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女勇者セレス 作者:松宮星

勇者として

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黄昏の河 3話

 女勇者が向かった先は、寺院の西側の河畔だった。寺院を訪れる為に沐浴する人々で賑わう河べりにそい、樹木や草の茂みが風にそよぐ涼しげな緑の中をセレスは騎乗で進む。
 寺院正門に通じる道から離れるにつれ、河で身を清める参拝者は減ってゆく。河には大小の渡しの舟、漁船が見えた。
 セレスはシャツのポケットより小さな紙を取り出して目を通し、河へと向かった。
 赤・青・黄の旗を吊るした、渡しの小舟がゆらゆらと水面に揺れていた。営業中の看板をひっくり返し、船尾を岸に繋ぎ、漕ぎ手は舟の上で昼寝をしている。積み上げた干し草の山によりかかって、フードマントを目深に被って顔を隠して。
 セレスは下馬し、その小舟に近づいて行った。 
「こんにちは」
 共通語で話しかけると、
「今、やってねえよ」と、現地語で返される。
 セレスは、つたないインディラ語で話しかけた。
「謎、知る、したい。東、来た、男、紹介。グジャラ、行く、したい」
「誰の紹介だって?」
「ジライ」
 そこで、沈黙が訪れた。
 しばし経ってから、セレスの耳に忍び笑いが聞こえてきた。
「インディラ語はあまりお上手ではありませぬな。無理に話されぬ方がよい」
 聞き覚えのある低い声だった。
「ジライ!忍者ジライね!」
 セレスは身を乗り出し、小舟の男を覗きこんだ。しかし、フードマントに隠れて、相手の顔は全く見えない。
 女勇者の顔に笑みが浮かんだ。
「良かったわ、無事で………私、心配してたのよ」
「命を狙っていた男の心配とは………あいかわらず甘いお方だ」
 相手にも見えるように、セレスは小さな紙を右手に持った。
「シャツを着替えようと思ったら、あなたからの手紙が出てきて、びっくりしたのよ、私。ねえ、いつ、手紙をくれたの?」
「昨夜の宿屋にて。王宮に入られてからでは、我といえども、あなたと連絡をとるのは難しい………あそこは王宮付き忍者が山のように居る。命が幾つあっても足りぬ」
「それで、この手紙なんだけど、どういう意味?謎って魔族の事?グジャラの店って何?」
「金は持って来られたか?」
「ええ。指示通り百万ほど」
「ならば、左手の下の赤い袋を取られるがいい」
 舟の上の男は、左手の肘で赤い袋の紐を踏んでいた。しかし、引っ張ると、抵抗なく、紐は肘の下から取れた。袋を開けてみると、半欠けの古い銅貨と地図が入っていた。
「そこに大陸(いち)の情報屋が居る。銅貨はその店の会員証。ただし、あなたにお渡ししたのは一回限りの物だ。店の入口で見せられよ。金さえ積めば、そこで、大魔王教徒についても、魔族についても教えてもらえる」
「ありがとう、ジライ。助かるわ。でも、どうして敵だった私に親切にしてくれるの?」
 ジライはフフフと笑った。
「むろん、下心があるからに決まっておる」
「そうなの?」
「あなた方が大魔王教徒を相手に大立ち回りをしてくれると、都合が良いのだ」
「あ、………そうね。私達、今、共通の敵と敵対しているんですものね。あなた、ウズベルを倒すんでしょ?」
「機会があれば、な」
 セレスは赤い袋を握りしめた。
「ねえ、ジライ………前にも言ったけど、一緒に戦わない?あなたが強いのはよく知っているけれど、相手は魔族よ。力を合わせた方がいいと思うの」
「あなたと共に戦うつもりはないが………勧誘(ナンパ)ならば足並み揃えてからなされるがよい」
「え?」
「右斜め後方………赤毛の傭兵が居る」
 セレスは驚いて振り返った。
 沐浴に訪れた人々。川べりの草木。その後方にインディラ寺院の回廊が見える。
「あ!」
 寺院近くの樹木に馬が繋がれている。傭兵の乗馬だ。
「バレちまったんなら、隠れる意味はねえな」
 セレスのすぐそばの草むらから、赤毛の傭兵が現れる。背に大剣を背負い、『聖王の剣』を()いた、いつもの姿で。
「アジャン………どうして?」
 セレスの問いには答えず、赤毛の戦士は背の大剣を抜き、小舟の上の人物にその切っ先を向けた。
「アジャン!」
「どういうつもりだ、え、暗殺者!世間知らずの馬鹿女を呼び出して、じっくり料理しようってのか?あん?」
「やめて、アジャン!もう彼は敵じゃないのよ!」
「暗殺者が一度引き受けた仕事を、途中で放り出すものか!嫌になったってやめられねえのさ、金を貰っている以上な!」
 アジャンが怒鳴ると、高らかな笑い声が応じた。
「その通りだ。仕事を受けた以上、女勇者を殺さねば、忍の里は面目をつぶす。暗殺実行者の我は、首を刎ねて詫びても決して許されんであろう」
「死ぬなら、今、死ね!クソ忍者!」
 小舟の上の者の頭を狙い、赤毛の傭兵が大剣を振り下ろす。刃は肉にも骨にも達さず、フードマントだけが切り裂かれる。
 フードの下から現れたのは、寝ぼけ眼の、黒髪、浅黒い肌の髭もじゃのインディラ人だった。見るからに、貧しい労働者階級だ。目の焦点が合った男は、ぎょっと眼を見開き、ぶるぶると震えだした。
「お助けを………おら、金なんかねえよ」
 と、現地語で命乞いをする。
「忍者ジライ、てめえ、変装か!くだらねえ芝居しやがって!」
 だが、赤毛の傭兵の炯眼に、小舟の男は怯えるばかり。
 再び高らかな笑い声が響いた。
「そやつを離してやれ。それは、ただの渡し守りだ」
「ジライ!何処だ!」
 赤毛の傭兵と女勇者は周囲を見渡した。が、それらしい人間は見当たらない。
「女勇者セレス殿、グジャラの店へは一人で行かれた方が良いが………こうとなっては、赤毛の傭兵も引くまい。お二人とも、グジャラの店では、おとなしゅう頼むぞ。我の顔を潰さぬように、な」
 そこで、ドボン!と何か重い物が水中に沈んだ音がした。赤毛の傭兵は大剣を背に戻し、小舟に足をかけ、川を覗きこんだ。しかし、泳ぐ者の姿は見当たらない。  
「くそ!小舟の脇にはりついていやがったのか!」
 悔しさを込め拳を叩く。
 赤毛の傭兵は小舟の男をギロリと睨むと、邪魔したな、と、小銭を投げて舟より降りる。次に緑の瞳が睨みつけたのは、女勇者だった。無言のままセレスに近寄り、彼女の手より忍者からの手紙を奪う。
「『女勇者セレス殿、この国の謎が知りたくば、百万ゴールドを持って、下記の場所の赤・青・黄の旗が目印の小舟まで来られたし。グジャラの店に案内する。×日より三日、正午より日没まで待つ。忍者ジライ』………か」
 アジャンは手の中のモノをくしゃっと握り潰した。
「セレス、何で、この手紙の事を俺に言わなかった?」
「だって………」
 セレスは言いよどんだ。
「………言えば、あなた、行くなって反対するでしょ?」
「ったりまえだ!」
 アジャンはセレスに迫った。
「俺は傭兵だ!だから、くそ忌々しい馬鹿女のおまえを守ってやってるんじゃねえか!おまえ、俺を何だと思ってるんだ?」
「アジャン、ねえ、もう何度も言ったでしょ?忍者ジライには私を殺す気はないわ。少なくとも、今はね。ウズベルを倒すまで、彼の眼中に私なんて無いのよ」
「クソ忍者のことなんざ、どうでもいい!俺が、おまえに聞きたいのは、俺とおまえの契約についてだ!」
「契約?」
「警告だ、セレス、二度と俺に嘘をつくな。護衛対象が死地に赴くと言うのなら、俺は止める。止めてもきかなきゃ考える、そいつについて行って守ってやるか、契約を破棄して別れるか、な。俺に選択権を一切与えず、好き勝手やってるおまえを『ただ守れ』って命令するんなら………俺は降りる。女勇者護衛はここまでだ」
「アジャン………」
 セレスは大柄な戦士を見上げた。激しい怒りに歪むその顔を見て………初めて気づいた、自分の軽率な行動が赤毛の傭兵の誇りを深く傷つけたのだ、と。
「ごめんなさい………もう、二度と、仲間に無断で勝手な事はしないわ。だから、許して。従者をやめるなんて言わないで、お願い………」
「もう隠し事はしないな?」
「ええ、絶対しない。誓うわ」
 赤毛の傭兵はフンと鼻を鳴らした。
「わかりゃいいんだよ、お姫様。俺としても、ここでおまえと別れたくない」
「アジャン………」
「この仕事、成功報酬がほとんどだからな、今、降りたら実入りが少ない」
 セレスの体から、がくっと力が抜ける。ほんの少し傭兵を見直したのに………やはり正義の志など欠片もない拝金主義者なのだ、この男は。
「で、おまえ、次に何処へ行く気なんだって?」
「ここよ」
 セレスは赤い袋から出した地図を見せた。
「ここに大陸一の情報屋がいるんですって」
「情報屋グジャラか………」
「知ってるの?」
「噂で、な。敵味方の両陣営に情報を流す蝙蝠野郎だって、トゥルクの傭兵長が蛇蠍(だかつ)のごとく嫌ってたんで覚えてる」
「その情報屋の所へ行きたいんだけど………」
 セレスはためらいがちに尋ねた。
「一緒に行ってくれる?」
 赤毛の傭兵はぼりぼりと頭を掻き、溜息をついた。
「俺の指示に従うって約束するんならな………護衛してやってもいい」
 セレスの顔がパッと輝く。
「ええ!ありがとう、アジャン!」


 女勇者と赤毛の傭兵が立ち去った後、小舟の中で動きがあった。渡し守が枕代わりにしていた干し草の中から人間が出て来たのだ。黒髪、浅黒い肌、シャツと腰布姿。現地人のようだが、顔の造りは灰汁(あく)の強いインディラ人とは一線を画していた。
 その者が現れても、渡し守はただ呆としていた。
 現れた者が右手を開いてみせ、
「解呪」
 と、言うと、ようやく渡し守りは長い眠りから覚めたように、目をしばたたかせた。自分は何故ここに居て、何をしていたのだろう?と、問いたげな顔だ。
「渡し賃だ」
 干し草の中から現れた者は小銭を投げ、舟から降りた。
 それは現地人に変装した………忍者ジライだった。ずっと干し草の中に潜んでいたのだ。赤毛の傭兵が聞いた水音は石が河に沈む音………干し草で隠す形で船首に紐で縛った石を吊るしておき、その紐を切って石を水中に落としたのだ。
 渡し守を傀儡の邪法で操って自分の役に仕立てた上に、その工作を見破られた場合を想定して水に潜んでいたかと思わせる偽装も準備していたのだ。
「さて、急がねば」
 木の下まで走り、素早い体術で姿を消す。
 女勇者にオマケがついて来る事をグジャラに知らせねば、あの二人は店には入れず、門前払いをされる。グジャラの店は会員制だ。一回限りの一人用の会員証しか無いあの二人を、門番が通すはずがない。
 インディラ寺院の屋根の上を突っ切れば、馬で行くセレス達よりも早くグジャラの店に着ける。しかし、寺院付き忍者を下手に刺激するのは危険だ。多少、遠回りになっても、寺院の外を進むしかない。
(何としても、女勇者には餌にくらいついてもらわねばな………)


 裏道に続く白の土壁。そこに、窓のようにぽっかりと穴が開いている。その前に立っていた男は、金を渡して中から紙の包みをもらうと、人目を避けるようにそそくさと走り去って行った。
 赤毛の傭兵は、そこが何を売っている店なのかを察した。そして、侯爵令嬢をジロリと睨む。
「いいか、セレス。グジャラの店で出される飲食物は一切、口をつけるな。それから、俺が合図したら、息を止めて鼻や口を布で押さえろ」
「どうして?」
「ここが、インディラで酒場の代わりに公認されている特殊な店だから、だ」
「特殊な店?」
「魔薬屋だ。麻薬、媚薬、興奮剤、しびれ薬、眠り薬、自白剤、成長抑制剤、何でもござれのあくどい店だ。建前上、毒薬は扱ってないが、ま、建前だな、調合次第でどうとでもなる」
「麻薬だなんて………何で、そんな物が………」
「インディラじゃ、麻薬は公認されてるんだ」
「嘘!」
「嘘じゃねえよ。医療用って名目だがな。よその国でも医者が痛み止めとして麻薬を使用している。けど、インディラじゃ、医者じゃなくても買える。金さえ払えば誰でも買えるのさ、そこが他国とは違う」
「そんなお店に、情報屋がいるの?」
「居るんだろ?おまえのお友達がそう言ってるんだから」


 入口で、思いの外、時間がかかった。
 店の男がセレス一人しか通せないと言い張ったからだ。ジライから渡された半欠けの銅貨は店の会員証だったが、あくまで一人用。従者は中に入れないと言うのだ。
 しびれを切らした傭兵が背の大剣を抜き、その強面(こわもて)で店の男を恫喝した。セレスは慌てて傭兵を押さえ、ジライの紹介である事を強調し、二人で通る許可を貰えないかグジャラに直接尋ねて欲しいと頼んだ。
 男は店の奥へと消え、そのままかなり待たされたが、二人揃って入って良いという許可が下りた。
 乗馬を店に預け、二人は魔薬屋の奥へと入って行った。


「女勇者様に、エーゲラ(いち)の戦士殿、か。あんたらの噂は、かねがね、ほうぼうから伺ってるよ」
 ソファーにふんぞりかえって座るインディラ人が、ニヤリと笑う。黒髪を後ろに撫でつけ、口髭を綺麗に整えた、気障な印象の二枚目だ。
 情報屋グジャラだ。
 グジャラの背後には、五人の屈強そうな男達が武器を手に佇んでいた。用心棒だ。赤毛の傭兵を伴ってきたセレスに対する威圧なのだろう(これぐらいの人数なら、アジャンは難なく倒せるだろうが)。
 セレスはテーブルをはさんでグジャラの向かいに腰かけ、アジャンは女勇者の背後に立った。
「欲しいのは、魔族と大魔王教徒の情報だな?」
「ええ」
 百万ゴールドと引き換えに、グジャラは分厚い書類とインディラ王宮の地図をセレスに手渡した。書類には大魔王復活後の、大魔王教徒の動向、インディラの国内事情、王宮の物品出納帳の写しなどが記されていた。
 グジャラは、結構、詳しいだろ?この半月で資料はかなり充実したんだ、と、意味ありげに笑っていた。熱心に情報を売ってくれる奴が居るんでね、と。
 セレスは目で資料を追い、眉をひそめる
 赤毛の傭兵は、時々、資料を盗み見ていた。護衛役なので、何時でも剣を抜ける体勢をとっていたので、あまり見えなかったが。
「で、資料にある興奮剤『戦士の矛』が、これだ」
 グジャラは小さな三角の紙の包みを、テーブルの上に置いた。
「飲めば、一時的に筋力が増強し、痛覚を失い、死の恐怖を忘れる。しかし、中毒性が高く、一度でもこの味を覚えると止められなくなる。たいていの奴は三カ月で廃人だな。これを大魔王教徒は愛飲しているのさ」
「………そんな物、どうして売ってるの?」
 不愉快そうに三角の包みを睨みながら、女勇者が問う。
 グジャラは、へらへらと笑った。
「インディラじゃ、薬は神から与えられた『幸福の泉』だ。神の愛を受けるも受けぬも、本人の心次第さ。やめたい奴はやめればいい。けど、世の中にゃ、神の恩恵を受ける為に、何もかも捨てる奇特な奴も居るんだよ」
「わからないわ。体に有益な薬だけを売ればいいのに」
「体に有益?そんな物、街の薬屋で買えばいい。俺の表の商売は魔薬屋だ。人を神にも魔にもする奇跡の薬で、俺は夢を売っているのさ」
「………わからないわ。あなたの言っている事、さっぱりわからない」
「おい、話をもとに戻せ」
 と、赤毛の傭兵が女勇者に、その背後から言う。
「俺達は魔薬屋と喧嘩しに来たんじゃねえ。余計な事を言うな」
「ええ………でも、」
「『でも』じゃねえ!馬鹿女!俺の指示に従え!」
 これは俺が預かると断り、アジャンは三角の包みを己の懐にしまった。
 釈然とせず、まだ不快そうに眉をしかめるセレス。
 情報屋の元締めは、そんな女勇者をジーッと見つめていた。軽いウェーブを描く金の髪、サファイアのごとく青くきらめく瞳、可憐な赤い唇、白い肌の彼女を。
「………あんた、綺麗だな」
「え?」
「心も体も真っ白だ。あんたみたいな女、俺、好きだぜ」
「え、えっと………」
 何と答えたらよいのかわからず、セレスは戸惑った。
「どうも………ありがとう」
「これ、やるよ」
 そう言ってグジャラが指で弾いたモノが、セレスの掌まで飛んでくる。古い銅貨だ。
「俺の店の会員証だ。ジライがやった奴とは違う。これは永久会員証だ。俺が取り消すと決めるまでは、な」
 大陸一の情報屋は人のよさそうな笑みを浮かべている。
「又、聞きたい事ができたら、顔を見せてくれ。俺は、当分、本店に居る事にする。居ない時は呼びつけてくれてもいい。あんたからのお誘いなら、喜んで雑事を放り出すよ」
「え?」
「むろん、ただじゃ、情報は流さない。商売として、あんたと付き合いたいんだ」
「わかったわ、ありがとう」
「金が無くてもいいぜ、あんたなら他のモノで支払でもOKだ」
「他のモノ?」
 セレスはきょとんとしたが、アジャンはピンときた。
「なあ、女勇者様、あんたの気持ち次第で、俺の店の支店の位置も教えてもいい。世界中、何処ででも、あんたは最新の情報を手に入れられるんだぜ」
 グジャラは舌なめずりせんばかりにセレスを見つめている。傭兵は眉をしかめ、セレスの手から銅貨を奪った。
「じゃ、これも俺が預かっておくぜ、情報屋。何しろ、こちらはやんごとなきお姫様。下々(しもじも)のルールはおわかりにならないからな」
 グジャラは唇をとがらせた。
「貧乏人のあんたには用はない。支払能力の無い奴には銅貨はやらねえんだよ」
「言ったろ?俺は預かるだけだ。何か聞きたい事があったら、セレスの代わりに、セレスの金を持って、俺がここまで情報を聞きに来てやるよ」
 グジャラは大げさに肩をすくめ、チェッと舌うちをした。ごっつい野郎は趣味じゃねえんだがな、と。


『忍者ジライの案内で、グジャラの店という所に行きます。彼は今は敵ではないから、心配しないで。シャオロンには王宮に戻っているように伝えてください。 セレス』。
 武闘僧ナーダは届けられた手紙を黙読し、額に左手をあて天を仰いだ。
「ああああああ、もう!ただでさえややっこしい、この国で!しかも、グジャラですって………」
 情報屋ではないかと、ナーダは糸目を細めた。
「あのぉ………何て書いてあるんですか?」
 不安そうな顔で、東国の少年が尋ねる。
「すみません。セレス様に、その手紙を急いでナーダ様に直接お届けするよう頼まれてたんですけど………オレ、インディラ語、ぜんぜんダメだし、異教徒なんで、お坊様達に、うまく話が伝わらなくて、その………」
 シャオロンはしょぼんとしていた。なにしろ、セレスと別れてから三時間以上が経過しているのだ。僧侶達にたらいまわしにされ、あっちこっちの建物に引き回され、ようやくこの修行房でナーダに会えたのだが………
「あなたが悪いわけではありません。気にしないでください、シャオロン」
 ナーダはしみじみと東国の少年を見つめた。
 腰までの黒髪を首の後ろで一つに束ね、道着をまとった姿。伸び伸びとした手足、しなやかな筋肉、幼さの残った顔、小鹿のような黒い瞳。あどけなさを漂わせる少年は………美童好みの僧侶にはたまらない存在なのだ。接待という名目でつきまとい、べたべた触りまくっていた僧侶は一人や二人ではないだろう。
 その上、多分、ナーダのシンパの妨害工作も加わっていたろう。ナーダと共に旅をしている少年があまりにも美童すぎるので嫉妬して、会わせまいと邪魔をしたに違いない。
「ジャガナート僧正様、今宵はこちらに泊めていただく予定でしたが、事情が変わりました。私、この子供と出かけてきます」
 ナーダがそう言うと、弟子との久方ぶりの組手を楽しんでいたジャガナート僧正が、にやにや笑いながら小声で耳打ちをしてきた。
「ナーダ様、趣旨変えをなさったのかな?可愛らしい恋人ですなあ」
 それに対し、ナーダも小声で返す。
「違います、そんな仲じゃありません。ただの従者仲間です。基本的に、私、十八歳未満に興味ありませんから」
 老僧がカカカと笑う。
「確かに、子供ではナーダ様のお相手は務まらんよなあ」
 ナーダは頬を朱に染め、コホンと咳払いをした。
「私の部下のガルバは何処です?用を頼みたいのですが」
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