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ペルフェクションデキャンタ〜前世ホスト狂いが勘違いされる話〜 作者:ヨグ
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第十六話

「あー疲れた」

そう考えながら、帰宅までの道のりをブラブラと歩く。 雑踏の中に足を踏み入れながら、右へ左へと人を避けて先へと進んでいく。本来なら今日はFAKEに行く日だったけど、あんな事があったら気まずくて行けない……。

溜息をつきつつ、そのまま歩みを進める。すると、人ゴミの中に見慣れた人物を見かけて思わず声が出た。

「あっ」
「あ?」

リョウだ。一人だけ頭が飛び出てくる位の長身だから直ぐ分かった。咄嗟に、時計をみる。午後7時45分。え″、開店時間過ぎてるじゃん。あ、というか今日は休みなの?

じっと顔を見すぎてたらしい。リョウが心地悪そうに身動ぎをした。

「えっと、ごめん。つい、今日はお店ないのかなって思って。だって、もう出勤の時間でしょ」
「あぁ。遅刻したんだよ」
「そうだったんだ。全然、急いでいる様子なかったし、今日てっきり休みなのかと思った」
「急いでどうなる訳でもねぇだろ」
「ま、それもそうだね」

この間の事を全然触れないでくれて、本当に良かった。気まずさを全く感じさせない会話で少し自分の気持ちが和らいだのを感じる。

「都。この後、暇か?」
「えっ、別に真っ直ぐ帰るだけだけど……」
「そうか、なら。同伴しろ」
「ど、同伴……」

いいの? リョウを指名している訳じゃないのにそんな事しても。同伴は2000円位支払いをすることで、店の外でホストと少し過ごしてからお店に行く事が出来る。大体、ご飯行ったりカラオケとかが多いかな。

「深刻に考えんな。俺とバーで少し過ごして店に行くだけだ」
「う、うん……」

そうして、私はリョウと同伴をすることになった。久しぶりの同伴に緊張してしまったからかもしれない。私は段差に足元をもつれさせて転んでしまったのだ。

「痛っ」
「おい」

心配してくれているので、直ぐ立たないとと思ったものの、焦ってしまうと逆に難しい。もたついてしまう。そんな様子を見かねたらしい。リョウがこちらに向けて無言で背を向けて屈んでいる。背負ってくれるって事?

恐る恐る。近づいてその背に乗ると力強く腕が回された。そのまま背負われる。視点が急に高くなった。

「リョウの背中大きいね。それもあったかい」
「呑気だな。そんなことより足は痛むか?」
「足を付けないと痛みはないから大丈夫」
「そうか……同伴はまた今度だ」

うううう。申し訳ない。せっかく誘ってくれたのに。そう考えていたのだけれど、リョウの背の居心地の良さにあったかい気持ちになる。そのまま頬をペタリとくっつけながら無言で過ごす。

前世。そんなことがあったなぁ。昔、私が交通事故で死ぬ前、といっても子供の頃だけど大切だった父親に同じように背負って貰ったことがあった。そうだ。世界が繋がっているなら会いに行けるかもしれない。

けど、田舎から都会へ行った娘。
一度も帰郷せず、たまの連絡はお金に困った無心の話ばっかりな娘。
そして最後はボロボロになって悲惨な事故で死んだ娘。
親孝行なんて一度も出来ない愚かな娘だったけど、許されるなら会ってみたい。

例え死んでいたとしてもお墓に手を合わせたい。今まで勇気がなくて現実を見れなくて、目を逸らしてばっかりだったけど、少しは前に進みたい。

「足が治ったら行こうかな……」
「あ? どこにだ」

リョウの足がピタリと止まった。まさかリョウが反応するとは思わなくって、硬直してしまう。私が黙り込んでいると、同じく無言で話すのを待っている。

「えーっと、ちょっと知り合いの人の所に行こうかなって」
「何のだ?」
「何のって……その……○○県の所で一方的に知っている人で、思い出深い人達。会ってどうするって訳じゃないんだけど、顔だけでもって思って」
「なら、俺も行く」
「え」
「俺も行く」

いや、聞き取れなかった訳じゃないけど、それ本気? けど、リョウはどうやら本気みたいで、バイクは乗れるかどうかを尋ねてくる。リョウってバイク乗れるんだ。じゃなくって、いいの?

「いいから聞いているんだろ、馬鹿」
「う、うん。じゃあ、この日でどうかな」
「分かった。休みは取っておく。ただ、店の連中には言うなよ。うるせぇ」

こうして数日後、リョウと前世の実家を訪ねることになったのだった。

◇◆◆◇

結果から言おう。実家の民宿はそのまま残っていた。そこで年老いた母と再会出来たのだ。父はすでに死去。危篤状態の際には私の名前を連呼していたらしい。母とは直ぐに意気投合した。

単純に旅行しに来て民宿に泊まりにきたカップルと勘違いされてしまったけど、今回はそのまま誤解されて貰おうと思う。そして聞いた昔話で私に対する気持ちを知った。―――こんな娘でも愛してくれていたってことを。

最後の会話で「勘当だ! 縁を切る!!」って言われていたから愛されていないと思ってた。

あと、前世の娘が私にそっくりだって言うけど全然違うと思うんですけど。でも、顔が幾ら違うって言っても似通っているところを見つけてくれたことは素直に嬉しかった。これって親バカなのかな?

どちらにせよ、私らしさに気づいてくれているってことだよね。嬉しいな。そのまま今まで離れていた時間を産めるかの如く、ずっと会話を続けて楽しんだ。

詳しくは知らないけど、リョウは母親が居ないっぽい。今回のプチ旅行で「母親か……」って感慨深く呟いていたから、何か思う所があったのかもしれない。それにしても、私に対して何も聞いてこないリョウはやっぱり優しいと思う。

ちなみにリョウとは同室だった。部屋に行って緊張して固まった私だったけど、リョウが「今は何もしねぇから、安心しとけ」と言ってくれたからその言葉を信じることにする。

結局、ドキドキして余り寝られなかったけど、リョウはどうだったんだろう。今はってどういう意味なんだろう。色々考えながらも次の日を迎えることとなった。
 
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