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◆BOYS LIFE◆
作:春蘭



第4話 人生最大のモテ期?




 普段から騒がしい2‐Aの教室は、いつにも増してざわついていた。ある一人の転入生の所為で。

「南高校から転入してきた石井遥くんだ。親の事情で此方に引っ越してきて、新しい寮生でもある。みんな、仲良くするように」

 黒板に遥の名前を書きながら、紹介する担任の教師。遥はおずおずと、お辞儀をした。
 周りからくる視線は、好奇好奇好奇。見事なまでに好奇の目だった。名門丸潰れなくらい、そのざわつきは小学生並だ。

「かーわいー♪」
「ちっちゃいなー」
「俺の隣空いてるよ〜」

 教室内を飛び交うセリフは、どれも男に言うには似合わないものばかり。からかっているのか、本気なのか。
 ――なんかモテモテ? そりゃあ、あんた等男よりは可愛いかもしれないけど……。
 複雑な心境になる遥。隣に立つ、わりと若くみえる教師を横目で見ると丁度目があった。

「あ、じゃあ石井君の席は……日向の隣で。ルームメイトだし、色々案内とかしてもらって」

 そう言って、担任の教師は日向に頼むぞ、と目で伝える。周りはえーとか、おーとか不満だか歓声だかよく分からない声をだした。
 ――日向、同じクラスだったんだ。
 慣れない環境に、少しだけ安心した。日向は笑顔で、遥にむかいヒラヒラと手をふる。遥はそれに、返事代わりに右手を小さく挙げた。

「じゃ、石井君。席着いて」
「はい」

 先生に言われ、窓際の後ろから二番目の日向の席、その隣に遥は歩いていく。教壇から席まで行く間も、転入生の遥を物珍しそうに見るクラスメイト達。その視線に少し緊張しながら、遥は自分の席に着いた。

「よろしくね、ハル」
「……ん」

 昨日と変わらない笑顔を向けてくる日向に、軽く会釈する。

「じゃあ授業始めるぞー」

 教師のその言葉を最後に、クラスは静かになった。







   #

 休み時間、そんなに転入生が珍しいのか、遥の席の周りにはたくさんの人が集まってきた。
 当たり前だが、左右前後どこもかしこも男だらけ。改めて男子校にきたのだと、思いしらされる。

「あぁーもう。あなた達寄りすぎ。ハルが困ってるでしょうが」

 質問責めされて混乱している遥に助け船を出すように、日向は周りの男を追い払う。
 皆、舌打ちしたり、不満を言いつつも、去っていった。遥がホッと一息ついたとき

「なんだよ来斗、可愛い転入生独り占めですかー?」

と、一人の男子がおちゃらけた声で日向に向かい言った。
 そんな言葉に、日向は『はぁ?』と顔を歪ませる。周りは更に追い討ちをかけるように冷やかし始めた。

「人をからかうのもいい加減にしなって!」

 そう叫んで、顔を赤くし怒る日向に、周りはドッと笑いをあげた。
 ――へぇー、なんかわりと人気者?
 多数のクラスメイトに囲まれている日向を見て、遥は小さく笑った。



 ようやく遥の周りも静かになり、今近くにいるのは、ルームメイトの日向と一人の少年だけ。

「俺、森 疾風はやてね。日向の中等部からのダチなんだ。よろしくー」

 少年はそう言って、手を差し伸ばした。猫目にとがった八重歯、幼さの残る顔立ちで、赤茶の髪をしていた。背は遥とあまり変わらず、他の男子に比べると小さい。

「…うん、よろしく」

 しばらく差し伸ばされた手をみつめていた遥だったが、ゆっくりと、だけどしっかり、疾風の手を握った。

 それからは色々なことを話した。疾風は明るく親しげで、遥はすぐに打ち解けた。いたずらに笑う仕草は、実際の年より幼く見える。

「へぇー! 遥は会長派なんだ」

 昨日の話題になったとき、疾風が白い八重歯を見せ、そう言った。

「会長派……?」

 遥はよく理解できず、答えを求めるみたいに日向を見る。首を傾げる遥に気付いた日向は、わざとらしく咳払いし、

「朱龍学園高等部は、常磐先輩、もとい会長と寮長が主に仕切っているんだ。人気も丁度二分されていて、会長を慕っている人のことを会長派、寮長を支持している人のことを寮長派って言うんだよ」

 と言った。
 ――じゃあ、私は会長派だな。あんな素敵な人、滅多にいないし♪
 だけどその理由の90%は、眼鏡フェチというもとだったりする。

「来斗は会長派だよなー?」
「寮長は苦手なんだ。常磐先輩のほうが話し易い」

 そういえば会長とやけに仲良かったな、と昨日のことを思い出した。
 会長とはあんな親しげだったのに、寮長とは少しよそよそしかった日向。誰にでもフレンドリーかと遥は思ったが、そうでもないらしい。

「疾風は……どっち派?」

 遥は疾風に聞いた。

「俺は寮長派! 確かに鬼の寮長と呼ばれるだけあっておっかないけど、頼りになるしかっこいいじゃん?」

 聞かれた疾風は、口の両端をキュッとあげて、楽しそうに言う。
 ――ただの恐い人だと思ったけど、案外憧れられてるんだ。
 疾風の表情を見て、遥はそう心の中で呟いた。
 人気を二分されてる…だから仲悪いのだろうか。昨日の寮長の荒げた声を思い出し、ふと気になった遥。
「…なんであんなに会長達仲悪いの?」

 疑問をそのまま口に出す。すると日向と疾風は、苦笑いしながら顔を見合わせた。

「あれは仲悪いっていうか、寮長が常磐先輩のことを嫌ってるって感じかな」
「会長はあまり気にしてないしね」
「じゃあ、なんでそんな嫌いなんだ?」

 あんなにいい人なのに、と心の中で付け足す。

「まぁ、双子は色々と複雑なのさ」

 ため息をつきながら、ねぇ?と疾風と目を会わせる日向に、遥はやや納得していない様子で、曖昧な返事を返した。


「……にしても、遥お前華奢だなぁ。声も高いし背は低いし、女みてぇ」

 遥の腕をくいっ、と掴み、まじまじと言う疾風。ドキッと跳ねる心臓を抑えながら、遥は

「き、気にしていること言うなよ。背だってわた、……俺と疾風たいして変わらないじゃんか」

 と、腕を振りほどき、できるだけ悟られないように言った。

「……ま、女顔の奴なんか時々いるしな。でも、気を付けろよ?可愛い顔してると、危ないからな」
「あ、危ない?」

 真面目な声で言う疾風に、嫌な予感のする遥。心なしか、額に冷や汗をかいている。

「もしかして、男子校ってホモとかいるの?」

 頬をひきつらせて、遥は隣にいる日向に聞いた。どうか予感が外れてますように、と祈りながら。

「なに言ってるのハル!!男子校っていっても彼女いる奴多いよ」
「そ、そっか」

 日向の言葉を聞いて、ホッとする遥。なにかあって、自分が女とバレたら堪らない。

「…ま、寮生の奴等は欲求不満で、下手したら間違いあるかもしれないけど……」
「えっ!?」

 やっぱり男子校は危険と感じた遥だった。




不安だなんて、今更言えない











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