挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
用務員さんは勇者じゃありませんので 作者:棚花尋平

第六章 砂塵の向こうで

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

117/142

短編:午睡と夢と

 今日は『用務員さんは勇者じゃありませんので』5巻の公式発売日ということで、短編を上げさせてもらいました<(_ _)>
 ただ最初の二話は以前活動報告に上げた短編です。そして最後の三つ目が新作となっております。
 基本的にはノンストレスです(笑)
 但し。
 本編に関わることはおそらくありませんが、雪白やアズロナの人化ネタなどが含まれます。
 雪白やアズロナのイメージを崩したくないっ、という方は見ないほうがいいかと思います<(_ _)>

 今後ともよろしくお願い致します。
 
この短編には雪白やアズロナの人化ネタが含まれます。(本編の雪白とアズの人化は予定していません)
二人のイメージを崩したくないという方は、見ない方がよろしいかと思います<(_ _)>
それでは、お楽しみいただければ幸いです<(_ _)>


**************














【シアワセな朝】
 (二巻発売記念の活動報告より抜粋。マルノヴァでアズロナを拾ってしばらくしてから。人化ナシ)


 雪白の柔らかな白毛に包まれ、蔵人とアズロナが気持ち良さそうに眠っている。
 雪白は優しげな眼差しでそれを見つめていた。
 ごろり、と蔵人が寝返りを打つ。
 危うくアズロナが潰されそうになるが、雪白は前脚でアズロナを引き寄せた。
 アズロナは潰されそうになったことなど気づくことなく、ぎぷぅと寝息を立て、口をあぐあぐとさせる。夢の中で肉でも食べているのか、幸せそうであった。
 雪白は困った奴だと言う風に、寝返りをうって背中を向けた蔵人に目を向けるが次の瞬間、身体を硬直させた。
 蔵人が力一杯、尻尾を抱え込んだのだ。
 痛くはない。
 だが、蔵人に、尻尾を、抱え込まれている。
 それがなぜか、無性に、気恥ずかしかった。
 雪白にも理由は分からない。たまに悪戯半分に握られることはあるが、こう無防備に抱きしめられることはなかった。
 即座に、尻尾を引き抜こうとして、気づく。
 尻尾を引き抜けば蔵人が目を覚ましてしまう。
 無意識のうちに、耳が忙しなく動いた。
 どうにか動く尻尾の先端も勝手にぴくぴくと動いてしまう。
 引き抜かねば恥ずかしい。
 引き抜けば蔵人が目を覚ましてしまう。
 雪白は理解不能な羞恥心と、蔵人への思いやりの狭間で悶え死にそうになっていた。

 翌朝。
「……おは――ぶふっ」
 蔵人が目を覚ますと、握っていた尻尾をあっさりと手放し、いつものように声をかけようとした。
 が、突然雪白の尻尾が顔面に炸裂した。
 そっぽを向いた雪白の顔は不機嫌そうであり、どことなく照れも滲んでいたが、尻尾の柔毛に視界を奪われていた蔵人には 分かるはずもない。
 ましてや寝起きの意味不明な一撃に苛立っているだから気づくわけもない。
「……今日こそ、その無駄に長い尻尾を従順なマフラーにしてやる」
 めっきり寒くなってきたせいか、蔵人がそう口走る。
 はっ、むしろお前をマフラーにしてやるわ。
 そう言いたげに雪白は鼻を鳴らした。その顔にはすでに不機嫌さも羞恥もない。いつもの自信たっぷりな女王様であった。
 蔵人は全力で雪白に飛びかかり、雪白は楽しげにそれを迎え撃った。

 ……ぎぅ
 どたばたとした朝の喧騒の中、アズロナが目を覚ます。
 しばらくの間、ぼーと寝ぼけ眼で蔵人と雪白が格闘する姿を見つめていたが、ふと温かなものを感じる。
 今日も無事、幸せである。
 明確にそんな言葉を理解していたわけではないが、危ういところを蔵人と雪白に拾われたアズロナはそれを肌で、心で実感していた。





************



【春の夢】
 (4月1日活動報告より抜粋。一部改変。大筋変更無し。エイプリルフールネタ……でした。龍華国で魔獣の神の女神像を描いたあとのこと。人化あり)



 アズロナの目からビームが発射し、勇者どもを蹴散らしていた。
 雪白が巨大化して、世界を征服していた。
 蔵人はそのしもべとなって、肉を焼いていた。


「――はっ?! ……ああ、夢か」
 春眠暁を覚えずとかなんとかで、眠気は抜けない。
 なぜ自分がうららかな日差しの中、大木の根元で眠っているかも気づくことなく、蔵人は再び眠った。
 するといつのまにか、蔵人の枕元に二人の女がいた。
「――描くか、寝るかしかすることはないのか。まったく」
「……遊んで欲しいなぁ」
 一人は不服そうな顔をした女、もう一人は少ししょんぼりした少女である。

 不服そうな女の灰金色の双眸は鋭く、ところどころ跳ねている伸ばしっぱなしの白髪も相まって野性的ですらある。だが、頭上にある猫のような丸っこい小耳と臀部から伸びる長い尻尾は白と黒の斑模様であるせいか、どこか可愛らしくもあった。
 背は蔵人よりも僅かに高く、身体の起伏もそれなりにあるが、腕や腹、全身の筋肉がしなやかに発達していた。イライダほど骨格が太くないせいか、スラリとしたまるで獣ような印象の女であった。

 しょんぼりとした少女のほうは少し寝癖のある蒼髪おかっぱで、頭の横から小さく曲がった角が二本生えている。右目が髪で隠れているが暗い印象はなく、表情は溌剌としていて人懐っこそうですらあった。臀部から先端にふさふさのついた蜥蜴のような尻尾が伸びる、少女らしい身体つきの美少女、いや美少年であった。いわゆる、男の娘である。
 
 龍華国で魔獣を司る神に出会い、こうして人の姿となったのに蔵人は気づきもしないで眠りこけている。
 日ごろの鬱憤もたまっていた雪白は、そんな呑気な蔵人が憎たらしかった。
「……こうしてやる。いつもいつも変な悪戯ばかりしてっ」
「あっ、雪姉ばっかりずるいっ、アズもやるっー」
 蔵人の頬が乱暴に伸ばされ、その耳がくにゃくにゃといじられる。
 白髪の野性的な美女は雪白、蒼髪の男の娘はアズロナであった。
 龍華国の遺跡にいた魔獣を司る女神に人化の術を習い、雪白とアズロナは夢の中ではあるが、こうして人化した。
 むろん、蔵人はそんなことは知らない。ただの石像だとしか思っていないだろう。
「……ふん、まあ、こんなもので許してやるか」
 アズロナはまだ楽しげに蔵人の鼻をつまんだりしている。
「アズ、それ以上やると死んでしまうぞ」
 口と鼻をつまんでしまえば、たいていの人間は死ぬ。
「死んじゃうのはだめっ」
 とアズロナは手を放した。
 蔵人は寝苦しそうに顔を顰めている。
「ふむ、まったく起きないな。仕方ない」
 いつもやっているように、蔵人の頭を膝に乗せた。
 正確にはいつもは背もたれになっているのが、雪白の感覚としては似たようなものであった。
「あっ、アズもやりたいっ」
「アズもいつもみたいにその腹を枕にすればいい」
「雪姉がそうすればいいと思うっ」
「……やれやれ、仕方のないやつだ」
 雪白はそう言いながらも微笑み、アズロナに場所を譲った。
 そして自分は蔵人の腹を枕に目をつむる。
「むー、膝が痛いっ」
 しばらくは蔵人を乗せていたアズロナだったが、すぐに足が痺れてきたらしく、ぴょんと立ち上がった。
 ゴチンと落ちる蔵人の頭。ますます眉間に皺が寄るが、やはり起きない。
「だから言ったんだ」
「アズもお父さんと一緒にねるー」
 アズロナは蔵人の腕を強引に枕にして、身体を丸める。
 するとそれを見た雪白が、
「そっちのほうが良さそうだな」
 蔵人の反対側の腕を取って、身体を丸めた。
 すぐにくーくーと寝息を立て始める二人。

 大木の下で、蔵人の腕を枕に人化した雪白とアズロナが眠っていた。
 穏やかな春の風がどこからか桜にも似た花びらを運び、アズロナの鼻の上にふわりと舞い降りる。
 すると、それをそっとつまんで取り去る女。
 その女は半透明で、全身が獣で構成されている。だが、邪悪な様子は一切ない。
 ただただ微笑ましそうに、蔵人たちの眠る姿を見つめていた。
 ふわりと大木の枝に腰かけ、いつまでも、飽きることなく、見つめていた。

「――はっ?!」
 そこで蔵人は目を覚ました。
 蔵人の背後には枕となっている雪白が、膝元にはアズロナの頭がある。二人とも眠っている。
 夢であった。
 なんとも奇妙な夢を立て続けに見たものである。
 しばらくぼぅとしていたが、ふと雪白とアズロナを見て、すぐに馬鹿馬鹿しいと頭を振った。

 二人が人化すれば、人恋しさとも無縁になるだろうか。

 そんなことを一瞬でも思ってしまったことが、酷く滑稽であった。
 蔵人は不貞寝するように、三度寝を敢行した。

 しかし、そんな蔵人を雪白、そしてアズロナが薄目をあけて、見つめていた。
 早く気づけ、バカ、と責めるように見ているのは雪白。
 早く気づいてくれないかぁと願うように見つめているのはアズロナであった。
 
 


********************************


【女神の報酬?】
 (新作短編です。5巻発売記念です。人化あり。前二つより、少しだけ、長くなりました)



 砂漠のオアシスに大きな湖があった。
 その湖の周囲にはちらほらとヤシの木のような木が生えており、その下で蔵人はのんびりと午睡を楽しんでいるようだった。
 砂漠であるというのに初夏のような程よい気温が保たれており、風がそよそよと吹いているのに、砂が舞い上がる気配もない。遠くからはバザールの喧噪も聞こえてくるが、やはり周囲に人の気配はない。
 蔵人自身もなぜそんな場所で眠っているのか知らないし、そもそもそんな場所で寝ている自覚もない。ただ、気持ちの良い睡魔に身をゆだねているだけだった。
 そんな蔵人に、四つの影が差し込む。
「また寝てるのか」
 野性味溢れる女が呆れるような目をして言った。
「……気持ちよさそうだなぁ」
 蒼髪おかっぱの少女は蔵人の寝息に誘われそうになっている。
「ふむ、せっかく来たのだが……本当に気づいておらんようだな」
 両腕のない女が古めかしい口調で言うと、その隣にいた全身が獣で構成された女がコクコクと頷きながら、なぜか饅頭を食べていた。

 野性味溢れる白髪の美女は雪白、蒼髪おかっぱの隻眼少女、いや隻眼男の娘はアズロナである。
 加えて、両腕のない女は流星と罰を司るセレ。本来は、あの女神像であった。
 力強い眼差しとピンと伸びた背筋、前頭部から伸びる剣のような角も相まって、厳格な神らしい雰囲気がある。さらに足下まで伸びる艶やかな蒼黒い髪や同色の瑞々しい肌はどこか浮き世離れしており、両腕がないからこその背徳的な美がそこにはあった。

 そして、コクコクと頷くだけで無口な女は、獣と子孫繁栄を司る混古フングゥ。彼女も龍華国の遺跡の女神像である。
 目は三つで、妖艶な顔だちに極端なS字を描く肢体と三対の腕、さらには蛇の尻尾まである異形の女神であった。
 さらにその肢体をよく見れば腕や脚、腰、腹、背中は全て魔狼や魔虎、魔蟹、魔鳥が集合して構成されており、顔の右半分にすら薄らと魔狐の姿がある。
 キメラのように魔獣が合体した歪な獣ではなく、三眼六腕とはいえ人の形の中に魔獣がおさまっている様は不気味で、恐ろしげで、しかし畏怖を感じるほどの美があった。
 しかし、当人といえばその妖艶で怖ろしい姿とは裏腹に無口で、いつか蔵人に供えられた饅頭を嬉しそうに抱えているあたりは、色気よりも食い気らしい。

 女神たちは蔵人への報酬のために、こうして蔵人の夢に現れた訳であるが……。
 そんな多様な女に見つめられながらなお眠り続ける蔵人。
「興味のあること以外は、比較的どうでもいいようだな」
 蔵人が絵を描いているときに何度か夢の世界のことを話したのだが、最初は雪白に邪魔をされ、そのあとは生返事しか帰ってこなかった。今もこうして、自分たちに気づかず眠っている。
「……ふんっ」
 そんな蔵人の態度が嬉しいようなそうでもないような雪白だったが、つまらなそうに鼻を鳴らした。照れ隠しなのか、それとも不服なのか、もはや癖となってしまっていて雪白自身にもわからなかった。

 その横ではアズロナが混古をじっと見つめていた。
 混古は饅頭にかぶりついていたのだが、その視線に気づくとどこからともなく饅頭を取り出し、アズロナに差し出した。
「……いいの?」
 アズロナが上目遣いでそう尋ねると、混古はコクコクと頷いた。

 アズロナと混古は二人揃って、もきゅもきゅと饅頭をほおばる。実に嬉しげである。
「混古、確か酒もあっただろう?」
 セレに言われ、混古は饅頭をほおばったまま、酒樽をずいとセレに差し出した。蔵人が供えたのは饅頭と、酒である。
 すると雪白の耳がぴくりと反応する。
「……いける口か」
 セレが酒樽を宙に浮かせて、一口呷り、それをそのまま雪白に回す。
 雪白も無言で受け取り、ぐいっと呷り、セレに戻した。
 二人は微かに笑みを浮かべ、酒を回し呑んだ。

 饅頭は途絶えず、酒も尽きることはない。
 砂漠のオアシスは女たちの、いや正確には女と男の娘たちの宴会場と化していた。
「いいじゃないかっ、少しくらい味見させてくれても」
 少しばかり、いや相当に酔ったセレが蛇のように雪白の背後から絡みつき、耳元で懇願する。
「だ、だ、ダメだ。いや、ダメじゃないが、ダメだっ」
 独占欲とプライドの狭間で懊悩する雪白は酔ってもいないのに、言動がおかしくなっている。
「減るもんじゃないだろ? それにほら、一応は神を立ててだな」
「か、神とか知らん。うちの山にはいなかった」
「うちの山って……混古もなにか――」
 強情な雪白を説得すべく混古に視線をやったセレであったが、すぐに諦めた。
 アズロナと一緒になって、幸せそうに饅頭を頬張っている。長年供物などなかったものだから、嬉しくて仕方がないらしい。

 そうこうしていると、蔵人がついに目を覚ました。
 さすがの蔵人もそんな騒ぎの中で寝ていることなどできなかったらしい。
 これ幸いと直接交渉すべく、セレがするりと蔵人に近寄って言い放った。
「――ブラッシングをしてくれ」
 雪白の耳がぴんと立ち、尻尾がぶわりと膨らむ。
 女にだらしない蔵人のことだから嬉々として受け入れてしまう。雪白は、そう思った。しかし――。
「――いや、人にブラッシングとかどうかと思うぞ?」
 寝起きになんなんだと思いつつ、いや、これは夢の中で夢を見ているんだなと思った蔵人は、なぜかそう言い返していた。
 ほとんど寝ぼけている状態といってもいい蔵人の、思いもよらぬ正論に雪白は耳を疑い、お前は誰だっ、とでも疑うような目をして蔵人をまじまじと見つめた。
 いつもならばあられもないことをしようとするくせに、ここの蔵人はまるで色欲などないかのようである。
 たまたまか、はたまた夢ゆえか。

「――ならばっ」
 セレがそう叫ぶと、ぼんっと白い煙が上がった。
 そして煙が晴れると現れたのは、ふさふさした巨大な蛇であった。見ようによっては現代でいう東洋の龍にも似ているが、全身がふかふかした蒼黒い柔毛で覆われている。こうしてみると蛇とはいえ、可愛らしくもあった。
「……むむっ」
 無口な混古もブラッシングには興味があったのか、無言で変じた。
 すると現れたのは、獅子の身体に蛇の尻尾、狐と鷹と熊の頭を持つ巨大なキメラであった。その身体はやはり全体的にふさふさしている。

 しかし、ここでも蔵人は冷静であった。
「――いや、でかいし。時間がかかる。しんどい」
 またしても正論。
 雪白クラスが三体である。いかに蔵人といえど重労働には違いない。
 雪白は蔵人の思わぬ反応に密かに内心で喜んでいた。
 アズロナはセレと混古の姿に興奮気味で抱きついている。
「……存外、常識的な男だな」
 ふかふか蛇のセレの呟きに、蔵人が心外そうな顔をする。
「いや、常識くらい知ってる」
 アズロナ以外の全員が微妙そうな顔をし、知ってるだけだろ、と内心で突っ込んでいた。

「……それなら、こうする」
 混古が指をぱちんと鳴らすと、混古とセレは小さくなった。
「……ねこ――ぶふぅっ」
 雪白を見てそう口走った蔵人の喉からうめきが漏れる。
 小さくなった雪白の突進が、見事にみぞおちに突き刺さっていた。 
 そう、雪白とアズロナを含めて、全員が小さな獣や飛竜になっていた。

 しかしこうなっては蔵人も言い返せない。
「……手間だから、まとめ洗いな」
 雪白がぎょとする間もなく、蔵人は無言でぬるま湯の球体を作り出し、呆気に取られている四匹の小さな魔獣たちの首根っこを掴んで、そこに放り込んだ。
 そして、高速乱回転。
「待っ――がぼぼっ」
「……っ」
――がるっ
――ぎぅぎぅっ
 女神たちは水流に呑まれて口もきけず、雪白は怒りたくても小さな身体では脱出もできず、アズロナは楽しんでいた。
 いつの間にか石けんも投入し、ぶくぶくと泡立ち、すぐにすすぎ洗いもされてしまった。

 洗われた四人から、ぽたっぽたっと水滴が落ち、砂地に吸い込まれていく。
 不服そうな三人と喜んでいる一人を、今度はどこからともなく取り出したタオルでもみくちゃにする蔵人。
 夢と割り切っていることで水も石けんもタオルも自由自在に具現化してしまっていた。

「わ、われはかっ――にゅうぅ」
「……っっ」
――ぐる……
――ぎゃっぎゃっ
 みんなに遊んでもらっているようでアズロナは楽しいようだが、いっぱしの大人であるほかの三人は納得できずに抵抗しようするが、なぜか蔵人に抵抗できず、タオルでもみくちゃにされて水を拭われた。
 そこからは蔵人の本領発揮。
 温風でほかの全員を乾燥させながら、どこからともなく三種のブラシを取り出し、まずは雪白のマッサージとブラッシングから始める。
 一番は自分ということは嬉しいが、蔵人に主導権を握られているようで、なんとなく雪白は釈然としない。が、マッサージが始まってしまえば、そんなことはすぐに忘れてしまった。

――ごろごろごろごろ……
 毛づやが良くなり、くたっと砂地に寝そべって喉を鳴らす雪白。もう一歩も動けないらしい。
 そして、次はアズロナ。
 鬣を梳き、全身の鱗をゴム質の木のブラシできゅっきゅっとする。
――ぎぅぎぅ
 くすぐったそうに身をよじるアズロナを蔵人はいつものように磨いていった。

 そして、セレ、混古の番となった。
「や、そこは、そんな場所を……」
 蛇の身体など知らない蔵人は、全身を梳き、丁寧に揉みしだく。
 すると、セレが悶えるように身体をくねらせる。
 蔵人はウナギっぽいなと内心で思っているが、蛇もウナギも触ったことなどないのだから、マッサージもブラッシングも手探りである。
 しかし、雪白やアズロナという魔獣を何百回とブラッシングすることで、蔵人の技術はそれなりのものとなり、その急所を見抜く推察眼も上達していた。
「そ、そこはぁぁ……」
 しばらくすると見事に身体を伸ばしきった蛇ができあがった。

 混古の場合は雪白と似ているが、多々違う面もある。やはりこちらも手探りである。
「……あっ」
 獅子の身体ということで雪白と同じようにすると、混古が熱い吐息を漏らす。
「……だいだい一緒か」
 狐の首と顔は黒天千尾狐の黒陽の、蛇はセレの要領で、揉みしだき、ブラシをかけ、鷹と熊の部分だけは慎重に探っていく。
「そこじゃ……あっ、そう、……あん」
 少し違う場所を触ってもすぐにそれを修正し、次の場所を探っていった。

 四匹の小さな魔獣がアンニュイな吐息を零しながら、くたっとなって砂地に転がっていた。
「……小さいとはいえ、四匹もいるとしんどいな」
 蔵人は手と首をぷらぷらさせてから、再びごろりと横になる。
 夢らしくもないが、まあどちらでもいいか。そんな心境で再び眠りについた。
 すると、雪白とアズロナがふらふらと立ち上がり、そのそばで丸くなる。
 それを見たセレと混古は顔を見合わせ、そして微笑みながらそこに混じった。
 小さな、猫と飛竜とふわふわ蛇とふわふわキメラが、思い思いに蔵人に寄り添って、眠りについた。

 湖のしっとりとしたそよ風が、蔵人の髪を、それぞれの柔毛を撫で、その寝息を遠いどこかへと運んでいった。
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ