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女勇者セレス 作者:松宮星

剣と仲間と

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あなたがいれば 《カルヴェル》

 大魔術師カルヴェル様は………
 セレス様の神聖魔法のお師匠様で『とーだいずいいち』のすごい魔法使いなのだそうです。


 今からうん十年前、セレス様のおじい様の十二代目勇者様の従者をつとめられたご立派な方なのだとか。


 えっと………


 あとはよく知りません………


 お会いしたことがないので………





 セレスは窓から外を眺め、溜息をついた。宿屋の外はすごい人だかりだ。女勇者を一目見ようと、或いは掛け軸や本に(サイン)をもらおうと、町中の者が押しかけているのだ。
 このところ、何処の村や町に着いても、こうなのだ。正体がバレないよう全員フードマントを被って旅をしているというのに、女勇者が何処から何処へ向かっているのか情報が流布しており、隠してもすぐに正体が知られてしまう。熱烈な追っかけでもいるのだろうか?
 歓迎してもらえるのは嬉しいのだが………キャーキャー黄色い声をかけられたり、『髪の毛ください』とか『ツメをください』とか『下着をださい』とか頼まれるのは………何か違う気がする。
「すごい人気じゃのう、セレス」
 背後からかかった声に振り返ると、そこには、白髪、白髭の黒のローブの老人がいた。
「お師匠様!」
 突然、移動魔法で現れた老人。さほど驚いた様子もなく、セレスは笑みを浮かべ、師に対し礼をとった。


「シャオロン、こちらが当代随一の魔術師、私の魔法の師のカルヴェル様よ」
「はじめまして、シャオロンと申します」
「うむ」
 老人は目を開き、ジーッと少年を見つめた。体も手足も細く、幼さの目立つ愛らしい顔をしている。武闘家の道着と不釣り合いなほどに。
「親父殿にはあまり似ておらんが、よい骨相をしておる。見るからに人徳が高そうじゃ」
「………父さんをご存じなんですか?」
「うむ。茶飲み友達じゃ。ユーシェン殿はシャイナ一の武闘家でありながら、決して驕る事なく鍛錬を続けた気持ちのよい男であった。あれこそ真の武闘家よ。まことに惜しい男を亡くした」
「ありがとうございます………そのお言葉をいただけて、うれしいです」
 亡くした家族・友人・知人を思い出したのか、少年の表情にほんの少し陰りがさす。魔族に奪われた父親達の肉体の行方も気にかけていることだろう。けれども、少年は、すぐにきりりと眉をひきしめた。落ち込んでいる暇などないと言うかのように。
「カルヴェル様、オレ、村での父さんしか知らないんです。よろしかったら昔のこと、教えてくださいませんか?」


「二十五年前、ペクンでの武術大会のことであった………」


「そして、二十二年前、わしが聖なる武器を探しておった時、協力してくれたのが………」


「二十年前、ユーシェン殿に長子が生まれて………」


「おい、シャオロン、そこに居るか?体術の稽古の時間なんだが………」
 セレス用の部屋の扉を開くなり、アジャンは嫌そうに顔をしかめた。セレスの部屋に、あやしい老人が居たからだ。
「ジジイ………どっからわいて出やがった」
「ホホホホ、久しぶりじゃの、赤毛の傭兵」
「あ!すみません、アジャンさん!オレ、うっかり時間忘れてました!ごめんなさい!今、支度します!」
「今、シャオロンに親父殿の話をしておったのよ。わし、ユーシェン殿とは茶飲み友達だったので、の」
「親父の話………か」
 赤毛の傭兵はボリボリと頭を掻いた。約束を忘れられたというのに、怒っている様子はない。
「シャオロン、今日はやめだ。隠居ジジイなんてのは、昔語りぐらしか能がねえ。つきあってやれ」
「アジャンさん………」
「ただし、寝る前には昨日までの復習をしとけよ」
「はい!わかりました!」
 赤毛の戦士の視線は、その部屋にシャオロンと共にいた女勇者に向けられた。
「………娼館に行くにもまだ早い。なんなら、剣の稽古をつけてやろうか?」
「あら、嬉しい、お願いするわ」
「外はどこも人だかりだ………室内戦を想定して、オレの部屋でやる。狭い場所でも、それなりに大剣を扱えるように、な」
 セレスは師に挨拶してから、『めったに聞けない話なんだから、う〜んと聞いておきなさい』とシャオロンに耳打ちする。
「次に臨時収入が入ったら、これまでの稽古料、抜かせてもらうからな」と、アジャン。
「え?稽古料?お金とる気なの?」
「当たり前だ。俺はおまえの護衛代しか貰ってない。当然、別払いだろ?」
「あなたねえ!それならそうと先に言いなさいよ!」
「後でも先でも一緒だ。このパーティの金庫番は俺だからな」
「私の分とシャオロンの分をとるの?いくらよ?」
「いや、シャオロンの分はいらん。俺は金持ちからしかふんだくらない主義なんだ。おまえさんは侯爵令嬢だから、爵位分を加算して、そうだな、通常の八倍で………」
「なんで、そうなるのよ!」
 ぎゃいのぎゃいのと騒ぎつつ、廊下へ消えてゆく二人。
 彼等を見送ってから、カルヴェルはホホホホと愉快そうに笑った。
「あの二人、ずいぶん仲良うなったようじゃな」
「はい!セレス様とアジャンさんは、とても息が合っているんです!」
 と、少年も、にっこりと笑みを見せる。


「最後に会ったのは十七年前じゃ。ユーシェン殿が所有しておられた『龍の爪』を狙って不逞の輩が」
 ノックが響き、扉が開く。
 入って来た人物は、カルヴェルの姿をみとめるや、あからさまに不快を示した。
「おや、お久しゅうございます、カルヴェル様。あいかわらずお暇そうで………」
「おお、元気でおったか、ナラカの甥よ」
 にこにこ笑う老人と、不愉快そうに眉をしかめる武闘僧。シャオロンは、ナーダがカルヴェルや伯父のナラカを嫌っているなど無論知らないので、二人の間の異様な雰囲気に、ただ、ただ、戸惑うばかりだ。
「あの………ナーダ様、何かご用でしょうか?」
「ああ、実はですね、シャオロン」
 少年に対してはにっこりと笑みを見せ、武闘僧は持っていた本を手渡した。
「『女勇者セレス』シリーズの最新刊です。版元の方から直接いただいた、まだ発売前のものですよ」
「わ!すごい!これ読ませていただいていいんですか?」
「さしあげますよ」
「え?やった!ありがとうございます!版元の方からご本をプレゼントされるなんて、すごいです!さすが、ナーダ様!」
「おぬしの部下は、版元とは仲良しこよしだもののぅ」
 武闘僧は糸目で、大魔術師を探るように見つめた。この老人は、自分の事情をどれほど知っているのだろうと。
 そこへ………
「はああああああ、疲れた」
 髪が乱れたセレスが戻って来る。
「アジャンさんは?」と、シャオロンが問うと、
「いつもの所に出かけたわ」
 と、眉をひそめながらセレスが答える。
「ああ、そうでした、セレス、これ、どうぞ」
 ナーダがセレスに手渡したものは、『簡易ジャポネ日常会話集』。
「ジャポネ語は苦手だと前におっしゃってましたよね?渡航前に勉強しておいてください。ジャポネは他国に比べ、共通語の浸透が遅れています。田舎では、ほぼジャポネ語しか通じませんから」
「ナーダ………この本を、私の為に?」
 ありがとう!と、セレスは瞳をうるませたのだが。
「しょうがないでしょ」
 武闘僧は溜息をついた。
「一般教養に欠ける十六歳の小娘でも、あなたは勇者、旅のリーダーです。リーダーがしゃべれない上に文盲では、従者の私まで恥をかいてしまいます。シャイナの王宮では、本当、肩身が狭かったんですよ、あなたのせいで」
「う………」
「シャイナでの轍を踏まないよう、少しは心をいれかえて、入国前にジャポネ語を勉強しておいてくださいね」
「………わかったわよ。どーもありがとう!」
「いえいえ。口先だけのお礼よりも、感謝は行動で示して欲しいものです。この本一冊暗記するぐらい、一晩もあれば軽いでしょ?」
「無茶言わないでよ!」
 顔を怒りに染めるセレスと、涼しい顔のナーダ。そんな二人を見つめ、老人はホホホと愉快そうに笑った。
「ナーダの奴、ランツの孫(しかも女)のセレスを嫌っておったが、今ではすっかり仲良しだのう」
「はい!セレス様とナーダ様はいつも世界平和のために、とても難しいお話をしてらっしゃいます!」
 と、少年もにっこりと笑みを見せるのだった。


「おや、しもうた」
 移動魔法で自分の居城に戻ってからカルヴェルは、用事を果たさずに引き揚げてしまったことに気がついた。
 シャイナで魔族や大魔王教徒をほぼ一掃した勇者一行は、大魔王の本拠地を求め(あわせて、シャオロンの武器も探しに)ジャポネに渡ろうとしていた。
 ジャポネに行く前に、最近の魔族の動向を伝えようと思ったのだが。魔族はいかなる目的かは不明だが、各地で聖なる武器を探し略奪している。
 所在が明らかな聖なる武器は『龍の爪』の他に、ジャポネに二つあった。三代目勇者の従者の子孫が聖なる刀『ムラクモ』を所有し、七代目勇者の従者の弓『破魔の強弓』がジンジャ(神殿)に奉納されているはず。それらが無事か確認するよう助言しようと思ったのだが………
「まあ、良いか。近いうちに、また、遊びに行けば」
 カルヴェルはシャオロンを思い出した。相手の目を見て熱心に話に聞き入り、丁度良いタイミングで相槌を打ち、相手への心配りと感謝を忘れない少年。非常に聞き上手であった。語る方も気持ちが良い。
 仇もちであり、ままならぬ状況に心を痛めいてるであろうに、少年は、それを表面に出していなかった。明るく前向きで、けなげだった。
 あの少年が一行に加わってから、セレス達三人の仲は好転していた。『シャオロンの成長を助ける』という共通目的ができ、会話も増えたようだ。少年は、個性的な三人の緩衝材の役割を果たしている。
「子はかすがい、か。じゃが、二人ではないしのぅ、三人の仲をとりもっておるから『かすがい』ではマズいか?」
 どうでもいい事で悩み、老人はホホホと笑うのだった。
『あなたがいれば』 完。

次回は『旅のはじまり * ジライ *』。
舞台はシャイナからジャポネへ。五人目登場です。
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