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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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黄昏の河 4話

 情報屋グジャラの店は会員制だ。ナーダは会員資格のある部下ガルバを店に送り、(情報屋に手数料を払って)セレスと連絡をとった。その場には何故か赤毛の傭兵も居たので、勇者一行は街の宿屋で落ち合い、互いの情報を交換し合う事となった(ナーダはガルバに、王宮に情報が漏れないよう、宿の周囲に部下達を配置するよう命じた)。
 話し合いを前に、ナーダはセレスの無謀を非難した。単独で暗殺者に会いに行くなど、自殺行為だ、と。
 セレスは『赤毛の傭兵に叱られて反省した、もう二度と仲間に内緒で勝手な事はしない』と誓い、東国の少年にも騙した事を謝罪した。
 大魔王ケルベゾールドを滅ぼせる唯一の武器『勇者の剣』。
 その持ち手の勇者ほど、この世になくてはならなぬ者は居ない。
 大魔王が今世に存在し続ければ、数多くの魔族が絶えることなく召喚され、光の勢力は闇に屈するだろう。
 人の世は滅びるのだ。
 そうはならぬためにも、ケルベゾールドを倒せる唯一の人間――セレスを守らなければいけないのだが………
 世の人々はセレスが女である事であなどり、セレス本人も自分の価値をわきまえずにいるように思える。
 正義の為に猪突猛進してしまう彼女には、監視役として忍者を絶えずはりつけた方が良いかもしれない………ナーダは、そう思った。


 ナーダは、互いに持ち寄った資料を見比べ、セレスに尋ねた。
「あなた、これに目を通しました?」
「ええ。ざっとだけど、一応」
 武闘僧はセレスに、彼女が持ってきた資料を返した。
「じゃ、あなたが、アジャンとシャオロンに説明してください。説明が足りない時は私が補いますから」
「え?」
「あなたの資料の方が最新情報まであって詳しいですし、事件をきちんと理解していれば他人に説明できるはずです」
「………わかったわ」
 セレスは喉を鳴らした。
 普段、情報を一行にもたらすのは、武闘僧か赤毛の傭兵だ。こんな形で、仲間と対するのは初めてだ。
 テーブルについた仲間―――アジャン、ナーダ、シャオロンの顔を見渡し、何から話そうかしばらく迷ってから、女勇者は覚悟を決め、話し始めた。
「昨年………この国の王宮に、変な病が流行したの。王子にしかかからない病」
「ほう」と、アジャン。
「インディラ王家には八人の王子がいるのだけれど、そのうち四人の王子が同じ病に倒れたの………えっと、一番最初は………昨年の五月で第二王子のドゥリヨーダナ様が病に伏して、次に八月に第三王子ドローナ様、更に、九月に第六王子ルドラカ様と第八王子チャンドル様が同じ病気になったの。頭痛・発熱等の風邪みたいな症状なのに、治癒魔法も薬も一切、効かなかったんですって。呪いの一種だろうって、侍医は診たてているわ」
「それで?」と、どもりがちになるセレスを、アジャンが促す。
「第二王子が病に伏してからじきに、宮廷の祭司がお祓いしたそうだけど、効果が無かったの。インディラ寺院にも、えっと、頼んでるわね、お祓い。そっちも駄目だったみたい」
「まあ、当然ですね。ラダム様を招聘したのではねえ………。母君のアヌラーダ様も親族を頼らず、ウッダルプル寺院のジャガナート僧正様に正式に依頼なされば良かったのに………」
「あ、えっと、そうね、ラダムってインディラ僧侶が来てるわ。ウッダルプル寺院のお坊さんね」
「初級の神聖魔法すらろくに唱えられない、出自だけで上級僧になった方です。祓いなどできるはずがありません」
「そ………そうなの?それじゃあ、無理よね」
 セレスは資料に顔を落としつつ、上目づかいに武闘僧を見つめた。
「それで………謎の病の第二王子ドゥリヨーダナ様は、王宮での治療を断念して、静養の為に、別荘に移られるの。えっと、場所は」
「中央高原デカンティナ」
「そう!それね!そう書いてあるわ」
 セレスは資料から顔を上げる事ができない。
 赤毛の戦士は大きく息を吐いた。
「もういい、まだるっこしい。クソ坊主、おまえが説明しろ」
「私が、ですか?」
 武闘僧は眉をしかめ、糸目を細めた。
「私、王宮には、私情まみれの見解しか持ってませんよ。公正な立場の発言ができません」
「ンなの、いつも、そうだろうが。おまえが思った通りの事でいいから、話してみろよ、大僧正候補様」
 アジャンは、最後の『大僧正候補』の呼称を強く発音した。
 武闘僧は深いため息をつき、口を切った。
「あなた方にはちょっと想像できないかもしれませんが、ウッダルプルは五月に平均気温四十度を超える盛夏となります。病身の身には熱さはつらいもの。第二王子は近衛兵と召使、護衛の忍の者を連れて、静養兼避暑の為、中央高原のデカンティナの別荘に移動しました。あそこは一年中涼しく、保養地として有名で、貴族の別荘もけっこうな数、あります。王宮所有の別荘、まあ、城って呼べる規模なんですけど、そこは、夏にはウッダルプルから避暑にやって来る貴族達の社交場になります」
「で?」と、アジャン。
「ただでさえ夏には賑わう保養地に、王子が長期滞在にやって来たんです。病気見舞いの名目で、毎日のように貴族達が第二王子の元にご挨拶に伺っていたとか。王宮の別荘には護衛やら召使やらが百人近くいました。それが、七月末………消えたのです」
「消えた?」
「ご機嫌伺いにやって来た貴族が発見したんですがね、常に門前に立っていた門番が居らずいぶかしく思って中に入れば、中は無人。王子も側仕えも近衛兵も召使もお庭番も、誰一人として居なかったのだそうですよ。デカンティナ駐屯のインディラ軍が調査・探索を行ったのですが、何一つ手がかりはありませんでした。わかった事は、前日までは中が通常通りだったという事、静養中の第二王子とその召使達が普通に過ごし、夜には別荘に灯りも灯っていたとか」
「一晩で消えたって事か………百人近くの人間がいっぺんに」と、アジャン。
「移動魔法を使ったんだと思うのですが、百人近くの人間を一晩で移動させようとしたら、宮廷魔術師クラスの魔法使いが十人は必要です。非常に非効率的です。これが、誘拐にしろ暗殺にしろ、何故、王子だけでなく召使達まで連れ去ったのか、連れ去る必要があったのか、さっぱりわかりません。王子の気まぐれによる失踪だとしても、召使を百人も連れてけば目立ってしょうがありません、あの才気活発とはお世辞にも言えないお方でも、そこまでは馬鹿な真似はなさらないでしょう」
 そこで、ナーダはチラリとセレスを見た。
「あなたは、この消失事件、どう見てるんですか?」
「私?………そうね、魔族の仕業だと思うわ」
「何故?」
「お師匠様なら百人でも二百人でも運べるでしょうけど、魔力消耗の激しい移動魔法は、人間がやすやすと使えるものじゃないわ。でも、魔族は違う。シャイナの荒野で、サリエル達が呼び寄せた大魔王教徒は四百人以上、それに魔族も加わっての人数が移動魔法で運ばれたんですもの。殊、移動魔法に関しては魔族は優秀だと思うの。何の目的でかはわからないけど、第二王子達を誘拐したのは魔族じゃないかしら?」
「魔族が王子の誘拐ねえ………」
 どうもピンとこないなあ、と、傭兵。
「現在は、第二王子が世継ぎの王子です。政変に関わる陰謀が絡んでいる可能性もありますよ」
「あら、そうなの?」
 セレスが資料をバラバラとめくりなおす。
「普通、長男が世継ぎじゃない?第一王子じゃなくて第二王子が王国の跡取りなの?」
 アジャンは『よけいな事、言いやがって馬鹿女』と思いつつ、横目で武闘僧を見つめた。
 その表情から内面を測ることはできなかったが、少なくとも、表面上は穏やかに僧侶は女勇者の疑問に答えを与えていた。
「第一王子は、もはや、今世に存在していません。あなた、さっき王子は八人いるっておっしゃったでしょ?それは、第二王子から第九王子の事です」
「え?ああ、そうね、八人なのに、第九王子までいるものね………第一王子は亡くなってるのね」
 ナーダはセレスの勘違いを訂正しなかった。
「ついでに言っておきますと、第二・第四王子の母君が第二夫人アヌラーダ様、第三・第六・第八王子の母君は第三夫人サラス様です」
「えっと………」
 シャオロンが額に指を当てて、首を傾げる。聞きなれぬ異国風の名前が次から次に出てくるので、頭の中で整理しきれないのだろう。
「第一夫人サティー様がみまかられてから二十二年となりますが、サティー様生存中から、第二夫人と第三夫人は後宮の覇権を争って対立してました。インディラ王家は長子相続型ですが、世継ぎの王子が王位に不適格とみなされれば、次兄に、三男へと王位継承権は移ります。と、まあ、そんなわけで、それぞれの息子の第二王子と第三王子が月違いで生まれてきた事もあって、第二夫人と第三夫人はたいそう麗しい関係にあるのですよ」
「………えっと、それって」
 セレスはためらいがちに尋ねた。
「政変に関わる陰謀って言ったわね?第三夫人サラス様が第二夫人アヌラーダ様の息子の世継ぎの王子を誘拐したって………あなた、そう思ってるってこと?」
 ナーダが糸目で女勇者を睨みつける。
「そんな事は一言も言ってません。よく資料を見てください」
 ナーダがセレスが持つ資料を、指さす。
「謎の病にかかったのは第二王子のドゥリヨーダナ、第三王子ドローナ、第六王子ルドラカ、第八王子チャンドルです」
「え?」
「つまり、第二夫人の長男と、第三夫人の息子全員なんですよ」
「あ」
 指摘されて初めて気づいたという風に、セレスは口元に手をあてた。
「混乱させるだけだと思ったので、あえて言いませんでしたが、残りの王子のうち、第二夫人の次男の第四王子と、第六夫人ヘンディラ様の息子の第五王子、第八夫人ラター様の息子の第七王子、第十夫人ジュヒー様の息子の第九王子は健在です。病にもかからず王宮に居ます」
「妃は何人いるんだ?」と、アジャン。
「生存している方は九人。第十夫人までです」
 それが何か?という顔の武闘僧に、アジャンは肩をすくめてみせ、わざといつもの軽口をたたいた。
「思ったより、少ないな。あの城の規模からすると、女を百人は囲ってると思ったんだが」
 と、いうアジャンの軽口を、武闘僧は無視した。
「世継ぎの王子が失踪して得をするのは、普通に考えれば、第三王子のドローナです。義兄の第二王子がいなければ、王位継承権が転がりこむんですからね。しかし、ドローナも、同じ病にかかったのです。第二王子失踪後、一月も経たないうちに。それで、現在、中央高原デカンティナを避け、北部山岳地帯の別荘で静養中です。今の所、誘拐も暗殺もされていないようです。九月から同じ病にかかった第六王子ルドラカと第八王子チャンドルも、現在、兄と同じ別荘で療養しています」
「世継ぎが王位に不適格とみなされれば、次兄に、三男へと王位継承権が移るって言ったな?」
 アジャンは顎の下に手をあてた。
「て、ことは、第二王子が失踪から戻らず、第三王子が世継ぎとなっても、病を理由に第四王子に王位継承権を奪われる可能性もあるって事だな?」
「ええ。その可能性は高いです。その場合、得をするのは第四王子カウラヴァです、第二夫人アヌラーダ様の次男の、ね」
「誘拐された王子の実弟か………」
 アジャンは、ナーダが、国王の妃達には敬称をつけるのに、王子達には敬称を抜いている事に気づいていた。義弟を敬称付けで呼びたくないのか、生家での風習の名残で敬称を抜いてしまうのか、どちらだろう?
「それから気になるのは………暗殺ではなく、失踪である事。第三王子にしろ第四王子にしろ、王位継承権を得たいのなら、第二王子ドゥリヨーダナの死を白日の下に晒すはずです。父王生存中に兄に戻られては、世継ぎの王子の位を失いますからね」
「………殺さなかったのではなく、殺せなかったんじゃないでしょうか?」
 と、瞳を半ば伏せながら、シャオロンが言う。
「魔族に魅入られ、体をのっとられたのが第四王子様だったのなら………王位継承権は欲しいけど、お兄さんを殺せず、それで幽閉したって事も………」
「そうね。その線はありえるわね」
 と、セレスが言った途端、ナーダは小さく吹き出した。
「ああ、失敬。しかし、その線はありえませんよ。第二夫人アヌラーダ様のご子息方は、母方の血を色濃く引いていて、肉親の情とは無縁な方ばかりなのだそうです。ま、噂でしか知りませんけどね、正確な噂だと思いますよ。母親があの方ですからね。強欲でプライドばかりが高く無能なくせに、陰謀をはりめぐらせる余計な知恵だけはお持ちで。同じ無能でも、お知恵の無いサラス様のご子息方のがマシです。アヌラーダ様の血筋ならば、王位継承権の為に父王すら殺しかねませんよ」
 武闘僧の皮肉はいつもの事だったが、今日は何時にも増して辛辣だ。セレスとシャオロンは顔を見合わせ、アジャンは溜息をついた。
「王宮に残っているのは、第四、第五、第七、第九王子です。第二王子は失踪中、第三、第六、第八王子は北部山岳地帯で静養中。王宮の庭の森には十八の離宮があり、成人した王子達にはそれぞれ離宮が与えられているのですが………」
 ナーダはセレスの手から資料を奪い、物品出納帳の写しの頁を赤毛の傭兵達に見せた。
「第三、第六、第八王子の離宮です。八・九月以前と以後で物品出納帳の食糧・水の搬入・排泄物の処理などの記録にさほど大きな違いがないのです。王子が離宮を離れる際、ほとんどの家来を伴っていったというのに変でしょ?」
 赤毛の傭兵が写しを見つめる。資料自体は共通語なのだが、この頁はインディラ語で書かれたものに、共通語の解説が入っている。
「更に、ここ。剣、槍、火薬の買い付け料が増えています。十月からずっとね」
「つまり、空き離宮を勝手に使っている奴がいるってことか?」と、アジャン。
「そうです」
「数は、よくわからんが………三カ所あわせて、二百はいそうだな」
「ええ。この工作には、財務大臣や宰相、侍従長、それに王宮付き忍者軍団も、一枚、噛んでると思います。彼等に気づかれず、離宮を使用するなど不可能ですから」
「大魔王教徒が離宮を隠れ処にしてるんだと思うわ」と、セレス。
 唐突に出てきた『大魔王教徒』という単語に、赤毛の戦士が質問する。
「なんで、そう思う?」
「離宮があやしいからよ。ウッダルプルでの大魔王教徒の活動は昨年の九月をもって沈静化したけど、幹部を捕縛したわけでも倒したわけでもないの。ただ、活動を止めただけらしいの」
「王宮内の離宮という絶好の隠れ処を得た為、表だった活動を止めて、力を蓄えている………と、セレスが推測したのももっともなんですよ。根拠がありましてね」
 ナーダは資料をめくった。
「第三・第六・第八王子達の離宮………かなり臭いのだそうですよ、比喩表現ではなく、悪臭が漂うという意味でね。物品出納帳にもありますが、大量の香が購入され、絶えず焚かれているらしいんです。でも、出入りの商人の証言によると、離宮周囲は、香では隠しきれないほどの匂いが漂っているそうです。屠殺場付近のような匂いだとか」
「血と肉の匂いか………」と、アジャン。
「離宮に魔人製造工房があるんだと思うわ。大魔王教徒に魔人を造らせてるのよ」と、セレス。
「ただの魔人を造ってるのではないでしょう。僧侶の神聖魔法の前には、魔人はもろい存在です。ウッダルプルでそんなものを大量生産したところで、意味がありません」
「じゃ、私達がシャイナで戦った型の魔人?聖なる武器の持ち手を魔人に生まれ変わらせて、神聖魔法を無効化する魔人を造りあげていたわよね?」
「それも造っているとは思いますが、聖なる武器もその持ち手も有限です。大量生産できませんし………。私が魔族の親分なら、違う型の魔人も開発するよう命じるでしょうね。大量の肉と血は実験の廃棄物かもしれません」
「問題は誰がウズベルか、だな」
 アジャンは首をひねった。
「第三王子か第四王子か?宰相?財務大臣?侍従長?王宮付きの忍者軍団の頭?国王本人の線もあるか」
「国王や要人はウズベルではないでしょう。ここはインディラです。王宮と寺院の関係は現在あまり良好ではありませんが、それでも、身分の高い者ほど聖職者と接する機会は増えます。黒の気をうまく隠せるのだとしても、僧侶と接する機会はあまり多くない方が嬉しいでしょう。国王達は暗示をかけられ操られている可能性は高いですが、魔族ではないでしょう」
「じゃあ、やっぱり、王子に憑いているのかしら?」
「でなければ、後宮の妃か、忍者頭でしょうね。王宮付き忍者頭はカバーリと言います。アレは表に出ませんからね」
「その全員、って事もありえますよね」
 シャオロンが表情を強張らせて言う。
「魔族にとって人間は服と一緒なんでしょ?サリエルは替えの人間を抱えていました。ウズベルも同じかもしれません」
 父親の亡骸をサリエルに利用されていた少年は、不愉快そうに表情を硬くしている。
「ウズベルを逃さない為には、聖なる結界が必要ですが」
 ナーダは顔の前で両手を組んだ。
「ウズベルが誰かわからなければ、結界は張りようがないんです。それと、最初にお断りしておきますが、私が一人で張れる聖なる結界は、十メートル四方程度ならば、持続時間は三十分弱。範囲を狭めれば時間は多少長くなり、広めればもっと短くなります。しかも、敵の移動魔法ぐらいは防げますが、悪くするとそれ以外は野放しになるかも。私、結界魔法は苦手ですので」
「あら?そうだったの?」と、セレス。武闘僧の結界には旅の途中、何度か助けられていたのだが………
「ええ。一日中、インディラ国中を覆う形で聖なる結界を張り続けられた方もいらっしゃったみたいですがね、昔は。ですが、あいにく、私はそうじゃないので………ぎりぎりまで結界は張りませんし、張ったら最後、結界維持に専念します。戦闘はみなさんにお任せしますね」
「ふん」
 赤毛の傭兵がにやりと笑う。
「意外と役立たずだったんだな、おまえ」
 と、の揶揄に、『なら、あなたが結界、張ってみなさいよ』と武闘僧が睨んで応える。
「魔族達が何で王子達に呪いをかけてるのか、何で第二王子とその家来を誘拐したのか、ウズベルが誰なのか、どんな魔人を造ってるのか、わからない事はいっぱいあるけれど」
 セレスはキッ!と天を仰いだ。
「少なくとも、第三・第六・第八王子達の離宮があやしいのは確かよ!王宮に戻ったらすぐに乗り込んで調べたいところだけれど!」
「理由もなく王宮で暴れたら、私達、犯罪者として逮捕されちゃいますよ」と、ナーダ。
「わかってるわよ!」
「それに、そこが本拠地なら、行き着く前に忍者軍団に邪魔されるでしょうね。あちらに正義があるように見える正当な理由をふりかざし、我々を襲ってくるでしょう」
「大義名分さえあればいいんだろ?」
 赤毛の戦士が一同を見渡す。
「俺達は勇者ご一行様だぜ。魔族や大魔王教徒相手ならば、堂々と戦える。要は、敵に離宮から出てこさせりゃいいんだ」
「どうやって?」と、セレス。
「これを使う」
 そう言って彼が懐から取り出したのは、小さな三角の包み―――興奮剤『戦士の矛』だった


「さっそく来たぜ、情報屋」
 赤毛の戦士アジャンは口元を歪め、笑みを作った。なかなかの美丈夫であるが、どこか崩れた感じのあるこの男には野卑な表情がよく似合う。
 情報屋の元締めグジャラは面白くなさそうな顔をした。女勇者抜きで、傭兵にだけ来られても、楽しくない。応対は部下に任せるつもりだったのだが、大将相手に話があると赤毛の傭兵が強硬に主張したので、やむなく姿を見せたのだ。
 ソファーにふんぞりかえって座るインディラ人は、ジーッと赤毛の傭兵を見つめていた。何かを見通すかのように、しみじみと。
「で、俺に何の話があるんだ?」
「実はな………」
 赤毛の傭兵はにやにや笑っていた。
「魔薬屋を一軒、ぶっ潰したいんだ。それなりに大手で『戦士の矛』を大魔王教徒に大量に売りつけている店だ。おまえが目障りだと思っている競合店でいい。適当な店を教えてくれ」


 客を装って魔薬屋に乗り込んだアジャンは、短時間で、その店の主人と用心棒をたたきのめし、必要な情報を吐かせた後、気絶させた。
 全員を縛り上げてから、アジャンが招き入れたのは、ナーダがから借りた寺院付きの忍者(本当はナーダの個人的な部下なのだが、正体を秘している)だった。


 それと、ほぼ同時に、ナーダも動き出していた。移動許可が下りている王宮内をくまなく歩き回り、祭壇や神像、供物などを細かくチェックし、担当者を呼んではそのいたらなさを説教したのだ。
 王宮内の人間は、大僧正候補に含むところがある者が多かった。国王の第二夫人アヌラーダが、二十年以上前からナーダとその母を敵視している為だ。彼女の親族の国務大臣・大将軍等、国家の要職に就く者も彼女に同調している為、王宮内でナーダの扱いはひどいものだ。
 けれども、インディラ人は皆、敬虔なインディラ教徒なので、こと宗教に関わる事となると接し方が変わってくる。宮廷の祭司達は、(ほとんど言いがかりに近い)ナーダの指摘を素直に聞いた。
 ナーダは今までの不敬を詫びる儀式をしなければ、神の怒りに触れるなどと彼等を脅かし、王宮に続く不運(王子の疾病など)を祓う儀式を執り行いたいと望み、巧みな話術で、最後にはその儀式を行わねば災いが確実なものになると信じ込ませる事に成功した。
 ナーダの希望は、彼等の上役から上役へと伝えられてゆき、わずか半日で、祭司長にまで伝わった。
 面談を求めてきた祭司長に、ナーダは、得意の弁舌で、儀式の為に十人の僧侶を王宮に招く必要があるのだと説得し、その許可を得たのだった。


 その頃、セレスは………
 シャオロン一人を供に連れ、ウッダルプル郊外の岩山へと向かっていた。
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