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女勇者セレス 作者:松宮星

過ぎ去りし日々と未来

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独白

 何で女が嫌いかって?


 決まってるじゃない。


 頭が悪くて、無神経で、強欲で、わがままで、高慢で、高飛車で、そのくせ弱いフリをしやがって、泣きゃあ済むと思ってて、自己中心的で、淫乱で、節操がなくて、醜いからよ。


 女なんて昔っから、そう。


 ラグヴェイの妻になった女、知ってる?
 え?
 知らない?
 嘘ぉ。
 有名だったのに。
 ロイドの時代に、旧クリサニアが焼けたから? 記録が残ってない?
 んじゃ、覚えときなさい、悪女よ、悪女。
 腹が立つ、スベタだったんだから。
 そうよ、エウロペ国王の妹、知ってるじゃない。自分は高貴な血筋だって鼻を高くしてた馬鹿。
 あ、そ、性格までは伝わってないの? ふぅん。
 ケルベゾールドを倒した勇者へのご褒美って形で、国王が妹を降嫁させたわけ。
 取り巻きをごまんとひきつれて、あの女は嫁いできた。
 亡命先のエーゲラで、ちやほや育てられたあのバカはどうしようもないクズだった。
 主人(づら)して、夫を召使のように扱ったの。世を救った勇者をよ! すぐに癇癪を起しちゃ暴れて、こんな男に嫁いだ自分は不幸だって被害者(づら)して泣きわめいたわ。
 顔良し、頭良し、性格良しのラグヴェイが、夫として誠実に接したってのにねえ……完璧な夫に嫉妬したのかもね、あのブス。ちょっとしたアラを見つけては、鬼の首をとったみたいに大騒ぎしやがってさ。
 その上、浪費家で、尻軽。夫の目の前で平気で他の男とするような女だったわ。
 なのに、夫婦仲が冷え切ってからも、別居は許さず、ラグヴェイを自分のそばに縛りつけてた……


 ラグヴェイが大魔王討伐後、わずか四年で亡くなったのは、あの女のせい。
 もともと体が丈夫じゃなかったのに……あの子、真面目だったから、押しつけられたバカ姫のせいで神経をすりへらして……


 たった二十五年の人生……


 ショックだったわ。


 幸せになって欲しかったのに……


 ええ……
 そうよ、愛してたわ、
 最初の男は、特別。
 誰だって、そうでしょ?


 とびっきりかわいくて、素直で、純粋だった、アタシの天使……ラグヴェィ。


 あの子の剣となれて、アタシは幸せだった。


 あの子が『勇者』となった日から、いつも一緒だった。
 どんな時も、あの子はアタシを手放さなかった。
 移動する時には必ずアタシを背負い、食事の時にはアタシの為の席をつくり、寝る時には鞘に収めたアタシを抱きしめて眠った。バカ姫と同衾の時は、さすがにアタシをベッドから下ろしたけどね。でも、同じ部屋には置いてくれたわ。
 苦しい時も、怒る時も、嬉しい時も、あの子はアタシへと語りかけた。
 アタシからは返事を返せない。
 返事が返る事はないと知っていながら、あの子はアタシを大切にし、『人間』を相手にするように話しかけ続けた。
 アタシを『人間』扱いするラグヴェイをバカ姫は『狂人』だと嘲笑ったけれど、ラグヴェイは最期の時までアタシを愛してくれた。
 あの子の優しさが、アタシには嬉しかった……


 あら、やだ、しんみりしちゃったわね。


 何の話だったっけ?


 ああ、そう、女! 女ね!


 女なんか、ふしだらで、考えなしで、情知らずで、わがままで、男心を理解しないくせに、乙女心ってわけわかんない感情をふりまわして、理屈が通じなくって……


 そんでもって長生きしやがるのよ、あいつら! ラグヴェイの妻になったバカ姫も、そうだけど、図々しい女ほど長生きしやがる! アタシの大切な『勇者』達より長寿なのよ!
 おまえなんか死んじまえって、毎日、毎日、念を送ったのに〜〜〜〜
 みんな、しわくちゃなババアになるまで、意地汚く生きやがって〜〜〜〜
 アタシには『勇者』を守れる『無限の守護の力』がある。でも、アレって女には働かないのよ。
 女達のせいで、『勇者』が不幸になってくのを見てるしかなくって、本当、つらかった……
 どうして神様はアタシに呪いの力をくださらなかったのかしら。
 女なんか、男を不幸にするだけの悪魔なのに。
 継嗣だけ残したら、死んじまえばいいのに。


 女ができる唯一のいい事は、子供が残せる事。
 あのバカ姫も、最初の子供はラグヴェイの子を産んだ。二人目からは違うけど。


『勇者』は、ラグヴェイの血の中から選んだ。
 それ以外の者がアタシに触れたら、雷を落としてやった。アタシはラグヴェイの剣だもの。ラグヴェイと縁の無いものに触れられるのなんて、絶対に嫌だった。


 ラグヴェイの子や孫が大きくなって、アタシに触れる。
 アタシに気に入られようと、両手剣の腕を磨いた坊や達。
 アタシを自分のモノにしたがる欲は、かわいかった。
 でも、オマケはしなかった。アタシを持てるのは、一流の男だけ。アタシを振るうのにふさわしい男だけ。


 戦えない男なんかいらない。


 この地上を守りたかった。
 ラグヴェイが愛した世界を永久に守り、ラグヴェイの子供達を見守ってゆきたかった。
 この世を穢す魔族は、アタシの敵。
 この世から全ての魔を消し去るまで、共に戦ってくれる相棒……
 アタシが欲しかったのは、そんな男だった。


『勇者』は、みんな、愛したわよ。
 ケルベゾールドを倒して真の『勇者』となった子も、出番のないまま一生を終えた『今世の勇者』どまりだった子も。
 ラグヴェイの血を引く戦士達だったから……


 従者達だって守ったわよ。アタシの大切な勇者の仲間だから。


 だけど……残念なことに、最後まで、アタシに笑みを見せてくれた勇者は、ほとんどいなかった。


 フィリップの事を思い出すと、胸がつぶれそうになるわ……
 ええ、そう、八代目のあの子。
 大魔王のくそったれ野郎が、あんなクソみたいな呪いしかけやがって……
 勇者と従者が血まみれになって倒れてゆく時、アタシは何もできなかった……
 無限の守護の力も、大魔王の最後の呪いには働かないのよね……


 六代目のアレックスも、かわいそうだった。
 仲間が一人、又、一人って倒れてゆく中、あの子、一生懸命戦ったのに……大魔王を討ち取った瞬間、あの子の精神は引き裂かれたの……一瞬のことだったわ……
 たった一人生き残ったカネノブに背負われ、あの子は故郷へ帰れはしたけれど……
 言葉を忘れて、獣みたいになっちゃってて、見ててつらかった……何にもわからなくなっていた。自分の名も、家族も、仲間も、アタシの事も……
 それでも、四ヶ月は生きてたのよ。ひどい四ヶ月だったけど……


 かわいそうといえば、十一代目グラームもよね。失明しちゃって、帰国後、『勇者』から降りたのよ。剣術バカだったから、しばらく腑抜けちゃって……陶器作りって楽しみを見出してくれて本当、良かったわ。
 十代目のウォルトもよ。地味だけど、かわいそうなのよ。短命の邪法のせいで翌年、亡くなってるんですもの。
 従者達もねえ……いっぱい死んでるし……大魔王戦でも、その前でも……
 みんな無事に国に凱旋して、幸せに暮らして欲しかったのに……
 助けられなかった子がいっぱいいたわ……


 ああ、もう涙がでてきちゃう。


『無限の守護の力』を持っていても、アタシって無力なのよね……


 ううん、戦いばかりじゃないわ、日常でもね……


 死ぬまでアタシと一緒って、勇者は少なかったわ。
 ロイドとランツだけ。 
 ロイドは罪の意識から、アタシを背負い続けた。エウロペを焦土としてしまった『無能者』は自分だってアピールしたがっていたのよ。本当、馬鹿な子。大魔王討伐が遅れたのは、トンチキだった各国の王のせい。人間同士で戦争してなきゃ、優秀なあの子は、とっとと大魔王を討てたでしょうに。
 それ以外の子はね……長生きした子もいたんだけど……みんな、子供が育つと、さっさと『勇者』をやめちゃったのよ。


 女のせいよ。


 悪女ばっかじゃないのよね。
 家庭的な妻もね、ダメなのよ。
 勇者をただの『夫』にし、ただの『父』につくりかえ、自分のそばに縛りつけてしまう。
 勇者も、大魔王のいない世の中じゃ、アタシよりも妻を選ぶ。『魔を斬る』よりも、家族の側に居たがるようになる。
 大魔王以外の魔は、『勇者』以外の者でも浄化できる。『勇者』が倒さなくてもいい。『勇者』は戦場に行かなくてもいい。
 それは、その通りなんだけど……
 アタシは戦いたかった。
 この世から全ての魔が消えるまで、休みたくなどなかった。


 ふぬけてもラグヴェイの子孫だから、見捨てはしなかったけど……がっかりだったわ。


 女は……
 アタシから大事なものを奪う……
 家庭をつくって『勇者』を現実に縛りつける……
『勇者』が何の為にこの世にいるのか、わかろうともしない。
 地上を守ろうとする者に、家族よりも争いを選ぶのですか? と、わけのわかんない考えを押し付けてくる。
 自分だけに都合のいい『愛』だ『恋』だのに酔いしれて、『勇者』を駄目にする。
 だから、嫌い……


 子供だけ残して、死んじまえばいいのに……
『勇者』が誰かを娶る度に、アタシはそう思った。


 リシャールと生きた時代は、楽しかった。
 四代目勇者よ。
 そうよ、性格破綻の犯罪者。
 あの子のダメっぷりは、素敵だったわ。
 アル中で麻薬中毒(ジャンキー)な刹那主義者。女装が趣味の、女好きの、女嫌い。目をつけた女は、相手の合意などなしに手を出し、終われば二度と顧みなかった。
 あの子は、綺麗で醜い女を愛し、そして憎んでいた。
 世を救う気も微塵もなかった。
 アタシという武器を振るって、破壊の快感に浸っていただけだった。
 何もかもをぶち壊せるアタシを、あの子は心から愛してくれた。この地上の何よりも、アタシを必要としてくれた。酒や麻薬や女よりも、アタシに酔ったのだ。
 リシャールは『勇者』としては最低だったけど、魔を憎む気持ちはすごく強かった。
 今世を穢す魔が、彼の目には醜く映ったのだ。大嫌いな魔を殺す事を、リシャールは楽しんだ。一匹たりとも残そうとしなかった。どんな低級魔も、全部、叩き殺そうと自ら剣を振るってくれた。
 その破壊の衝動がアタシには、心地よかった。リシャールと一緒なら、今世から魔を全て消し去れるんじゃないかと思ったわ。
 アタシ達は一体化した。
 アタシと真に一体化できたのは、ラグヴェイとリシャールとロイドとランツ……四人だけ。
 リシャールは最強だったわ。この地上の誰よりも、強かった。神に匹敵するぐらいに。 
 でも、大魔王を討伐してじきにあの子は死んだ。
 自殺したのよ。
 実の母に『家の恥』とののしられ、『人前に出るな』と命じられたせい。
 落ち込んだわけじゃないのよ、母親なんて歯牙にもかけてなかったから。その時の気分で、面白がってアタシを使っただけ。
『助けるなよ』って言われたから、『無限の守護の力』は使わなかった。
 リシャールは最後の獲物に自分を選び、アタシを使って獲物を斬った……それだけだ。


 又しても、『女』! とは思ったけどね。
 女のせいで、アタシは大切なものを失うのか、と。
 うんざりした。


 リシャールのこと、何って伝わってる?
 リシャールの生前から『勇者の素行』のひどさを隠そうと、エウロペ国王が必死だったもの。あの子の悪事、ほぼ記録から抹消されてるんでしょ?
 あ、ああ……
 そうか、ロイドの時代に、クリサニアは邪龍に燃やされたものね。都合が良かったわよね、過去の勇者の悪事を葬るのには。
『惚れやすく、世界中の女性相手に浮き名を流した方』?
 あらまあ、ずいぶんマイルドな勇者になってるのね。××××の×××××野郎なのに。


 え?
 いい女?
 一人ぐらいは、居なかったかですって?
 ンなの居なかったわよ。


 女なんか、腐肉の塊よ。
 男を腐らせる駄目な果実よ。


 昔……ちょっとだけ好意を持った女も居たわよ。
 感情がコロコロ変わる、猫みたいな娘だった。ユーモアがわかって、ピンチでもケラケラ笑って仲間を励ますような、強気な女だった。サバサバしているようで、情に厚かった。
 アタシの『勇者』からも従者達からも愛されてたわ。
 二代目勇者ホーランの、従者よ。
 そう、アレよ、アレ。
 魔に堕ちちゃった、女魔法使いユーリア。
 未だに、あの女が何で堕落したのかわかんないんだけど……ま、女だし、くだらない事で誘惑されたんでしょうね。
 仲間を引っかき回すだけ、引っかき回してさ、欲望に負けたわけでしょ? 本当、女って迷惑。
 ユーリアがいなくなった後、すごかったのよ。従者仲間が分裂しちゃったの。
 魔に堕ちた以上は敵だと見下げるシャダムと、『己の武器と名と信仰する神にかけて共に戦う事を誓った仲間』をユーリアが裏切るはずはないと考えたゲラスゴーラグンがね……真っ向から対立。
 毎日毎日、ゲラスゴーラグンとシャダムがガーガーやっちゃってさ。ギスギスした雰囲気のまま旅は続き、大魔王討伐までそうだったの。ううん、その後も、か。
 おかげで、ホーランは胃を痛めたのよ。
 ごっつくって口数少なかったから誤解されやすかったけど、ホーランって、繊細な子だったのよ。ラグヴェイによく似た優しい子で、何よりも仲間を大切にしてたから……もう……
 旅の間は、インディラ僧のマハラシに治療されてたけど、すっかり慢性化しちゃって……
 ずっと胃の調子が悪いまま、『勇者』の旅を終えてから九年後に死亡……胃の病で、ね。
 なのに……
 ホーランの死後も、シャダムとゲラスゴーラグンは手紙をやり取りして、ユーリアの事で争ってたのよ!


 ユーリアなんか大嫌いよ!
 あのクソ女さえいなきゃ、ホーランは……ラグヴェイの孫はもっと長生きできたのに!


 女なんか、この世にいなきゃいい!


『勇者』の子供だけ産んでいなくなってくれりゃいいのに!


 はぁ? エリューズ?
 エリスね。
 あのクソ女が、何?


 そうね。
 あの女は自国の民を守る為に、十二代目ケルベゾールドの情婦になったわよね。
 あの女が言う事を聞かなきゃ、大魔王は脅し通りにトゥルクを蹂躙したかもね、確かに。
 でも……だから、何?
 立派?
 自己犠牲が美しい?
 女の中にも高潔な人間は居る?
 あ、そう?
 いいんじゃない、別に。
 そう思いたきゃ、思えば。


 思わないわよ、アタシは別に!
 自分の考えを押しつけないでちょうだい!
 迷惑だわ!


 大嫌いよ、あんなクソ女!
 ランツにベタベタ、ベタベタして!


 ええ、ええ、ええ! わかってるわよ!
 具合が悪かったのよね、あの女!
 淫婦の呪いをかけられて、一年中、発情状態だったものね! 無理がたたって体はボロボロだったわよ!
 あの女は悪くない? その通りね!
 だけど、嫌いなものは嫌いなの!


 あの女を助け出してから、ランツは……
 アタシにほとんど話しかけなくなったのよ!
 あの女の世話が忙しくって!
 たまに、思い出したようにアタシを見たけど、本当にたまにだったわ!
 あの女しか見てなかった!
 ランツはあの女に夢中だった!


 ラグヴェイの後……
 初めてアタシを『人間』として扱ってくれた男だったのに……


 出逢ってすぐに、ランツはアタシが何者かわかってくれた。生まれながらの共感能力で。
『ダチ』で『情婦』で『喧嘩相手』……相棒としてくれた。
 一緒に気に喰わないものをぶった斬ろうぜと、あいつは笑った。


 乱暴者でいやらしくって馬鹿で単純で、ケダモノみたいな男だったけど……
 アタシはランツが好きだった。


 リシャールもランツも、勇者らしくない勇者だった。
 でも、破滅的なキ●ガイだったリシャールとは違って、ランツは底抜けに明るかった。
 生き方が正反対なのよね。
 従者からも、うとまれていたリシャール。
 けど、ランツはあんた達から愛されていた。


 あんた達と一緒に旅をしていた時は、本当に楽しかった。
 ランツもあんた達も、アタシを『仲間』と思ってくれたから。


 剣として生きてきた時間の中で、あれほど満たされた時はなかった。
 全てが宝石のように煌いていた。


 けれども……
 あの女を手に入れてから、一年ちょっとであの女がくたばるまでの間……
 ランツの心から、アタシは居なくなっていた……


 あの女は大嫌い……


 あの女によく似た、あの小娘も嫌い……


 ガキの頃から、いやぁな感じはしたんだけど……
 どんどん、どんどん、あの女に似てくるんですもの。
 まとわりつかれて、うっとーしかったわ。
 ランツもランツの娘も男子を残せなかったから、アレが『今世の勇者』って事になって、アタシの側にやたら来るんですもの。
 ま、触らせてやんなかったけど、ね。
 女なんて、しょせん、お飾り。
 早く、あの小娘の姉の子が育てばいいと思ってたのに……


 ケルベゾールドのクソが、何で、復活しやがるのよ?
 後、十年、待てっての。
 それなら、ランツにちょっだけ似てる、かわいいグスタフが『勇者』だったのに……


 あの小娘に背負われて、旅なんて、まっぴらよ。
 おぞましい!


 いっつも、いっつも、雷を落としたいの、必死に我慢してるんだから……


 だって、ランツが……
 腎臓の病で死にかけてたランツが……
『俺の子猫ちゃんを頼む』って……
 アタシを信頼して頼んだから……


 あの小娘と旅に出てやったんじゃない……


 でも、これ以上の譲歩は無理!
 ちゃんと殺さないようには、してるわよ。
 あの子の従者だって、ついでに守ってあげてる。


 あの小娘とくっつくなんて、絶対に、嫌!
 アタシにだって、譲れない一線があるのよ!
 今まで通り、あんたの甥っこに背負われるわ! それでいいでしょ!


* * * * * *


 ナラカが、ため息を漏らし、目を開いた。
「何ぞわかったか?」
 わしの問いに、昔馴染みの僧侶は苦笑をみせた。
「ええ、まあ。予想通りの答えですがね……もう最大限の譲歩をしている、女性のセレス様とはこれ以上、親しくなりたくない……そう言っています」
 わしとナラカは、ナラカの前の宙に浮かぶ大剣を見つめた。
 大魔王ケルベゾールドを葬れる唯一の武器『勇者の剣』。
 聖なる武器じゃ。
 三日の期限をきって、こやつを、わしはセレスより借りた。
 セレスに触れられる事を断固拒否しとるこの馬鹿を説得する為じゃ。
 しゃべる事こそできん。が、この剣には思考能力があり、感情がある。
 わしも、だいたいは読めるのじゃが、この剣の心を読むのは、わしよりもナラカの方がうまい。かなり細かな感情まで読み取れ、それをうまい具合に言語に置き換えられる。多少ならば意志の疎通もはかれ、会話に近い交流までできるのだ。
 大魔王の呪に囚われ、魂だけが世界中をフラフラしとるナラカ。わしはナラカの出現先、エーゲラの古代遺跡まで剣を連れてジャポネから渡って来たのだが……
 読めるからといって説得ができるわけではない。ナラカは『お手上げ』と言わんばかりに、杖を脇に抱え、両の掌を上に向けている。
「女は嫌い、特にエリューズ姫が嫌い、そっくりだからセレス様は嫌いだそうです」
「まあ……オカマのカバ男が美しき女人を嫌うのはわからんでもないが」
 そう言うと、思考にもならぬ思考がわしに飛び込んでくる。魔法道具の思考というものは、人間のものとはかけ離れている。読むのには集中力と鍛練が必要なのだ。
 ナラカが特大の溜息をついた。
「カルヴェル……挑発するのはやめてください。彼は繊細(ナイーヴ)で誇り高いヒトなんですから、その手の悪口には敏感なんです」
 オカマなのは、本当じゃろうが。
『勇者の剣』は……非常に多感でヒステリック、理性よりも感情に走るタイプなのだが、その根っこは正義を愛する熱血漢でものすごく野太くいかつい感じ……
 人間にたとえると……筋肉ムキムキで毛深くてごっついくせに、心は女性でむちゃくちゃ厚化粧をして女装している……オカマのようなのだ。
「セレス様は、エリューズ姫とそんなに似てるんですか?」
 ナラカの問いに、わしは大きく頷いた。
「髪と目の色はランツに、面差しはエリス殿に似ておる。しかし、性格はどちらにも似とらん。真面目で融通がきかない正義感の塊。正義を愛し悪を憎む、典型的な勇者タイプ」
「ほほう」
「その上、純真。神聖魔法を教えた時にの、精神集中には必須じゃと言うて冗談で『セクシー・ポーズ』授業をしたのじゃが、あやつ、本気にしおって、一生懸命、セクシー・ポーズをしてくれたわい」
 ナラカが『ひどい先生に教わって、おかわいそうに』と楽しそうに、手を打って笑う。
 いやぁ、わしもな、本当にやってくれるとは思わなんだのよ。
「人を疑う事を知らん、心の綺麗な子でな……女の癖にと侮られぬよう人一倍努力もしておった」
「素直ないい子なのですね」
「うむ」
 ナラカがにっこりと微笑む。実に極上の笑みだ。
「なら、きっと大丈夫です」
「ん?」
 ナラカの視線が宙に向く。
「セレス様は、あなたの『タイプ』じゃないですか。けなげで、可憐で、努力家で、心の美しい、まじめな勇者だなんて……初代様とよく似ていますもの」
「ほう」
 剣が、又、意味不明な感情を爆発させる。『似てない!』と、言っておるのだろう。


 セレスは性別と外見のせいで、剣に嫌われておる。
 戦士としての技量を高め、武の道を極めるしか好かれる道はないと思っていたが……


 セレスがセレスらしい純粋な心を失わずにおれば……
 道は開けるのやもしれぬ。


 魔を憎み、正義に燃え、『勇者の剣』を操る、美貌の女勇者。


 剣が彼女を愛し、一体となって戦う日も……いつか訪れるのかもしれない。


 ごっつい体格のヒゲのオカマに懐かれておるセレスを想像したせいであろう、わしの頭の中に攻撃的な思考が飛び込んできた。
 罵詈雑言としか訳せぬシロモノじゃ。
 あんたのイメージ、最低! 品なさすぎ! だいたいアタシがガキンチョに靡くもんですか! 女なんか大嫌い! 絶対、心を許さないわ!
 と、いったところか。


 未来がどう転ぶかはわからぬが……
 セレスが『勇者の剣』をうならせるほどの剣技を身につけ、『勇者の剣』と心通わせあえる日がくる事を信じ、見守ってゆくだけだ……


 何にせよ、持てねば仲良うなるもない、持てなくなるほど重くなる事だけはやめてもらおうかの。
勇者の最期
 初代勇者 ラグヴェイ 病没
 二代目  ホーラン  病没
 三代目  クラウド  老衰
 四代目  リシャール 自殺(記録上は病死)
 五代目  レイモンド 事故死
 六代目  アレックス 発狂後に衰弱死
 七代目  ロイド   老衰
 八代目  フィリップ 大魔王の呪により全身から血を噴いて死亡
 九代目  アラステア 老衰
 十代目  ウォルト  短命の邪法で、大魔王戦の翌年死亡(記録上は病死)
 十一代目 グラーム  老衰
 十二代目 ランツ   病没

大魔王の呪
 二代目  ホーラン  同士討ち(女魔法使いユーリアが大魔王に憑依された)
 三代目  クラウド  種無しの邪法(勇者の家系は弟アーロンが継いだ)
 六代目  アレックス 狂気の魔法
 八代目  フィリップ 従者ともども、全身から血を噴いて死亡
 十代目  ウォルト  短命の邪法で、大魔王戦の翌年死亡
 十一代目 グラーム  失明
 十二代目 ランツ   魔界に封印(形代で僧侶ナラカが代わって呪を受けた)

* * * * * *

『姫勇者ラーニャ』のストーリーに『勇者の剣』の正体が関わる為、「Y様の独白」のアップは遅らせていました。
 内容的には、オカマがシラフで管を巻いているだけなのですがw

『旅のはじまり * ジライ *』で、カルヴェルがセレスから剣を借りている時の独白です。
 なので、セレスはまだ大嫌いだし、ユーリアが堕落した理由も知りません。旅を続けてゆくうちに、セレスのけなげさや仲間思いのところに惹かれ、シャオロンを通じてユーリアの真実を知り、女性観を改めてゆきます。

 カルヴェル編以外の『千人斬り』後、剣がセレスを怒ったのは、彼女の心が相手の男性で占められてしまったからです。
 自分を一番に思ってくれないセレスに対しヒステリーを起こしながら、『もういいわよ。あんた、勇者やめて、男と幸せに生きなさいな』と送り出すおネエさん心も働いています。
+注意+
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特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
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