挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
女勇者セレス 作者:松宮星

得るもの失うもの

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

104/151

五つの道 1日目(2)

「納得できませぬ!」
 広野に建てられたのは、移動式仮小屋だ。中心に炉をもうけ、細く長い枝で三本の支柱を作り、その支柱にトナカイの毛皮を貼り付けただけの簡素な造りだが、現地人が狩りの時に用いているだけあって保温性に優れている。その中で老忍者ガルバは声を荒げた。彼の背後には二人の忍ヤルーとクルグが控えていた。
「ここに小屋を張るのすら我慢できませんのに……周囲に人の目がないこの地では魔族は躊躇なく仕掛けてきます。激戦となりましょう……なのに」
 紺色の兜と口布、チュニックとズボンからなら忍装束。かつてインディラ一と謳われた忍者は、責めるように主人を見つめた。
「サヴォンオラヴィへ向かえとは、あまりにも無体にございます。何ゆえ、我らをお側においてくださらぬのです? 我らでは足手纏いとお考えなのですか?」
 老忍者と対する主人(ナーダ)は、女勇者が眠る簡易寝台の側に腰かけていた。その横に、口を真一文字に結んだ少年がただずんでいる。ナーダは溜息をつき、三十年もの長い間、自分を守り続けてくれている老人を見つめた。
「違います。適材適所をもっての考えです。あなた方忍には、忍にしかできない仕事をしてもらいたいのです」
「………」
「ルゴラゾグス王に救援を求めてください。身軽なあなた方なら、五日よりも前にサヴォンオラヴィに戻れるでしょう? 私の魔力は五日かそこらで尽きます。五日のうちに、アジャン達の活躍でセレスが起きてくださればいいのですけれどね、そうでなければ魔力が尽きた私の代わりにセレスの体を維持する人間が必要です。回復・治癒魔法の使い手を派遣してもらってください」
「それぐらいでしたら、鳥にて街に居る部下達と連絡をとればすむこと。ムジャがカスベルに居ります。あの街ならば魔術師協会がございます。明日か遅くとも明後日には移動魔法にてサヴォンオラヴィに着けましょう」
「そうですか。それは嬉しい」
「王宮との連絡はムジャらに任せておけば間違いはございませぬ。我らはこのまま御身様の護衛にお残しください」
「そうはいきません。ここが魔族だらけになる前に、近隣の村々をまわって注意を促してください。ここが戦場となれば、どこまで被害が広がるかわからないのです」
「御身様!」
「それに、私達が乗ってきた犬橇、あれもここに置いておくわけにはいきません。結界は必要最小限の大きさにしたいのです。この仮小屋より大きくはしたくありません。犬橇に乗ってあなた方は移動してください」
「わかりました……村々への警告と荷物の移動はお引き受けいたします。なれど、それに全員をさく必要はございませぬな」
 老忍者は背後の部下へと振り返った。
「ヤルー、わしはここに残る。後の指揮はおまえに任せた」
 ナーダの影武者忍者が答えを返す前に、主人が口をはさむ。
「いいえ、ガルバ、あなたもここを立ち去ってください」
「私ごとき小柄な老人、この小屋の隅におっても邪魔ではございませんでしょう? 私だけはお側に残ります」
「いけません! 行きなさい!」
「聞けませぬ! 私は御身様をお守りする為に生きておるのです! ただその為にこの年まで長らえてきたのです! このような危険な地に主人を残して行けましょうか?」
「ガルバ!」
「何と言われようと、私はここに留まります」
 ふぅぅと、ナーダが息を吐く。
「馬鹿ですねえ……ここにあなたが残ったとして、何の役に立つというのです?」
 その冷たい物言いに驚き顔をあげた老忍者は、侮蔑の表情を浮かべる主人を目の当たりにした。
「せっかく言葉を飾ってあげたのに、仕方ありませんからはっきり言います。神聖魔法も唱えられなければ聖なる武器も使えないあなたでは、残ってもらっても魔族との戦いでは足手纏い。シャオロンの邪魔になるだけです。ここから早く居なくなってください」
「御身様……」
 茫然と主人を見つめる老忍者。
 シャオロンも瞳を凝らし、武闘僧を見つめた。過剰な愛情をふりまく老忍者を煙たがってはいたが、ナーダは常日頃から老人を大切にしていた。まるで実の祖父に対するかのように。それを……
「さあ。一刻も早く出かけてください。セレスが亡くなれば、この世は闇に満ちてしまいます」
「………」
「ガルバ、私達の力が及ばずセレスを救えなかった時は、部下を率いてインディラに戻ってください。私の安否確認は必要ありません。セレスが亡くなるような事態ともなれば、まず間違いなく私もこの世にいないでしょうから。大僧正様に全てをお話して、御力にすがるのですよ。良いですね?」
「………」
 兜と口布の下の消沈しきっていた顔が……ニヤリと笑みに崩れる。
 そういう事か、と。部下を死地から遠ざける為、主人は悪役を演じるつもりなのかと。
 老人の声がふてぶてしいものと変わる。
「それは聞けませぬ。私はここに残ります故」
「ガルバ!」
「なるほど。確かに私めは魔族を斬れませぬ。なれど、戦うばかりが仕事ではございませぬでしょう。皆様方の身の回りのお世話、周囲の監視はこの私にお任せください」
「ガルバ!」
「戦闘はシャオロン殿がなさるのでしょう? シャオロン殿には充分な休息も必要。雑用などで煩わせては、体も休まりませぬ。又、お二人だけではシャオロン殿も気を張りすぎ、眠る事すらかなわなくなりかねません。五日間、私が不眠不休で周囲を見張り続けます。老いたりとはいえ、私の眼も耳も、お二人よりも優れております。御身様は女勇者様の治療に、シャオロン殿はいざという時の戦闘に専念なさいませ」
「いけません! あなた」
「ナーダ様、ガルバさんには残っていただきましょう」
 怒気で顔を赤く染めた武闘僧に、少年がにっこりと微笑みかける。
「ガルバさんのおっしゃるとおりです。二人っきりでセレス様の護衛を続けたら、オレ達、疲れちゃいますよ」
「ですが」
「それに……」
 簡易寝台の上のまるで眠っているかのような女勇者を、シャオロンは寂しそうに見つめた。
「さっきナーダ様がおっしゃったような命令をセレス様からされたら……オレだって逆らいます。ナーダ様、お仕えしている方が死地に赴くのなら、共に赴き、その方をお守りする。それが従者じゃないんですか?」
「シャオロン……」
「シャオロン殿……」
 武闘僧と老忍者の視線を痛いほど感じ、少年はうつむき、頬を赤く染めた。
「あの、その、生意気言ってすみません」
「……いいえ」
 ナーダは困ったように笑みを浮かべた。
「あなたに教えられました……ありがとう、シャオロン」
 そこでコホンと咳払いをしてから、
「ガルバ、私とシャオロンの援助(サポート)役としてここに残ります?」
 と、老人の顔を見もしないで尋ねた。
 老忍者は嬉しそうに頷いた。
「は。ありがとうございます」
「……死ぬかもしれませんよ」
「もとよりこの命、捨てております!」
「そ〜じゃなくって、あなたに何かあった時の用心をしておいてくださいって事です」
「あ! 二時間、いえ、一時間ほどお時間をください。鳥にてムジャ達と連絡をとり、ヤルーに幾つか指示を残します」
 老忍者はナーダに頭を下げ、シャオロンに対し小声で礼を述べてから、背後の部下達に向き直り何事かを話し始めた。
 と、そこへ……
「失礼いたします」
 中年くノ一マリーがローラを従え大量の布の山を抱えて現われる。どれも、長方形に同じ長さに切りそろえられているようだ。
「頭領。準備、整いました」
「ご苦労」
 老忍者はそれを受け取り、主人に対し頭を下げた。
「御身様、身体機能維持の魔法は女勇者様と接触せずとも可能でございましょうか?」
「可能ですが、あまり離れすぎると術の効果が弱まるので、くっついていた方がいいですね」
「五分ほど、仮小屋の外へ移動する事は?」
「私が仮小屋の外へ?」
「はい」
「まあ、それぐらいの距離なら離れても、魔法はかけられますが……何でです?」
「これから我らが行う事は、御身様とシャオロン殿には目の毒かと思われますので」
「?」
 老忍者ガルバの目配せで、中年くノ一マリーが畏まって説明する。
「私、女勇者様より、いざという時の用心に、お召しの神聖鎧の着脱の方法を教わっております。女勇者様の右手を人体のある箇所に当て、特定の呪文を唱えればよいのです。第三者が唱えても女勇者様が一分間、否を唱えなければ、鎧の着脱は可能なのです」
「はあ」
「この緊急事態にあたって、この呪文を頭領にのみお伝えしようかと思います」
「何の為にです?」
 くノ一マリーは、淡々と答えた。
「お下のお世話の為です」
「………」
 ナーダが硬直し、東国の少年がびっくりと目を見開く。クルグもきまりわるそうに、そっぽを向いている。ヤルーのみ平然としていたが。
 自分の言葉が周囲にもたらす影響が多大であるとわかっているだけに、マリーはつとめて事務的に必要な事を説明した。
「今後飲食をなさらないのだとしても、今朝から昼にかけてお召し上がりになったモノが既に女勇者様の体内にございます。排泄は人体の仕組みです。止めようもございません」
「そ……その通りですね」
「最長、五日もの間、老廃物と共にあるのもお気の毒ですし、お若い女性である女勇者様のお気持ちを思えば、ナーダ様やシャオロン殿がサラシの交換をなさるのは酷かと存じます。女性の大切な場所を隠せませんから」
「まったくもってその通りです!」
 ナーダは顔を真っ青にし、それとは逆にシャオロンはゆでタコのように顔を真っ赤にしていた。
 老忍者が畳み掛けるように言う。
「その点、私は枯れた老人にございます。下半身が不随となった部下のくノ一の看護をした事もございますゆえ、女性の下の世話にも慣れております」
「わかりました!」
 吐き気をもよおしかけていたが平静な顔をつくって、ナーダは席を立った。医療奉仕として、入滅近い老人の下の世話をした経験はあった。しかし、うら若い乙女の下半身など、絶対、目にしたくなかった。吐き気とめまいのあまり、卒倒しかねない……
「しばらく外に出ましょう、シャオロン。ヤルー、クルグあなた方もです」
「はい!」
「は」
「は」
 真っ赤な顔で、少年は口から鼻にかけてを押さえていた。セレスの『女性の大切な場所』を想像したせいだ。具体的にはどんな形か知らないそこは、少年にとって神秘の場所だった。
 仮小屋から去りかけた主人に、老忍者が茶目っけたっぷりに言う。
「御身様、私をここに残す事にして、正解にございましょう?」
 それに対しては、キッ!と糸目で睨みつけただけで、武闘僧は外へ出て行った。



「あんた、北方に行ったんじゃなかったのか?」
 西はエウロペから東はインディラまで、幅広く情報を集めているユーラティアス大陸一の情報屋グジャラは、目の前の人物を探るように見つめた。
 黒の忍者装束の忍。忍の里の抜け(にん)ジライ。忍の里一の忍者だったジライはグジャラにとってお得意様であり、知己。魔薬指導員として、一時期、その白い体を自由に扱ったことすらある仲。憎からず思っている相手の突然の来訪だ。嬉しい事は嬉しいのだが……グジャラは警戒心を解かなかった。女勇者の従者として北方に居るはずのジライがここに居るのはおかしい。
 ここ、南国エーゲラに……
 エーゲラの自分の店の支店に麻薬中毒の女を連れ込み、グジャラは遊びに興じていた。誰にも会わない、誰も取り次ぐなと部下に命じてあったのだが……
 寝室に昔馴染みの忍者が無言で現われたのだ。仕方なく情事をきりあげ、応接室に(ジライ)を連れて行った情報屋の元締めは不機嫌だった。
「そうむくれるな。あの程度のおなご、おまえの側にはゴロゴロしておるであろう? 又、拾ってくればいい」
「あんたなあ……」
「我には時間がないのだ。働け。ただでさえ、きさまには無駄足を踏まされておる。インディラに戻っておるかと思って本店を訪ねたのじゃが、情報屋の元締め様は南国で休養中と言われたわ」
「……あんた、インディラからここに来たのか?」
 インディラとエーゲラの間には、ペリシャ・トゥルクの二カ国が位置している。砂漠の覆い乾燥した土地だ。暑さが比較的穏やかな冬とはいえ、通常の交通手段では移動に一ヶ月以上かかる。移動魔法のような高等魔法を忍者が使えるはずはない。おそらく、魔術師協会の移動魔法システムを利用したのだろうが……
 覆面をしていてもそこから覗く黒の鋭い瞳、低い声、高圧的な物言い、傲慢な態度は、確かにジライのもの。誰かの変装とは思われなかった。しかし……
 何かがおかしかった。
「覆面、外してくれねえか?」
 相手を睨みながら、グジャラは言った。
「俺から情報を買いたいんなら、覆面を外してあんたの綺麗な顔を見せてくれ」
「む?」
 覆面の忍者は首を傾げた。
「言っておくが、今日は金がある。宝石を売りさばき、換金してきた。足りるはずだ。それでも足りぬのなら、大僧正候補様にツケておけ。我は忙しい。体を代価にする気はないぞ」
「寝る気はない。良いから外せよ。それとも、外せない理由でもあるのか?」
「………」
 無言のまま忍者は覆面を外した。
 白髪、白い肌の整った白子の顔が現われる。長い前髪は後ろに撫でつけるように額当てで止められているので、刃のように鋭い両の眼が露だ。
「う」
 グジャラは喉を詰まらせ、後ずさり、壁にぶつかった。口髭も見事な二枚目の顔を恐怖に歪めながら。
「あんた……何した?」
「む?」
「何かヤバい事に手を出したんだろ? 真っ黒じぇねえか!」
「………」
 ジライはまじまじと相手を見つめた。白い頬をポリポリと掻きながら。
「神官の才があったとは意外じゃな」
「来るな! それ以上、俺に近寄るな! ひどいぞ……あんたの顔……闇だらけだ」
「ふむ。麻薬が精神拡張に役立つという話、ホラかと思っておったが、きさまを見る限り、まんざら嘘でもなさそうじゃのう」
 表の商売の品(魔薬)を溺れぬ程度にたしなんでいるグジャラには、ジライに憑いている魔族がおぼろげに見えるようだ。もっとも素顔を見なければわからないというのだから、さほど強い能力ではないが。
「実は、この体に、今、魔を憑かせておる」
 気づかれたのなら、取り繕う必要はない。ジライは幻術を解き、目の色を赤に戻した。魔族に憑依されている今、この色が地色なのだ。
「情報を買いたい。大魔王教の聖書の在り処、きさまならば知ってるであろう?」
「大魔王教の聖書? この世に三冊しか現存してねえって闇の聖書か」
 ぶるぶると震えながら、グジャラは唾を飲み込んだ。
「それなら……調べなくても頭に入っている。先日、情報の仲介を頼まれたばっかなんでな」
「ほう」
「……まずは金を改めさせてもらうぜ。情報を売るかどうかは額次第だ。て、こら、近寄る! 金袋を投げて寄越せ! あんたはそこから動くな!」
 床に投げ落とされた金袋を拾い、情報屋は中を確かめ強張った顔で頷いた。
「充分だ。ツリが出るくらいだ。他に知りたい事があったら、サービスで教えてやるぜ」
「魔憑つきの男にも情報を売ってくれるのか? 助かる」
「前にも言ったろう、ジライ。俺の店は誰にでも情報を売る。忍者にも、軍隊にも、大魔王教徒にも、寺院にも、抜け忍にも、な。それに魔族が加わったって、どって事ねえさ」
 にやっと不敵な笑みをみせる男に、忍者は尋ねた。
「……グジャラ、サービスとやらでカルヴェル様の居場所、教えてもらえるか?」
「カルヴェル? 大魔術師様か? あぁ……すまん、ジライ、あの御方の現在地は世界中の情報を握る俺にもわからない。なにしろ、大魔術師だからなあ。移動魔法であっちこっち渡り歩くし、異空間に籠もる事もある。並みの人間じゃ行けない水中や空に居る事もある。お手上げだ」
「……おまえの店を訪ねる前に、カルヴェル様の城を訪れたのだが、いらっしゃらなかったのだ」
 ジライは溜息をついた。
 千里眼の魔法でセレスの危機を見たのなら、カルヴェルはセレス救出の為に、今、動いているはずだ。しかし、カルヴェルとて万能ではないし、常に千里眼を使っているわけでもない。事件に気づいていない可能性もある。
 ジライはカルヴェルの城の『門』にあたる壁の前の地面に、『セレス危機』の矢文を残して来た。他にもアテを訪ね、伝言を残してある。カルヴェルがこの世界に居るのなら、間もなく連絡がつくだろう。異空間に籠もられているのなら、お手上げだが。
「サービスについては後で考えよう。まずは大魔王の聖書の情報を聞かせてくれ」
「闇の聖書は遥か昔、初代ケルベゾールドが己の四人の従者、つまり、当時の四天王に与えた魔法の書。暗黒魔法のアンチョコだ。ケルベゾールドが生み出した暗黒魔法の全てがそれに記されているんで、昔から大魔王教徒どもはこぞってその希書を手に入れようとした。なにせ、大魔王の聖書は人の手では決して写せない魔法の書。文字にした途端、文字が具現化して逃げちまうってやっかいなシロモノだ。暗黒魔法の秘儀を手に入れたい奴は、四冊しかない貴重な本を命がけで手に入れなきゃいけねえ」
「そんな事は知っている。我が知りたいのは、その四冊の行方じゃ。現在は誰が所有しておる?」
「聖書の中身は皆、同じだそうだが、最初の所有者の四天王の格づけから、一の子分グラウスの本が一の書、二の子分ディウスのが二の書、三の子分ゼグスのが三の書、四の子分ウインゼのが四の書と呼ばれている。で、そのうちの三の書だが、約三百年前に消滅している。三の書を使って邪龍を操っていた神官ごと、七代目勇者ロイドが『勇者の剣』でぶった斬ったんだ。つまり、三の書は現存していない」
「残りは?」
「二の書は、三十六年前、先代勇者ランツがシャイナの大魔王教団から奪っている」
「……勇者ランツが、か」
「僧侶ナラカの手に渡ったとも、大魔術師カルヴェルが貰ったとも言われている。が、はっきりしない。まあ、インディラの総本山で浄化されたって情報もねえから、おそらく大魔術師様が所有なさってるんだろうね」
「………」
「一の書は、今世の、大魔王降臨に使われた。おととし、自分の体にケルベゾールドを降ろしたのは、シルクドの魔法使い。一流半の実力の持ち主だった男だ。大魔王降臨の儀式のアンチョコとして用いた本を、多分、ケルベゾールドをその身に降ろした今も、そのまま所有しているはずだ」
「……おまえの情報網をもってしても、ケルベゾールドの現在地はわからんのであったな?」
「ああ。大魔術師様の居場所が掴めないのと同じ理由だ。大魔王は異次元通路を使って世界中に出没している。人の身じゃ、その動きは追いきれん。それに、大魔王の現在の本拠地の情報はおおよそ掴んじゃいるが……相手が誰であろうが売る気はない」
 情報屋の元締めは肩をすくめた。
「俺としても命は惜しいんで、ね。節度ある情報漏えいを心がけている」
「……サービスのネタ、それにしてもよいか?」
「ん?」
「きさまが漏らしても構わぬと思っている範囲でよい。大魔王の憑代に関する情報を教えてくれ」
「たいした事は話せんぜ」
「構わぬさ。各国・各宗教団体とて未だに憑代については何も掴めておらぬのだ。どこの国の人間だったのか、その名前すらも、な。さすがは大陸一の情報屋じゃな」
「おだてても、情報量は変わらないぜ」
「わかっておるわ。さて、話を戻す。一の書が手に入らぬ所にある事はわかった。残る四の書の在り処を教えてくれ」
「……それなんだがな」
 グジャラはオールバックの黒髪を、気障な仕草で撫で付けた。
「四の書は、あんたの鬼門にある」
「む?」
「俺は四の書の現在の所有者の依頼で、先日、情報の仲介をした。ようするに、大魔王教徒のそれなりの実力者達に、そいつが四の書を持っているという情報をもっともらしく流してやったんだ。現在の所有者は四の書を手放したがっている。まあ、天文学的な金を積めば大魔王教団以外の奴にも売ってくれるかもしれんが……何があっても、あんたにだけは売らないだろう」
「………」
「おととしの秋まで、四の書は、とある国の大魔王教団が所有していたんだが、そこを女勇者様が壊滅させちまったんで、四の書は一神官の手に渡り、その後、持ち主を転々とし、今は、その国の闇の世界の顔役の手にある。つまり……」
「………」
 ジライは赤い瞳を細め、眉をしかめ、グジャラの次の言葉を待った。聞かなくとも、答えはわかっていたが。
「四の書は、ジャポネの忍の里にある。忍者頭、ようするに、あんたの父親が現在の所有者なのさ」



「痩せたのぅ、おぬし」
「けど、ムスコはまだ精力旺盛だぜ。毎日、ビンビンしてやがる」
 おじいさまの、おっきな、おこえ。
 おじいさま、ゆうしゃのまに、いらっしゃった。
 ゆうしゃさまのエが、いっぱいのおへや。ここか、おへやにいけば、おじいさまにあえる。
「お? どうした、子猫ちゃん、クサイ、クサイって俺から逃げたばっかなのに、もう戻って来たのか?」
 つかまっちゃった。
 だっこ。
 おヒゲ、じょりじょり。
 くすぐったい。
 おサケくさい。
 キャアキャアわらった。
「エリス様の面影があるのう」
 おきゃくさまの、おじいちゃん。
 ニコニコわらってる。
「だろ? 将来、絶対、別嬪になるぜ。なあ、セレス、おっきくなったら、俺とデートしてくれるんだよなよ」
「はぁい。セレス、おじいさまと、オ×コしてぶっとい×××でグリグリしてもらって、××××るのぉ」
「おぬし……幼児に何を教えておるのじゃ?」
「へへへ、興奮するだろ?」
「するか!」
 おじいさまのエがある。
 おじいさまと、エリスおばあさま、ふたりのエ。
「毎日、頑張ったんだが……結局、あの占いババアの言う通りになりそうだ。俺の子供はサリアだけ……。俺の血を引くのは、サリアとこのセレスと、その上のアリシアだけだ。アリシアはな……何処が悪いってわけじゃないんだが、体が弱い。すぐに熱を出す。サリアの小さいころ、そっくりだ」
「……無理をさせるわけにはいかぬということか」
「ああ……その点、子猫ちゃんは元気いっぱいだ。今日も俺と木登りしたんだぜ」
 おヒゲ、じょりじょり。
 いやん、くすぐったい!
「……選択の余地はない。あのクソったれとも話した。女なんかに触れられたらおぞましくって雷落としそうだが、俺の顔を立てて我慢してくださるとさ」
「あやつはおまえに惚れておるからな……おまえの最期の頼みならば聞くであろう」
「ふん。まだもうちょい足掻く。クタバるまで女を抱き続けるさ」
 しつこぉい!
 また、じょりじょり!
「俺は……世の中なんざどうでもいいんだ。エリスの血を引くこいつらさえ幸せなら……セレスを『勇者』になんかしたくねえのに」
「『勇者』がおらねば、大魔王復活後、今世は滅びる。おまえの可愛い娘も孫も、皆、死ぬのだぞ」
「わかってる! けどな、わかっててもヤなんだよ! 大魔王が復活しちまったら、今度はセレスが……俺の可愛い愛しいサファイアが……」
「……こういう時こそ、義弟を頼れ、ランツよ」
「あん?」
「わしはおまえと約束した。次に大魔王が復活しそして今世から消え去る時まで必ず生きていると……延命の邪法を使ってでも生き延びるとな。おぬしの可愛い孫はわしが見守ろう」
「……カルヴェル」
「エリス殿の血を引く子らには光の道だけを歩ませればよい。汚い事は、皆、わしがひきうけてやるわい。そういうのも、わし、得意じゃしの」
 おじいさま、へんなかお。
 おかおが、ぴくぴくしてるぅ。
「わしがおるのじゃ。大魔王討伐後に『勇者』に何が起きるか、その子に、教える必要もあるまい。ヤンセンともよう話す。『勇者の悲惨な歴史』を教えず育ててやればよい。ただの守り手のまま次代に剣を渡せればよし、その子が『勇者』とならねばならなくなったら、わしが全力でその子を守ろう」
「絶対だな?」
 びっくりしたぁ。
 おっきな、おこえ。
「絶対、その言葉、守るな? 嘘つきやがったら、地獄からでも舞い戻って、てめえの顔、ひんまがるほどぶん殴ってやる」
「ホホホ。せめて『天国から舞い戻る』と言え、勇者殿。約束するぞ、ランツ……今度こそ、わしが『勇者』を守ろう。だから……安心してクタバってよいぞ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ