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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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死の荒野 7話

 ナーダの合図で聖なる結界が解かれた時には、空には星が瞬いていた。
 結界内の魔族・大魔王教徒は全て倒し、物陰に潜む者はいないかインディラ忍者が調べ尽くした。赤毛の傭兵にも異常はなく、聖水をかけられてもケロっとしていた。
 サリエルと部下の魔人・大魔王教徒は全滅したのだ。
 合図の花火が夜空に轟いてからしばらくすると、そちこちで秘密通路の蓋の岩がどけられ、地下から人間が現れる。シャイナ人と、西国人、インディラ人と、人種はさまざまだったが、共通点はあった。全員、頭を丸めており、僧衣をまとっているのだ。
 地下の鍾乳洞より現れた者達は、ナーダの姿を見つけるや、皆、恭しく拝礼する。それに対し、武闘僧は鷹揚に頷きを返すだけだった。
 僧侶達の尊敬を集めているナーダに対し、シャオロンは、
「すごいです!さすがナーダ様!」と、右手を握りしめた(『龍の爪』は外している)。
 しかし、セレス(彼女も僧侶達から挨拶されていたが、ナーダのものに比べるとおざなりだった)は、
「………大僧正候補って嘘じゃなかったのね」と、晴れ晴れとしない顔で呟く。
 それでもって、赤毛の傭兵は、
「肩書さえ偉けりゃ、馬鹿でも敬意が払われるもんだ」
 と、ひねくれた顔をみせていた。
 赤毛の傭兵を糸目でじろりと睨んだ後、ナーダは集まった僧侶五十余人の顔を見渡し、厳かに話し始めた。
「私の呼びかけに応えてくださった皆さんに、感謝の気持ちを伝えます。あなた方が鍾乳洞から聖なる結界を張ってくださったおかげで、魔族サリエルを倒す事ができました。これで、サリエルに殺されたウンナンの僧侶達の冥福を心より祈れます」
 まずはナーダが合掌し、それに倣うように五十数人の僧侶がインディラ式の祈りの姿勢をとる。
 端で見ていたシャオロンは圧倒されて慌てて合掌し、死者を送る気持ちをこめてセレスはエウロペ式の祈りを捧げた。が、傭兵だけは知ったことかとそっぽを向いている。
 ナーダはインディラ寺院の連絡網(魔法や魔法道具による遠話)を使い、この荒野でウンナン寺院の仇討ちをする事、結界を張れる能力者が必要な事、敵を欺く為にも内密に集まって欲しい(外国から来る場合は不法入国して欲しい)事を、シャイナ、インディラ国の寺院に連絡をした。その呼びかけに応えて集まったのが、この五十数人である。
 シャイナ国内から参加した二十数人はともかく、次期大僧正候補の頼みとはいえ、三十人近くもインディラから不法入国してきた事に、セレスは正直に言って驚いていた。セレスにとっては慇懃無礼で徳の欠片もない僧侶だが、ナーダは思いの外、人望があるようだ。
「ご協力くださったみなさんには、感謝の気持ちを幾ら伝えても伝えきれぬほどです。しかし、残念ですが、あまり時間はありません。インディラの僧侶は早急に帰国してください。不法に国境を越えていただいた以上、発見されればあなた方はシャイナ国では犯罪者となってしまいます。忍者の護衛をつけますから、どうか無事にインディラに戻ってください」
 ナーダは視線をシャイナ人の老僧に向けた。ウンナン寺院の僧正、シャイナの南の寺院を統括している高僧だ。
「この地での戦闘を容認くださったウンナン県令には、五日後にご挨拶に伺います。連絡をお願いいたします」
 その後、ナーダは一同にテキパキと指示を与え、訓示のような話をし、解散とした。
 インディラの僧侶達は、我先にとナーダの元に挨拶に訪れる。中には、顔立ちから西国人とわかる、インディラで修行中の他国籍の僧侶も混じっていた。十代後半から四十代ぐらいまで。老齢者はいない。国境越えをしてきたのだから、当然かもしれないが。
 アジャンは妙な違和感を感じていた。ナーダから一言でも言葉をもらおうとしている僧侶達が変なのだ。頬を染め、うっとりと野郎(ナーダ)を見つめている。まるで役者(アイドル)を取り囲む、熱心な(ファン)のようだ。
「ナーダ様、近日中にご帰国なさいますか?」
「そうなると思います」
 僧の間から歓声があがる。皆、小躍りせんばかりに喜んでいた。
「大僧正様もお喜びになられますね」
「さあ………それはどうでしょう。まだ旅の目的を果たしていませんから。それに、多分、王宮の方に先に顔を出すと思います」
「王宮にいらっしゃるのですか?」
「行かないわけにはいかないでしょう………私、女勇者様の従者ですから」
 今度は、僧の間から憂いの声が漏れた。
「ああ、おいたわしい」
「ナーダ様、護衛の者を必ずおそばに」
「飲食にはお気をつけください。あちらの出すものを軽々しくお口になさらぬよう」
 尚も、僧侶達はナーダに金魚のフンのようにとりすがる。彼等の護衛役となるインディラ忍者達は、脇で暇そうに欠伸をしていた。
「ナーダ様、すっごい人気ですね」
 と、シャオロンは無邪気に感心している。
「そうね………本当に、意外」
 セレスは釈然としない顔をしている。
 赤毛の傭兵アジャンは、男同士のべたべたした関係に鳥肌を立てながらも、彼等の会話は聞いていた。インディラ王宮と寺院は不仲のようだ。他に貴重な情報はないか、と。
「御身様」
 ナーダと僧侶達の間を裂くように、忍が報告に現れる。
 ぼそぼそと話す二人の会話はよく聞き取れなかったが、『ジライ』という名が上がるのをセレスは聞き洩らさなかった。
 大僧正候補への報告を終えそのまま下がろうとした忍者を、セレスは呼び止めた。インディラ忍者は女勇者に対し、頭を下げ、片膝をついてかしこまった。
「そんなに形式ばらなくていいのよ。ちょっと聞きたい事があって………忍者ジライがどうしたの?」
「結界消滅後、荒野を離れ、北の丘に向かったのでござる。あやつ、何やら探っておるようでしたので、監視役として若い者を二名つけました」
「仲間の安否を確認してるんだろ」と、アジャン。
「北にゃ、チビガキ忍者が四人居たからな」
「あら、そうだったの」
 セレスはホッと息をついた。サリエルに体を奪われ、仲間をその手にかけてしまったジライ。彼の身を案じていたセレスには、ジライにまだ他にも仲間がいるという情報は朗報だった。
「ま、あのガキどもがまだ生きてるかどうかはわからんが。北にも魔族はかなり居たしな」
「………きっと無事よ」
 セレスはそう言って、夜空の星を見上げた。


 お名残惜しゅうございますと最後までナーダにベタベタに媚びながら、インディラの僧達は忍者達に護衛されつつ荒野を離れて行った。それよりずっと前に、シャイナの僧は帰途についている。
 荒野に残ったのはいつもの四人と、ナーダに命じられて聖なる武器を回収している忍者達だけだった。
 やっと解放されたと大きく伸びをする武闘僧に、赤毛の傭兵は歩み寄り嫌味を言った。
「お別れまで何十分かかってるんだよ、え?」
 それに対し、武闘僧はにっこりと微笑み、
「移動魔法やら山越えやらで苦労して集まってくれたんです、多少は、サービスしてあげなくてはね」
「まるで男ハーレムだったな」
 気持ち悪そうにそう吐き捨てた言葉に対しても、
「慕われすぎて困ってしまうほど、私には人を惹きつけてやまない徳が満ち溢れているのですよ」
 と、切り返す。その顔からは、この一カ月半、こびりついていた険は消えていた。
 赤毛の傭兵はにやりと笑った。
「………で、勝ったのか?」
「いえ」
 武闘僧の笑みが苦笑に変わる。
「………勝ち逃げをされてしまいました。もう二度と、彼とは戦えませんから」
「の、わりにはすっきりした顔をしているな」
「ええ。ちょっと開眼したので。一つの側面から見れば憎々しげな敵としか映らなくても、別の側面から見れば私よりも遥かに重荷を背負いそれでも高潔に生きてきた人物かもしれない。狭い視野で決めつけてはいけない。人間であれば、機会さえあれば、時にはわかり合えるかもしれない。そう思ったのです」
「………よくわからんな」
「つまり、僧侶にとっての敵は魔族だと、人間ではなかったと気づいたわけです」
「当たり前じゃねえか」
「ええ。ですが、私、最近、その事、忘れてたんですよ。それに、私、もともと人間の敵が多くて………今日せっかく開眼したのですが、この気持ち、インディラでも持ち続けられますかねえ」
 赤毛の傭兵は先程漏れ聞いた、王宮と寺院の不仲を思い出した。これから行く予定のインディラは結構、剣呑な所かもしれないと、傭兵は覚悟した。
「あの………ちょっとよろしいでしょうか?」
 シャオロンがためらいがちに二人に声をかける。その両手には『龍の爪』が装備されていた。
「お?付けたのか?」
「はい。ケルベゾールドを倒すまで両爪を装備しても良いと、神主さんから許可をいただいてますから。これからは、両爪で戦います。それで、あの………」
 シャオロンは二人に対し、深々と頭を下げた。
「アジャンさん、ナーダ様、今まで本当にありがとうございました。オレが龍神湖で神主さんと戦えたのも、こうやって仇を討てたのも、お二人のおかげです。お二人が、武術の才のないオレを鍛えてくださったから、オレ、今までやってこれました!ありがとうございました!」
 顔を上げた時、少年は清々しい笑みを浮かべていた。父親と兄弟の姿の者達と戦い、その死を乗り越えて、少年は、又、少し成長したようだ。
「ケルベゾールドを倒すまでだと?仇を討ったってのに、まだついてくる気かぁ?物好きなこった」
「え?でも、」
 からかうような笑みを浮かべる赤毛の戦士に、少年は真面目に答えた。
「村のみんなをまだ救えてません。サリエルは倒せたけど、リーさんやウォンさん達がどうなったかは、さっぱり。オレの知らない所で浄化されたんならいいけど、まだその体を魔に悪用されてるかもしれません。だから、」
 少年はきりりと眉をひきしめた。
「ケルベゾールドを倒すまで、みなさんとご一緒させてください。全ての穢れたものを払い、苦しんでいる魂を救える時まで………オレ、戦います」
 赤毛の傭兵は肩をすくめた。
「ついてくるんなら、今まで以上に働いてくれよ。オレが楽できるように、な」
 少年は力強く頷いた。
「はい、アジャンさん!」
「これからも、あなたと共に戦えるのは心強いです。良い武器に負けないよう精進を続け、己を鍛えてくださいね」
「はい、ナーダ様!」
 二人に対し、又、深々と頭を下げると、少年は走った。一人、夜空を見つめている女勇者の元へと。


「セレス様〜!」
 駆け寄って来る少年は、右手をぶんぶん振り回していた。『龍の爪』を装備しているのに、まるで頓着していない。その子供っぽさが可愛らしく、セレスは微笑を浮かべた。
 セレスの前まで来ると、シャオロンはしゃちほこばった顔となり、膝を折り跪いた。
「セレス様、ありがとうございました」
「シャオロン………」
「セレス様のお力添えでサリエルを討てました。父さんも兄さんも母さんも村のみんなも………これでゆっくり休めます。まだ村の誰かの肉体が魔に使われてるかもしれないけど………出会ったら救えるよう、オレ、魔族と戦い続けます」


「オレがここまでこれたのも、セレス様のおかげです。だから………今度はオレの番です」


「まだまだ未熟なオレだけど、千分の一でも万分の一でもご恩をお返しできるよう、頑張ります。少しでもセレス様のお力になれるように」


「セレス様はオレが守ります」


 頬を赤く染め、少年は敬愛する女性を見つめた。
 セレスは、その美しい顔に慈悲深い女神のような微笑みを浮かべていた。
「ありがとう、シャオロン、嬉しいわ」
「………セレス様」
 身をかがめ、セレスは爪を装備する少年の手にそっと触れた。
「あなたが傍にいると、私も、もっともっと強くなれる。いつかは、勇者にふさわしい人間に成長できる気がするの。頑張っているあなたが、私に力を分けてくれるから………。シャオロン、これからもよろしくね。一緒に頑張りましょう」
 シャオロンは顔を輝かせ、力強く頷いた。
「はい!セレス様!」


 約束の刻限を過ぎても、落ち合い先にはキクリしか現れなかった。襲撃に参加した部下は誰一人戻ってこなかったのである。
 忍者ジライは覆面の下の顔を曇らせた。
(アカハナ達四人にマツムシ………自爆したのであれば良いのだが、魔族の手に堕ちたやもしれぬ。その場合、遺体となっていたコゲラもだな)
 ジライはその場で忍者頭への書状を書き、くノ一キクリに届けるよう命じた。
 特殊な暗号文で書かれた書状には、『ウズベル』という名の大魔王四天王が忍の里を狙っている事、荒野での戦いの顛末を記しておいた。手紙が着いた時点で、(かしら)がまだ魔族に憑依されていなければ、保護している大魔王教徒を処分するなりして保身を計るだろう。ひいてはそれが里の安泰に繋がる。
(………里への義理は果たした)
 後は私闘に走るのみ………
 忍犬と共にくノ一が東へと向かった後、忍者ジライは西を目指した。女勇者暗殺の任を捨ててインディラで魔族と戦うのは、里への反逆行為に当たる。


 即ち………
 ジライは抜け忍となる道を選んだのであった。
『死の荒野』 完。

次回は『信仰と禁忌』。舞台はシャイナ。
『死の荒野』の後日談、ナーダの話です。

次回の『信仰と禁忌』をもって
第一章 剣と仲間と は、終わります。
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