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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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シャオロン奮戦す VSセレス 1話

「オレですか………?」
 今宵の宿屋の廊下で、シャオロンは呆然と、武闘僧と赤毛の傭兵の顔を見渡した。
「オレが………オレなんかが今夜、セレス様のご寝所で一緒に寝るだなんて………そんな………」
 今宵は続き部屋の三間に泊まる。セレスはもう中央の部屋でくつろいでいる。左右が護衛の部屋なのだが………ナーダもアジャンも、セレスの部屋にも護衛を置くべきだ、その役はシャオロンにしかできないと断言しているのだ。
「あなたしかいませんよ」
 武闘僧ナーダは溜息をついた。
「だって、シャオロン、女と見れば見境ない品性下劣な傭兵を同室にするわけにはいかないでしょ?」
「アホぬかせ。俺は死んでも、あのくそ忌々しい女にだけは手を出さん」
 赤毛の戦士アジャンは、フンと鼻を鳴らした。
「第一、俺は処女が嫌いなんだ。しち面倒くせえし、うるせえし………大金積まれたって、セレスとは犯りたかないぜ」
「と、本人は言ってますが、アジャンと同室ではセレスが絶対に承服しないでしょう」
「じゃあ、ナーダ様が同室になられれば………」
「駄目です」
 きっぱりと武闘僧は言い切る。
「私は修行僧ですからね、野宿の時はともかく、妙齢の女性と一緒に眠るわけにはいかないのです」
「でも………オレじゃ………」
 シャオロンはうつむいた。泣きそうな顔で。
「お役にたてないと思います………」
 昨夜、セレスは忍者の襲撃を受けた。
 幸いにも賊はそれほど強くなかったようで、セレスは無事だった。しかし、泊まっていた部屋は爆破され、護衛に駆けつけたアジャンは軽い火傷を負っていた。
 その時、シャオロンが何をしていたかというと………熟睡していたのである。セレスに起こされてもいぎたなく眠りこけ、アジャンに担がれて火の手の回る宿から運び出されたそうなのだ。
 今宵も、又、忍者の襲撃があるかもしれない。セレスの命が狙われるかもしれない。けれども………
「オレじゃ………足手まといにしかなりません」
「シャオロン、昨夜の事は気にする必要はありません。あなたは睡眠薬を盛られていたようですし」と、ナーダ。
「………」
「情けねえ顔するな、シャオロン。何もおまえ一人にセレスを守れって命じてるわけじゃねえ。部屋の周りは俺とナーダが固める。おまえは俺達が討ち損じた奴だけを相手にすればいいんだ」
「………はい」
 東国の少年は意気消沈したままだ。赤毛の戦士はぼりぼりと頭を掻いてから、少年の肩を叩いた。
「なあ、シャオロン、おまえにあって俺に無いもの、何だと思う?」
「え?オレにあってアジャンさんに無いものですか?えっと………何だろう?逆ならいっぱい思い浮かぶんだけど………」
「それはな」
 赤毛の戦士は、にやりと笑った。
「命に代えてもセレスを守ってやるんだって、心意気さ」
「………アジャンさん」
「セレスの護衛役は、俺やそこのマイペースなクソ坊主よりも、おまえ向きの仕事だ。俺らは勝手にそこらの敵をぶっ殺す。おまえはセレスを守れ」
「………」
 ナーダも、にっこりと笑みを浮かべる。
「あなたには他にも長所がありますよ。あなたはとても素早い。強力な敵が現れたら、その動きで敵を翻弄してセレスを逃がしてもいいし、セレスと共に戦ってもいい。私達に助けを求めに走るって手もあります。ようは戦い方次第です。それと、あなたのやる気次第ですね」
 少年は二人の顔を順に見つめ………ぐっと拳を握りしめてから、元気よく頭を下げた。
「わかりました!オレ、がんばります!アジャンさん、ナーダ様、ありがとうございました!」


「よろしくね、シャオロン」
 東国風の寝巻………浴衣を着たセレスが、畳に敷いた布団の上でにっこりと微笑む。
「頼りにしてるわよ」
「はい!オレ、がんばります!」
 セレスから一畳分離れた布団の上で、シャオロンが両の拳を握りしめる。こちらも浴衣姿で、就寝前なので黒の長髪は束ねずに解いてある。長さは女勇者と同じくらいあるが、軽いウェーブを描くセレスの金髪とは異なり、さらさらの直毛だ。
「あんまりガチガチにならなくていいのよ。一応、襲撃に備えて準備してあるし」
 と、セレスは枕元に目をやった。行燈と白銀の鎧、荷物入れのそばには武器がある。『勇者の剣』はカルヴェルに預けてしまったが、『虹の小剣』に『エルフの弓』、他にもアジャンから借りたナイフ、乗馬鞭、金槌などをすぐ取れる位置に並べてあるのだ。
「さ、寝ましょ」
「はぁ」
「護衛役だからって徹夜しちゃ駄目よ。明日、お師匠様が『勇者の剣』を届けてくださったら、龍神湖を目指す旅に出るんだから」
「はい」
「龍神湖で、あなたの武器、見つかるといいわね」
「すみません。オレなんかのために、セレス様を回り道させちゃって………」
「馬鹿ねえ、まだそんな事、言ってるの?あなたの仇は魔族と大魔王教徒、私にとっても敵よ。あなたが穢れた敵に対抗できる力を得る事は、私にとっても喜びよ。気にしないで」
 にっこりと微笑む、女神のように美しい女性………
 シャオロンは両の拳を握りしめた。
(絶対、セレス様をお守りするんだ!暗殺者も魔族も大魔王教徒も近づけるもんか!)


 行燈の灯りを消し、(とこ)につく。
 闇に眼が慣れてくるにつれ、不安が募る。シャオロンは天井を睨み、或いはキョロキョロと周囲を見渡し、何度も何度もセレスの様子をうかがった。
「ンもう!」
 セレスはむっくりと起き上がり、東国の少年の布団に近づくと、少年の額を右の二の指で軽く弾いた。
「寝ないと、明日、バテちゃうわよ。寝て体を休めて、必要な時に動けるように体調を整えておくのも、武人の心得よ」
「………すみません」
「明日も明後日も襲撃に備えるのよ。こういうのは持久戦なの。最初に無理しすぎたら後がつらいわ」
「………はい」
「熱心なのがあなたのいい所だけど、何事もほどほどにね」
「………わかりました」
 セレスは少年の黒髪を撫でた。
「おやすみ、シャオロン」
「おやすみなさい、セレス様」


 そう挨拶したものの、緊張していて、やはりシャオロンは寝つけなかった。
 間もなく、セレスがやすらかな寝息をたて始める。
 シャオロンは横を向き、敬愛する女性の横顔を見つめた。
 衣服を枕代わりに、すやすや眠るセレス。周囲は闇なので輪郭ぐらいしか見えないが、どんな顔をしているのかは容易に想像できた。
 その横顔を見つめているうちに、息苦しいような甘酸っぱさがシャオロンの胸を支配した。セレスをずっと見ていたいような、彼女から目をそむけたいような、相反する二つの感情が彼を責めたてた。
(寝なくっちゃ………)
 シャオロンは瞼を閉じた。


 それからどれくらい経ったのだろうか。
 シャオロンは人の気配を感じて瞼を開き………あやうく大声をあげそうになった。
 すぐ目の前に顔がある………
 それは………
「セレ………ス様?」
 セレスはシャオロンと向かい合う形で眠っていた。
 慌てて起き上がり、きょろきょろと周囲の闇を伺う。シャオロンは、自分が自分の布団に眠っているのだと確認した。
 と、いうことは………
「うぅぅぅん」
 セレスの体がごろごろと畳の上を転がってゆく。シャオロンとは逆向きだ。自分の布団へ戻るのかと思われたが、コースが微妙に上向きだ。このままではセレスは、枕元の武器に突っ込んでしまう。
「あぶない!」
 シャオロンは跳ね起きて、急いで両手で武器を抱えてよけ、セレスの荷物入れを蹴って動かした。何も無くなった畳の上をセレスはしばらく転がり、隣室への襖にぶつかる前に動きを止めた。
 武器を同じ場所に戻し、シャオロンはセレスのそばでしゃがんだ。
 背を向け、丸くなって、セレスはすやすや眠っている。
「セレス様………そんな所で眠っちゃダメです。お布団に帰りましょう」
 耳元で小声でささやいても、セレスは静かに寝息をたてるだけだ。
 仕方なく背を揺すると………
「………うぅ〜ん」
 白い腕が跪くシャオロンを抱え込み、押し倒したのだ。
「あ、あ、あ、あ、あ………」
 シャオロンは真っ赤になった。
 セレスの浴衣は完全に着崩れている。腰帯はかろうじて止まっているが、両脚は太ももから露わになり、襟は左右にはだけ豊かな胸がこぼれ出ている。
 そして、セレスはぬいぐるみを抱きしめるかのように、少年をキュッと抱きしめ、やわらかな胸の中にその顔を埋めさせた。
 弾力のある、豊満な胸の中に………


 そのへんが、シャオロンの限界だった………


「寝ボケただと、シャオロン?」
「すみません!すみません!」
「あなたがすっとんきょうな大声をあげるから敵襲かと思ったのですが………」
「すみません!すみません!」
 シャオロンは、赤毛の傭兵と武闘僧に手厳しく叱られた。忍者の襲撃を警戒している時に大騒ぎをしてしまったのだ。駆けつけた二人に怒られてもしょうがないのだが。
「それぐらいで許してあげなさいよ、二人とも」
 浴衣を着直したセレスが、シャオロンの肩に手をかけた。
「この子、夜襲に備えるの初めてでしょ?緊張しすぎて寝ボケちゃったのよ、きっと」
 自分の寝相の悪さがシャオロンを動揺させたのだとは、セレスはまったく気づいていなかった………
 あの時、悲鳴をあげてしまってから、シャオロンはセレスの手をふりほどき、急いで掛け布団を彼女に掛けた。それで、傭兵達が部屋の灯りを点ける前に何とかセレスの胸を隠す事だけはできたのだが。
(オレがセレス様を守らなきゃ………)
 シャオロンは決意を新たにした。
(あんな姿、アジャンさん達には見せられないし………)
「さ、寝直しましょ、みんな」
 そう言って微笑むセレスに、ひきつった笑みを浮かべ少年は頷きを返した。


「何でそんなに布団を離すの、シャオロン?」
「………いいんです、これで」
「それに、浴衣を着替えろですって?」
 少年は力強く頷いた。
「浴衣は絶対、ダメです」
「どうして?」
「どうしてって………その、えっと………そうだ!さっきオレ、浴衣の腰紐がほどけて踏んでコケちゃったんです。やっぱ着慣れないもの着てちゃ、いざって時に動けないし。だから、その、浴衣はダメなんです」
 セレスは小首を傾げた。
「まあ、そうかもしれないわね」
 異国情緒があって良かったんだけどと、未練そうに浴衣の袖を撫でながらもセレスは着替えを了解した。
 少年はホッと安堵の息をついた。
「じゃ、着替えてください。オレ、廊下にいますから」


 けれども………
 ニョキッと白い太ももが宙に伸び、シャオロンめがけ絡みついてくる。
 少年は泣きたい気分で、敬愛する女勇者を見つめた。
 セレスのいつもの寝巻は白の貫頭着。寝乱れれば、貫頭着の裾が大きくめくれ、セレスの脚も、お尻も、腰も、おなかも、おへそも、そして………胸までもが出てしまうのだ。


(あああん!セレス様ぁ!)


(忍者の襲撃の方がよっぽどマシだ………)


 早く忍者に襲撃してもらって………
 撃退して………
 もう二度と、セレスと一緒の部屋で寝ないようにしないと………
 体がもたない………


 すやすやごろごろ眠るセレスの横で………
 少年は一晩中、女勇者に掛布団を掛け続けたのだった。
+注意+
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