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女勇者セレス 作者:松宮星

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五つの道 5日目(1)

 大魔王四天王最後の魔ゼグノス。
 アジ・ハリ族の末裔が呼び出した神獣『動物達の母』と女勇者が振るった『勇者の剣』によって、ゼグノスはその能力のほぼ全てを失った。セレスの前から逃げ延びたゼグノスの魂はほんのわずかで、その能力も小物魔族並に堕ちていた。つまり、セレスに斬られた瞬間に、大魔王四天王ゼグノスは、『死』を迎えたに等しい。
 ハリの戦士ハリハールブダンは、未だに雪の残る森の中に居た。
 この森の上空でゼグノスは散った、ここが自分の旅の最終の地だと、アジの男は断言し、先程、犬橇を止めた。ケルティの上皇・当代随一の大魔術師を連れての彼の旅はついに終わったのだ。
 しかし、ハリハールブダンにはわからなかった。この周囲で『動物達の母』と同化してゼグノスと戦った記憶こそあるものの、『動物達の母』もゼグノスも山よりも巨大な存在だった。最後の場所と言える空間は、数平方キロメートルに及ぶはず。この森のこの場所が何故、最終の地なのか理解できなかったが、優秀なシャーマンであるあの男がそう言い切った以上、そうなのだろう。
 トナカイの毛皮で仮小屋を建てる彼を、宙に浮かぶ老魔術師がニコニコ笑いながら眺めている。ほんの少し前、老人は長い呪文を唱え、アジの戦士を己の支配する領域――女勇者の魂のある次元へ肉体ごと送った。深く眠り続けている女勇者を目覚めさせる為に。
 ゼグノス、女勇者、アジ・ハリの王の運命が交差した地……この場所に居てくれと、ハリハールブダンはアジの男に頼まれていた。この地の縁が自分や女勇者を本来あるべき場所である今世まで導くはず、道先案内人としてここに居てくれ、と。
 身についた習慣からてきぱきと仮小屋を作るハリの戦士に、老魔術師は尋ねた。
「アジスタスフニルはどうしておる?」
 左手の『知恵の指輪』を通じて『極光の剣』を背負う者と心が繋がっている上皇は、手を止めずに答えた。
「存在している。だが、何も見ていないし、何も感じていない。俺の心に何も伝わってこない。無の世界に居る」
「さようか」
 老人はポリポリと頬を掻いた。
「では、セレスは、まだ旅立っておらんのじゃな」




 絶対、従者となる方とは仲良くなろうと決めていた。


 歴代勇者の従者はみなさん、素晴らしい英雄だった。
 やはり、多いのは戦士。でも、戦士といっても、出身国も武器もバラバラなのでいろんな方がいらっしゃった。『禅』の精神をもって戦うジャポネのサムライ、さまざまな魔法を使うペリシャの聖戦士、目に見えぬものと共にある北方のシャーマン戦士……
 勇者一行の旅には必ず同行してきたインディラ僧侶、いろんな宗教の神官や祭司、神秘の力を操る魔法使い、己の拳で闘う格闘家、遠方のものを貫く弓使い……
 変わりどころでは、知に長けた学者、開けぬ錠前は無かった盗賊、魔獣すら操った猛獣使いもいらっしゃった。
 彼等と共に困難を乗り越えたご先祖様の活躍を聞くと胸が熱くなった。従者様達の助けがあったからこそ、勇者様達は大魔王を葬ってこられたのだ。
 ランツおじい様は、従者の魔法使いカルヴェル様と僧侶のナラカ様と心を通わせ合い、義兄弟の契りを結ばれたとか……
 私も……
 そんな風になりたかった。
 女の身だし、いたらない勇者だけれど……
 こんな私に仕えてもらうだなんて、本当に申し訳ないけれど……
 共に戦う仲間になる従者の方々を大切にして、信頼し合いたかった。




「申し訳ありませんが、あなたと馴れ合う意思はありません。我がインディラ教団は代々勇者の従者を輩出してきた伝統がありますので、今世でも、大僧正候補の私をあなたの従者に推薦しました。しかし、率直なところ、私は女勇者の従者になんかなりたくありませんでした。女性に『勇者の剣』の真の力が引き出せるはずはありません。あなたに付き合っても、労多く、実は乏しいでしょう」


 ナーダ?
 ナーダの声だ。
 だが、視線の先にはセレスが居る。白銀の鎧をまとい、うなじで金の髪を一つに束ねた女勇者は、あっけにとられた顔を向けている。俺にではなく、俺の隣に座っている奴に。
 セレスは贅をつくした白亜の部屋の、金ピカの布張りの椅子に腰掛けている。辺りを見回そうとしたが、首が動かない。目もセレスに固定されたままだ。
 俺は……過去の自分と同化しているのだろう。再現されている過去の自分の体の中にいるんだ。だから、思うように動けないのか。
 ここは、エウロペの王宮だ。
 国王の御前で俺とナーダは初めてセレスと引き合わされ、そのまま親睦を深めるようにと一室で三人にされたんだった。
『私の旅に、あなた方が同行してくださる事を嬉しく思います。大魔王を倒してこの世に平和をもたらす為、共にがんばりましょう。どうぞ、よろしく』
 と、にっこり笑って握手を求めてきたセレスに、ナーダの野郎、さっきのキツい一発をかましたんだっけ。
 ポカーンとしていたセレスの顔が、コロっと変わる。顔中が真っ赤だ。ぶるぶる震えだした。
「失礼な方ね! 嫌なら従者を引き受けてくださらなくて結構よ! 確かに私は女! 女の勇者なんて前代未聞ですものね! 世の中のほとんどの人から期待されていない事は重々承知よ! でも、しょうがないでしょ! ラグヴェイ様の血を引く男子は、今、三才の甥っ子しか居ないんだから! あなた、グスタフが成長するのを待つ方が良いっていうの?  グスタフが『勇者の剣』を扱えるようになるのは何年後かしら? 十年後? 十五年後? そんなに待ってたら、この世は大魔王に支配されちゃうわよ!」
 憤慨するセレスに対し、ナーダは静かな声で答える。横目で見ると(勝手に動いたんだ。俺の意思じゃない)、野郎、ツーンと澄ました、いかにも上級僧ってな嫌な(ツラ)をしてやがった。
「おやおや、勇者を名乗るわりには、処世術の下手な、短気な方ですねえ」
「処世術?」
「勇者には必須な世渡りの方法ですよ。各国の国王やさまざまな団体との交渉ごとは、勇者の義務です。そんなんじゃ、あなた、務まりませんよ」
「うるさいわねえ! 私がどうだろうと、あなたに関係ないでしょ!」
「関係あります。十六歳の小娘とはいえ、あなた、勇者を名乗って、大魔王討伐の旅に出る気なのでしょ? あなたが馬鹿だと、従者の私のレベルまで疑われてしまいます。あなたのせいで、私まで低俗な人間だと周囲から誤解されかねません」
「え?」
「私、正直に従者になりたくなかったとは言いましたが、ならないとは言ってませんよ。遺憾ながら、今日から私はあなたの従者です。お若いあなたが愚かな行動に走らぬよう、これから教え導いてあげましょう」
「何ですって!」
「大魔王を倒せるのは『勇者の剣』だけです。あなたが女だろうが、馬鹿だろうが、その血ゆえに『勇者の剣』が扱える以上……誰かが貧乏くじを引いて、あなたのお()りをしなければいけません。非常に不愉快ではありますが、大僧正様が、直々に、この役目を私にとご命じになられましたのでねえ。仕方ありませんから、たかが女と侮らず、あなたを助けてあげますよ」
 口元が緩んでいる。俺は……ニヤニヤ笑って成り行きを楽しんでいるようだ。止めもしないで、大僧正候補と女勇者の言い争いを眺めているのだ。
 セレスの目が俺に留まる。この男は自分の事をどう思っているのだろう? やはり、嫌われてるのだろうか? と、不安そうな顔で。だが、すぐに、何を言われてもへこたれまいと! と、挑むような顔つきとなった。
「あなたも……私が勇者じゃ不満かしら?」
「不満などありません」
 俺の口が勝手にしゃべる。
「俺は国王陛下からあなたの護衛を命じられた、傭兵です。大魔王討伐の旅に同行し、行く先々で魔族や大魔王教徒を倒し、女勇者の生命・身体を護衛する。護衛対象が、馬鹿だろうがカスだろうが、仕事をやり通し、国王陛下から成功報酬をいただくだけです」
「それって……私が馬鹿でカスって事?」
 俺は肩をすくめた。
 セレスの顔が更に赤くなる。
「女だからって、みくびらないで。私、国王陛下づきの近衛兵を勤める聖騎士なのよ。大剣はもちろん、片手剣や弓や槍も、人並みに扱えるわ。乗馬も得意よ。それに、初級だけだけど神聖魔法も使えるわ。私はカスじゃない! 勇者になる為に三才から男として生きてきたんだから!」
「これは、これは、失礼いたしました」
 俺はわざとらしく胸に右手をあて、頭を下げた。
「やんごとなき侯爵令嬢に対し、失礼をばいたしました。カス呼ばわりした事をお詫びいたします。何分、こちらも、世間知らずのお姫様の護衛は初めてなもので、勝手をつかめずにおりまして」
「……あなた」
 セレスがキッ! と、俺を睨む。
「わざとらしい敬語はやめてよ!」
「そういうわけにもいきますまい。侯爵令嬢と卑しい傭兵では、身分が違います」
「普通にしゃべって! 敬意の欠片もない敬語なんて、聞いてるだけでイライラしてくるわ!」
「ご命令とあらば、改めましょう、お姫様」
 セレスが悔しそうに唇を噛んで、俺達から視線をそむけ、うつむく。
 泣きそうな顔だ。
 そういやあ、シルクドでこいつ言ってたよな、従者となる方達とは、絶対、仲良くなろうと思っていたって。ところが、蓋を開けてみりゃあ、自分の従者は俺とナーダ。女勇者を馬鹿にしきっている二人だったわけだ。
 いや、セレスがどう思ったかはともかく……この頃の俺はセレスに好意的だったんだ。セレスが美少女だったんで。さっきの発言(アレ)も挨拶程度にからかっただけだし。
 けど、ナーダは本気でセレスを嫌っていたな。女嫌いだし、伯父のナラカって奴がどうのでセレスのじい様とカルヴェルじいさんに因縁があったようだしな。今でもいけ好かねえ野郎だが、この頃のお高くとまった性格に比べれば付き合いやすくなったもんだ。
 しかし……どうすりゃ、いいんだ? セレスを起こしにきたってのに、思うように動けんし、口もきけん。過去の再現をただ眺めていたって何も変わらんだろうし、俺は




「この馬鹿女! 言っていい事と悪い事の区別もつかんのか! いい加減にしろ、世間知らずにもほどがある!」


 わからない……
 わからないわ……
 どうして……アジャンは……
 こんなに怒るんだろう……?
 私が馬鹿だから?
 世間知らずだから?
 後先考えずに行動するから?
 何をやっても空回りで……
 アジャンを苛立たせ……
 そして、ついに怒らせてしまった。


「おまえが女勇者じゃなかったら、昨晩のうちにおまえの処女をいただいておいたさ! クソ生意気な女を懲らしめる為に、な! もっとも、おまえみたいな胸糞悪い女、抱きたかねえけどな! おまえを見ていると吐き気がする! 傍に寄られるだけでうっとうしい! ハン! 俺が怖いのか、処女の女勇者様? 安心しろ、おまえなんか大金積まれたって抱くものか! 俺はなあ、処女は嫌いなんだ! ギャーギャーわめいてうるさいし、オマ●コはキツキツすぎて突っ込むこっちも痛い! おまえは肉体も最低なら気立ても最悪。おまえなんかより、商売女や熟れた後家を抱く方が遥かに気持ちがいい!」


 やめて……
 もう……聞きたくない……




 びっくりした。
 いきなり、場面が変わりやがった。
 シルクドじゃねえか。王宮のセレス用の部屋で俺がキれた時だな、この場面は。
 過去の再現ったって全部見てるんじゃない。心に強く残った場面(シーン)を飛び飛びに拾ってるだけだ。これじゃ、バンキグに行くのもそれほど先じゃねえ。ゼグノスとの戦いの場面(シーン)に追いつく前に、馬鹿女を起こさなくては。
 しかし、どうすりゃいいんだ?
 過去の俺がわめいている。ヤバイ、言い過ぎてるって自覚はあったんだが、口が止まらなかったんだ。
「おまえの事が虫酸が走るほど嫌いだからさ!」
 セレスは息をのみ……それから、両手で顔を隠し、わ――っと声をあげて泣き始めた。
 やめろ! 泣くな! 泣かしたくはなかったんだ。けど、どうにも……セレスを見ていると、苛々して、言わんでも良い事を言ってしまう。やり過ぎてしまう。
 だが、何故? セレス以上の馬鹿の護衛だって、俺はやり通してきた。なのに、何故、セレスには




 現実に重なるように幻が見えた……


 吹き荒ぶ雪嵐。防寒服代わりにボロボロの布を体に巻きつけた少年が、小さな子供を抱きしめて叫んでいる。
「死ぬな、アジャン!」
 けれども、腕の中の幼い子供の生命は尽きていた。
「アジャニホルト!」
 幼子を抱きしめ、少年は肩を震わせた。凄まじい怒りを抑えられずに……
 少年は憎んでいる……
 家族を奪った敵を……
 一族の窮地に救いの手を差し伸べてくれなかった祖先神を……
 強者にこびへつらう弱者を……
 吹き荒ぶ雪すらも憎み……
 全てのものに憎悪を向けている……
 あの少年が……アジャンの昔の姿なのだ……




 又かよ……
 又、飛んだ。
 しかも、よりにもよって、嫌な場面(シーン)を見せつけやがる……
 アジャニホルト……
 雪の中で逝った俺の弟……
 あのクソ魔族が、最後の家族を失い、全てに絶望し、アジの祖先神を捨てたあの日を俺に思い出させやがったんだ……
 思い出せねえよう、記憶を縛ってあったものを……
 セレスは俺の心と同調(シンクロ)し、俺の記憶を覗きやがった。
 共に雪景色を見たのだ。
 いや、怒るまい。あの馬鹿女が魔族に襲われていた俺を助けようとしてああなったわけだし……そもそも意地を張って、あの女から『虹の小剣』を借りなかったから、三下魔族に体を盗まれかけちまったわけだし……この件は俺が悪いのだ。
《何をぼんやりしているのだ、アジスタスフニルよ》
 無遠慮に心をかき乱す思念を感じた。
 この思念は……ハリハールブダンか。そうだった、俺とケルティの上皇様は『極光の剣』と『知恵の指輪』を通して繋がっていたんだっけ。って事は……俺は今、過去の自分と同化してるが、『極光の剣』を背負っているって事か?
《早く行動に移れ、セレス殿を助けられんぞ》
 体が動かないんだと心の中で言い返すと、
《それは、おまえ自身が過去に囚われているからだ》
 と、叱られた。
《過去の自分の行動を眺めていても仕方あるまい? なすべき仕事をなせ》
 どうやって? と、聞くと、
《そんな事、俺にわかるわけがない。シャーマンとしての勘に従い、心の赴くままに行動しろ》
 と、役にも立たない答えが返された。行動できねえから、困ってるんじゃねえか。動けないし、しゃべれないんだよ、こっちは。ったく。
 三下魔族をセレスが倒す。そういや、この時、初めて『勇者の剣』が使えたんだよな。過去の俺がセレスに、弟を『アジャン』と呼んでいた理由を説明している。
「弟と名前を取り替えたんだ。あいつの遺髪を指輪にして持っていたんだが……いろいろあって無くしちまってな。何もかも無くしちまうのも嫌だったんで、あいつの名を貰った。『アジャン』ってのは俺が弟につけた偽名だったが……本名の『アジャニホルト』よりも、あいつに馴染みのある名前だった。だから、貰ってずっと名乗っている」
 セレスがいかにも同情してますって顔で俺を見ている。
 だから……そういう顔はよせ!
 苛々するだろうが!




 あそこに居るのはアジャンじゃない……
 あの赤い目……
 邪悪な気……
 大魔王四天王ウズベル……
 ウズベルがアジャンの体をのっとんたんだわ!
 駄目! 私の大切な仲間を返して!
「あの世にいきな、お姫様」
 アジャンの口を使い、アジャンの口調を真似て、ウズベルが嘲笑う。
 カッ! と、頬が熱くなった。
 許さない!
 許さないわ、ウズベル!
 アジャンの体を、これ以上、穢させるものですか!




 セレスに斬られた瞬間、正気に戻った……
 刃で斬るのではなく、『勇者の剣』が持つ浄化の光で俺の内側にいたウズベルだけを斬り裂いてくれたのだ。
 助かった……
 場面(シーン)が変わってから、体中からふつふつとわきあがる奇妙な高揚感に酔っていた。笑い出したくなるような、暴れまわりたくなるような、攻撃的な気分だった。魔族に憑かれるってのは、麻薬みたいなものだ。心のおもむくままに全てを斬リ裂けりゃ、最高に気持ちいいだろう。信仰心を失った俺みたいな人間にゃ、魔族の破壊本能は魅力的過ぎるんだ……
 俺は、今、セレスを抱いていた。倒れかけたあの女を支えてやったら、セレスの奴、『勇者の剣』を投げ捨てて、涙を流しながら俺に抱きついてきやがったんだ。
 顔が熱い……過去の俺が照れているんだ。
 ええい、くそ! 何で照れるんだ、俺! 鎧姿の女に抱きつかれたって、ゴツゴツしてるだけで楽しくもねえだろうが!
 しかし……
 変だぞ。
 ここはインディラじゃねえか。
 シルクドの次がインディラ? 半年ぐらい間が開いている。シャイナやジャポネはどうした?
 シャイナやジャポネじゃ……
 シャオロンが仲間に加わっただろ、それからクソ忍者がセレスの命を狙って、龍神湖で左手用の『龍の爪』をシャオロンが手に入れたんだ。二度目に訪れたシャイナじゃ、四天王サリエル率いる魔族軍団と戦った。そこでシャオロンは家族と村の仇のサリエルと闘って、奴がシャオロンの親父さんから奪った右手用の『龍の爪』を取り返したんだ。
 何で、そうゆう重大事件を思い出さないんだ?
 ジャポネじゃ、忍者(ジライ)をライバル視して、やたら燃えてやがったくせに。あの頃はナーダも、忍者(ジライ)の部下に負けたもんで、妙に熱血してたんだよな。本人は引き分けだって言い張っていたが、ズタボロのボロ負けだったなあ。
 セレスとナーダは、サリエルをおびき出そうとしていたシャオロンとつるんで、修行、修行、修行、盗賊退治、大魔王教徒討伐を繰り返してたんだよなあ。阿呆らしいんで、俺はほとんど付き合わなかったんだが……
 いや、待てよ……
 付き合わなかった……?
 そうか、そういう事か!
 シャイナやジャポネじゃ俺はセレスの心に残る大事件の時、あの女の側に居なかったんだ。
 死にかけていたシャオロンの元にあの女とナーダが駆けつけた時には、俺は大魔王教徒どもを蹴散らしていた。
 暗殺者だったクソ忍者は、いつもセレス一人を標的にしていた。俺達がそばにいない時を狙って……七回襲撃したんだっけか? 一回だけ去り際のあいつに会っちゃいるが、火傷を負わされただけで、まともに戦っていない。龍神湖の時は、俺は意識を失っていた。
 荒野でサリエルと戦った時も、俺はシャオロンと組んでいた。ナーダと組んでいたセレスとは、かなり離れた場所に居た訳だ。
 シルクドからずっと、俺はセレスを避けていた。セレスに剣を教えてはいたが、あいつがしゃべるとムカつくんで必要な指示しか与えず、俺は無駄口をきかないようにしていた。そのうち、魔族がらみの話とかシャオロンの話とか、少しづつ会話をするようにはなったが……俺はできるだけ、セレスを無視しようとしていた。
 だから、あいつの記憶の中に俺は居ないんだ。
 過去の自分と同化してセレスの記憶に触れている立場の俺は……俺があいつの記憶の中に出てこない場面(シーン)には立ち会えないんだ。
 マズいぞ。
 こっから先は、ペリシャ、トゥルク、エーゲラ、エウロペ、ケルティときて、バンキグだ。
 俺はあまりセレスの側にいない。
 改心したとぬかして仲間に加わってきたクソ忍者と、シャオロンが、セレスの召使兼護衛役に徹していたからだ。奴等にセレスを任せて、俺は別行動をとることが多かった。
 仲間全員と行動を共にしている時も、シャオロンやナーダにばかり話かけていた。セレスとはまともな会話をしていない。たまにからかってただけだ。
 俺はできるだけ、セレスを避けていた……
 関わりたくなかったんだ……
 あいつの顔を見るのも、あいつの脳天気な話を聞くのも嫌だったんだ。側に寄られるだけで気持ちが落ち着かなくなるから、距離をとろうとばかりしていた。
 俺は……
 この先……
 あの女の記憶に残るような事、何かしただろうか?
 早く起こさなきゃ、セレスが死んでしまうってのに、このままじゃ、あっという間に、バンキグの広野の場面(シーン)だ。
 ちくしょう……
 どうすりゃ、いいんだ?
 体も口も自由にならない。
 ろくに時間もない。
 こんなんでどうやって過去に介入すればいいんだよ。
 どうすれば……
+注意+
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