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◆BOYS LIFE◆
作:春蘭



第14話 203号室でキミとボク





 最後に話したのはいつだったかなとか、あれから誰かに手出しされてないかなとか、やっぱり常磐先輩のこと慕ってるんだとか。
 いつだって頭を占めているのは、キミ。

「──バカだな、俺」

 ため息と共に、こぼれた言葉。返事なんて期待してなかったのに、なにが、という声が前から聞こえてきた。

「……疾風」

 顔をあげたら、目があった。
 存在を忘れていたと言ったらかなり失礼なんだろうけど、彼に気付かない程考えこんでいたのも事実。
 そんな自分に呆れて、再びため息がこぼれる。

「なにシケた面してんだよ。まだ仲直りしてねぇの?」

 そう言ってくる疾風。俺は自分の隣の席を見る。どこに行ったのか、ハルは座っていなかった。
 ふと前を見ると、疾風もつられるようにハルの席を見つめてる。時々、俺の方向に向けた椅子をガタガタと鳴らしながら。

「気まずくて教室出てっちゃったのかね」

 椅子の背もたれに腕をだらりとたらして、上目に見上げてくる。
 疾風って、結構核心ついてくるんだよね。

「……謝らねぇの?」
「話しかけたら逃げられそうで」

 怖い、と喉まで出かけたところで止めた。いくらなんでも女々しすぎる。

「ま、頑張れよ。俺はお前が男の遥を好きでも構わないから。寧ろ応援するぜ♪」

 ニカッと笑い、親指をたてる疾風。なんでそんな無駄に爽やかなんだ。

「疾風さ、なんか誤解してない?」

 ――俺、ハルを好きなんて言った覚えないんだけど。

「隠すなって。照れることじゃないだろ。軽くひくけど」
「いや、だから……」
「今夜にでも謝れ。そしてそれとなく雰囲気でググッと!結構ひくけど」
「ちょっと、疾風」
「ファイトだ来斗っ!かなりひくけど」

 ……もういいや。






  #

 ……気まずい。大して広くない寮室に、ルームメイトと二人きり。
 距離は当然、会話も全くない。小さな窓を見つめると、ガラス越しに満月が見えた。

「…電気消すよ」

 ハルにそう言われて、俺は傍に置いた携帯を見る。画面に映る数字は、深まる夜を示していた。
 ハルは俺の返事を聞かず、チラリと一瞥して明かりを消す。
 途端に暗くなる室内。ハルが寝台につくのが雰囲気で分かった。スプリングの軋む音が、静寂に響く。

「ハル……」

 自分でも聞こえない程の声で、俺に背を向け眠る彼を呼ぶ。
 反応、なし。

「ハル」

 今度はもう少し強めに。
 ハルの身体が小さく揺れた気がした。まだ起きてるみたい。

「こっち見なくていいから、相槌もいらないから、……黙って聞いて」

 暗闇に、だんだんと慣れてくる目。小さな窓から入る月光が、儚く揺れる。

「……あのさ、何から謝ればいいのか、よく分からないんだけど」
「……」

 しどろもどろに、上手く言葉がでない。緊張のせいか、手汗までかいてきた。
 ――うわ、何これ。俺こんなキャラだっけ。
 渇いた喉を潤すように、ゴクリと生唾を飲み込む。

「やっぱり、このままじゃ嫌なんだ。すごい気まずいし、なんていうか……」

 こういう時にかぎって、口下手で。
 ああもう、いつもはサラサラ上手い言葉が出てくるのに。

「──俺が、辛いんだ」

 噛み締めるように、ゆっくりと言った。
 ぴくりと反応したハルが、布団を矧いで上体を起こす。やや桃色に染まったその顔で、俺を真っ直ぐ見つめてきた。

「……ハル」

 満月の光に照らされたハルはやけに綺麗で、不覚にも同性ということを忘れてみとれてしまう。
 暗い室内に、ぼんやりと浮き出る絹の肌。
 光沢のある漆黒の髪。
 大きな瞳はまばたきすらも忘れたように見開いていて。

「ハル」

 そう呼んで、ベッドにいるハルに近付く。彼はハッとしたように、睫毛を震わせた。

「こんな謝罪じゃ、ダメかな?」

 自分でも驚くくらい、情けない声だった。ハルはふるふると首を振る。

「仲直り──する?」
「ん……」

 うつ向きながら、蚊の鳴くような声で。

 そんな彼がいじらしくて、可愛いなんて思った俺は結構危ないのかもしれない。




友情の次に何があるかなんて、知ろうとは思わなかった











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