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ご近所トラブル@殺人鬼 作者:omg
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8/10

8話

鉄骨が組まれている。建設途中なのだろう。だが昼間とは違い今は夜だ。人の姿は見えないが、そこには都会の喧騒の代わりに、短くぶつかる金属音が響いていた。影は全部で3つ。2つは動いているが、1つは地べたに転がっている。

「ハァ.......ハァ........ったく、どこが素人よ。化け物じゃない」
リサは肩で息をしながらもここには居ない人間に向けて悪態をつく。よく見てみると、その姿は満身創痍だ。辛うじて刀を握っているような。視界もハッキリしない。

「................」
対するもう一つはマスクに眼鏡。フードを深く被っており、その全貌は見えずらい。だが、その眼鏡からは確かに鋭い眼光を感じた。

「.............」
チラリと足元に転がる死体に目をやる。その顔は苦悶にもがいているような表情。

 リサは今日も今日とて殺人事件を追っていた。別に正義感からでは無かったかもしれない。ただやらなくてはと、そう思っていた。そんな時だ。帰宅途中の男性の後を付ける一人のいかにも怪しい恰好をした人間を見つける。常人ではない動きを見てすぐに察した。あれは私と同じモノだと。そう思い、追跡したが時すでに遅く、角を曲がった瞬間、男性はすでに殺されていた。殺された男性の傍に立ち尽くすフード男。それを見て、すぐに捕まえようと跳びかかったが、リサはこの時、自分の勘が如何に鈍っているかを思い知った。そして今も思い知り続けている。

「アンタ、何で殺しなんてやってるわけ?」
「この人は別に親の仇でも何でもないんでしょ?」

「...............」

「...........お喋りは嫌いかしら」

「...........」

「そ。..........なんか調子狂うわ」

「.............」

「ッ..........無視されるのってムカつく」
頭が痛くなってきた。気分的な問題では無く、血を流し過ぎたのだ。あるいは頭を強く打ったのが原因かもしれない。だが、男も右足を庇っているような素振りを見せている。そう感じたリサは、もう少し頑張ってみようと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 舞台は変わり、ただいま最寄りの診療所。リサは処置を受けている。だが処置が少し荒っぽく、思わず眉間に皺が寄る。
「ッ........痛ッ...........」
額から血を流し、右腕からも大量に血が流れている。お気に入りのジーパンは左足の膝から下が切れていた。そこからも痛々しい傷が覗いた。よく見ると、左手の中指が見当たらない。

「我慢しなさい。大人でしょ?」
そんな満身創痍なリサを、白衣を着た女性が手当てしている。その女性はぼさぼさの黒髪に、明らかに寝不足な隈が入った目をしぱしぱさせながら、躊躇なくリサの傷跡に次々と針を刺し、縫合していった。

「痛いものは痛いの!アンタも医者なら患者の苦しみを少しは理解してくれない?」

「文句があるならもっと大きい病院に行きなさいよ」

「私がここに来るわけは知ってるでしょ?」
リサが今治療を受けているのは、行きつけの診療所だ。場所は「けんこう」に近く、また彼女を治療する医者もリサの知り合いなのだ。リサがは”こういう”怪我をした場合はここに来る。一般の病院では、いろいろな手続きがあるため厄介なのだ。

この医者の名前は佳子よしこ。以前は大学病院に務めるエリートだったのだが、今では町のお医者さんとなっている。原因は院長のセクハラを受けた事である。厳密に言えば、その院長の顔面に右膝をぶち当てた事で、大事にしたくなかった病院が、佳子の自主退職と多額の口止め料という形で事を収めたというところだ。

「はぁ..........もう最悪よ。中指もどっか行っちゃったし........」
リサは縫合に顔をしかめながら、欠損した中指の先端を眺めた。

「ポケットは?」

「あるわけないでしょ..............」
「............あったわ。そう言えば、ここに入れたんだったっけ」
ため息をつきながらポケットを探ると、綺麗に切断された中指が出て来た。

「...........冗談だったのに、まさかあるとはね」
佳子はその指を受け取ると、ゴミ箱に投げ捨てた。

「ちょ、ちょっと!何やってんの!?」

「あんな風にポッケに入れられてた指を繋げられるわけないでしょうが」

「じゃあ、どうすんのよ!」

「こうするのよ」
佳子はリサの手を取ると、切断面に触れる。すると切断されたはずの中指がニョキッと生えてきた。

「うえ」
リサは気味悪がりながらも、生えてきた指を動くかどうか確かめるのと同時に、興味深く見つめた。
「話には聞いてたけど、実際見ると気持ち悪いわね、これ」

「そりゃ、そうね」
彼女は気にせず、縫合を続ける。

 これは彼女の非凡な部分の一つだ。彼女は触れた部分の細胞を活性化させ、再生させる事が出来る。それも現実的では無い範囲まで可能なのだ。例えば、苗に触れるとそれはたちまち大木になる。

ならば、なぜこのように傷の縫合をしているのか。答えは簡単だ。リスクが大きいからである。先ほどの苗の例で説明するならば、苗はたちまち大木になるのだ。大木になり、そして枯れる。普通なら有り得ない成長をしたせいで細胞が耐えきれず、枯れるのだ。これを人体でやると、どうなるのか。試した事が一度だけあるそうだ。どうなったかは固く口を閉ざしていた。どうやら彼女の能力は普通の人間にはしない方が良いらしい。リサなどの超人を除いて。それでもこれはなるべく控えた方が無難なのだと、彼女は言った。

彼女は一部の人間以外に対して、この能力を秘密にしている。その理由についても、彼女が口を開く事は無かった。


「先生、早く見てくれねえか?痛えんだが」
突然、診察室のドアが開かれ、スキンヘッドでサングラスをかけた、いかにも柄の悪そうな男が顔を覗かせた。額には汗を垂らし、痛みに顔を歪ませている。

佳子のセクハラ事件の事でこの診療所は日本の医学界隈で煙たがられており、陸の孤島と化している。それが関係しているのか、彼女の事無かれ主義、正義感とは無縁の人柄から、こうしたワケアリの人間が頻繁に集まる。彼女は患者が例え、銃で撃たれていようが、何だろうが、通報もしない。決して良くは無いのだが、リサは彼女のこうした部分に助けられている。

「見てわかるでしょ。今治療中なの」

「見てくれよ。足をナイフで刺されちまってさ」
デカい声と態度で診察室にズカズカと入ってきた。その足は引きずられている。

「うるさいわね!私が見えないの?全身ボロボロよ」
「腕は取れかかったし、指なんて取れたわ」

「............姉ちゃん、一体どうしたんだ?ダンプカーにでも轢かれたのか?」

「なんでダンプカー?.............そうね。そう言えばなんでこんな大怪我を?」
佳子は縫合を続けながらも、疑問を口にする。リサは突然、全身血だらけの状態で、この診療所に転がり込んで来たのだ。彼女は何やら面倒くさそうだったので、訳も聞かずに治療を始めたのだが、今になって気になり始めた。

「............喧嘩よ。喧嘩。ちょっとやり過ぎちゃっただけ」
リサは分かりやすく顔を背けた。

「.........ふーん。まあいいわ」
言いたくない理由を察した佳子は、それ以上聞かなかった。

「んだよ、教えてくんねえのか」
「俺はよぉ、今そこの道歩いてたら..........」
スキンヘッドは唐突に自分の話を始めた。

「いや、聞いてないから」

「ほら、ちゃんと治療するから、あっち行ってて」

「わーったよ。ったく、最近の女の子は冷てえなぁ」
スキンヘッドは文句を言いながらも、診察室を出て行く。刺された足からは血が垂れているが、大丈夫なのだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それで?どうしてこうなったの?」
縫合も終盤を迎える頃、佳子はもう一度聞いた。この診察室には今二人しかいないので、先ほどとは違い、リサも口を開く。

「最近話題の殺人鬼、知ってるでしょ?」

「............ええ。知ってる」

「見つけたの。一時間程前よ」

「で、喧嘩になったってわけ?」

「喧嘩なんてもんじゃないわ。ガチ殺し合いよ」

「でしょうね。この有り様じゃ」
「それにしても、貴方をここまでやるなんて、相当やり手だったのかしら」

「まあね。殺し屋の友達が素人なんて言ってたから、油断したわ」
「でも私も負けてないから。右足の骨をバキバキに砕いてやったわよ」

「物騒ね」

「佳子も気を付けなさいよ」

「...............はい。終わったわ。1週間後また来なさい」
「それと、いくら頑丈だからって無茶しないこと。治す身にもなって」

「はいはい。感謝してますよ」
「じゃ、いつも通り振り込んでおくから」

「はーい。よろしくー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スキンヘッドの治療も終わり、一段落しようとコーヒーを入れる。カップ片手に動画サイトを見ていると、診察室のドアがノックされる。

「..........今日はやけに患者が多いわね」
「申訳ないけど、今日はもう終わりよ。帰って頂戴」
少し声を張り上げて、ドアの向こう側に居る人物に言う。すると返答が返って来た。

「いや、急患なんだよー。開けて頂戴なー」
男の声だ。しかも声の主を佳子は知っている。

「............」
重い腰を上げ、頭をポリポリと掻きながら、ドアを開ける。

そこには、パーカーのフードを被り、マスクに丸メガネという不審者が立っていた。
更に異様だったのは、その男は満身創痍だった事だ。

「あ、佳子。悪いけど治療を頼むよ。ちょっと喧嘩しちゃってさー」
男はヘラヘラとしているが、右足を引きずっていた。

「..............やっぱり」

「?」

「まあいいわ。入りなさい。右足折れてるんでしょ?」

「おー。よく分かったねー。いやぁ、変な女に絡まれてさー」

「............はぁ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


右足の複雑骨折。他にも数か所。裂傷に、打撲。リサに負けず劣らずボロボロだ。

「それにしても、あの女、やばかったー」
「めちゃつよだったわ」
表情は分からないが、恐らく笑っているだろう。

「..........暑苦しいから取ったら?」

「お、どうりで熱いと思ったわー」
男はフードと眼鏡、マスクを外す。そこから出て来たのは、端正な顔をした男だった。病的な色白で、やせ細っている。10代に見えなくもない。
「涼しー」

「...............」
佳子は無言で治療を続ける。

「なんだよー。元気ないなー」

「ウルサイ。治療中よ」

「朝の事まだ怒ってんのかー?しょうがないだろ。腹減ってたんだよ」

「パンケーキの恨みは深いわ」

美樹みきだって一緒に食ってんだ。アイツも同罪だろー」

「美樹には食べていいと言ってあったの」
「それに食べるにしても、何で全部食べるのよ。私の分が無いじゃない」

「ラーメンでも奢るから、許してー」

「.............トッピングは全部乗せね」

「オッケー」

「じゃあさっさと食べに行きましょ」
「アンタの体なら、放っておいても大丈夫でしょ」

「いやいや、完全には無理だって。少しは治してもらわないとさー」

「............処置はしたわ」

「サンキュー」
男は足をプラプラさせる。まだ痛むようで、渋い顔をした。
「..........まあ、このくらいなら、大丈夫かな」
「それにしても、あの女め。次会ったら絶対許さん」

「..............会わないようにして」

「?まあ、こっちからは探しにいくような事はしないさ」
「向こうから来てくれるだろうしね」
男はニッコリと笑う。その顔は不敵な笑みでは無く、遊園地にいる子供のような無邪気な笑顔だった。

「...........」
その笑顔を見た佳子は、何とも言えない気持ちだった。

















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