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27.夜会の出来事 2



眼前に美青年王子。



わぁ、本当に来たわ~~



リシェルは夜会の数日前にアロウ侯爵と交わした話を思い出していた。





「・・・今申し上げた人物とは一曲ずつ踊ってください・・・と言うか、申しこまれたら必ずお相手してくださいませ。音楽等、無難なお話でもしながらね。姫様なら大丈夫ですから。後は・・・何とかして陛下に近づこうとする各国の外交官や、大商人達ですが、これらと踊る踊らないはその場の・・・云わば雰囲気です。上手くかわせるようなら、躱して貰って構いません。こういう事に決まりはありませんので。けど、問題は・・・」

侯爵はそこで言葉を切った。

そして真剣に話を聞いている娘に目をやり僅かに考えていたが、小さく頷くと一気に打ち明けた。

「問題は王子達です」

「王子様・・・ですか?」

その言葉の響きからリシェルはロマンチックなものを想像したが、侯爵は余り面白くなさそうな顔をしている。珍しい事である。しかし、彼は直ぐにいつもの調子に戻った。

「平原の国々から数人の王子たちも来るんですが、これがなかなか面倒なんですよね~~。彼らの目的は一つです」

「目的」

「左様、あなたと・・・つまりアディーリア女王ですが、結婚する事でね」

きょとんとするリシェル。

「結婚!へええええええ!」

素でリシェルは驚いた。向かいではあああ~~~と大げさに疲れる溜息。

彼女自身は結婚など本気で考えた事がない。いや、リシェルとて、夢見るお年頃だから恋愛や何時かは巡り会う運命の人の事などを考えないでもないが、結婚となると話は別だった。

それは甘い夢ばかりではなく、生活だと言うことぐらいは知っている。彼女の身近な人物にもうすぐそう言う事が起きる予定もある。それについては心から祝福を捧げたいが、自分にとっては遠い先の話だと思っていたのに。

何と言うことだろう。そんな自分が他人になりすまし、その人の代わりにもしかしたら求婚を受けるかもしれなんて。



将来そう言う時が起きた時の為に模擬体験になるのかな?一体どんな王子様が私の前に現れるのかしら?



「姫、姫・・・真面目に聞いて下さいよ~」

大きな瞳を巡らせて何やらにこにこと妄想に入り始めた少女を侯爵は慌てて遮った。リシェルもへ?と我に返る。

「はいぃ」

彼等は皆、第2王子や第3王子なんですわ。事情は・・・分かりますね?」

「はぁ・・・つまり入り婿を狙っていると」

「ご明察」

したり顔で返す老人に思わず笑ってしまう。リシェルは侯爵が彼女に余り負担を掛けないように、わざと軽く話をしている事が良くわかった。

「・・・で、どうすればいいですか?」

「それなんですよねぇ。一応話だけ聞いておいて貰えます?」

侯爵はまるで子供にお使いを頼むように言った。

「聞くだけでいいんですか?」

「はぁ、まぁ。彼等とて競争相手が多いことぐらいは分かっておるでしょうし、余程の馬鹿でない限、りいきなり妙なマネもしないでしょうからね。あなたを通じて我々にその話が筒抜けである事も承知しておるでしょうし・・・」

「・・・」

「ですから、不愉快でございましょうけど、取りあえずふんふんと相手の出方を伺っておいていただければ・・・嫌ですか?」

「やります」

即答。

これには老獪なアロウ侯爵も噴き出してしまった。

「女優魂(そんな言葉あるのかな?)が疼きます」

「まったく姫君。あなたは素晴らしい」

本気で感心している。

「話を伺うくらいなら大丈夫です。それに・・・それにちょっと、どんな王子様達がどんな風に近付いてこられるのか興味があるし・・・あ、すみません。女王陛下の事なのに不謹慎でした」

「いやいやいや、頼もしい。流石にリシェル姫だ。陛下と同じことをおっしゃる」

「アディも?」

「ええ、あの方も以前からそうおっしゃっておられましたよ」

「でも・・・そう言えば陛下のご結婚は・・・」

アディーリアは27歳。王族や貴族の社会ではどうかは知らないが、リシェルの育った環境では適齢期中の適齢期である。好きな男性はいないのだろうか?それとも王族の結婚は政略絡みと諦めているのだろうか?一緒に過ごしたひと月の間、不思議な事にこの話は出なかった。もしかしたら敢えてださなかったのかもしれないが。

「お好きな方とかいらっしゃらないのでしょうか?」

いくら女王とて若い娘である。密かに想う人がいてもちっともおかしくはない。勿論女王と言う立場上桎梏は多いのだろうし、アディが軽率なマネをするとも思えないが、有名な芝居の台本には王侯貴族のロマンチックな愛のお話が沢山ある。それらは皆絵空事なんだろうか?アディは自分の結婚の事をどう考えているのだろう?

「さぁ・・・陛下はこういう事に関しては我々にもお心を明かして下さいません。ですが、これだけはおっしゃっておられます。君主の座についている限り、どなたとも結婚はしないと」

「え・・・」

不思議そうな感情が顔に出てしまったのだろう。リシェルに笑いかけながら侯爵は続けた。

「あの方は誰よりも国を守りたいと思っておられるのですよ。自分の婚姻が原因で、同盟国同士の均衡を崩すようなことは万が一にも会ってはならないと。・・・それに今のところ心にかかる男性は、本当にいらっしゃらないのだと思います。ええ、国外は勿論、国内にも」

外国の王族がダメなら自国の男性ならと思っていたリシェルは、侯爵の言葉の最後にはっとなった。確かにアディーリアはいつも明言していた。自分は弟王子が国王になるまでの仮の君主だと。しかし、それまでにはあと数年ある。



アディはそれでいいの?



幼馴染のシュトレーゼル伯爵の事は本当に何とも思っていないのだろうか?彼はあんなに素敵で、身分も年齢もつり合うのに。だけど・・・



それは私の考える事じゃない。だから―――











「花婿候補の一人にこの私も加えて頂けないでしょうか?」

リシェルはおや、と睫毛を上げてキャスリークを見上げた。今まで気にもしなかったが、男にしては大きな瞳はきれいな緑色をしていた。

「考えておきますわ・・・では」

リシェルは澄まして答え、キャスリークの脇をすり抜けようとしたが、腕を掴まれてしまった。

「!?」

「失礼を。流石にこんな求婚には慣れておられるようだ。ですが、私だってその位は予想していましたよ」

夜会のドレスには袖はついていない、舞踏用の手袋は肘の少し上までしかないから掴まれた部分は素肌である。彼も手袋をしているから肌を直接触られた訳ではないのだが、リシェルはどきりと胸が鳴った。しかし、内心の動揺を微塵も悟らせてはいけない。眉を上げ、瞳をきらめかせて警告の意を伝える。

「・・・ならば、お放し下さい。ここは公式の場ですわ。今ならば、おたわむれで済ませて差し上げましょう」

「つれない氷の女王陛下。どうかもう少し俺・・・私を見て下さい」

「・・・」

「私は22歳です。陛下と年齢も身分もまぁつり合う。こう言ってはなんですが、容姿だって人よりは劣っていない筈。ミスリルはエィティスよりは小さいが、鉱山も塩田もあり、国は豊かです。そちらにも色々な選択肢はあろうかと思いますが、決して悪い話ではないと思います。それに・・・」

「・・・」

リシェルの精一杯威厳を込めた非難の眼差しにも、美貌の王子はめげずに続ける。

「それに私はあなたに一目で恋してしまった」

キャスリークは、けぶる金髪の下から訴えるような切ない眼差しをリシェルに注いだ。普通の女性ならば、この美貌に少しは心が揺らされるのだと思う。しかし、日頃俳優仲間で美男を見慣れているリシェルにはこの手は通じない。

「あら?そうなのですか?光栄だわ。・・・でも、私は自分の国の売り込みよりも先ず、自分の気持ちを先に告げて下さる殿方の方が好きですわ」

「・・・!」

「放して下さいませな。キャスリーク殿下」

女王は微笑んではいたが、その声にはもう社交辞令の甘さはない。キャスリークは自分の敗北を認めざるを得なかった。



「・・・分かりました。今夜は降参です。ですが」

「!」

腕を掴んでいた手が離れたと思うと、今度は身体ごと抱きしめられる。リシェルは慌てながらも自分の頬が王子の胸に押しつけられるのを感じた。上質の布の感触、そして・・・

「ここは一旦引きましょう。ですが、ほら・・・ね?俺の胸の高鳴りが聞こえるでしょう?女性を前にこんな風になったのは初めてだ。ご無礼ばかりで申し訳もないですが、せめて俺が今言った事が嘘でない証拠を知って欲しかったのです」

リシェルが驚いている内にキャスリークは一気に打ち明ける。

「お分かりですか・・・」

抱きすくめられて、リシェルは身動き出来ない。しかし何とかしようと意を決した時―――

「ああ、分かったからさっさと放せ。この坊ちゃん殿下が!」

聞き慣れた声は、記憶にあるより一層剣呑さを孕み。

「!」





狭い壁嚢を塞ぐようにアレクシオンが仁王立ちになっていた。












でました。いよっ!旦那!
長くなったので分けました。またすぐ更新しますね。

  




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