―――俺の通う星涼学園にはありきたりなジンクスがある。
それは……
学園の裏にある木の下で告白するとどんな男女でも成功するよ♪
といったもので、全く信憑性のないものだ。
「僕は信じないなぁ〜」
「いーや、俺は信じる!! 断固信じる!! 誰が何と言おうと信じるぞー!!」
「紅間は信じねーのかヨ?」
「俺は、あんまりな。やっぱり思いが強よけりゃそれでいいと思うぜ?」
「よし! そんなら俺はマドンナにコクる!!」
「マジで!?」
「マドンナって、あの雲雀春菜ちゃんダろ? ムリムリ、ヤメとけっテー」
こんな他愛のない話で今日も盛り上がっている
マドンナ、か……
俺はこいつらと一緒にはされたくないが、雲雀春菜の事を本気で好きだ。
確かに、雲雀は雲の上の雀……もとい雲の上の人のような存在だが……
「もう冬休みに入るよナ〜」
「冬休み、マドンナと過ごしたいよなぁ……マドンナと二人きりでクリスマスデート……じゅる。」
「おい! 僕のマドンナを汚すな!」
学校でそんな会話をした帰り道
冬休み……恋人……告白……
確かに時期的にそんな時期だ。
俺は他の奴らには言いたくないが例のジンクスを結構信じている。
実際、うまくいった奴らも結構いる。
……よし、電話して誘うか!
でもどうする?
呼び出すにしても、いきなりは迷惑になってしまう。
きっかけ……
何かきっかけが必要だ。
むー……
なんて考えながら歩いてるうちに『夕凪公園』に来ていた。
「あー! 紅間君じゃない? おーい、紅間くーん!」
噂をすればなんとやら……
いや、噂してないけど。
声の主はマドンナ
雲雀春菜本人だった。
……よし! 今あったのも何かの縁だ!!
「あ……あのさ、雲雀……」
「なぁに? 紅間君。」
「俺……さ……その……付き合ってください!!」
ドキドキドキ……
心臓がうるさすぎる、雲雀にもきこえているんじゃないだろうか…?
「……ぃよ……」
え?
「あたしも、紅間君のこと、好きです…」
顔を赤くしながら俯いて彼女はそう答えた。
「………」
「………」
続く沈黙……
「あのさ、せっかくだから名前で呼んでいい?」
「……うん。」
「よろしくね、秋くん!」
「よろしく、春菜。」
なんだか、夢みたいだった。
◆
──そこからの俺の人生はまさに天国のようだった。
あれから五ヶ月、まず周りのみんなからはできすぎた彼女だ! とか俺のたった一人のマドンナを奪うな! だとか好き勝手いってきたがこればっかりはしょうがない。なぜか彼女は俺の告白に了解したのだから。そう物思いにふけながら時計を見る
そろそろか……
よくある駅の時計台前、ここに来て何回時計を見ただろうか、ようやく時計の長針は真上を指し予定の時刻朝十時ジャストとなった
「秋く〜ん! おっはよ!」
そう言いながら元気よく走ってくる春菜、今はもうれっきとした俺の彼女だ
「ごめんね! ほんとは三十分前には着いてるてはずだったんだけど……」
「いいよいいよ、大体その理由はわかるから」
少しはねた寝癖に口の横のジャムを見れば大抵の人ならわかる
寝過ごした、と
まぁ、それでも時間通りには来ているので俺が怒るポイントはない
ないはずなのだが……
「でもあれだな、俺はちゃんと十分前に来たのにお前ってやつは……」
と、ちょっとからかってみた
「うー……、だって今日デートだと思ったら眠れなかったんだもん」
「それで今日遅刻してたら意味ないだろ、バーカ」
そういって春菜の頭を軽く小突いてやる
「あぅ! も〜、ひどいよ秋く〜ん」
俺の片腕をがっちりキープしながらの非難
「まったく、口の横にジャムなんかつけやがって」
「っえ」
片腕をキープしているのをいいことにペロッと一発してやった。後で後悔するかもしれないが、こういうのはやったもん勝ちである
「………ありがと」
春菜はびっくりした表情から瞬時に頬を赤らめ俺にそう言った。一瞬心臓が跳ね上がり顔が相当熱くなるのを感じる
恋人っていいな
そう感じた瞬間だった
◆
―――だけど、今という幸せは、無惨にも一瞬にして砕け散ってしまう。
そう、彼女は僕の目の前で
ただの抜け殻になってしまった。
「可哀相にねぇ……」
「自転車に引かれたらしいわよ……」
「記憶喪失だなんて……」
キオクソウシツ―――
そうだ、あの日、あの帰り道……
幸せだった時間をたった一台の自転車によって
壊された。
―――――
「………ありがと」
「ったく、ドジなんだからよ〜っ! 顔にジャムなんかくっつけやがって!」
「……あれあれ〜? 秋君ったら顔を赤くしてどうしたのかな〜?」
「いっ、いや……か、可愛いなぁ〜って……」
「………バカ、わかってる…」
周りから見たらまさにバカップルだったろうが、実際にそうだからしょうがない。
まさにその時だった。
キキ―――――!!
「キャァッ!!」
「春菜っ!!」
前から猛スピードで自転車が突っ込んで来た
ゴンッ!!
「あいたっ!!」
春菜は間一髪で避けた
けど、その拍子に壁に頭をぶつけてしまった
「春菜、大丈夫か?」
「……?」
「どうした? 春菜?」
――アナタ、ダレ?――
全身に衝撃が走った
◆
──彼女は記憶を失ってしまった
この事実は避けようもなく俺の人生を天国から地獄につき落とした。来る日も来る日も病院にかよい、春菜の様子を見る秋
「………」
一言も話さず空ばかり見ている春菜。季節は冬、窓からの景色は重厚な灰色の雲でうめ尽くされている
「おはよう春菜、今日も寒いなぁ」
「………」
「そういや今日学校でな、邑楽先生に怒られちゃったよ。いつもいつもふぬけた顔をするなー! ってね」
「………」
「それでなぁ春菜、そこから俺はこう言ってやったんだ……」
「………」
春菜はこちらを見ようともせず窓の向こうを見つめるばかり、病室は秋の声のみ響いている
「じゃあな春菜、また来るよ……」
そう言い扉を閉める秋
「……なんで、なんで春菜ばっかりこんなめに……」
秋はドアノブを握りしめながら一人泣き崩れるのだった……
それから四ヶ月後
春めいて色鮮やかな桜が舞い、雲雀が鮮やかにまう季節。俺は結局学問に集中できずもう一度高校二年生をしていた
「ふぁ〜」
相変わらず力が出ない。しかし彼には今日行かなくてはならない場所があった
それは、夕凪公園
春菜に告白してから早一年、一度そこに行き自分に何か区切りをつけよう、そう思って放課後真っ先にそこに行く
「……はは、懐かしいな」
春菜をここで見つけ、決意した自分、告白する時のあの何とも言えないプレッシャー、返事をもらえたときのあの喜び、そのどれをとっても今はただただ虚しいだけである
「はぁ……、こんなに俺が涙もろいとは知らなかった」
あんなに涙を流したのにまだ涙が顔を伝う
秋は今までの思いでで胸がいっぱいになってしまった。そして、もうあんな思いはできないのかと心のどこかで思ってしまった
これは、そういう涙
「くそっ、くそっ、くそ!」
そしてついに秋は思う、思ってしまう
こんな思いをするなら、つき合わなければ良かった、と……
そうして長い間熟考し、ある考えにいきついた
「そうだ、今ここで全てを無かったことにしてしまおう」
そうだ、全てが始まったここなら全てを無かったことにできるはず。そんな考えが秋を取り巻く
「そう、春菜に俺は告白などしていない。そうだ、告白なんてしていないんだ」
そう、全てはなかったことに
「っくそ! 涙なんかでるな! なんで! なんでこんな……」
涙、鼻水、そして嗚咽、その全てを吐ききった頃にはもう日が暮れかけていた
「ふぅ……」
顔は腫れ、目は充血し、胃は気持ち悪かったが、最後に一回、春菜に別れの言葉を言いに行こう
「春菜、俺と別れてくれ」
この言葉、まさか俺の口からでるとは思わなかったな……
そう思いながら夕凪公園を出ていこうとすると
「嫌です」
と、何日も、何ヶ月も、何年も待っていたような声が後ろから聞こえてきた。秋はそれにおそるおそる振り返る
「ぜっっっったい秋くんは他の人になんか渡しません!」
走ってきたのかやや肌は汗ばんでいたが言葉の一言一言は実にはっきりと喋っている春菜
「もし一回別れたいって言うんだったら、私は何度でもあなたに告白します! 私は、私は……」
春菜が全てを言い終わる前に、秋はその思いに耐えきれず春菜をその手に抱く
「……バーカ、春菜と別れようと思ったことなんて春菜のその間抜け面をみたら記憶喪失しちまった」
三度吹き出る涙、今手に抱いている確かな温もりを彩るために、これまでの様々な思いを吹き飛ばすために流れる
これは、そういう涙
夕焼けが夕凪公園を染める頃、秋と春菜は初めてキスをした |