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女勇者セレス 作者:松宮星

得るもの失うもの

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旅のはじまり * カルヴェル * 2話

 白魔法とは、即ち、神が人に与えた魔法。
 白魔法(イコール)神聖魔法・回復魔法と思われがちじゃが、正しくは神の定めた規律(ルール)に則った魔法は全て白魔法となる。戦う為の攻撃魔法も、神の創造物の性質を一時的に変える補助魔法も、空間を操作する移動・結界魔法も、白魔法。それどころか、法律・道徳など人の世の決め事に抵触する為、邪法と勘違いされる類いもある。他人を餌にして大いなる存在を呼び出す召喚魔法、性技を基本とする練気(れんき)、意志の力で寿命すら操る長寿法……あやしげな魔法は、各地の部族魔法に多い。
 わしは若いうちに、白魔法をほぼ会得してしまった。魔法理論の理解が異常に早く、生まれつき無限に近い魔力を身につけている為じゃ。何十人も魔法の師を変え、数多くの魔法書に目を通した。わしは天才だったので、本を読むだけで、その書に記された魔法の仕組みがわかってしまう。たいした努力も鍛錬も無しに、わしは次々に新たな魔法を身につけていった。
 しかし、慈しみの心から生まれた魔法――回復魔法だけは中級魔法までしか覚えられなかった。他者への関心が薄いせいじゃろう。他人を観察したりおちょくる事こそ好きじゃが、わしは他人と共感し理解を深め合った事などなかった。他人など……ただの人間など、ちょっと観察すればわかる。どれほどの能力があり、鍛錬次第ではどれぐらい成長し、将来どうなるのか、だいたいわかってしまう。先が見えてしまっては何事もつまらぬ。人間に関心を抱けぬ者が、他者を救う為の魔法――回復魔法を覚えられんのも道理じゃった。
 又、部族魔法もあまり会得できなかった。魔法習得の基本条件が部族の血筋か否かというモノが多かったからだ。基本的に、部族魔法は部外者お断りなのだ。
 三十ちょいで可能な限りの白魔法を極めてしまったわしは、学ぶべきものが無くなった魔術師協会からさっさと脱会し、世界を彷徨っていた。
 正直、迷い始めていた。
 白魔法に限界を感じていたのだ。
 聖職者の道を選べば、更に魔法道が開ける。高位の回復魔法が使えるようになるであろうし、一宗教を極める事によって初めて会得できる神聖魔法の奥義も知る事ができる。
 しかし、一宗教に走りその神だけを信心し教えを守るなど、無理だった。わしは、ちょとい学べばたいていの魔法はパパッと使えるようになる魔法の申し子だった。が、それ故に、堪え性も根気もなかった。一つのものにのめりこめぬ、飽きっぽい性格なのだ。聖職者になれるはずもない。
 移動魔法で世界を転々とし、各地の部族魔法を研究したりもした。が、研究すればするほど、部外者(アウトサイダー)である自分が学べるものはほとんどないと実感するばかりだった。
 魔法と魔法を掛け合わせて新たな魔法を作ったり、伝承にしか残っていない古代魔法を研究・再現したり、体を鍛えて剣術を学び魔法戦士の真似事をしてみたり……いろいろやった。が、小器用なわしは何をやってもすぐに(さま)になってしまうので、あまり暇は潰せなかった。
 白魔法から学ぶべきものも、新たに作り出すものも無くなってしまっては……
 別系統の魔法に走るしかないように思えた。
 暗黒魔法、或いは邪法……ようするに、魔族が人間に与えた魔法。暗黒魔法にも、あからさまに邪悪そうな呪詛だけではなく、さまざまな魔法があった。攻撃魔法・回復魔法・補助魔法・移動魔法・結界魔法・召喚魔法・憑依魔法……
 殊に、呪詛と召喚・憑依魔法がわしの興味を引いた。
 わしは客分としてシルクドの大魔王教団に身を寄せ、暗黒魔法を学び始めた。大魔法使いの資質あふれるわしを、教団は諸手を挙げて歓迎してくれた。暗黒道に誘う為じゃ。破壊思想に染まったイってしまっている神官達はうっと〜しかったが、暗黒魔法はわくわくするほど面白かった。
 しかし、そこも、半年足らずで学ぶべきものが無くなってしまった。部外者のわしは、中級魔法までしか伝授してもらえんかったのだ。
 入信し大魔王教の神官となれば、上級・高位魔法、秘術、奥義までも学べる。
 しかも、エウロペ教・インディラ教・ペリシャ教・シャイナ教……他のどの教団よりも、大魔王教団の教義『欲望に忠実であれ』は納得がいった。綺麗事で現実を飾らないところが実にいい。
 しかし、生を謳歌したい性質のわしは、教団の真の目的――ケルベゾールド神を完全復活させ世界に破滅をもたらす――を受け入れられんかった。死んでしまっては魔法で遊べなくなる。遊べぬのはつまらぬ。根本的にわしは、大魔王教むけの性格ではかったわけじゃ。
 迷っているうちに、どこぞの国で大魔王が復活したという情報が流れてきた。何処の国の誰に憑依したかなど、最高機密。高位の神官しか知らぬゆえ、部外者のわしは教えてもらえんかった。
 で、欲が生まれた。
 勇者に十一回も敗れている大魔王ケルベゾールド。情けないやられ役に加担し……地上最強と謳われる勇者と戦って腕試しをしたいと。
 わしの決意を、シルクドの神官どもは喜んだ。実戦で役立つ上級暗黒魔法を幾つか教えてくれ、勇者情報を集めてはわしに流してくれた。
 今世の勇者の名はランツと言った。七つより『勇者の剣』を自在に扱えた超一流の剣士じゃ。しかし、凄まじい剣技を持ちながら、騎士にも剣士にもならず三十にもなろうというのに一度も職に就いた事もなく、貴族社会を嫌い、下町をふらふらしておった変り種。酒と女をこよなく愛する暴れ者。一族の鼻つまみ者だったそうだ。
 たった一人の女(しかも、娼婦)の為に街中で大立ち回りをしたり、国王の面前で犬猿の仲の侯爵の子息に酒をぶっかけたり、イカサマ賭博師の指を落とした……と、その過去を知れば知るほど、ランツという男の無謀さや凶暴さが知れた。勇者というよりは、大魔王教徒のような素行だ。
 半年前より侯爵家の当主である彼の兄が不治の病に伏しておらねば、ランツが『勇者』となる事はなかったろう。人格者であった彼の兄を除けば、『勇者の剣』を振るう資格のある者はランツしか居なかったのだ。
 大僧正候補のインディラ僧のナラカを従者に伴って旅を始めたランツを、わしはシルクドの首都ガダーラで待つ事にした。正面から仕掛けるか、奇襲にて勝負を決めるかは、ランツという男に会ってから決めたかった。ガダーラの色町に居れば、好色な今世の勇者は必ずや現われるはず。そう読んで、わしは、色町に長逗留をした。
 魔法によって肉体を活性化していたわしは、性技の達人でもあった。アレの回数に限度がなく、宿中のおなご二十人ほどと一晩で寝る事もあった。
 わがままではあったが、金離れはよく(金塊も宝石も、魔法で幾らでも造られたゆえ、わしの懐はいつもあたたかかった)、冗談好きの話上手で聞き上手、最下級の娼婦にまで愛想をふりまき、しかも性技も巧みで外見もまずまず。わしはガダーラの色町の人気者となった。大もての上客だった。わしと犯れるのなら、金などいらないと言うかわゆき娼婦も多かった。
 わしの噂を何処で聞いたのか……
 ランツはガダーラに到着したその日に王宮にも行かず、娼館でおなご達と戯れていたわしの前に現われた。
 勝負だ! と、目をきらめかせて。
 シルクドの大魔王教団が勇者のガダーラに到着を知らせて来る前に、本人が目の前に現われたのじゃ。正直、わしは驚いた。
 ランツはたてがみの様な金の髪、鷲のように鋭い眼、生命力に満ち溢れた逞しい体つきの、豪奢な美形だった。しかし、鼻から右頬にかけて走る刀傷と、不敵に構えた顔によって、その美は崩されていた。持って生まれた美しさを、性格と品性で貶めているといったところか。兄が亡くなれば爵位も継ぐはずのお貴族様のくせに、どう見ても町のゴロつきのような風貌だ。その背に巨大な大剣『勇者の剣』が無ければ、目の前の男が勇者とは到底思えなかったろう。
 ランツは、わしに性技勝負をしようと持ちかけた。技を競い、回数を競い、堕とす女の数を競おうと。
 そんなランツを、絶世の美女が厭きれたように見つめていた。娼館に不釣合いな、気品あふれる黒髪の美女だ。フードマントで体を隠した貴族の女だとわしは思ったのだが……そのランツの連れは、よく通る声楽師のような声――間違いなく男性の声でこう言ったのだ。
「とてもじゃありませんが、そんな馬鹿げた勝負には付き合いかねます。私は精力絶倫のあなた(ランツ)と違って一般人なんですから。貴重な精液はそれにふさわしい美女に使わせていただきますね」
 娼館を巡って今宵の美姫を探して来ますと言って、その者は優美な仕草を印象づけつつ立ち去って行った。その美女とみまごう男が、インディラ教の大僧正候補ナラカだと知ったのは、三日に渡るランツとの助平勝負が引き分けに終わった後の事だった。


「飲めよ、カルヴェル」
 ランツはわしを安酒場にひっぱって行った。こいつが、本当に残虐と評判の勇者だろうか? と、疑いたくなるほどの、満面の笑顔で。奥のテーブルに次々と料理と酒を運ばせ、ランツは豪快に飲み食いをした。遊びの後は腹が減るよなとニコニコ笑いながら。
「俺の遊びに最後まで付き合えた男はおまえが初めてだぜ、カルヴェル」
 わしが杯を空けると、すかさずランツが酒を注いでくれる。
「今までも性豪と名高き助平どもと一緒に遊んだんだが、どいつもこいつも二日ももたず玉切れしやがった。ったく、色事師なら、三日で百人ぐらい抱いてみやがれってんだ」
 わしの場合、絶倫魔法で性欲を高めての三日に渡る乱交じゃった。絶倫魔法は、性交中も理性を失うわけにはいかんので、制御が難しく、肉体に負荷がかかりすぎる為、使用できる者が少ない。が、わしは若く魔力も膨大なので苦も無くこの魔法が使える。
 けれども、ランツは魔法はむろん、薬の助けも借りずに三日間不眠不休で二十人のおなごを抱き続け(女たちは交替で休んでいた)、百回戦はやっておった。まさに底なし。絶倫の呪いをかけられているのか、性機能に障害があるのか……いずれにしろ、性のバケモノであった。
「メシ喰って腹が膨れたら、まずは一眠りだ。で、その後だが」
 ランツはニヤリと笑った。大型肉食獣のごとき笑みだ。
「俺と犯らねえか?」
 わしは、眉をひそめた。
 男遊びをした事がないでもなかった。が、やっていたのは十代まで。平坦胸の男を抱くより抱かれるより、やわらかなおなごを抱いて悦ばせる方が百倍も楽しい。
 そう答えると、ランツはゲラゲラと笑った。
「俺だって女の方が好きだ。けど、男も良いもんだぜ。体のつくりが同じだから互いの快楽が手に取るようにわかるし、妙に通じ合うし、多少乱暴に扱っても壊れない。ベタベタの恋愛感情が絡む事が少ないから、気軽に遊べる。それに……そうだ、妊娠の心配がないのもいいんじゃないか? 俺は男遊びも好きだ。なあ、カルヴェル、いっぺん、俺ととことん寝てみないか? 体力が尽きるまで、互いに互いの体を貪り合うんだ。口じゃ言い表せない快楽が味わえるぜ」
 誰とでもいいから一度やってみたかったんだと、ランツは明るく笑った。
「その計画には賛成しかねます。あなたのガダーラ到着は、もう噂になっています。言っても無駄でしょうから『やってはいけません』とは言いませんけれどね、一休みしたらまずは王宮に伺い、この国での魔族退治の許可を国王陛下よりいただくのが先ですよ」
 突然の、わしの背後からの声。
 振り返ると、三日前に会った黒髪美女にしか見えん男が立っていた。三日前と同じく、フードマントで顔以外を隠している。
「よぉ、ナラカ。よく居場所がわかったな」と、ランツ。
 ナラカ? インディラ教大僧正候補の、ランツの従者? わしは背後の人物をまじまじと見つめた。フードマントから黒髪が漏れているし、三日前には娼婦を抱くと宣言しておった、この男が?
「私には優秀な眼がありますからね」
 ナラカと呼ばれた男は、ランツの横に腰かけた。
「あなたの現在地なんて、すぐにわかるのですよ」
「なんだ、又、あの忍者を使ったのか。便利なもんだ、俺もお抱えの忍者が欲しいぜ」
「あなたみたいな短気な方が忍者を使いこなせるものですか」
 ナラカは相手(ランツ)を馬鹿にするように鼻で笑った。
「四六時中、アレの最中だろうが、トイレだろうが、物陰からジーッと見守られるんですよ。あなたでは、うっとーしいわと忍者を斬り捨ててしまうに決まっています」
「ちがいない」
 ランツはゲラゲラと笑って、ナラカの肩を抱いて引き寄せた。恋人を抱くように。
「こいつは、俺のダチのナラカだ。嫌味な野郎だが、顔と超ひねくれた性格が気に入っている。寺院で男修行を積んだだけあって、アレの方もなかなかだ。けど、いかんせん、体力が無い。いつも五、六発犯ったらヘバっちまうんだ。俺より若いのにだらしねえ」
「私は一般人なんです。性欲魔人のあなたと比較しないで下さい」
 ツーンとそっぽを向いた相手の顎をとり、ランツは強引に顔の向きを変えさせ、唇を奪った。ナラカは抗議の意思なのか軽くランツの胸を叩いたが、それ以上は抵抗らしい抵抗もせず、勇者にやりたいようにやらせていた。
 しばらく接吻を続けてから従者から顔を離し、ランツはわしに向かってニカッと笑った。
「な? 生意気だが、思わずむしゃぶりつきたくなるような、かわいい奴だろ?」
 ナラカは軽く溜息をつき、勇者の耳元に顔を寄せた。愛撫するかのような仕草じゃったが、何かを囁いているようにも見えた。
 それに対しランツは、関心なさそうにふぅ〜んと呟いただけだったが。
「なあ、カルヴェル、さっきの話、考えといてくれ。俺としちゃあ、寝て起きたらすぐにもおまえと犯りたいんだが」
 ランツは肩をすくめて、ナラカを見た。
「このこうるさい男が許してくれそうにねえ。いっぺん用事をすませてから、又、来るわ。おまえ、まだ、この街に居るか?」
 居ると答えると、ランツは嬉しそうに笑った。子供のような邪気のない笑みじゃった。
「近いうちに、又、来る。待っていてくれ。ま、無理強いはしねえ。おまえにその気がないのなら寝るのはやめる。けど、何でもいいや、他の事して色町で遊ぼうぜ」
 俺の奢りだと言って金袋をテーブルに置き、ランツはナラカと共に安酒場を後にした。その背を見送っていたわしに、最後に肩越しにふりかえってウィンクして。


 その夜、わしが泊まっている安宿に、大魔王教団の使いが現われた。陰気な神官だった。そやつは一秒とりとも口を休めずに、勇者と三日も女遊びに興じていたわしを非難し続けた。要約すると『教団の庇護を受けて暗黒魔法を学んだ身の上のくせに戦わないなど不義理だ』と、言いたいようじゃった。
 しかし、『勇者に恐れをなして逃げるおつもりか? しょせん、あなた程度の魔法使いでは勇者には歯が立たないとお思いなのだな?』と、ののしられては聞き捨てておけなかった。
 魔法でそやつの顎を外し、尚もフガフガとうるさい奴を移動魔法で教団に送り返してやった。『わしは大魔王教徒ではない。何時、どのような形で勇者と戦おうが自由なはず。口出し無用。わしを操ろうなどと思うな。過ぎた行いには、相応の報いがあるぞ』と、心話のメッセージをそえて。


 翌々日の昼前に、ランツはナラカを連れてわしの宿に現われた。
 ナラカは澄ました顔をつくっていたが、わしを見る眼に容赦は無かった。大魔王教団との繋がりがバレているなと、わしは思った。
 しかし、ランツの方は変わりがないどころか、前より愛想がよく、ニコニコ笑ってわしとの再会を喜んだ。笑うとヤクザ者っぽい顔が、とてもかわいく見えた。
 国王への挨拶はどうした? と、問うと、もう済ませたとあっさりとランツは答えた。
 ナラカはわざとらしく溜息をつき、小声で『あれが挨拶なものですか』と、こぼした。王宮で何やって来たのだ、この勇者は。
「で、カルヴェル、どうする? 俺と寝てくれるのか?」
 とがめるような視線を送るナラカを無視して、ランツは満面の笑顔をわしに向ける。
 この男は……知らぬのか? わしの正体を? 暗黒魔法を学んだ邪悪な男……勇者の命を狙う黒き存在だと。
 寝る気はないと答えると、ランツは残念そうに肩をすくめた。が、すぐに又、笑みを作り、
「じゃ、いいや、又、女遊びしようぜ。今度はナラカも入れて、三人でパーッと騒がないか?」
 と、誘ってきた。
 キラキラと眼を輝かせて……
 まっすぐに、わしを見て……
 その純粋な思いに触れると、柄にもなく胸が痛んだ。子供を騙している気分になった。
 だから、言った。女遊びもする気はない。やりたい事は唯一つ。おぬしと命のやりとりをする事……おぬしを殺したい、と。
 ランツはしばしジーッとわしを見てから、チェッと舌打ちをし、金色の髪を無造作に掻き上げた。その横のナラカが意外そうにわしを見ていた。わしが正体をバラしたからじゃ。わしを正体を秘してランツに接近してきた暗殺者とでも思っていたのだろう。
 ランツは嫌そうに聞いてきた。
「どうしてもやるのか?」
 やると答えると、又、嫌々、聞いてきた。
「何で、俺を殺したいんだ? おまえ、大魔王教団に身を寄せちゃいるが信者じゃないんだろ? 俺を殺して世界を破滅させたいわけでもあるまいに」
 やはり、わしの正体を知っていたか。しかし、そうと知っていて、何故、ランツはまだわしを慕っているのだろう?
「一宿一飯の恩義か?」
 まさか! 大魔王教団がわしに世話をやいてくれたのは、わしが優秀な魔法使いゆえ。わしが一般人なら、あやつらは便宜をはからぬ。暗黒魔法を学びたいわしと、わしを教団にひきこみたい奴らは、この半年、互いに利己的に動いていたまでのこと。恩義など感じていない。
「じゃ、殺りあう理由はねえ」
 いや、ある。
 わしは生まれながら魔力が膨大な、魔法の申し子。白魔法を極め、黒魔法も多少、学んだ。おそらく、この世に、わしにかなう魔法使いはおるまい。わしは魔術の世界で最強となった。
 だが、現在の境遇では学ぶべきものは何も無い。何もできぬ。白か黒どちらかの神官になるか、これ以上の成長は諦めて隠居となるしかない。しかし、いずれの道も選びたくない。堅苦しい神官職も隠居も御免じゃ。わしはまだ三十三。自分の人生を捨てたくない。好き勝手やって、おもしろおかしく生きたい。わくわくし続けたい。
 それゆえ……地上最上と謳われる勇者と闘いたいのだ。
 強い者と戦い、己の魔法を試したい。誰の為でもない、己の為に。己が満足する為に、勇者と戦いたいのだ。
 話の途中から、ランツの顔つきが変わった。青の瞳に燃えるような炎を宿し、不敵な笑みに口元をゆるませ、わしを見る。
 ナラカも微笑を浮かべてわしを見ていた。その瞳からは、わしへの侮蔑や敵意は消えていた。


 勇者とその従者は、わしからの挑戦を快く受けてくれた。
+注意+
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