は神より与えられた魔法体系に則って造られるものだから聖なる武器や神聖魔法では滅ぼせないのよ、そこが魔人と違うの」
「滅ぼせない?」
「魔人は魔界のものが憑依しているものだから、器と魔の魂の絆を浄化してしまえば滅ぼせるの。でも、普通の人間相手に浄化魔法を唱えても、効果が無いでしょ?それと同じよ。魔法生物を殺すには、命の源である魔法を奪うしかないの」
「じゃあ………さっきの東国忍者は魔人じゃなくて、魔法生物だったんですね?魔族に憑かれていたわけじゃないんだ」
「………多分、そうだと思うけど、まだ何とも言えないわ。ナーダに調べてもらいましょう」
「はい、セレス様」
「女勇者様」
 寺院付き忍者の首領の呼びかけだ。頭部を兜で覆い、鼻から下、顎までを口布で覆っている。それ故、どんな人物かはわからなかったが、落ち着きのある物腰や声からして年配者のようだ。確か、シャイナで、前に会っている。ナーダはこの者を、ガルバと呼んでいた。
「カバーリめの遺体がございませぬ」
 カバーリというのは王宮付き忍者軍団の忍者頭の名だ。王宮付き忍者のうち、カバーリだけが腕と脚にトゲのついた特殊な装甲を装備している。忍者頭のシンボルでもある。あの襲撃者はカバーリか、或いは王宮付き忍者の頭目を装う別人。その正体を確かめるには、黒兜を剥ぐしかないのだが、遺体が無ければ改めようがない。
「カバーリの正体が魔人だったから、網に囚われて浄化されたか………移動魔法で逃げたか、ね」
「女勇者様、東国忍者の数も足りませぬ」
 セレスの傍で、東国忍者の装束を調べていた忍者が声をかけてくる。こちらも紺色の兜と口元の布で素顔を隠している。忍者装束も紺色のチュニックにズボンで、東国忍者の着物・袴とはデザインが全く異なる。
「忍装束が二人分しかございませぬ」
「じゃあ、残りの二人は逃げたのかしら?」
 セレスがきょろきょろと周囲を見渡していると、
「女勇者様、この場の調べは我等にお任せください」
 忍者頭がセレスの前で跪いていた。
「調べがつきました事は、後ほど、寺院にて御身様にご報告いたしますゆえ」
「そう?じゃあ、お願いするわ」
「アッチャ、ガナル、城まで護衛をつとめよ」
「かしこまりました」
 セレスの横に、二人の忍者がフッと現れる。移動魔法ではなく体術だが、唐突さが心臓に悪いのは同じだ。その二人も同じ紺色の忍者装束だし素顔を隠しているので、誰が誰だかセレスには全くわからなかった。


 忍者達は、逃がしてしまったシャオロンの馬も連れ戻してくれた。東国の少年は、背の革袋に爪を戻し、自分の馬に跨った。
 女勇者と従者は、馬で岩山の坂道を下って行った。
 護衛役の忍者の姿が周囲に見当たらなかったが、隠れてついてきているのだろう。
 山を六合目まで下った時だった。
 背後からくぐもった悲鳴が二つあがった。断末魔の声に思えた。護衛役が殺されたのか?
 しかし、振り返り、確かめる間もなく、視界が煙に覆われてしまった。煙玉を使われてしまったのだ。
 忍者の襲撃だ。
 セレスは、驚いて闇雲に走り出した馬の手綱を引いた。煙で方向感覚が狂っている。下手に進めば、坂道から転げ落ちてしまうだろう。
 煙の中から、シャオロンの馬のいななきも聞こえた。
 目が痛かった。涙がぽろぽろとこぼれる。息苦しくて咳も止まらない。
「もらった!」
 殺気が斜め右から近づいて来る。腰の『虹の小剣』を抜いた。が、目が痛くて、敵の姿が捉えられない。
 しかし、その殺気は………
 セレスの真横をすりぬけ、更に遠くへと通り過ぎてしまった。いぶかしく思っていると、
「かまいたち!」
(いかずち)!」
 忍術の応酬があり、悲鳴が響いた。
 煙がだいぶ薄れ、視界が効くようになる。涙を流しつつ、見れば………
 馬の首は斜面へと向いていた。慌てて、向きを変える。
 すると、坂道に東国忍者が転がっているのが見えた。巨大な卍手裏剣で腹部を貫かれ、地面に縫い付けられているのだ。人の頭ほどもある巨大な手裏剣で腹を突き破られているというのに、血は全く流れていない。もはや、人ではなく、偽りの生命体―――魔法生物となった(あかし)だ。
「魔法生物を倒す手立ては二つござる」
 ジャポネ風の刀を右手に、紺色の忍者が山道に佇んでいた。その背後には、命尽きた二つの死骸(護衛役の忍者の変わり果てた姿)と、中身を失った東国忍者の装束が落ちていた。
 紺色の忍者はシャオロンの馬の横を通り、ゆっくりと近づいて来る。
「一つは、あなたがおっしゃられた通り、命の源である魔法を奪う方法。そして、後、一つは………」
 その声は先程、城塞跡で東国忍者の死骸を改めていた忍者の声だった。だが、あの巨大な卍手裏剣、右手のあの冴え冴えとした美しい刃は………
「ジライの兄貴!」
 卍手裏剣で地面に縛りつけられている忍者が、必死に顔をあげる。声からすると、まだ少年のようだ。
「ひどいぜ、兄貴!何でアオザを殺したんだ!」
「何を言う、アカハナ」
 紺色の忍者の声が、忍者ジライのものに変わる。
「きさまも、アオザもキスケもクロベエも、皆、シャイナで死んでおるのだ。死骸を斬っても、殺人とは言わぬ」
「ジライの兄貴………オレも殺すのかよ?」
「殺すのではない」
 ジライが愛刀を構える。
「解放してやるのだ」
 嫌だ!助けて!死にたくない!と、叫ぶ部下であったものを………
 ジライは斬り捨てた。
 その刃から聖なる水を散らせながら。
『ムラクモ』に両断された忍者は、斬られた忍者装束を残し、砂と変わり果てた。
 ジライは『ムラクモ』を鞘に収め、巨大な卍手裏剣を拾うと、振り返り馬上の女勇者を見上げた。
「魔法生物を倒す手立ての二つ目は、魔法生命の核となっている呪具を壊す事。呪具は、胸部、腹部、頭部などの失いづらい箇所に、たいてい埋め込まれている」
「ジライ………」
「それから、これ………」
 アカハナと呼んでいた忍者のものと思われる忍刀を拾い、ジライはセレスに手渡した。
「柄をよくご覧あれ。複雑な模様が施されておるだろ?」
「ええ」
「この模様が、物理・魔法障壁を必要に応じて生み出していたのだろう。どのような魔法体系のものかは知らぬ。そちらで研究されるがよい」
「刀が結界を張っていたの?」
 セレスの問いに、インディラ忍者姿のジライが頷く。
「生前のこやつらの忍刀に、こんな模様など無かった。又、アカハナ達四兄弟が好んで使っていたは手裏剣・クナイ・火薬玉なでの遠距離攻撃武器、忍刀に執着する奴等ではなかったし、忍法もさほど得意ではなかった。『勇者の剣』や竜巻をはじく結界など、こやつらに張れるはずもない。そう思い、気づいた」
「ジライ………」
「次からは、敵に怪しげな武器は持たせぬことだ。真っ先に、敵から武器を弾けば、こたびの我のように楽に勝てますぞ」
「………あなた、部下の亡骸まで魔族に盗られていたのね」
「………」
 ジライはふいに横を向いた。
「………あなたには、かかわりの無き事じゃ」
 そう言うや斜面を飛び下り、姿を消してしまう。
「待って、ジライ!何で私を助けてくれたの?」


 今、あなたに死なれては困る………


 何処からともなく、そう、声は聞こえた。
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