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女勇者セレス 作者:松宮星

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五つの道 1日目(1)

「セレス!」


「セレス様!」


 赤毛の傭兵アジャン、武闘僧ナーダ、東国の少年シャオロン、忍者ジライの前で……


『勇者の剣』を手から落とし、白銀の鎧をまとった女勇者が背から雪積もる大地へと倒れてゆく。


 すばやい体術で走り寄り、彼女の体が地面に沈みきる前に、その腕に支えたのは忍者ジライだった。
「セレス様!」
 女主人を見つめ、忍者ジライの覆面の下の顔が青ざめる。腕の中の主人(あるじ)は今……
「大丈夫ですか、セレス?」
 駆け寄った武闘僧は、ハッと息をのみ、事の重大さを理解した。すぐに呪文を詠唱し、右の掌を彼女の胸の上にあてる。癒しの魔法のあたたかな光が彼の右手から広がり、セレスを包み込んでゆく。
「セレス様……?」
『龍の爪』を装備した東国の少年が、茫然と女勇者を見つめた。セレスは力なく倒れている。意識がないのだ。忍者の腕に抱かれ、武闘僧に治癒されている。
 閉じられた瞼。
 漏れる事のない呼吸。
 ぴくりとも動かない体……
 白銀の鎧の下の胸は……鼓動すらしていないのだろう。
「セレス……」
 赤毛の戦士は『極光の剣』を振るった。何かを斬った感触で初めて、ああ、下級魔族を斬ったのかと気づく。動かなくなった女勇者に、心も眼も奪われているというのに、体は勝手に動く。勝手に敵を斬っている。
「セレス様ぁ!」
 シャオロンが嬉しそうに声をあげ、ポロポロと涙をこぼす。
 雑魚魔族と戦いながら、アジャンはセレスを見つめていた。
 息をしている……
 瞼はまだ開かないが……
 間違いなく、呼吸している……
 死んではいない……
 死ななかったのだ……
 胸の奥からこみあがってきたあたたかな感情を抑えきれず、赤毛の戦士は口元に笑みを浮かべた。だが、それは、すぐにいつもの皮肉な笑みへと変わった。
『極光の剣』を振るい、アジャンは周囲に残っていた魔族を葬っていった。一刻も早く女勇者のもとへ駆けつける為に。


 けれども……


「客観的に言います……セレスは死亡しました」
 戦闘終了後の雪の広野。武闘僧ナーダは沈痛な面持ちで、忍者ジライの腕の中の女勇者を見つめ、一同にそう告げた。
「その身は、もはや抜け殻。魂の宿らぬただの肉塊です」
「で、でも、ナーダ様! セレス様は息をしてらっしゃいますよ! 眠っているだけなんじゃ!」
 泣きそうな顔の東国の少年シャオロンに、武闘僧は静かにかぶりを振った。
「自力で呼吸できない彼女の代わりに、心肺などの身体機能を魔法で維持してあげているだけです。私の魔力が続く限り、肉体を生前の状態に保つ事は可能です。しかし、このままでは、私の魔力が尽きた時に、セレスの肉体も死を迎える事となります」
「……客観的にみりゃあ、死んだってのはわかった」
 常と変わらぬ不機嫌そうな顔で赤毛の戦士が尋ねる。
「だが、主観的にゃあ、まだ生きているんだろ? 『このままでは死ぬ』んなら、どうにかすりゃあ生き返るんだよな?」
「……多分」
「おい、ナーダ!」と、アジャン。
「わからないのです、私にも。ゼグノスは自分の死をきっかけに発動する邪法を憑代にかけていたのです。ゼグノスをその手にかけてしまった為に、セレスは何らかの呪いをかけられ、肉体から魂を奪われたのです」
 ナーダが苛立たしそうに、左の拳を右の拳で受け止めた。聖職者として、邪法になす(すべ)をもたない自分が悔しいのだ。
「ですが……邪法の種類がわからなければ浄化のしようがありません。彼女の魂が肉体から分離しただけならば、魂を戻せばセレスは生き返ります。しかし、魔族に魂を喰らわれてしまったのであれば、再生は不可能。セレスはもう二度と目覚めないでしょう」
「………」
 忍者ジライは女勇者をぎゅっと強く抱きしめると、睨むように武闘僧を見つめた。
「……身体機能維持の魔法、どれほどもつ?」
「そうですね……めいっぱい頑張って五日ってところですかね」
「五日……」
「魔力的には八日もつと思うのですが……私、眠るわけにもいきませんから自分に疲労回復の魔法も唱えなきゃいけませんし、体力も落ちてきます。確実に彼女を生かせておけるのは、やはり、五日でしょう」
「そうか……」
「むろん、誰か治癒魔法の使い手が手伝ってくだされば、もっと長く身体機能維持の魔法をかけていられます。人数さえ足りれば、永遠にもね。しかし、この周囲の村のシャーマン達はゼグノスに殺されていました。助けはあてにできません」
「心得た、五日だな」
 ドンと体をぶつけるようにして、忍者は女勇者の体を武闘僧の腕に預けた。
「ジライ?」
 忍者がサラサラと何かを書き始めた。ジライの手にある物が、自分の携帯用のペンと筆記帳と気づき、ナーダは顔をしかめた。先程の接触で、()られたようだ。
「……一瞬だったが、セレス様が斬った男の体に血文字が見えた。断片的にしかわからぬが」
 ジライが筆記帳に書き留めた文字を、アジャンやシャオロンも覗き見た。しかし、それは魔に通じるものにしか読めない特殊な文字。二人には何と書いてあるのかわからなかった。浄化魔法の修行中に祓うべき邪法と血文字を学んだナーダだけが、それを読み取れた。
「『封印』、『流れ』、『眠り』、『入れ代わり』、『夢』……後は意味不明ですね」
「読み取れたのは、それだけだ」
 武闘僧ナーダ、東国の少年シャオロンの顔を見渡し、最後に赤毛の傭兵を横目でジロリと忍者は睨んだ。
「セレス様の護衛はきさまらに任せた……この邪法、五日のうちに解いてみせる」
 との言葉を残し、忍者の体がフッと消える。すばやい体術で何処かへ移動してしまったのだ。
「ジライさん!」
 シャオロンはきょろきょろと周囲を見渡した。が、白銀の世界が広がるばかりで、少し先の森や南の河の方まで見渡しても、どこにも忍者の黒装束は見当たらない。
「ったく! 勝手な野郎だ!」
 舌打ちを漏らし、赤毛の傭兵は女勇者を見つめた。深く閉ざされた瞼。口や鼻から漏れる静かな息。ただ眠っているかのような穏やかな顔をしている……
「セレス……」
 緑の瞳を細め、アジャンは唇をぎりっと噛みしめた。
「……俺も行く」
「アジャンさん?」
 不安そうに自分を見つめる少年。その肩をアジャンはポンと叩いた。
「二手に分かれよう。おまえとナーダはセレスの体を守って、どっか近隣の村に引き返せ。俺は西へ行く」
「西へ……?」
 何をしに? と、少年が問う前に赤毛の戦士は答えた。
「西へ行けと俺の勘が告げている。そこに何があるのかは、いつも通りさっぱりわからねえが……俺はそこへ行かねばならない」
「アジャンさん……」
「そこに行けば、多分、馬鹿女を起こせる。もしかしたら、クソ忍者と行き先は同じかもしれねえが、あのうさんくさい忍者一人に任せるわけにゃいかねえ。セレスは護衛対象だ。俺がきっちり起こす」
「はい、アジャンさん」
 少年は真っ直ぐに尊敬する戦士を見つめた。
「アジャンさんなら、絶対、できます」
「叩き起こして、たんまりと礼金をもらわなきゃな」
 そのまま赤毛の戦士は、南の凍った河の上に残してきた犬橇に向かおうとする。慌てて武闘僧が声をかけた。
「待ってください、アジャン! お一人で行動するのでしたら、これを!……あっ? あれ?」
 懐に手を入れ、ナーダはせわしなく中を探った。しかし、そこに入っているはずの物が無いのだ。『何時、ご入用になるかわかりませぬ故』と、忠義の部下が持たせてくれている金袋と宝石袋が無い……
「あ」
 何で無いのか思いあたり、ナーダは額を押さえた。
 ジライだ。筆記用具と一緒に、金目のモノも盗られていたのだ。
「……すみません、今、あなたに渡せるお金、持ってませんでした。犬橇を守っている私の部下なら幾らか持っているはずです。彼等から」
「いや、いい。金ならある。俺は金庫番だ。勇者一行の表向きの軍資金、好きに使わせてもらうぞ」
「ええ。必要ならバンバン使っちゃってください」
「アジャンさん!」
 去り行く戦士の背に向かい、東国の少年が叫ぶ。
「オレ、命に代えてもセレス様をお守りします! ちゃんとお守りします! だから、安心して行って下さい! どうか、アジャンさんもご無事で!」
 答える代わりに、振り返りもせず左手を軽くあげて振った。その背を……背の『極光の剣』の大剣を少年は瞳をこらして見送った。
 武闘僧は糸目で、ジッと腕の中の女勇者を見つめた。
 常であれば、セレスに近寄りすぎると鳥肌が立ち、接触していると掻痒感が耐え難いものとなる。けれども、今は肉体的不快はなかった。セレスの命の炎は消え入りそうなほど小さく弱い。ナーダが魔法をかけ続けねば、彼女は死んでしまうのだ。
 胸が痛んだ。
 この地上でただ一人、『勇者の剣』を振るえる人間……
 大魔王を討伐できる勇者……
 人の世になくてはならぬ存在……
 女勇者セレス……
 彼女を失えば、人の世は滅亡へと向かうかもしれない。
 だが、その使命を彼女が負っていなかったとしても、同じだ。怒りっぽくて負けず嫌いで騙されやすくて猪突猛進型の正義感の塊の彼女を……死なせたくはなかった。
 自分の魔力のつきるその時まで、全てを彼女に捧げようとナーダは決意した。
「アジャンは近隣の村へ戻れと言っていましたが……私としては、ここに仮小屋を建ててその中に五日籠もりたいと思うのですが、どうでしょうか?」
「え?」と、シャオロン。
「女勇者が無力となった以上、魔族の襲撃があると思うのです。大魔王を倒せる唯一の人間を葬ろうと、それこそ数にものをいわせて襲ってくるのではないかと」
「……そうですね」
「村人を守りつつ、セレスを護衛するなど、無理です。なにせ、私、戦闘では役立たずになっちゃいますから」
 武闘僧は苦笑を浮かべた。
「私、魔力のほとんどをセレスに注ぐつもりなので浄化魔法を使う余力はありませんし、セレスからあまり離れられないのです。距離が開くほど身体機能維持の魔法がかかりづらくなるからです。セレスにべったりくっついているとなると、格闘も制限されるわけです。シャオロン……申し訳ありませんが、これから五日、ここでセレスと私を守ってくれませんか?」
「ナーダ様……」
「孤立無援の広野で次々とわいてくる魔族を倒すのです。結界魔法を張って魔族を遠ざける手は打ちますんで、全部を倒す必要はありませんがね」
「結界って……ナーダ様、大丈夫なんですか? 徹夜でセレス様の体に魔法をかけ続けて、その上、結界だなんて……」
 少年は口ごもった。魔法が全く使えない自分が口惜しかった。
「大丈夫です」
 ナーダは左手を見せた。王族の衣装の上につけた黒い装甲、その先の手首には腕輪が銀色に輝いてる。
「コレがありますから、結界を張るのにさほど魔力はいりません。五日、私はセレスの体も結界も維持してみせますよ」
「はい……」
「ですが、魔が増えすぎると結界の効力が弱まります。定期的に数を減らしてもらわねば困るのです。魔族退治、頼んでもいいですか?」
「はい!」
 武闘僧は周囲を見渡し、少年も共に視線を動かした。東、北、西の広野の先には針葉樹の森があり、更にその先に山々が見える。南には凍った河があり、その先も森であり山だ。森の中に狩猟の民のパーティや村もあったが、どの方角に向かっても二日から三日かけねば街に行き着けない。周囲の助けなど、まったく期待できない場所なのだ。
 少年は拳を握り締め、元気良く言った。
「守るべき人がお二人だけの方が、オレも戦いやすいです! ここでアジャンさん達の帰りを待ちましょう! 魔族が襲撃してきたら、オレが倒します! オレは自由に動き回れますから!」
 誓いを立てるかのように、少年は右の『龍の爪』を顔の前にかざした。
「力の限りがんばります! お二人に魔を近づけさせません! 何があってもお守りします!」
「ありがとう、シャオロン。頼りにしていますよ」
 キリリと顔をひきしめる少年。
 シャオロンは思った。自分には、ナーダのような魔法も知恵もなく、アジャンのような仲間を守りきる強さもなく、ジライのような世慣れた経験もなく情報収集をする能力も無い。
 できるのは……仲間を信じ、戦うことだけ……
 アジャンやジライは、セレスを救う手立てを見つけて、帰って来る。
 必ず、帰って来る。
 それまで、セレスやナーダを守り戦い続けるのだ。
 迷いの消えた少年の表情は、紛れもなく戦士のもの。子供らしさ、あやうさ、かよわさは微塵もなかった。


 体術で仲間から距離を開いた忍者ジライは、霧氷も美しい冬の森の中で、上衣を脱ぎ、手甲や鎖帷子も外し、白い上半身を寒気に晒していた。
 言いつけに背く事を心の中で何度も主人(セレス)に詫び、ジライは左手の甲を小刀で傷つけた。甲より流れ出る血で右の二の指を濡らし、己の体に血文字を書いてゆく。
 邪法は魔族が人に与えた邪悪な魔法。術師を破滅に追いやる道を必ず含んでいる、邪な魔法なのだ。ジライが邪法によって滅びる様を見たくない、そう願った女勇者の為にジライは邪法を捨てた。もう二度と使わないと、セレスに誓っていた。大魔王教の神官戦士長に匹敵する才を封じ続けていたのだ。
 けれども、今、セレスにかけられた邪法を解く為に、手段など選んで入られない。五日しかないのだ。呪の種類を解き明かすにしろ、必要なものを手に入れるにしろ、人の身でできる事には限界がある。魔の力を借りねば、自分ではセレスを救えない。
 その結果、己の命を捨てる事となっても、セレスの怒りを買って従者の任を解かれる事となっても良かった。
 セレスさえ無事ならば……
 彼女が再び目覚め、生きてくれるのなら……
 自分がどうなろうが構わなかった。
 複雑な印を何種類も両手で結び、呪文を詠唱し、ジライは気を高めた。
 ジライの目の前の空が振動する。ジライの眼には何も見えないが、この世の神秘を見通せる眼を持つ者ならば、見えた事だろう。この世と別次元を繋ぐ扉が開かれたのが……
 空より流れ出る黒の気を感じながら、ジライは黒の気を召喚した術師として、挑むようにそれらに契約をもちかけた。
「我が両手、我が両足、我が体、我が両目、我が両耳、我が口を貸し与える! 黒きものよ、我に憑け! 我が生命を糧として、この世に現われよ! 期限は五日! 五日後にきさまらとの契約は切れる! だが、その前に我が魂を喰らい尽くせば、この体、きさまらのものぞ! 今世の勇者の従者の肉体じゃ! 『ムラクモ』の使い手の体、欲しゅうはないか?」
 ねっとりとした闇が、ジライの体に絡みつく。体中の気穴から、それがぬるりと入ってくるおぞましさ……全身の気が総毛立ち、ぞくぞくと悪寒が走った。
 次元の扉は閉まった。現われた魔族は全て、ジライの内に入り込んだ。ジライは口の端を歪め、笑みを浮かべた。その切れ長の瞳を赤く染めながら。
 ジライは満足した。大魔王四天王ほど強力なヤツは呼び出せなかったが、そこそこ能力のあるモノを召喚できたようだ。体中に力が漲っている。魔族の能力――移動魔法・攻撃魔法・暗黒魔法が使用できるようになった。体も通常の攻撃では傷一つつかない、不死身の体となっている。
 しかし、内なる魔族が絶えず生命力を吸い続けているので、時が経つに従って体力は衰えてゆく。体力ばかりか気力まで衰えれば、最期だ。魔族に体を奪われ、魂を喰らわれてしまうだろう。
 又、この体は浄化魔法や聖なる武器には無力。一撃でも聖なる力を浴びれば、内なる魔族と共に果て、一握の塩だけを残しこの世から消滅する運命となった。聖職者や聖なる武器の使い手との接触は命取りとなる。
(セレス様……)
 愛しい女主人の面影を心に浮かべ、忍者装束を調える。
(この命、尽きようとも、必ずやお助けいたします)
 魔力を高め、ジライは移動魔法で姿を消した。
 五日で全てを終わらせねばならない。まずは、西へ向かうのだ……


 空を舞う乙女達が笑っている。銀の髪、人ならざる美貌、凍える息の、冬の化身。彼女等の甲高い笑い声が人の耳には風の音に聞こえるはずだ。
 乙女達は、皆、西の方角を指差していた。
 西に向かえと、シャーマン――アジャンに教えていた。
 凍った河を離れ、犬橇を操り、西へと向かう。乙女達は風に乗って何処までもついて来る。森にさしかかると、木々の間から人とも獣とも植物ともつかぬモノが顔を覗かせ、やはり西を指差した。
 自然と礼の言葉が口に上った。乙女達は狂ったように飛び交って歌うように笑い、森の生き物達が木の上を跳ね回る。こちらの言葉が通じたようだ。
 これほど人ならざるものが見えるのは、アジャンには珍しかった。いつもは何かが自然と共にあるのはわかるのだ。けれども、それは漠然としすぎていて普段であればアジャンの目では見えていてもあまり形を捉えられない。
 それが、はっきりと見えるのだ……
 まるで親父のようだと、アジャンは口元に笑みを浮かべた。
 シャーマン王アジクラボルトは、常に、人の眼には映らぬものを見て、彼等と語らっていた。それは、時には、先祖の霊であり、精霊と呼ばれるものであり、神に近い高次元な存在だったりした。
 父と会話をしているうちに、何時の間にか会話が噛みあわなくなり、父が別人に変わったのだと気づく事もよくあった。何の儀式も魔法もなく、父は日常的に交霊や降霊をしていた。
 それができる者こそがシャーマンであり、シャーマンならば誰しも苦もなく器になれるのだと子供の頃は思いこんでいたのだが……その後の逃亡生活でも、傭兵として戦場に身を置いた日々でも、そんな事をできる人間は一人としていなかった。
 父だけが特別だったのだ。
 父のみが真のシャーマンだったのだ。
 そう思ってきたアジャンにとって、セレスとの旅は時に不愉快なものとなった。
 何の儀式も魔法も無く、シャオロンの父や古えの神主――彼等の魂を自分が受け入れ、器となったなど……認めたくはなかった。
 シャーマンの才は神からの贈り物だ。アジの神を捨てた自分にそんな高い能力があるはずはない、あってはいけない、そう思っていた。
 だが、『極光の剣』を得た事で、アジャンも変わった。『極光の剣』からは、多くの偉大な魂を感じる。先祖の霊が剣を通し、自分を守護しているのだ。
 心情的に納得はできなくても、父アジクラボルトのシャーマン能力は正しくアジャンにも受け継がれている。
 有るものならば……利用しなければ、損だ。
 セレス救出の為に、シャーマンの才を使うのだ。
 精神を研ぎ澄まして。
 更に西へ……アジャンは体の中から響く声に従い、冬の乙女達と共に西に向かった。
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