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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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死の荒野 4話

 荒野に迫る魔族。
 空から襲い来るものを、猛々しい竜巻が襲う。聖なる龍の御力を借りた竜巻は、不自然な生命を、怒りのままに千々に砕いてゆく。
 地を蹴り走る魔族を、天からの雷が貫き、風のように速いエルフの弓が射殺してゆく。
 けれども、魔族や大魔王教徒の数があまりにも多く、竜巻、雷、弓矢から逃れたものが、荒野の四人へと押し寄せて来た。
 赤毛の傭兵は、敵の襲撃を、口元を歪めて浮かべた笑みと共に迎えた。身長ほどもある巨大な大剣を振り回したかと思うと背に戻し、腰の『聖王の剣』をもって魔族を紙切れか何かのように叩き斬ってゆく。
 その横で戦っているのが、武闘家の少年であった。腕の半分はあろうかという大きな爪を左に装備している。鋭い爪で敵を裂き、爪からほとばしる聖なる水で魔族を浄化し、竜巻を操って空の敵を落としている。
 赤毛の戦士は、少年から離れすぎないように心掛け、少年の背後を狙う敵を倒していた。乱戦ともなれば実戦経験に乏しい少年は隙だらけとなる。戦慣れしていない少年を守っているのだ。
 広い荒野で敵に囲まれて、勇者一行は北と南に分断されていた。赤毛の傭兵と武闘家の少年は荒野の北側に居り、南側には女勇者と武闘僧が居た。
 武闘僧は『雷神の槍』を振り回して敵を払い、敵の集団にその先端を向けては槍に願い、雷を落としていた。得意の神聖魔法は唱えない。長丁場になると踏んで、回復魔法の為に魔法力を温存しているのだ。
 女勇者は金の髪を靡かせ、美しい青の瞳を怒りに燃やしている。敵が接近してからは『エルフの弓』はしまい、巨大な『勇者の剣』を抜いていた。『勇者の剣』は岩をも砕く攻撃力と、凄まじい浄化の力を有している。剣の切っ先を向けるだけで、力の弱い魔族を散じさせてしまうほどに。
「殺せ!女勇者を殺せ!」
 浮遊しているざんばら髪の女が叫ぶ。その体を覆うのは忍者装束だ。
「しょせんは女!『勇者の剣は女を嫌う』!剣の真の力を引き出せるものか!」
 セレスは魔族の女をキッ!と睨み、
「真の力を引き出せなくても、正義を思う心に剣は応えてくれるわ!」
 空中に向かい剣を振るう。『勇者の剣』そのものが持つ浄化の力が、光の奔流と化し、そこに存在する悪しきものどもを消し去ってゆく。光は魔性の女を目指していた。
「ひっ!」
 くノ一姿の魔族は悲鳴をあげ、宙よりその姿を消し、セレスの背後に現れた。移動魔法だ。
「おのれ、小娘!」
 息を吹きかけるために口をすぼめ、魔族の女はセレスに黒い気を浴びせようとした。
 が………
 次の瞬間には、首と胴体が二つに別れていた。女の首が回転しながら宙を飛び、体の方は塩となって消えた。
 周囲に水飛沫が舞う。
「え?」
 振り返ったセレスは驚いた。
 地下道へと通じる、岩を模した蓋が開いている。秘密通路を通って現れた者に、危ないところを救われた事はわかったのだが………
 助け手は………覆面姿の東国忍者だった。
「ゆえあって、しばし力を貸す」
 その声は忍者ジライのものだった。暗殺者のはずの男は首の行方を追って、走り去っていった。
 続いて秘密通路からナーダより一回りも体の大きい一つ目鬼が現れ、現れると同時に巨大な棍棒を振り回して大魔王教徒達を蹴散らしていた。それから、左腕の無い忍者、小柄な忍者が現れた。
「ユリネ、乱戦では我等の技は使えぬ。気は温存しておけ」
「あいよ、ジャコウ」
 小柄な忍者が若い女の声で、片腕の忍者に答える。二人は、手裏剣や忍者刀で大魔王教徒と戦い始めた。
 忍者達の活躍で魔族以外の敵が、セレスと武闘僧の周囲から減り始める。が………
「なっ………何がどうなってるんです!」
 と、叫んだのは女勇者ではなく、武闘僧だった。秘密通路まで駆け寄り、中に潜んでいる者とボソボソと話を始める。今回の作戦の協力者。ナーダは彼等をインディラ寺院付き御庭番と、セレス達には紹介していた。偽の大魔王教徒を演じたのも、忍者の幻術の場から武闘僧を救助して術の効果範囲外に連れ出したのも、投げ縄で『雷神の槍』を運んだのも彼等だ。
 セレスは会話中の武闘僧をかばい、周囲の魔族の浄化につとめた。
「何で、そんな勝手な!」
 ナーダは声を荒げた。が、最後には溜息をつき、諦めの表情を浮かべた。
「セレス!魔族との戦いの間、ジャポネの忍者は味方に回るそうです!戦いの後も諸事情により、あなたの暗殺を一時延期、場合によっては暗殺役を放棄するそうです!」
「え?」
 セレスは耳を疑った。
 隙のできた彼女を狙って近づいた魔族は、武闘僧がやけくそのように振り回した槍によって消滅した。
「何なのよ、その諸事情って!」
「私が知るものですか!彼等のお家事情らしいですよ!あなたを殺すよりも先に確かめねばならない事ができたそうです!で、その結果によっては、あなたを殺す理由すら無くなるんで、そうなったらもう二度と命を狙わないと言っているとか!」
「………二度と命を狙わない?」
 二度と戦えない?
 ジライと?
 まだ、借りを返していないのに………
『勇者の剣』で『ムラクモ』を敗っていないのに………
 あの忍者と戦えないのなら………
 この一月半以上の努力は、一体………
 何の為に鍛えてきたのだろう………?
 むなしい思いに囚われかけていたセレスは………
 突然、両腕に重みを感じ、ハッとした。『勇者の剣』の重量が増している。怒っているのだ。
(いけない!私ったら!)
 いつの間にか、目的が変わってしまったのだ。勇者にふさわしくない技量を恥じていたはずが、勝負に拘泥するあまり、忍者に勝利する事こそ真の目的のように思い込んでしまったのだ。
(………ごめんなさい)
『勇者の剣』に詫びてから、セレスはやや重くなった大剣を手に走った。
(私は勇者にふさわしい人間になりたい………私の敵はケルベゾールドとその手下の魔族だわ。だったら、)
 セレスは『勇者の剣』を一振りした。片腕の忍者とくノ一の傍まで迫っていた魔族が浄化され、消え果る。
 片腕の忍者がいぶかしそうに振り返る。セレスは口元に、にっこりと笑みを浮かべた。
「魔族を敵とする者は、志を同じくする者よ。あなた方の変心、歓迎するわ」
「………かたじけない」
 片腕の忍者は瞳を細めた、微笑むかのように。
 けれども、くノ一は、覆面の下からきつい眼差しを向けるばかり。彼女はセレスを親の仇のように睨んでいる。
 馴れ合いたくないのかもしれない、そう思い、彼女に対しては軽く会釈をしただけで、セレスは走った。聖なる武器を持たぬ彼等を守りつつ、敵と戦う為に。
「セレス………」
 女勇者の声は武闘僧の耳にも届いていた。
『魔族を敵とする者は、志を同じくする者よ』
 ナーダは槍を握る手に力をこめた。
 敵は邪悪なる魔族………
「………そうでした」
 僧侶である自分が、そんな当たり前の事すら忘れ、自分を見失っていたのだ。一カ月半以上、一人の好敵手しか見ていなかった。彼と再戦し、勝利する事しか考えていなかったのだ。
「本当に………どうかしてましたね、私」
 武闘僧は口の中で低く呪文を詠唱しながら傍の敵を薙ぎ倒し、棍棒をぶんぶん振り回している単眼の鬼の背後へと走った。火傷を負った背には薬が塗られ一応の応急処置は施されているようだったが、火薬で焼かれた皮膚は黒く焦げ、爛れていた。
 左手だけで槍を持つと、右手を突き出し癒しの魔法をその背にかける。ナーダから広がったあたたかな光が、焼けただれた背を癒していった。一つ目鬼には痛覚がないようだったが、生死に関わるような重傷を負っている人間を放ってはおけない。
 巨人は棍棒で戦う事を止めなかった。が、ナーダの手から広がる光が背中に集まっている事、その光に包まれていると背の火傷が治っていく事は理解できたようだ。単眼を細めて、にたぁ〜と口元をゆるめ、ナーダに笑みを見せる。えへらえへら笑う顔は嬉しそうだった。
「感謝の言葉ぐらい言ってもらいたいものですね」
 治療が終わると同時に、ナーダは近辺の魔族の討伐に走った。非常識なほど攻撃力がある武器とはいえ、巨人の棍棒は聖なる武器ではない。人間に対しては無敵でも、魔族は殺せない。ナーダは己が手で殺そうと思っていた人物を守る為に、『雷神の槍』を振るった。


「おのれ!裏切ったな!たかが人間が!」
 ヒサメの首は宙を飛び、追いかけて来る者に罵詈雑言を浴びせていた。
「愚かなる人間よ!おまえの命など、もはや風前の灯!おまえはもう間もなく人としての生を終える!」
 ヒサメの首を追う者は、首がほざく事など気にせず、注意深く距離を計っていた。先程、首を刎ねた時には、相手の方が素早く自ら首と頭を切り離した為、『小夜時雨(ムラクモ)』で消し去れなかったのだ。
「おまえは体内の私の気を浄化したつもりであろうが、無駄じゃ!きさまは、もはやサリエル様のもの!」
(見えた)
 ジライは跳躍し、『小夜時雨(ムラクモ)』をもってヒサメの頭部を真っ二つに両断した。
 雨が降る。
 消滅する寸前まで首は何かをわめいていたが、白子の忍者は気にも留めなかった。仲間の命を奪ったモノの処分を終えるや、急ぎ、元来た道を戻る。部下達の元へと………


「あ………」
 シャオロンは立ち止まってしまった。
 彼を目指し駆けて来る者………
 末っ子のシャオロンをかわいがってくれた長兄ヤン………
 父ユーシェンに見捨てられたシャオロンに、内緒で武術を教えてくれ、継続する意味を説いてくれた次兄フェイホン………
 いろいろと相談にのってくれた三の兄ティエンレン………
 短気で手が早かったが、年が近かったので共に学問所に通い共に遊んだ、一番仲の良かったすぐ上の兄タオ………
 四人が………
 大魔王教徒に交じって………
 シャオロンを目指し、走って来るのだ………
「おい」
 肩をぐいっと掴まれる。赤毛の傭兵アジャンだった。
「知り合いが居たのか?」
「兄さんが………四人とも、すぐ、そこに………」
「あの黒の束髪の四人か。なるほど、似てるな」
「………」
「シャオロン、わかってるな?」
 赤毛の傭兵は冷たく言い放つ。
「その爪で切り裂くんだ」
「切り裂く………」
「浄化してやれ、そいつらは魔人だ」
「………」
「できんのなら、俺がやる」
 少年はかぶりを振った。
「オレが………やります!」
 そのつぶらな瞳から涙を流しながら。
「オレが兄さん達を送ります。父さんとの約束だから………魂に安息を与えてあげなきゃ………」
「とっとと顔をふけ。涙で間合いが狂うぞ」
「はい!すみません!」
 少年は右腕で顔をぬぐい、決意を込めて前方をみすえた。
 長兄ヤンが、シャオロンへと正拳を突き出してくる。それを身をかがめて避け、シャオロンは左手の『龍の爪』で長兄の腹部を貫いた。あっけなく長兄の体は、この世から消滅した。
(ヤン兄さん………)
 ヤンは優しかった。武術一辺倒で常に子供に厳しく接していた父に代わり、弟達を慈しんでくれた。シャオロンは幼い頃、ヤンに肩車をされるのが大好きだった。
 続いて次兄フェイホンが、拳から蹴りの連続攻撃を仕掛けてくる。それを見切り、シャオロンは相手が体勢を崩したところを狙い『龍の爪』を振るう。次兄は素早く後方に跳び退り攻撃を避けたのだが、『龍の爪』が放つ浄化の水までは避けられなかった。
 次兄フェイホンが悲鳴をあげた。水を浴びた右腕が塩となって溶け始めたのだ。腕を押さえ悲痛な声をあげる次兄。シャオロンはその姿が正視できなかった。
 そこへ、次兄の陰から三の兄ティエンレンが手刀を繰り出してくる。
 シャオロンを打ちすえようとした三の兄ティエンレンは、目的を果たせず、後方へ吹き飛んだ。
 アジャンが大剣で三の兄を叩きつけるように斬り、その勢いで体を飛ばせたのだ。アジャンによって斬られた三の兄の傷は、見る見る塞がっていく。聖なる武器で斬られるか、神聖魔法で清められない限り………兄達は死なないのだ。
「迷うな。切り裂け。できんのなら、俺がやるぞ」
「やります!」
 シャオロンは『龍の爪』を構え、走った。アジャンは『聖王の剣』ではなく、聖なる武器ではない背の大剣をもって援護してくれている。兄達を送りたいと願うシャオロンの為に、敵を殺せない武器を使ってくれているのだ。その気持ちに応えないわけにはいかない。
「兄さん!」
 シャオロンは素早く左手を旋回させ、その爪で次兄フェイホンと三の兄ティエンレンを切り裂いた。
 次兄フェイホンは兄弟の中で最も武術の才があり、根気強くシャオロンに武術を教え続けてくれた。父から道場への出入りを禁じられ落ち込んでいたシャオロンを慰め、朝夕と必ず稽古をつけてくれた。
 三の兄ティエンレンは頭が良く、他武術への造詣も深かった。非力なシャオロンの為に、握力・筋力を鍛える訓練法も考えてくれた。
(フェイホン兄さん………ティエンレン兄さん………)
 次兄と三の兄の肉体が消滅する。後は………
 四の兄タオ。年も近く、一緒に遊んで育った、最も仲の良かった兄。
「オレも殺すのかよ、シャオロン?」
 魔人に生まれ変わったはずの四の兄タオが、以前と変わらない口調で話しかけてくる。
「何でおまえだけ無事なんだよ?何でおまえだけ、あの日、生き延びたんだ?この卑怯者!」
「タオ兄さん………」
「あの日………父さんも兄さんも村の弟子達も、体がまったく動かなくなっていた。オレ達は風邪かと思って寝込んでいたんだが………違ったんだよ。毒を盛られていたんだ。井戸に筋肉が弛緩し徐々に衰弱してゆく、遅効性の毒が投げ込まれていたんだ」
「………」
「魔族と大魔王教徒が攻めて来た時、オレら、みんな、まともに動けなかったんだよ。父さんでさえ、あっけなく魔族に討ち取られた。みな死んだのに………なんで、おまえだけ無事なんだ?おまえだって井戸水を飲んだはずだ。母さんが井戸水を料理に使ったんだから。なのに、何故、おまえだけ毒が効かなかったんだ?」
 シャオロンはかぶりを振った。井戸に毒が投げ込まれていたなど、今まで知らなかったのだ。何故、毒が効かなかったのかと問われても答えようがない。
「シャオロン、敵の襲撃の時、おまえだけ村に居なかったよな?何でだ?」
「薬草を摘みに山に行ってたんだ………みんな、風邪だと思ってたから、だから………」
「おまえが魔族達を村に引き入れたんじゃないか?」
「違う!」
「おまえ、魔族の仲間だったんだろ?」
「違う!違うよ!タオ兄さん、聞いて!オレは………」
「おまえはオレ達に嫉妬していた!落ちこぼれのおまえは父さんを怨み、武術の才のあるオレ達を妬んでいた………殺したいほどに」
「そんな事は思ってない!オレはみんな大好きだったんだ!母さんも兄さんも村のみんなも!父さんと話すのはいつも怖かったけど、でも、好きだった!尊敬していたんだっ!」
「おまえはオレ達を怨んでいた」
「違う!」
「だが、少なくとも………」
 くっくっくっと低く笑い、目の前の者は己の胸に手を当てた。
「こいつは、死の間際に、おまえを疑ったぞ」
 それは、耳まで裂けんばかりに口を広げて笑った………
「サリエル様が教えたのさ、村の誰かが毒を井戸に撒いたのだとな!」
 シャオロンは呆然と相手を見つめた。
「………おまえは………誰だ?」
「この体の所有者、魔のものだ。だが、おまえの事は知っている。脳を読めば、わかる。おまえはこの体の弟だ。おまえ、こいつに、あの日の朝、山に薬草を摘みに行くと言って出掛けたろう?こいつはな、すぐには殺されなかったんだ。村中の死骸の首検分をさせたからな!村に他に男は居なかったかと聞かれても、こいつ、かたくなに居ないと言い張っていた。大魔王教徒どもが戯れに剣でなぶっても、決しておまえの名を漏らさなかったのだぞ!」
「………タオ兄さん」
「だが、殺される寸前、サリエル様より井戸の毒の事を教えられ、こいつの心は揺らいだ。疑念が芽生えたのだ。何故、シャオロンには毒が効かなかったのか?シャオロンが魔族を招き入れたのではないか?と」
「毒なんて嘘なんだろ!」
「いや、嘘ではない。撒いた。やったのは村の者ではなく、行商人を装い村に侵入した大魔王教徒だがな!あの毒は確かに強力なものだが、千人に一人の割合で薬が効かない体質の者がいるのだ。おまえは、たまたま、その幸運な千人の一人だったのだ!」
「じゃ、本当に井戸に毒が………」
「おまえ、熱の高い両親や兄達に、水を勧めたな!毒とも知らず、皆に大量に飲ませたな!おまえの父や兄達がろくに動けなかったのは、まさにおまえの手柄!おまえが我等の襲撃を助けたのだ!」
「そんな………」
「おまえが家族を死に追いやったのだ!」
 兄の顔でそう責めるものに、シャオロンは何も言い返せない。ただ力なく頭を左右に振り、相手の顔を見つめるだけだ。
「この人殺し!」
 そう叫んだ兄の体が………袈裟がけに斬られる。
 一滴の血も流さずに四の兄タオは、斬った者を睨む。大剣を握った赤毛の戦士だった。
「こいつ、俺が斬ってもいいか?」
 アジャンは不愉快そうにそう言って顔をしかめると、シャオロンの兄から大剣を抜き、近寄る大魔王教徒を薙ぎ倒した。シャオロンが兄と会話している間も、ずっと周囲を守ってくれていたのだ。
「俺が『聖王の剣』を使おうか?」
「アジャンさん………」
「嫌ならとっとやれ!魔族の言葉に揺らぐな、馬鹿!おまえの兄がどういう奴かは、おまえが一番良く知ってるだろうが!おまえの兄はグダグダ怨み言をこぼすケチな野郎か?違うだろ!こいつはおまえの兄じゃない!」
「!」
 シャオロンはつらそうに瞳を伏せ、それから前方を見据え、左手の爪を構えた。
「オレが………浄化します」
 四の兄の姿の者が、怯えた顔を見せる。
「やめろよ、シャオロン、オレまで殺すのかよ………?」
「………ごめんなさい、タオ兄さん、助けてあげられなくて」
 ゆっくりと呼吸を整え………
「でも、今、魔の穢れから解き放ってあげます!」
 シャオロンは左手の『龍の爪』を振るい、大好きだった兄の肉体を切り裂いた。
 その体が消え果てるまで、シャオロンは決して目をそらそうとはしなかった。


 荒野の南では激戦が続いていた。
 女勇者の命を狙う者………魔人や大魔王教徒が、果てなく現れるからだ。戦闘の素人がほとんどだったが、敵は後から後から移動魔法で現れる。長時間、人海戦術で迫られれば、誰しも疲れ、動きが鈍ってゆくものだ。
 ナーダは自分やセレス、それに、東国忍者達にも、疲労回復や治癒の魔法を唱えていた。
 忍者ジライは聖なる武器『ムラクモ』を持っていたし、単眼の鬼の攻撃力はゴーレム並だった。残りの二人も大魔王教徒相手ならば、遅れをとらない。
 望んで仲間となったわけではないが、仲間として迎えた以上は、守り助けあうべきだ。彼等には生きていてもらわねば困る、戦力として。
 少し前から、巨人と二人の忍者は大魔王教徒の担当、セレスとナーダは魔族担当と、無言のうちに役割は分かれていた。
 魔にふさわしい醜い姿に変身していない限り、一見、魔人とただの人間の区別はつきがたい。しかし、気を見ればわかる。目をそむけたくなるような黒い気をまとう者こそ魔人。
 ナーダはもともと魔の気に敏いし、セレスも『勇者の剣』が助力してくれているのか穢れたものを見分ける事が出来た。倒すべき敵がわかるのだ。
 剣、槍、長刀等、聖なる武器を所持している魔人。その者達は、生前、その武器の持ち手であった高潔な人物のはず。死後にその肉体を聖なる武器ともども、魔に悪用されているのだ。
 彼等は聖なる武器に選ばれるだけあって、皆、強敵だった。しかも、魔人と生まれ変わってからも生前の愛武器を使っているのだ。彼等に神聖魔法を唱えても、聖なる武器の清らかさに魔法が相殺されてしまうので効果がない。
 彼等を倒すには………聖なる武器を用いるしかない。
 聖なる武器をもって、聖なる武器に勝つ。
 相手の武器を弾いた後に浄化するか、相手より優れた技量をもって隙をつきその体に一撃を加えるかしかない。
 女勇者も武闘僧もなみなみならぬ覚悟で、強者(つわもの)と対戦した。
 しかし………
 つばぜり合いとなったり、打ち合いとなってなかなか勝負がつかなくなると………
 それを待っていたかのように、忍者ジライが敵の背後から忍び寄り、『ムラクモ』で敵をあっさりと斬って浄化してしまう。敵は装備していた武器を残し、一握の塩ととなって消え果てた。
 何度となく勝負をかっさらわれ、武闘僧は敵の虚をつく戦い方ばかりをする忍者を怨めしく思った。
(………卑怯な)
 乱戦において勝負に拘る方が愚かなのだろうが、名勝負となるところを邪魔されればやはり面白くない。
 少し観察すると、忍者ジライがまともに敵と戦っていない事がわかる。すばやい体術で敵の頭上、背後、側面から仕掛け、囲まれる前に逃げる。人の頭ほどもある巨大な卍手裏剣を投げて敵の数を減らしてから、攻撃。忍法で敵を攪乱してから、攻撃。そんな感じだ。
(正々堂々なんて、忍者に期待するだけ無駄なんでしょうが………)
 そうかと思えば、何も考えずに敵を打ち砕くだけの一つ目鬼もいる。ナーダは時折、巨人が魔族にとり囲まれた時などに、棍棒に祝福の神聖魔法をかけてやっていた。しかし、あまり知能が高そうには見えない巨人は、ただ棍棒を振り回すだけだ。おそらく、気づいていないだろう、魔族を倒せる時と倒せない時がある理由に。
 現れては消え、現れては消えてゆく敵………
 移動魔法で新たに現れた者の中に………
 金髪碧眼の西国風の美男子がいた。細剣を腰に差した、中肉中背の若い男。赤い色の派手な剣士の衣装を身にまとっている。
「これは………」
 男から広がる黒の気は凄まじく、まるで嵐のようだ。今まで対峙してきたどの魔族よりも邪悪で、強大な気だ。
(ウンナンのインディラ寺院からの報告と人相・特徴が一致。しかも、この気!間違いない、あれがサリエル!)
 ナーダは、インディラ忍者から渡されていた合図用の筒と火打石を胸元から取り出し、筒を地面に置き、着火した。数秒後、筒から噴き出た花火が天を曇らせ、派手な音を響かせた。


 荒野の多くの者が、天を見上げた。
 花火だ。
 片腕の忍者は、それを合図用花火とみてとった。しかし、天を曇らせる黒煙は見覚えのない形をしている。東国忍者の花火ではない。
「私達の合図よ」
 セレスは短く説明した。セレスは、戦いづらそうな片腕の忍者とくノ一を庇っていたので、たいてい彼等の傍にいた。
「これから罠をしかけるのよ」
「罠?」
 武闘僧が喉を負傷した演技をして、荒野の番小屋に籠って、敵をおびき寄せ………
 偶然、番小屋に着いたふりをしていたが、実はそこは、インディラ忍者の隠れ処で………
 番小屋に居るふりをして地下の洞窟に隠れ………
 奇襲をしかけ………
 四人しか居ないとみせかけて忍を地下に潜ませておいて………
 罠ばかりの偽の地下通路で敵を迷わせ………
 これだけやってきたというのに………
「まだ罠がござるのか?」
「これが最後………この罠をしかける為に、この場所を選んだのよ」
 ズゥゥゥンと地面が揺れ、耳をつんざく音が響いた。
 平衡感覚が狂い、片腕の忍者は右手で額を押さえた。見れば、すぐ横で弟子のユリネが頭を抱えていた。
 周囲の敵も………
 のたうちまわり形を保てず散じる小物魔族を筆頭に、魔族は苦しそうにうめき、ただの人間の大魔王教徒もジャコウ達同様、頭痛を感じているようだ。
「この荒野を、聖なる結界の内に閉じ込めてもらったの」
 多少、顔色の悪い女勇者が微笑を浮かべる。
「敵は移動魔法で現れては消えてしまう………だから、封印用の結界を張って、敵の大将サリエルを逃げられなくしたのよ。結界内では魔の力は半減し、あらゆる魔法が効果を失うの。移動魔法は使わせない。ここで、サリエルには消えてもらうわ」
「このような大規模な結界………一体、誰が?」
 数平方キロメートルにも及ぶ広大な荒野を丸ごと結界に閉じ込めるなど、並みの魔法使いでは無理だ。できるとしたら、有名な大魔術師カルヴェルくらいだろう。
「種明かしはサリエルを倒してからよ」
 セレスは『勇者の剣』をもって魔族を倒しに行った。
「敵は移動魔法をもう使えないから、これ以上、数は増えないわ。今、居る敵さえ倒せば、戦闘は終わりよ」
「やれ、有難い」
 乱戦は苦手だと、ジャコウは笑った。相手が彼やユリネの声に耳を傾けてくれねば、得意の幻術は使えないのだ。
「ジャコウ」
 覆面から覗かせるキツネのような目を更に細め、ユリネが師匠を睨む。
「あの女勇者と、ずいぶん口をきくんだね」
「馬鹿者。あれしか、今、情報収集相手はおらんのだぞ。話さんでどうする」
「………そんな事はわかっている」
 ぷいっとそっぽを向き、ユリネは忍刀を握りしめた。
「わかっていても、気に喰わない。ジャコウは他の女と口をきいちゃ駄目だ」
 それだけ言うと、ユリネは大魔王教徒に斬りかかっていった。
 ジャコウは弟子の子供っぽい嫉妬に苦笑を漏らしながらも、その後を追い、共に並んで戦うのだった。
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