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ご近所トラブル@殺人鬼 作者:omg
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1話 

「OK、場所は?」
彼女はソファーに寝そべりながら、ステッカーで家紋をあしらったものを貼ったスマホを耳に当て、通話しているようだ。スマホからは男性の声のようなものが聞こえた。

「..............」
通話が終わるとテレビを消し、玄関で鍵を手に取ってポッケに突っ込む。電気を消すと、部屋を出て行った。鍵をかける音が聞こえる。

「忘れ物ー」
鍵を開けもう一度部屋に戻ると、冷蔵庫からビールを取り出して彼女は再び部屋を出す。
これから仕事に行くのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 凄まじい騒音がデパートの駐車場で響いている。数十台のバイクが吹かされ、それに跨る男達と、その様子を怯えながらもカーテンの隙間から覗き込む近隣住民。

この場所では暴走族の集会が、月に一度行われている有名な場所だ。それもいつもならすぐに警察がすっ飛んでくるのだが、今日は何やら到着が遅い。その事に気を良くしたのか、集会の熱量は益々上がっていった。

「なんかポリスメンのヤツラ、遅くないっすか?」
集団の一人が隣の男に話しかける。その表情はニヤニヤしており、ふざけているのが手に取れる。

「プッ、ははは!!なんだよポリスメンって!」
「んーまあでも、確かに遅えな.........あの鬼ごっこが楽しいのによ」
男達がこのデパートを選んだのも、理由はそこにある。警察の到着が早いからこそ、この場所でこうして待っているのだが。その様子を感じ取り、疑問に思う人間と、楽しんでいる連中に二分された。いつもならば、うっとおしい存在ではあるが、こうして来ない時間が長いと、それはそれで寂しかったりもするのだろうか。

「そうっすよね............ん?先輩、あれ........」

「あ?」
気づけば、男達の視線は前方から歩いてくる人影に注目されていた。バイクのライトに照らされ、徐々にその顔が浮かび上がる。

なんだ?..........な、なんじゃありゃ?

うへえ、めちゃかわい............?


外国人だろうか。長身で、スタイルのはっきりと分かる服装に身を包み、当初男達はその美貌に目を引かれたが、徐々に見えたその異様を感じ始める。

その女性は集団の目の前まで来ると、立ち止まって男達を見回した。

「.............」
動きやすいようにTシャツを着た。忍装束はサイズが無かった。首の長いヒラヒラは無い。冬はマフラーで代用する。今は夏なのでしない。鎖帷子は子供用しか無かった。シルバーアクセサリーで代用。忍者が履いている足袋。これは履くのがめんどくさい。ビーチサンダルで代用。額当て、していない。

彼女が忍者として唯一出来ているのは、その背中に背負った日本刀だけだ。と言ってもその姿は忍者というよりは、安物B級映画の間違った侍のイメージの塊である。

彼女は手に持ったビールに口を付ける。ゴクゴクと音を立て飲む姿はビールのCMのようだ。

背中のモノに注目し過ぎていたが、しばらくすると、男達も口を開き始めた。
「お、おい.........何の用だ?」

「..............」
女は答えない。真っすぐ男達を見据えている。

「.........おい!!」


「........?」
女は首をかしげ、耳に人差し指を当てた。

「...........」
集団の一人が手を挙げる。その男がまたがっているバイクのエンジンが切られた。それから、続々のバイクのエンジンが切られ、音を発しているのは、その女を照らしているバイクのみとなった。

「..........ほっ、ごめんなさい。うるさくてよく聞こえなかったの」
「全く酷い音ね。耳が馬鹿になるわよ」

「それで?アンタはここに何しに来たんだ?そんなもん背負ってよ」
「まさか殴り込み、ってわけじゃねえよな?」

「...........これが、目に入らないか!?」
女は一枚のカードのようなモノを、男達に見せる。その顔は何故だか自信に満ち溢れていた。

「...........なんだ?そりゃ、免許か?」

「.........まあ、免許みたいなもんよ」
「えーっと.........」
女はカードを顔の近くまで持って行き、その字を読み始める。
「状況....鎮圧、......ほ....補助、特別......許可証」

「...........で?そのナントカカントカが何だって?」

「ナントカカントカじゃないわ。日本人なのに日本語分からないの?」

「おい、女だからって容赦しねえぞ。舐めんなよ」

「女にちょっと馬鹿にされたくらいで怒るなんて貴方、ちゃんとツイてる?」

「.........もういい。後で泣いても許さねえからな」
男は合図を出すと、周囲の男達が次々とエンジンを掛け始め、鉄パイプやナイフなどの武装を始める。
「謝るなら、今の内にしとけよ?その口二度ときけガッ.............」

「え?」
見ると、その男の体が突然倒れる。
話していた男の顔面には、瓶ビールの底がめり込んでいた。めり込んだ部分は丁度口だったようで、前歯の数本がその場に散った。目は白目を剥き、手をピクピクと痙攣させている。

「なッ」
女の手からはビールが消えていた。そのビールをどうしたか、男達はすぐに理解する。

「次は誰にする?ただし次は”これ”が飛んで行くけど」
女は背中の刀を抜こうとする。だが、思ったよりもその刀は長くそれを抜くためには、体を少し前かがみにする必要があった。
「.............」
前かがみになり抜こうとしたのだが、紐に括り付けて背負っていただけなので、完全に固定されているわけではない。そのため片手で抜こうとすると、どうしても鞘が付いてきてしまう。
「ああああ!もう!!」
仕方が無いので、もう片方の手で鞘を固定し、刀を抜こうとする。がそのために更に体を前かがみにすると、今度は首にかけていたネックレスが下がってきてしまい、するすると抜けて髪に引っかかってしまう。
「.............」
「ちょっと待ってて」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こりゃ、酷いな」
警察官の一人が呟いた。

「ああ。もうちょっと早く来てやれば良かったよ..........全く、無茶しやがって」

「今は.........彼らの健闘を称えましょう」

「そうだな............」

「クックックック...........」

「どうした?」

「見ろよコイツ。口から瓶が生えてるぞ」

直立姿勢の姿のまま倒れ、白目を剥き、その口からは瓶が生えている。笑ってはいけない、そんな空気感が二人の警察官の脇腹を強烈に擽った。
「いや.........っぷ.........笑うのは良くないよな......」
警察官は帽子を脱ぎ、それを胸に当てると、倒れている男の1人の元に歩み寄り、膝を付いた。
「..............なあ、このバイク、盗難届が出てるヤツじゃないか?」

「ん?.............ああ、写真で見たヤツと一緒だな」
そしてその警察官は静かに、男の腕に手錠をかける。

彼らが現場に到着した時には、数分前まで騒がしくしていたバイクの音も消えていた。

その場に残されていたのは、蹲る男達と、二つに引き裂かれたバイクだけだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 都心からは少し離れた、とあるアパートの一室。黒い長髪に緑の目。そんな一人の女性がソファーに寝そべり、テレビを鑑賞していた。お昼時は芸能ニュースが多い。雑誌を捲り、ポテトチップスを一枚口に運ぼうとすると、ドアがノックされ開けられる。入って来たのは若い男だ。

「リサさーん。すいません、トイレ借りても良いですか?」
男性はソファーに寝そべる女性に声をかける。その表情からは焦りが見て取れた。どうやら緊急らしい。

「.........このアパートのトイレは共同じゃないわよね?」
リサと呼ばれた女性は、テレビから目線を外さすにまた一枚ポテトチップスを食べた。膝に食べかすが落ちる。それを指で摘まむと、テーブルの上に置いた。

「鍵を部屋に忘れちゃったんですよ。あきらが帰ってこないんで部屋に入れなくて」
このアパートのドアは一応オートロックだ。家賃も高くなく、見栄えもしないが大家のこだわりらしい。以前空き巣に入られた経験から、セキュリティだけはしっかりしたいということだ。

「そうなの。大変ね」
チャンネルを変える。だが、どのチャンネルもニュースばかりだ。

リサはリモコン片手に、ポテトチップスを食べながら、晩飯の献立を考えていた。男は彼女の返答を待って、ドアの付近で立ち尽くしている。だが彼女はすっかりその事を忘れているようだ。

「.................」

「..........あのー」

「.........何?」

「トイレを.............」

「ああ、ごめんね。どうぞ」
テレビを消し雑誌に集中する。男に向けて、トイレの場所を指さし片手で雑誌を捲った。4コマ漫画が載っていたので読むが、彼女には少し難しかったようだ。眉間にしわを寄せている。

「ありがとうございまーす」
男は少し速足でトイレに向かい、ドアを開けようとノブに手をかけた時、リサが口を開いた。

「あ、言い忘れてたわ」

「?何を..................」
トイレのドア開けると、そこには便器に腰かけ踏ん張っている男の姿があった。
「ぎゃああああああああッ!!!」

「ぎゃああああああああッ!!!」
踏ん張っている姿を見られた男も叫んだ。
二人の男の絶叫が部屋に響く。

「ちょっと!私の部屋で騒がないでよ!」

「あ、明!お前、何してんだッ、おおおおおおお!!」

「おおおおお!!いいから!早くドアを閉めろよ!!」

「おおおお!す、すまん!!..........」
急いでドアを閉めトイレから離れると、頭を抱えた。
「最悪だ...........てかリサさん!何で言ってくれなかったんですか!」

「言おうとしたわよ。でも、良かったわね。これでもっと仲良くなれそうじゃない」

「気まずくなるだけでしょうが!」

「これを機に打ち明ければ?」

「............何をですか?」

「察しが悪いわね。ゲイって事をよ」

「違いますよ!俺はノーマルです!」

「あら、そうだったの。ごめんなさい。私てっきり貴方は............」
リサがそこまで言うと、トイレを流す音が聞こえてきた。明が出て来たようだ。彼はチャックをあげながら、男に詰め寄った。見たところ手は洗っていないので、思わず身を引く。

「おい!健也けんや!お前ッなんてことをッ..........」

「...........まだ、開いてるぞ」
健也は明のズボンを指さしながらも目線は外す。

「.............」
明は無言でチャックをしっかり上げると、もう一度健也に詰め寄った。
「おい!健也!お前なッ!」

「いや、それはリサさんがッ...........それよりも、何でお前はここでトイレに入ってたんだ?」

「決まってんだろ!漏れそうだったからだよ!」
健也と明はこのアパートの住人だ。二人は3階の部屋をルームシェアして暮らしている。リサの部屋は1階なので、明は外出から帰って来たところ、3階までもたなかったようで、緊急事態としてこの部屋のトイレを借りに来ていたのだ。

「あー。確かに、鬼瓦みたいな顔してたもんな」

「そうそう。多分昼飯食い過ぎたんだろうなぁ...........覚えてんじゃねえよ!」

「仕方ないだろ............人生でも2番目に入るほどの衝撃映像だったんだから。もうアルバムに入っちまったよ.........」
健也は思い出すと、青白い顔をした。

「まあ、お前のよりはデカいからな」
「...........ちなみに一番は?」

「.............両親の、情事だよ.......」

「女性の部屋でするにはベストな話ね。私にも聞かせて貰ってもいいかしら?興味あるわ」
雑誌を読み終えるとテーブルの上に投げ捨てて、ポテトチップスを食べた。ウェットティッシュを自分の近くに持ってきて一枚取り、手を拭く。

「..........なあ、部屋で詳しく聞かせろよ。すげえ面白そうだ」

「..........早く行こうぜ。俺もトイレ我慢してんだ」
健也が先行して部屋を出て行き、それを追うように明も部屋を出て行く。部屋が一気に静まりかえった。

 リサは彼らが出て行くと、冷蔵庫に向かいビールを取り出す。ポテトチップスを食べたので喉が渇いたのだ。缶を開けて一口飲んだ。再びソファーに戻ると横になる。部屋の冷房を点けようとリモコンに手を伸ばす。

 彼女が一息ついていると、再び玄関が開けられる。女性の二人組が入って来た。二人は都内の大学に通う大学生だ。そしてここの住人である。リサの隣の部屋にルームシェアして住んでおり、親交もあるのでこうしてしばしば部屋を訪れる。

「いらっしゃい。今日は大学は休みかしら?」

「午後から一つだけ授業がありますよ。ていうかリサさーん。今の騒ぎは何ですか?」
茶髪のロングヘア。日本人らしい可愛らしく幼い顔立ちの女性だ。清潔感のある白のブラウスが彼女の清楚なイメージ作りに貢献している。

「どうせ、あの馬鹿二人でしょ?」
もう一人の女性は冷蔵庫に向かい開けると、中からコーラを出して、飲みながらリサの居るソファーに腰かけた。リモコンを手に取ると、テレビを付ける。バッグから鏡を取り出すと、それを見ながら前髪を弄っている。その髪は金に染められ、ボブにしている。黒のTシャツには白い英字で、長々の文章が書いてある。

「................アルバムを見てて、ついテンション上がっちゃったんだって」
リサはその文字を読んで内心おかしかった。長々と書いてあるその文章を直訳すると、「私は不埒な女です。どうぞご自由に誘って下さい。それから貴方はクソよ!ニューヨークにどうぞ」と書いてあったからだ。面白いので何も言わない事にする。

「?........もう、栄子えいこ。勝手に飲んじゃ駄目でしょ」
もう一人の女性はソファーの後ろから咎めた。

沙織さおりも好きに飲んで良いわ。後、冷蔵庫にビールが入ってるからついでに持ってきてね」

「リサってば、昼間からやるねー」
栄子は手鏡をしまうと、テーブルの上にあった雑誌を手に取った。

「.........いただきます」
沙織はコーラとビールを取り出し、ビールをリサの前に置く。それからコーラを開けると、テレビに目をやった。
「リサさんは仕事無いんですか?」

「今日はオフ」

「いいなぁ。アタシも早く社会に出たいー」
栄子は4コマを見ながら言う。ポテチに手を伸ばしているがその手は中々掴めずにいた。見かねた沙織が袋の位置をずらし、ポテチを取らせる。

「何言ってんのよ。私からすれば学生の方が羨ましいわ。子供だけのグループなんて夢の国じゃない」

「単位が取れなければ、一生夢の国の住人ですけどね」
沙織もポテチを一枚食べた。ウェットティッシュを取ると手を拭く。

「楽しいわよ、パレードで踊るのは。ネズミもご機嫌になるわ」
ビールを飲みほしてしまったので、缶を置く。


「............何の話?」
栄子は話についていけなかったようだ。

「夢の国に行きたいなって話」

「え!?アタシも行く!」

「..........じゃあ夏休みにでも行く?」
沙織は手帳を出すと、予定を確認している。

「そこらへんは混んでるっしょー。今度の休み行こうよー」

「...........駄目、バイト入ってる。てか栄子もバイトでしょ?」

「休めばいいじゃん!」

「........またクビになるよ?それに栄子、服とかバッグでお金無いでしょ?」
栄子は沙織をじっと見つめた。沙織は目を逸らす。栄子は悔しそうな顔をしたが、横目でチラッとリサを見た。

その様子を察したリサが口を開く。
「..........いいわ。お金なら貸す」

「駄目です!この前の飲み代も返してないんですから、悪いですよ」

「私は働いてるし、別に困ってないもの。でも今度の休みは私も駄目。次の機会にね」

「ありがとー、リサぁ」

「後は男を連れてって奢らせるってのもあるけど...........」
リサが栄子と沙織を見ると、二人とも目を逸らした。
「それは......無理そうね」

「そ、そういうリサさんはどうなんですか?」

「..........故郷にね、残してきたのよ。一生の愛を誓った彼をね」

「まじ!?それ、どんな人!?年上?年下?」
栄子は凄い勢いで食いついた。沙織は羨ましそうな目で見ている。

「そうね。まあ生きていれば貴方達と同い年くらいかしら。彼、死んじゃったから」
「だから、違う男に乗り換えたの、んでその男も捕まっちゃったから、今は一人ね」

「..............え、あ、ああ。そうなんだぁ......」
「あ、も、もうこんな時間じゃーん........沙織、行こ?」

「そ、そうだ、ね...........じゃあ、リサさん、また」

「はーい。いってらっしゃーい」

二人は逃げるように部屋を出て行った。その後ろ姿を見送ると、冷蔵庫に行き、新しいビールを開ける。
「..........あ、冗談って言うの忘れたわ」
「はぁ..............どっかに良い男居ないかなぁ」













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