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◆BOYS LIFE◆
作:春蘭



第9話 食事の妨げ




 遥が琉衣に女とばれて、早5日。約束通り琉衣は誰にも話さなかったため、遥は平穏な日々を過ごしていた。
――ふふ、会長と二人だけの秘密♪
 そんな事を思い、思わずにやけてしまう顔を隠しもせず、頬を緩める遥。

「なーに、にやけてるんだよ」

 ぷに、と遥の頬を人指し指でさし、疾風は不審な瞳を向ける。その行為にハッとした遥。周りを見渡すと、そこはたくさんの生徒が賑わう食堂。両隣に座るクラスメイトに、自分の私用するテーブルに並べられたランチ。そう、今は食事中…。

「お前、意識が軽くトリップしてたぞ」
「どうしたのハル。なんか考えごと?」

 箸の止まった遥を見て、日向と疾風は首をかしげる。そんな二人にギクッとしつつも、なんでもない、と言っておいた。少し怪訝な表情をするが、ふーん、とながしてくれる。深入りしてこない優しさに、遥はまた頬を緩めてしまった。

「…だから、そのにやけ面やめろって」

 疾風は学食のカレーを口に運びながら、呆れた表情で言った。

「仕方ないじゃん。勝手ににやけ──」

 そんな疾風に、パックのリンゴジュースを掴んで遥が答えかけたとき、
――トン
 遥たちが使うテーブルに軽い音を出して置かれた手。三人はその手をしばらく見つめ、だんだんと視線を上にずらしていく。見えた、金髪。

「……東、条」

 そう呟いたのは遥。目の前の男は、置いた手はそのままに瞳を丸くする遥を見て不敵に笑う。
 よみがえる、数日前の記憶。

「──ッ!」

 無意識に身体が反応した遥は、その緑の瞳を睨んでバッと身構えた。その際に勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。響く騒音に、食堂にいた生徒たちは一斉に遥に目を向けた。

「ハル…?」

 様子のおかしい遥に、日向は立っている遥を心配気味に見上げる。だけど遥はかまっていられなかった。この不気味な雰囲気を釀す男に夢中になっていたから。

「今日はあいつはいないのか?」
「…あいつ?純のこと?」

 日向と疾風を一瞥する東条に、遥は警戒しながら純の名前を出した。
 上目使いで睨んでくる遥に、東条は瞳を細め、口角をつりあがらせる。

「そう警戒するな、俺はそんな気ない」

 遥の顎をくいっと掴み、視線を合わせる。やや乱暴な手つきに遥は眉をよせた。
 『そんな気』──。襲われかけたあの日を言っていると、遥は思った。

「よくそんな事、言え……ッ」

 気丈に言う遥。東条は全部聞き終える前に、顎を掴む手に力を入れる。その荒っぽさに、苦しげな声が出た。
――やだ、苦しい
 そう思うけれど、伝えられない。遥はもどかしさに苛々した。
 そんな彼女の気持ちも露知らず、東条は息がかかるくらい顔を近付けて、相変わらず何を考えているのか読めない瞳で遥を見つめる。
――見てる。翡翠色の二つの瞳が、こんなにも近くで。なんでだろ、そらせない。こんな奴、嫌いなのに…

「───や、だ」

 空いた手で突き飛ばせばいいのに、それができない。身体中をセメントで固められたように、遥は動けなかった。

「放せよ、東条」

 どれくらい、目を合わせてただろう。怒りを含んだその低い声に、遥の意識は戻された。

「……あ」

 なんともマヌケな声がもれる。

「表情が乱れてるぞ、日向」
「…聞こえなかったのか?放せよ」

 遥を引き寄せ、東条を睨む。こんなに威圧感がある日向を見たのは、遥にとって初めてだった。疾風は完全傍観者モード。

「まったく、ずいぶん大事にされてるんだな、お前」

 手を放し、いまいち焦点のあっていない遥に言い捨てる。言葉とは裏腹な笑みをうかべて。

「伝えたいことがあったが、言える状況じゃないな。今度会うときは二人で」
「なにを、言って」
「これ、もらって行くぞ」

 戸惑う遥をおかまいなしに、東条は遥のリンゴジュースを持って踵を返す。それを見て、あんな不良みたいな人にリンゴジュースは似合わないな、なんてくだらないことを思った。
 再びざわめき始める食堂。一通り事の成り行きを見ていた者も、みんな散っていった。

「大丈夫か、お二人さん」

 固まっている日向と遥にむかい、イタズラに笑う疾風。未だにカレーを食べている。心なしか、減ってないどころか増えた気さえするのだが、それはないだろう。遥たちが争っている間におかわりしてたなんて、有り得ない。きっと目の錯覚だ。

「東条久しぶりに見たなぁ〜。しかも遥と親しげだったし」

――親しいわけじゃないけどね

心の中で相槌をうつ。

「東条、停学中だったんじゃ…」

 スプーンをくわえる疾風にむかい、呟く日向。手はまだ遥の肩に触れてある。

「もうとけたらしいよ」
「停学してたのかあいつ?」

 首を傾け、背の高い日向を見上げて尋ねる。

「うん、色々やってね」

――色々って…。気になるけど、怖くて聞けない。
 風貌からして不健全だし、日向たちの会話からも東条がいい人だとは感じとれない遥。今度、なんて言われたけれど、もう顔もあわせたくなかった。遥は疲れた顔で、頭をかく。

「…ハル、東条となんかあったわけ?初対面じゃないでしょ?」

 伏し目がちに、遥に尋ねる日向。冗談じゃないその表情に、視線が泳いでしまう。
――言ったほうがいいのかな。でも、あんまり心配かけたくないし…
 顎に手をあて、考えるポーズ。困っている遥に、疾風が助け船を出した。

「そう責めるなよ来斗。人には言いたくない事あるさ」

 幼い見た目に似合わず、大人な意見をする。それを聞いて遥はホッとしたが、日向は口を尖らせ、納得のいかない表情をした。

「……わかったよ」

 しぶしぶそう呟いて遥から離れる日向は、自分が使っていた椅子に座った。遥は少し名残惜しそうに肩を撫でる。

「もっと信頼すればいいのに」
「え?」
「なんでもないよ」

 小声でこぼした言葉。遥には聞こえなかった。




まだ誰も気付かない











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