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女勇者セレス 作者:松宮星

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英雄の墓―――バンキグ編 4話

 ナーダの初戦の相手はカラドミラヌ、血気盛んなあまりナーダに対し『素手で戦ってきたぁ? あんた、武器も満足に扱えないへっぽこ戦士だったのか! 十秒で倒せるぜ』と、暴言を吐いた若造だ。
 戦斧素人なんかさっさと倒して今大会では優勝するぞ! と、はりきる若者に武闘僧はにっこりと微笑みかけてから、審判にバンキグ語で話しかけた。
 審判が両手を高々と突き上げる。国王に何か伝えたい事があるという合図だ。戦斧部門開始を待ちわびざわめいていた観客席がぴたりと静まり返る。
「女勇者様の従者ナーダ殿よりのご希望にございます」
「聞こう!」
 ルゴラゾグス国王は審判よりも大きな声を張り上げた。
「申せ」
「は。戦斧勝負前に、ナーダ殿は座興を披露したいとの事。ついては、その座興にカラドミラヌ殿にも協力いただきたいと望まれております」
「座興とな?」
 玉座に対し恭しく頭を下げてから、ナーダが朗々たる声を張り上げた。バンキグ語だ。
「この度は戦斧部門に参加させていただく幸運に恵まれましたが、私はインディラでは格闘を中心とする武闘を嗜んでおりました。大会に出場した事はございませんので実績こそありませんが、私は国一番の武闘家でありました」
「ほう!」
 国王が面白そうに身を乗り出す。
「武闘の才を披露してくれるのか?」
「はい。実は、先ほど、カラドミラヌ殿は私に対し武闘を軽んじる発言をなさいました。お若いカラドミラヌ殿は、武器を扱う技術に欠けるへっぽこ戦士が武闘家になるのだと勘違いなさっておられるご様子。この場をもって、彼に武闘の奥深さをお教えしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「カラドミラヌ! この者を侮辱したとは真実(まこと)か?」
「侮辱ではありません!」
 若者も声を張り上げた。国王やナーダほどには声は通らないが。
「この者は戦斧の素人です! だから言ってやったんです! おまえは俺の敵じゃない! 十秒で倒してやるぜ!、と」
 観客席からブーイングとカラドミラヌ支持の声があがった。武器を扱えない人間が大会に出場するなど、バンキグではありえない事だ。大会への侮辱、ひいてはバンキグ国への侮辱とも言えた。
 罵声を浴びせられながら、ナーダは涼しげな顔で笑っていた。審判に両手を挙げてもらい会場に沈黙をもたらしてから、再び武闘僧は口を開いた。
「正式な戦斧勝負をする前に、座興としてカラドミラヌ殿の戦斧と武闘で闘いたいのです。私は丸腰で挑みますから、遠慮なく斬りかかっていただきたい。かすり傷でも私に傷を負わせたらカラドミラヌ殿の勝ち。勢い余って私を斬り殺したとしても女勇者様は気にもなさいませんので、本気でどうぞ。一分間、私は手を出しません。戦斧の名手ならば私を見事にしとめてください」
 ナーダは若者に対し、挑発的な笑みを浮かべた。
「一分後に私が反撃を開始したら、あなたは十秒と戦斧を握っていられないでしょうから」


「アレ、何って言ってるの?」
 セレスはアジャンに尋ねた。ナーダも対戦相手も国王もバンキグ語で叫んでいるので、何と言っているのかさっぱりわからないのだ。
 上着を羽織っただけの赤毛の戦士は、このうえないほど不機嫌だったので、女勇者の質問を無視してそっぽを向いた。


 カラドミラヌがナーダの挑戦を受けたので、戦斧勝負前に座興が行われる事となった。
 ナーダは戦斧を選手控え席から降りて来た少年に預け、丸腰となって試合場にあがり、カラドミラヌから距離をとって、拳を構え、腰を落とし、インディラ式武闘の迎撃の型を整えた。
 審判の開始の合図と共に、カラドミラヌは勢い良く斬りかかって行った。戦斧の鉄製の斧頭は人間の頭より巨大で鋭い光沢を放っている。斬首斧のようだ。
 南のへなちょこ戦士をこらしめてやる! 殺しても構うものか! と、カラドミラヌは戦斧を振り回した。
 だが、対戦相手は斬れそうなのに、斬れない。相手はたいして動いているようには見えないのに、刃をぎりぎりのところでかわしてしまうのだ。
 カラドミラヌの振りは、次第に大振りとなっていた。 
 一撃でも当たれば勝てるのに、相手は戦斧を避けてしまう。余裕の笑みを消す事なく……。もともと冷静さに欠ける若者は、頭に完全に血をのぼらせてしまった。
「一分経過」
 と、審判が叫んだ時、その声はカラドミラヌの耳に届いてはいなかった。ナーダへと斬りかかった若者は、相手が突然距離を詰めて来た事に驚き、反撃に驚き、相手の姿が視界から消えた事にただ、ただ驚くばかりだった。
 ナーダは掌で戦斧の柄を突き上げるように弾き飛ばすと、すばやくカラドミラヌの背後に回り左腕で首を絞めるように拘束し相手の動きを奪ったのだ。そして宙を見上げ、右手を高々と差し上げる。数秒後、その右手に、宙へと飛ばされ回転していたカラドミラヌの愛武器が落下してきてすっぽりと収まった。
 しばらくの沈黙の後……会場は割れんばかりの拍手を戦斧を高々と掲げる南から来た戦士に送った。


「くそぅ、あのパフォーマンス好きめ……」
 アジャンはぎりぎりと歯を噛みしめた。
 しかし、武闘僧の活躍を間近で見ていた少年は、
「さすが、ナーダ様!」
 と、素直に感動し、戦斧の柄を熱く握り締めたのだった。
「すみませんでした、シャオロン」
 預けていた戦斧を試合場の下まで受け取りに来たナーダに、シャオロンは、
「オレ、ここでこのまま見学していてもいいでしょうか? 間近でナーダ様の闘いをもっと見学したいんです!」
 と、尋ねた。これからは武闘じゃなく戦斧勝負になるんですがねえと苦笑しながらもナーダが審判と話をつけてくれたので、シャオロンは試合場のすぐ側に留まる許可をもらえた。『龍の爪』は革袋に入れて背負っているので、戦斧部門終了後に控え席に戻らずそのまま自由武器部門に出場できる。
 ナーダとカラドミラヌの戦斧勝負は、あっという間に終わった。ナーダの重い一撃を受け止めきれず、カラドミラヌが愛武器を落としてしまったのだ。開始して数秒の事だった。負けん気の強い若者は、さっきの座興で勝負勘が狂ったんだ! こんな試合、無効だ! と、叫んだ。けれども、国王に鬼のような形相で叱られてしまい、すごすごと引き下がらざるをえなかった。
 拍手喝采を浴びるナーダを、東国の少年は尊敬の眼差しで見つめていた。誰もがナーダを褒めている……周囲の熱気を少年は我が事のように喜んだ。が……
(?)
 何か違和感を覚えた。会場の雰囲気に同調していない気がある。シャオロンは周囲を見渡した。が、観客席の戦士達は興奮して勝負に酔いしれるばかり、最前列の魔法使い達も光玉を維持しながら熱い視線を試合場に送っている。
 けれども……
 何かが見ている……
 会場中を包みこむほどに大きいような……
 掌に載るほど小さいような……
 とらえどころがない何かが。
 人でないような気がした。
 邪悪ではないので、魔族ではなさそうだが。
(何だろう?)
 シャオロンがキョロキョロと当たりを見回しているうちに、予選第二試合が始まった。
 国王に次ぐ戦斧の実力者二人は、南の戦士に対抗意識を抱いていた。巧みに戦斧を振るい、バンキグ戦士の実力を見せ付けようとした。
 激しく火花を散らせてぶつかり合う戦斧。
 その輝きを見つめていたシャオロンの耳元で、
「あれで戦士か? 話にならぬ」
 と、誰かがつぶやいた。
 ハッ! として振り返ったが、シャオロンの後ろには誰も居なかった。
 決勝戦も、シャオロンは試合に集中できなかった。
 何かが居るのだ……
 それも、自分のすぐ近くに……
 居るのはわかるのだが、見えない。
 不安に駆られ、シャオロンは出場者控え席に振り返った。そこにいる尊敬する戦士の姿を求めて。
 アジャンは仏頂面で試合を眺めていた。が、独特の勘の良さを発揮してシャオロンの視線にすぐに気づき、敏感に反応した。緑の炯眼を細め、ジーッとシャオロンの背後を見つめる。何が居るのか、アジャンには見えているようだ。アジャンがフッと笑みを作った後、派手な喚声があがった。勝負がついたのだ。
 試合場にたたずみ、観客に対し手を振って応えているのは……ナーダだ。ナーダが勝ったのだ。
「惜しいかな、未熟」
 未熟……?
 未熟とは、ナーダに対して言っているのだろうか?
「勇者の従者殿、見事であった! わしも戦斧部門に出場するのであった! そなたと闘いたかった! 王宮滞在中に、是非、一度、手合わせいただきたい!」
 と、玉座から声をかけてきたルゴラゾグス王に、ナーダは恐縮して答えた。
「真に偉大な斧の名手の前では、私の腕など霞んで見えましょう。陛下の戦斧は神技の域にまで達していると伺っております。ですが、対戦できれば、私には学ぶべきものが多く良い経験となりましょう。私ごとき未熟な男ではお相手には役不足かと存じますが、喜んで……」
 二人のやりとりを耳にして、シャオロンは……
(あれ?)
 小首をかしげた。何で二人のやりとりがわかるのだろう? バンキグ語など知らないのに……
「シャオロン、革袋を預かりますよ」
 試合場から下りて来たナーダに声をかけられるまで、シャオロンはただボーッとその場に佇んでいた。
「ナーダ様……」
「早く『龍の爪』を装備しなさいな。あなた、予選第一試合に出場するんですよ」
 言われるがままに『龍の爪』を革袋から取り出し、シャオロンはすがるように仲間を見つめた。
「ナーダ様……」
 その不安そうな姿を、武闘僧はルゴラゾグス国王との対戦への恐れからくるものかと勘違いした。ナーダは静かに笑みを浮かべ、少年へと助言した。
「『龍の爪』を装備する者にふさわしい闘いをなさい。あなたはその武器の所持を、真龍と古えの神主(かんぬし)から許された一流の格闘家です。恐れる必要はありません。あなたは、あなたとして闘えばいいのですよ」
 シャオロンは唾を飲み込み、頷きを返した。今、周囲で何か異常が起きているのは確かだが、自分はセレスの従者の格闘家なのだ。闘うべき時に闘えねば話になるまい。
 武術大会に集中しよう……シャオロンは決意した。


「アジャン、仇をとってあげましたよ。……て、全然、悔しそうじゃありませんねえ」
 食い入るようにシャオロンの背を見つめる赤毛の戦士。
 その隣に、悔しがってくれなきゃつまらないですよと、武闘僧が腰かける。
「……くだらん大会だが、出て良かったな」
 何の事? と、セレスが身を乗り出す。アジャンは誰に聞かせるでもなく言葉を続けた。
「さすが、シャオロン……と、言うべきなのだろうな」


 弓勝負は、バンキグ(いち)の弓の名手ノリエハラスとジライの二人の勝負となっていた。
 両者は試合開始からずっと的中を続けている。一矢も外していない。素晴らしい集中力だ。
 小休止の時、弟子から渡された手ぬぐいで汗を拭いながら、宰相は南から来た男に声をかけた。
「その息苦しそうな覆面を外されてはいかがかな?」
「………」
「それでは汗すら拭けん。ご不自由であろう?」
「……心配ご無用」
 弓の弦の強度を確かめながら、南の戦士は言った。
「ジャポネの忍には、人前で素顔を秘する掟がござる。その古くからの掟は、我が宿命であり、美徳……破る気はござらぬ」
「ほう。南の方にしては古風な方だ」
 老大臣はカラカラと笑った。
「この勝負、わしとその(ほう)が続ける限り、おそらく決着はつかぬ。雌雄を決する事はできそうにないが、共に弓を楽しもうぞ」
 標的面の取替えが完了し、小休止は終わった。
 二人は並んで佇み、矢をつがえ、弓を引き絞った。


 試合場に現われたシャオロンに、観客は失望と怒りを隠さなかった。
 女勇者も、その後に出場した二人の従者も、的中を続けている弓部門の選手も、観賞に値する一流の戦士であった。
 しかし、自由武器部門の出場者は子供だったのだ。しかも、ひどく痩せた十歳前後の。競技場で雑用係として働いている戦士見習いの少年達の方がまだ体格が良い。
 ただ、子供が両腕にはめた黒の小手から伸びる五爪(そう)の爪武器には、人々は並々ならぬ関心を示した。レスリング形式の『格闘』しか発達しなかった北方には、爪武器はないのだ。初めて目にした武器はバンキグ人には奇妙な形に映ったが、武器自体には年を経た風格があり、細く鋭い爪は猛禽類のもののようだった。名のある武器と思われたが、その使い手があの子供では……
 シャオロンの予選の対戦相手は、複雑な表情を浮かべていた。槍の名手であるその男は、自分の初戦の相手が子供と知って、分不相応の試合に出場させられる事となった子供に同情していたのだ。長く罵声の的とさせては気の毒なので、試合開始直後に武器を弾き飛ばしてやって早々に退場させてやろうと、そう思っていたのだ。
 けれども、子供の爪武器は小手で腕にしっかりと固定されてしまっている。武器をはじき飛ばすのは不可能だ。となると、対戦相手を退場させるには、その体にかすり傷でもよいから傷を負わせるか、『参った』と言わせるかしかない。
 子供は細い手足をむき出しにして、東国風の短衣(道着)を着ている。シャオロンの対戦相手は決めた、槍の穂先で少年の二の腕をかすろうと。
 シャオロンは深呼吸をしてから腰をややかがめ、右手の爪を開いたの顔に向けて構え、左手の爪は相手の変化に対応できるよう床に向けて垂らしていた。会場からの野次など、まったく耳にいれていない。勝負に集中しているのだ。
「始め!」
 審判の開始の合図と同時に、両者は動いた。
 バンキグの戦士が槍を突き……
 その穂先を体をずらして避けたシャオロンが、爪をきらめかせ、対戦相手の左脇を駆け抜ける。
 衣服の切れ端が宙に舞う……
 バンキグ戦士は驚愕の表情に固まったまま肩越しに顔だけ振り返って、背後の少年を見つめた。
 すれちがいざまに左脇腹を切られたのだ。しかも、浅く。動いている人間の衣服と皮膚だけを浅く切った少年は、もう既に次の攻撃に移れる体勢を整えていた。目にもとまらぬ的確な攻撃、素晴らしい敏捷性……
 勇者の従者の少年は……その役目にふさわしい一流の戦士だったのだ。
「勝者、勇者の従者シャオロン殿!」
 うぉぉぉぉぉ! と、観客席の戦士達が声をあげる。不思議なものを見た! 彼らは面白い闘いを見せてくれて少年に、拍手を送った。
「動きは見事。なれど、未成熟なその体では満足に斧は振るえまい」
 試合場から下りながら、シャオロンは溜息をついた。耳元で聞こえる声は、今度は自分を評価してくれたようだ。
「ずいぶん、斧にこだわってらっしゃるんですね」
 相手に聞こえるかどうかわからなかったが、シベルア語で話しかけてみた。だが、しばし待ってみたもの、何の反応も返らなかった。
 予選第二試合は、ルゴラゾグス国王とフレイルの使い手の対戦だった。
 国王の登場に、観客席の戦士達は総立ちとなり、国王の御名を声をそろえて唱え、両腕を振り回した。凄まじい熱狂ぶりだ。位への尊敬だけではない。国王は国一番の戦士であるその技量も愛されているのだ。
 国王の対戦相手の武器のフレイルは、とがりのついた鉄球を鎖で結んだ棍棒だ。鉄球を振り回し距離を開こうと牽制する相手。変幻に動くそれの動きを見極め、距離を詰めねば戦斧は届かない。
 相手が浅く踏み込んだ時だった。
「だぁぁぁっ! うぉぉりゃあぁぁぁ!」
 奇声と共に国王は下段から斧を斜めに突き上げた。
 くるくると何かが宙を舞い、地響きを立てて床の盛り土に激突する。それは鉄球であった。鉄球と棍棒を繋いでいた鉄の鎖は半ばで切られ、対戦者の手には棍棒だけが残されていた。
 戦士達は口々に王の名を称えた。叩きつけて力任せに切ったのではない。ルゴラゾグス王は力のこもらない下段からの突き上げで、正確に鎖と鎖を結ぶ細い繋ぎ目だけを断ち切ったのである。始終動きが変化するフレイルの鎖を!
「惜しいかな……未熟」
 シャオロンの耳元の囁きはナーダの試合観戦後のものと変わらなかった。が、より残念そうな響きがあった。
「戦斧の名手の才をあたら腐らせるとわ」
「……国王陛下の技量は神技じゃないんですか?」
 シャオロンはシベルア語で尋ねた。が、相手にはその声が届いていないのだろう。耳元の声は質問に答える代わりに願い事を口にした。
「少年よ、次の勝負、わしに預けてはくれまいか?」
「え?」
「戦斧の技術は廃れ、見るも無残な力技しか世に伝わっておらぬ。あの王は恵まれた己が肉体と視力に頼っておるだけのこと。武器と使い手が一体となって初めて、武器が真に応えてくれる事を知らぬのだ」
「あなたは……どなたですか?」
「あの王に己が技量のいたらなさを教えてやりたい。あれが心を入れ替え己を鍛え上げれば、我が戦斧の後継者たりうるやもしれぬ。聖なる武器『狂戦士の牙』。我が慰霊塚に封印した愛武器を、わしは戦斧の名手に託したい。わしは二つの宿願を果たせぬまま命尽きた。二つの宿願を遂げねば、この地上を去れぬ。一つは『狂戦士の牙』の後継者を見出すこと。今ひとつは……我が最愛の人の無実を証明する事」
 最愛の人の無実を証明する……?
 愛武器は『狂戦士の牙』……?
 慰霊塚……?
「あなたは、もしや」
 シャオロンの声が震える。
「ゲラスゴーラグン様?」
 二代目勇者の従者、戦斧の名手ゲラスゴーラグン。その魂に出会う事をシャオロンはずっと願っていたのだ。ペリシャでシャダムの魂と触れ合ってからずっと……
「おお! 少年よ! 何とした事だ! そなたの心から懐かしき魂を感じる! そなた、何者だ!」
 シャオロンは名乗った。が、どうしても、自分の声は相手に届かない。姿の無い霊は戸惑っていた。
「シャダム? シャダムだな? ペリシャ教の英雄殿が今更わしに何の用だ? 死後も恋に惑う愚かな男よと、笑いに来たのか? きさまとの口論はもはや厭きた。わしは我が信念をもって、ユーリアを信じたのだ。己の武器と名と信仰する神にかけて我らは魔族と戦う事を誓い合った。その誓いを彼女が破るはずはない!」
「違うんです! シャダム様はゲラスゴーラグン様に真実をお伝えし、謝罪したいと……ユーリア様を信じなかった事とユーリア様を信じ続けたゲラスゴーラグン様を侮辱してしまった事を謝りたい一心で眠りより覚められたんです!」
 シャオロンは叫んだ。が、その叫びはゲラスゴーラグンには届かない。
「きさまの眼には淫蕩な罪深き女と映ったかもしれぬが、ユーリアは姿形ばかりではなく魂まで美しい女であった。しかし、きさまは表面しか見なかった! 確かに、幼き頃、家族を失った彼女は身を売って日々の糧を得ていた。魔法の師に出会うまで、彼女は苦界に身を置いていた。だが、売春は罪か? 身を売らねば、幼い子供は日々の食事にありつけなかったのだぞ! 王族のきさまに底辺で生きる者の苦しみがわかるものか!」
「聞いてください、ゲラスゴーラグン様!」
「きさまは彼女の過去を公とし、彼女を罪の女と嘲笑い、女魔法使いユーリアは魔に堕したと世に噂を広めた。見下げはてた男よ! 何故、友を信じぬ! 何故、誓いを信じぬ! 何がきさまの目をそれほど曇らせたのだ、シャダムよ……我らは共に戦う仲間であったはず」
 ゲラスゴーラグンは、嗚咽していた。北方の戦士はユーリアを信じ続けたのと同様に、シャダムをも友と慕い、その変心に心を痛めていたのだ。
 お二人を仲直りさせたい……
 そう願ったシャオロンから力が抜け落ちた。シャオロンという人格は心の奥深くに眠り……
 そして…… 
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