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◆BOYS LIFE◆
作:春蘭



第19話 許されない踏み込み




 遥は迷っていた。目の前の疾風の寮室を睨んでは、ため息をついて背を向ける。かと思えば、扉の前でうろうろし、ノックしようと手をあてて。そして再びふりだしに戻る。どっからどう見たって、挙動不審だ。

「……よし!」

 しばらくそれを繰り返したのち、決意したようにドアノブに手をかけた。そして開こうとした瞬間

「はや──ぶっ!」

 いきなりドアが開く。節理に従い、遥の顔面に扉が叩きつけられた。

「あれ? 何やってんのお前」

 扉を開けた張本人疾風が、赤い鼻を擦っている遥を見て、不思議そうに問う。

「……水泳やってるように見えるか?」

 恨めしそうに睨み、そう答えた。



  # # # #

 その後部屋に入れてもらい、もてなしをされた遥(飲み物を出す程度だが)。
 ルームメイトの事を聞くと、出かけてる、と簡素な答えが返ってきた。

「んで、どうしたんだ?」

 正面に座り、コップの中の紅茶をすすりながら、疾風は遥に聞いた。彼の瞳は、なにか用があったんだろ? と尋ねている。
 遥はバツの悪そうな顔をし、煮えきらない生返事をした。それに疾風は『ん?』と、先を促す。

「実は……」

 結局悩んだ挙げ句、遥は口を開いた。つむがれる言葉は、昨夜のこと。そう、遥はそれを聞きに疾風のもとを訪れたのだ。

「喧嘩──ねぇ…」

 話を聞き終えた疾風は、小さく呟く。

「なんかすごい険悪なムードでさ。日向はなにも言ってくれないし」

 不貞腐れたかのように、口を尖らせる遥。
 ――まぁ、そりゃそうだろうな。来斗が話すわけないし。
 心の中で相槌をうつ。

「疾風ならなんか知ってるだろ? 中等部から一緒なんだし」

 ずい、と身を乗り出して、疾風に迫る。

「あまり他人の深いところを探るもんじゃないぜ?」
「探るって……ただ気になるから」
「だったら尚更。興味本意程度の気持ちなら止めとけ」

 疾風はそっけなく言い放ち、コップを傾け中身を飲み干した。苦い、と文句をもらして、眉根を寄せる遥を一瞥する。

「疾風……冷たい」

 幾分か低い声でこぼし、不機嫌な表情をする。そんな遥を見て疾風は面倒そうにため息を吐き、それがまた遥を苛立たせた。

「そんなこと言われたってさぁ。俺がお前に話したって知ったら、日向と東条、二人に俺怒られるし」
「怒られればいいじゃん」

 ケロリと返す遥に、疾風はお前なぁ…と、またため息をつく。

「簡単に言うけど、結構きついんだぞ? だって来斗、キレると殴るんだもん」
「……日向が?」

 パチリ、と音がするくらい、まばたきをする遥。

「衝動的になー。普段穏やかだから、反動がすごい」
「……」

 ――確かに、昨晩は別人のようだったけど。
 やっぱり想像できない、と声には出さず呟く。

「それに比べ、タケもやだ」
「タケ…ああ、東条ね」

 名前で呼んでたっけ? と疑問に思ったが、遥は体して気にとめない。

「あいつは口きかなくなる」
「……なんかどっちも子供」

 小学生じゃあるまいし、と付け足す。

「だから、余計なことに首突っ込むな」

 わかったな、と念をおすように、びしっと指さす疾風。遥はうっ、と言葉を詰まらせるが、表情は納得していない。第一、あんな場面見せられて気にするなというのは無理がある。
 明らかになにか知ってる疾風。なのに教えてくれない。遥は堪らなく苛々した。情緒不安定なのかもしれない。

「俺、そんなに物分かり良くない」

 疾風が眉をひそめる。だけど、遥は続けた。

「ちゃんと納得させてよ」
「…………」

 暫しの間黙っていた疾風だったが、観念したように肩をすくめた。遥はパッと瞳を輝かせる。

「俺が話したって言うなよ?」
「言わない! 口が裂けても言わない!」

 こくこくと頷く遥に、疾風は一息ついて口を開いた。

「中等部の頃、来斗と俺とタケはいつもつるんでた。当時寮生だったのは俺だけだったんだけど、あまり関係なかったな。しょっちゅう部屋に呼んでたし。まぁ、そのくらい仲良かったんだ」

 だけど、と言葉を遮る。遥はなに? と目で訴えた。

「急に、壊れた。タケも、豹変したし」

 疾風は瞼を伏せながら、一言一言噛み締めるように話す。

「……なんで」

 大きな黒曜石の瞳で真っ直ぐに見つめる。疾風は気まずさに視線をはずし、赤茶の髪をかきあげた。

「実は、中三の時──」

 そう言った疾風の声は、ガシャン! と響いた騒音に掻き消される。
 ――え……?
 二人は驚いて振り向く。

「そういうことは、俺達に直接聞いたらどうだ?」

 そこに立っていたのは、一度見たら忘れない程インパクトのある容姿の持ち主だった。
 疾風が『ゲッ』と濁った声をこぼす。

「聞いたところで、あいつははぐらかすだろうけどな」

 あいつ──。
 それが自分のルームメイトを指している事と遥はわかった。

「タケ、お前ノックぐらいしろよなー」

 脱力して腕を床につく疾風。そんな疾風の言葉には耳を貸さず、東条は横にいる彼女に話しかける。

「遥」
「……なに?」

 嫌そうに顔を歪ませる遥に、東条は人相悪く微笑む。

「あの後来斗に聞いただろ?当然教えてくれなかったはずだ」
「だったらなに?」

 苛々し、遥は不機嫌に語尾をきつくさせた。

「おい、お前等俺を無視するな」

 しかし、二人の視界に疾風は入らない。

「教えるはずがない。お前は無関係だからな。それにあいつはいつまでも過去を引きずってる」
「…意味が判らない」
「あのさ、ここ俺の部屋なんだけど。シカトとかマジきついから」

 東条は壁に背をあずけ、翠の瞳を細める。嘲笑うかのように鼻を鳴らし、こう言った。

「知りたいなら、俺に聞け。なんでも教えてやる」

 その言葉に遥はきゅっ、と口を引き結ぶ。溜った唾を喉に流しこんだ。

「あと疾風」
「!! なに!?」

 やっと話をふられ、瞳を輝かせ食い付く疾風。

「お前も、余計なことするな」

 たった一言告げて、彼は踵を返した。疾風のキラキラと輝かいていた目から、ふっと光が消える。

「……引きずってるのは、お前のほうじゃないか」

 言われた者は既に消えていた。遥はなんとも言えない表情をし、疾風は切なく瞳を細める。なにしに来たんだ、とため息をつきながら。
 遥は疾風のその言葉に呟く。

「東条、寮生になったって」
「ふーん……ってえっ!?」

 疾風はバッ、と勢いよく遥を見る。だけど、遥は彼が閉めたドアを見つめ、こうもらすのであった。

「寮長の話ってこれ……?」

 疾風は首をかしげた。




所詮は他人。踏み込んでいい範囲なんて、本当にわずか











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