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女勇者セレス 作者:松宮星

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終わらない伝説 2話

 忍者はひらりと枝から下り、セレスの前に跪いた。
「セレス様、ご命令とあらば、このジライ、あなた様をお連れして逃げまするぞ」
「は?」
 何のこと? と、戸惑うセレスにおかまいなく、忍者は滔々と語り続けた。
「セレス様の御為とあらば、このジライ、何でもいたします。通行書の偽造、資金調達もお手のもの。悪い噂の流れてこない遠い地まで行きましょう。セレス様がお心安らかに暮らせる土地は必ず何処かにございます。アフリ大陸でも新大陸でもご一緒いたします」
「あ! それなら、オレも!」
 シャオロンが走り寄って来た。
「オレもどこだろうとお供します! セレス様の為なら、オレ、何でもやって頑張ります!」
「シャオロン……あなたまで何を言っているの?」
 セレスは少年をたしなめるように見つめた。
「あなた、大魔王を倒した後は、シャイナに帰ってご家族と村の方々のお墓を作り直すって言ってたじゃない。それに、お父様の跡を継ぐ為に格闘の修行もするんでしょ? それから、左手用の『龍の爪』をジャポネの(やしろ)に返しに行くのよね?」
「あ……」
「私に付き合っている暇なんて無いんじゃ?」
「……そうでした」
 がっくりと肩を落とす少年。
 その横で、忍者は上機嫌だった。
「その点、私には何の縁故(えんこ)もございませぬ。私めは魔族への復讐の為、里を捨てました。抜け忍となった以上、もはや里には戻れませぬ。どうか、生涯、あなた様のお側に侍り、お仕えする事をお許しくだされ」
「でも、あなた、妹さんが居たわよね?」
「アレは里に居ります。抜け忍が近寄っては反って迷惑となります。アレにとって私は死んだも同然」
 暗い話のはずが、忍者は覆面からニコニコ笑顔を覗かせていた。
「私がセレス様にお仕えするのに、何の障害もございませぬ。後はセレス様のお気持ち次第。さあ、さあ、いかがにございます?」
 セレスは鼻じろんだ。
 忍者は笑顔で迫って来る。
 正直に言って、やたら背後をとりたがる忍者にず〜〜〜〜と側に居られるのかと思うと、うっとーしかった。しかし、彼を勇者一行に招いたのは自分なのだ。最後まで責任をとるべきだろう……そう思い、セレスは溜息をついた。
「わかったわ、ジライ。あなたが他にしたい事ができるまで、今まで通り私の側に居ていいわ」
「おおおおお!」
 忍者は感激の涙を流した。
「セレス様にお仕えする事が、私にとって無上の喜び。他にやりたき事など、あろうはずがござりませぬ♪」
 セレスの右手をとってスリスリと頬擦りをしているジライを、シャオロンは羨ましそうに見つめ、ナーダはしかめっつらで見つめていた。が、最後には忍者は、鳥肌を立てた女勇者に蹴っ飛ばされてゴロゴロと転がってゆく運命だった。
「で、おまえさん、どーするんだ? クソ忍者と手を手を取り合ってトンズラこくのか?」
 ニヤニヤ笑いながら尋ねてきた赤毛の戦士に、セレスはかぶりを振って答えた。
「何もかも捨てて逃げられたら楽よね……恥ずかしくって人前になんか出たくないもの……でも、そういうわけにもいかない。シベルアの王宮へ行くのはやめるけど、エウロペには戻らなきゃ」
 赤毛の戦士は嘲笑を浮かべた。
「さすが、お偉い勇者様は違うな。何があっても勇者としての使命を貫き、王国に仕えるってわけか」
「今世の勇者ですもの、当然でしょ? あと、あなたの為にもエウロペに行かなきゃね」
「ん?」
 セレスは両手を腰にあて、長身の傭兵を見上げた。
「エウロペに行かなきゃ、あなた、大魔王退治の成功報酬を国王陛下からいただけないでしょ?」
「……まあ、そうだが……」
「じゃ、なるべく早く戻りましょ」
「………」
「二年間、付き合ってくれてありがとう」
 セレスはにっこりと微笑んだ。
「私、考えなしのバカで、最後まであなたを怒らせてばかりだったけれど……あなたと一緒に旅ができて良かったわ。今まで気づきもしなかったことが、ほんのちょっとだけどわかるようになったもの。ありがとう、アジャン……本当にどうもありがとう」
「………」
「あなたとも、もうすぐお別れね」
 セレスはうつむいた。
 ナーダとはこの地で別れ、シャオロンは近いうちに故郷に戻る。『大魔王を倒す』という使命を果たした以上、共に生きる意味はもはやない。これからは、それぞれ自分の人生を歩むのだ。


 アジャンは眉をしかめた。侯爵令嬢のセレスと一介の傭兵の自分。エウロペで別れれば、二人の人生は二度と交わらないだろう。
 二度とセレスに会えず……
 二度とセレスを抱けないのだ……
 アジャンは胸の奥に痛みを感じた。
 別れが決まってから、彼は初めて己の感情に気づいた。世間知らずで、純粋で、怒りっぽくて、涙もろい、正義感にあふれるやさしい女勇者を……自分はずっと見続けたかったのだ。
 セレスにイかされて悔しかったのも、愛しい女を前に手も足も出せなかったのが悔しかったので……
「……セレス」
「なぁに?」
 澄んだサファイアの瞳が、まっすぐにアジャンを見つめている……
 思いを口にのぼらせたかった。
 この瞳と別れ生きていかなければいけないなど、あまりにもむなしい。
 しかし……赤毛の傭兵は己の感情を殺した。
 今更言ったところで、どうにもならない。
 手遅れだ……
 そう諦めて、いつも通りの軽口をたたいた。
「……俺と別れられりゃ、せいせいするだろ? 嫌味を言われないですむもんな」
「ん、もう! あなたってば、いつもひねくれた事ばっかり言うんだから!」
「ケッ! けどな、もうしばらくは俺ぁ、おまえから離れられん。こっから移動魔法で一気にエウロペじゃ、北方諸国に対しカドが立つ。おまえさんは、悪い噂に満ちたシベルアから、バンキグ、で、ケルティを通ってようやくお国に帰れるわけだ、わかってるよな?」
「……そうね。特別に通行許可書を発行してもらったんだし、ちゃんと手続きを踏んで帰国しなきゃ、失礼よね」
「俺らが国境を無視して一気にエウロペへ戻っちまったら、南への信用は地に落ちる。俺らが悪しき前例となって、今後、通行許可書は南に二度と発行されない事になりかねん」
「……わかったわ、ちゃんと国境を越えるわ」
「ま、エウロペまで無事に辿りつけるたぁ、思えねえがな。やりマ●女勇者を狙って、強姦魔どもが街道でわんさと待ち構えてるだろうしよ!」
「あなたねえ!」
「アジャン! 『やりマ●』とは何じゃ! セレス様は千人斬りでマ●コはご使用になられなかったぞ! 『やりマ●』という表現は当てはまらぬ! 色狂いとか好色一代女とか他に適切な表現が」
 横から口をはさんだ忍者は言いたい事を最後まで言えぬまま、セレスのパンチをくらって宙を舞って行った。
 セレスがキッ! と、アジャンに噛み付く。
「どーして、あなたって、そんなに下品なのよ!」
「悪かったなあ、俺ぁ、生まれからして卑しいんでね」
「卑しくなんかないでしょ、アジの王族だもの」
「ケルティの部族王なんざ、エウロペの閑村の村長と変わらん。貧乏人さ」
「私が問題にしているのは、あなたの品性よ!」


 ぎゃいのぎゃいのと言い合う二人。
 それを見せつけれているシャオロンは、おろおろするばかり。
 ナーダは頭痛を堪えて、額に手を当てた。
 本日何度も転がっている忍者は、もう復活し、木の上から二人の口喧嘩を見物していた。
「お?」
 それまでニコニコ笑って傍観者を決め込んでいた老魔術師が、ふいに真面目な顔となった。魔力で何かを感じ取ったようだ。南西をみやり、低くうめく。
「こりゃ、又、どうして……? うむぅ……自力でやらんかったのがマズかったのか、たまたま、そういうタイミングだったのか……」
 老人は顎の下に手をあて、首をひねっていた。
「何か?」と、ナーダが尋ねる。
「いや、まあ、ちょっとのぉ……」
 老魔術師は白い顎鬚を撫でた。どう言おうか? と、迷っている間に、一行のもとにインディラ忍者が現われる。僧侶専用の遠話用の魔法道具(マジック・アイテム)――掌サイズの神像を携えて。千人斬りの間、『私めは枯れた老人ですゆえ』と言って外回りの仕事に回っていた老忍者ガルバだ。
「失礼いたします。御身様、大僧正様からの緊急連絡にございます」
「大僧正様から?」
 寺院間で神像を使用した連絡をとりあう事はよくある。しかし、インディラ教が異端とみなされている北方では、インディラ神の御力にすがる魔法の使用は危険だ。使用している姿を発見されれば、邪教の使徒として火あぶりにされかねない。
『北方では神像の使用は極力、控えよ』と、ナーダに助言したのは、他ならぬ大僧正なのだ。よほどの緊急事態に違いない。 
 ナーダは顔をひきしめて神像を手に取り、呪文を詠唱しつつ、瞼を閉じた。
 ただならぬ雰囲気だったので、セレスもアジャンも口喧嘩をやめた。
 全員の注目を浴びていた武闘僧は……
「え?」
 他の者の耳には届かぬ声に驚き、顔を真っ青とした。
「それは……何かの間違いでは……? え? 間違いない? はあ……はい……あ? いえ、わかりました……」
 魔力を高めるのを止め、ナーダは糸目を開き、全員の顔を見渡した。途中、カルヴェルの顔に視線を止めたのは、『あなたはこの事をご存じなのでしょう?』と、非難する意味をこめていた。
「さきほど、インディラ神より託宣が下りました」
 武闘僧は咳払いをした。
「アフリ大陸に大魔王ケルベゾールドが現われた……と」


(…………………………)


「え?」


「もう一回、言いましょうか? アフリ大陸に大魔王ケルベゾールドが現われたそうです。託宣の内容は、それだけだそうです。いかがなさいますか、女勇者様?」
「いかがって……どーしてよ! 十二日前、ケルベゾールドを斬ったばっかりよ! 憑代の呪いだって今日祓えたばっかりなんでしょ? なのに、どーして!」
「私が知るものですか! 大僧正様からのお言葉は、あとは、『邪悪を討つべく、今しばらく今世の勇者と行動を共にせよ』……それだけでした」
 ああああああ、総本山に帰って修行し直したかったのに……と、嘆くナーダ。
「邪悪が現われたのなら、退治すべきですよ、セレス様!」
 と、両手を握り締めて、シャオロンが身を乗り出す。
「世界平和の為、お供します!」
「私めは、先程、ご許可をいただけましたので、生涯、セレス様の下僕。どこへなりともお供いたします」と、ジライ。
「お師匠様……」
 何がどうなっているのか、さっぱりわからない……女勇者はすがるように、魔法の師を見つめた。
 老人は明るく笑った。
「すまぬ。わしも何故かはわからぬ。おぬしに眠らせたまま呪を祓わせたが為、中途半端に大魔王の影響が今世に残ってしまったのか……それとも、ほんに偶然か、わからん。おぬしも知っての通り、ケルベゾールドは、闇の聖書を読み解いた者によって今世に召喚される。今世に現存し闇に生きる者が手にできる聖書は二冊……この前の憑代は討たれた時に持っておらんかったしのう。闇の聖書を読み解くまで、普通は何十年もかかるものじゃが、ついさっき、たまたま、暗黒魔法の天才が手にしてケルベゾールドを召喚してしまったのかもしれんな」
「そんな……」
「憑代のおぬしへの呪が生きている間は、次のケルベゾールドは召喚できぬ仕組みじゃ。ほんに、タイミングの問題だったかもしれん。千人斬りの終了がもっと遅ければ、大魔王教徒どもが血で血を洗う争いをして奪い合っている闇の聖書は、他の所有者の手に渡っておったかもしれんしのう」
「本当に……復活しちゃったんですね……ケルベゾールド」
 がくっと肩を落とすセレス。
「実はの、わし、こういうモノをエウロペの国王陛下からお預かりしておったのだ。おぬしが必要とするようならば、渡してくれとのことでの」
 そう言って大魔術師が懐から取り出したものは、共通語で書かれた書類だ。セレスは『勇者の剣』を木にたてかけ、書類を受け取った。
『女勇者一行の入国を認める』と、記されたそれには、アフリ大陸最北端の国エジプシャンの国王の印璽が使われていた。入国審査後、通行許可書を発行するとも記されている。
「エジプシャンの入国許可書……どうして、そんな書類を……?」
「どうしてって……おぬしが頼んだのであろうが。昨年の晩夏の頃じゃ。ケルベゾールドの本拠地探しで、北方かアフリ大陸へ行きたいとエウロペの国王陛下に頼んだであろう?」
「あ、ええ、たしかに」
「国交の無いアフリ大陸との交渉に、国王陛下も難儀しておられたろう? 海運国エーゲラやアフリ大陸と縁深いトゥルクを頼られたりして」
「それは、そうですが、でも、それって、昨年の九月の事……その後、秋に、私達、北方諸国に向かったのに……」
 セレスは書類発行の日付に眉をひそめた。
「この書類、今年の二月に発行されてます……」
 ちょうどバンキグで武術大会をしていた頃だ。
 老人はホホホホと愉快そうに笑った。
「アフリ大陸の人間に、ユーラティアスの国々の常識を押しつけてはいかん。あちらは何でも、のんびりしておるのよ」
「はあ」
「じゃて、一度、機会を逃すと、次に許可が下りるのは何時になるかわからん」
「え?」
「セレス、書類をよう見てみい」
 セレスは上から下まで書類をよく見て……真っ青となった。
 この書類は発行より三ヶ月有効と記されてあり、有効期限は……今日までだったのだ。
「すぐに! すぐに行かなくっちゃ! あああああ、でも! 国境も越えないと、北方諸国とエウロペの関係がますます険悪に〜〜〜〜!」
 セレスは魔法の師匠の師匠の肩をがしっ! と、掴んだ。
「お師匠様! 今、何時です? お昼過ぎ? なら、間に合いますね! お師匠様の魔法で私達をまずシベルアとバンキグの国境へ送ってください! そこで、事情を説明して手続き省略で国境を越えたら、次は、直接、バンキグ国王ルゴラゾグス陛下のもとへ送ってください! 一流の戦士のあの方なら、大魔王復活をお知らせしたら、超法規で国境を越えるのも許してくださいます! それが終わったらケルティのハリハールブダン上皇のもとへ! その後、エーゲラとエジプシャンの国境まで送ってください! お願いします!」
「送るはいいが……おぬし、その格好で行くのか?」
 ハッとして、慌ててセレスは胸を隠すように両腕を組んだ。毛皮の長衣の下はほとんど裸のような姿なのだ。こんな格好で人前に出たら、露出狂と思われかねない。
「ちと待て。おぬしの家からなんぞ、適当に服を運ぶ。三日分でいいな? 見立ては、おぬし付きであったメイドにでも頼むわ」
「……すみません、お願いします」
 老人がすばやく呪文を詠唱すると、ポンと白い煙が老人の周囲に広がった。分身魔法だ。魔法によって創られたカルヴェルそっくりな老人は移動魔法で消えた。エウロペのセレスの生家に向かったのだろう。
「セレス……大魔王退治に行くのなら、俺も同行する」
 胸元に手を当てて己を指差す赤毛の傭兵。
 女勇者は驚き、仲間を見つめた。
「いいの、アジャン? あなたが同行してくれたら、とても心強いけれど……あなた、ユーラティアス大陸での私の護衛だけを依頼されてるんでしょ? 新たに契約を結び直さなきゃ、アフリ大陸に行ってもタダ働きよ」
「……わかってる。けど、金よりも俺にとって、もっと大切なモノが一緒に行けば手に入る」
「……お金よりも大切なもの……?」
「一緒に行ってもいいか?」
「ええ! ええ、もちろんよ、アジャン!」
 セレスは両手を組み合わせ、感動した。無報酬でアジャンが正義の為に働いてくれるだなんて夢みたいだ! と、思った。
 だが、むろん……そんな目的で、赤毛の傭兵が動くわけがない。
「おい、ジジイ! 大魔王の憑代ってのは、毎回、勇者への呪いを準備してるんだよな?」
「うむ」
 そうと聞いて、アジャンは己の左の二の腕をパァァンと叩き、気合をつける。
「よし! リターン・マッチだ! 今度こそ先にセレスをイかせてやる!」
「は?」と、セレス。
「覚悟しとけよ。次の千人斬りじゃ、そう簡単には俺ぁ、イってやらんからな!」


「千人斬り……」


 ズズ〜〜〜ンと暗くなるセレス。ポッと頬を染めるシャオロン。やっぱり総本山に帰ります! と、ごねるナーダ。往生際が悪いとナーダを蹴飛ばすジライ(そのジライを『この不心得者めが!』と必死に止める老忍者)。やる気満々のアジャン。
 彼らを見渡し、老魔術師カルヴェルはホホホホと笑った。
 大魔王の憑代が死と引き換えに仕掛けてくる呪いは、実は、毎回、変わっている。新たな憑代は、別の呪いを使用するはず。千人斬りも聖なる淫婦エリスの召喚もありえない話だったが……
 黙っていた方が面白そうだから内緒にしておこうと、カルヴェルは決めた。
 小さな旅行鞄を持って、カルヴェルの分身が戻って来る。分身はセレスに鞄を渡すと、光となり、消滅した。
「着替えてきます!」
 鞄を持って走り出したセレスの背に、老魔術師が声をかける。
「わしゃ、エジプシャンの国境を越えるところまで見届けたら帰るわ。セレスよ、わしが従者でおるのはそこまでじゃ。それから先、わしに何ぞ、頼みごとがある時は、当代随一の大魔術師へのそれなりの報酬を払うように」
「お師匠様は一緒に行ってくださらないのですか?」
「うむ。野暮用があっての」
 老人は、ただニコニコ笑うだけだった。
 何故、同行しないのか、その理由を話す気はない。
 今のところは……。
 セレスが大魔王を倒してくれたおかげで、魔界に囚われていた義弟が今世に戻ってこられたのだが……
 その体は闇に蝕まれていた。
『又、勇者を救えなかったんですか……二度も大魔王にだしぬかれるなんて、まったく、あなたって人は……。当代随一の大魔術師とふんぞりかえってるくせに、無能なんだから……大無能師カルヴェルって呼称を変えたらいかがです?』
 と、呼吸さえ苦しいくせに毒づく義弟を、インディラ教総本山の奥の院で癒しているのだ。大僧正が治癒を行い、カルヴェルの分身が浄化魔法を担当して。しかし、分身の少ない魔力に浄化を任せておくのはいかにも心もとない、危険な状態に義弟はあった。
 今世に連れ戻せた義弟を、魔に堕とすわけにはいかない。しばらくは総本山に籠もり、つきっきりで義弟に浄化魔法をかける必要があった。
 カルヴェルは呪文を低く詠唱し、形代(かたしろ)の邪法を己にかけ直した。前回、かけた邪法よりも念入りに。セレスが大魔王を斬った時に発動する呪は、これで代わって受けてやれるはずだ。
 今度こそは……
 前回は『清らかな身でありながら、子を宿しはぐくめる者』という条件が合致せず呪いの肩代わりはできなかった。が、今度はうまくいくだろう、
 と、いうか、うまくいかなければマヌケすぎる、カルヴェルは内心、己を嘲笑った。
 カルヴェルが確実に今世に留まっていられるのは、セレスがアフリ大陸で大魔王を葬るまで、だ。
 それまでに、何としても、口の悪い義弟を助けなければ……カルヴェルは決意を新たにした。


「アフリ大陸を旅するうちに、悪い噂も消えましょう。物見遊山気分でゆっくり行きませぬか?」と、ジライ。
「駄目! 大魔王は見つけ次第、倒すのよ!」
「悪名が高すぎて、ユーラティアスから離れる女勇者か……夜逃げみたいだな」と、アジャン。
「失礼ね! 違うわよ!」
「セレス、言っておきますが、アフリ大陸では北部と東部沿岸地域でしか共通語は通じません。西と南はユーラティアスの人間には未踏の土地です。どんな言語が使われているのか見当もつきません」と、ナーダ。
「え? 又、会話で苦労するわけぇ?」
「セレス様、オレ、がんばりますね!」と、シャオロン。
「ありがとう……私も頑張るわ」


 かくして、女勇者一行の旅は続く……
『終わらない伝説』 完。

+ + + + +

『女勇者セレス』メイン・ストーリーはこれにて終了です。

 ご愛読ありがとうございました。

+ + + + +

 こうして完結を迎えられ、感慨ひとしおです。

 八年前にワーブロで最初に書いたのは『女勇者セレス――千人斬り事始め編』でした。
 相手が変われば物語も変わるの、5通りのH話。それを成り立たせるべく創った個性的な従者と怒りん坊でだまされやすいまじめな女勇者をたいへん気に入り、その後、『女勇者セレス』と夢シリーズを書き始めました。

 序盤、アジャンに下品なセリフが多いのは、H小説の名残です。
 ナーダとジライの性癖も、H小説が最初にありきだった為です。

 書きあがっていた物語を書き直して『小説家になろう』で発表しようと決めてから、夢シリーズと『千人斬り』とラストをどうしようか悩みました。Hな話をとりのぞいて、全年齢対象の話だけを発表する方が良いのではないか、と。
 しかし、Hを前提に作られたちょっといびつなストーリーはうまく修正ができませんでした。又、Hを除くとキャラの魅力が生かせないとも思えました。

 結局、『ムーンライトノベルズ』という女性向けの十八禁の発表の場があるということに甘えさせていただき、『小説家になろう』と『ムーンライトノベルズ』をいったりきたりする形で『女勇者セレス』は発表させていただくこととしました。

『小説家になろう』だけで物語が成り立っていない事を、この場をもって、十八歳未満の方に謝罪いたします。『小説家になろう』の話だけでストーリーがわかるようにと意識しましたが、読めない話を作ってしまってすみませんでした。

+ + + + +

●『女勇者セレス』シリーズのこの後の予定

*この後に、番外編をアップしていきます(不定期)
 初代『白き狂い獅子』とジライの話、
 従者の任を終えた後のシャオロンの旅、
 ナーダとガルバの話、
 悪夢から悪夢へのアジャンの話、
 セレスとカルヴェルの話、
 後、Y様の独白などを……予定。
 活動報告の方に以前書いた性別逆転話は、いまいちおもしろくならないので止まってます。書けましたら、それも。

*『姫勇者ラーニャ』の連載始めます(8月15日以降)
 『女勇者セレス――千人斬り事始め編』のジライ編の後の話。
 『旅のはじまり * カルヴェル *』→ジライ編→『姫勇者ラーニャ』の流れ。
 『終わらない伝説』から始まる未来とは別の未来ということで……すみません、ややっこしくて。
 セレスとジライの娘のラーニャが主人公です。二人の子供なのに、何で『姫』なのかはご覧になってのお楽しみということでw こちらも不定期連載となります。

*『女勇者セレス――夢シリーズ』
 『女勇者セレス――千人斬り事始め編』でセレスが誰を選ぶかによって変わるナーダとジライの未来(8月15日より開始)。

 よろしかったら、このキャラクター達の冒険や恋愛にもう少しだけおつきあいください。

 ご感想等、いただけると嬉しいです。励みとなります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
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