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HUNTERS
作:グリコ



第十七話:放心


「……」

 結局、ほとんど眠れなかった。常に精神が苛立って、安心して寝るなどとてもじゃないけど出来なかった。隣の部屋から、いつもの寝相悪さ故の蹴る音がしなかったことが、本当にシュラが居なくなったの事を実感させて、意図しないでも視界が曇った。

湿った枕を掴んで、眺める。クリスは恐らく医務室でケイトの傍についてる。しばらくぼうっとして、髪をくしゃくしゃと混ぜた。ベットから抜け出す気力もない……。窓から差し込むのぞかな日差しに苛立って、ガラスに向かって掴んでいた枕を投げた。また横になろうとした瞬間、廊下で放送が流れているのが聞こえた。

『……よ。再度告ぐ。ハンターズBクラス以上の者は朝10時までに本部の司令室へ集合せよ。以上』

「……」

渋々起きて、クローゼットに手をかけた。

視界に色がない。心の中にあった雫が零れ落ち、枯れてしまったようだった。

項垂れて、心臓の位置のシャツを掴む。昨日からずっと痛いんだ。足やら腰やら腕やら、外傷的なものも痛いけど、それよりももっと、深部の、奥のほうが凄く痛い。熱くなって、疼く。また曇り始めた視界を気にせず、予備の黒い制服を着る。

自分がこんなに、あの子供を好いていたなんてしらなかった。憎まれ口ばかり叩く、小生意気なガキだという意識しかなかった。なのに、なのに。

──ハンターズでは、人のために動いた奴から死ぬ。

──ハンターズとは死に捉われた集団。

──人一人が死のうと、世界は何も変わらない。

「うっるせぇ!!!」

拳をクローゼットに叩きつける。ジンジンと、焼けるように苦しみが渦巻く。こめかみに冷や汗が浮き出る。頭の中で何重にも反響して響く声に、まるで十字架にかけられ拷問されているかのような錯覚をする。

「…ハンターズが何だってんだ…!そんなに偉い組織かよ!この組織が!!」

何度も、何度も、クローゼットを叩いて、床に崩れこむ。目から落ちる大きな雫が、床に落ちて染みになる。

苦しい。苦しい、もう嫌だ。

父さんの次はシュラだ。次は何なんだ、俺の大事なものばかりMAは浚っていく。

次は、次は──…。

「……っ!」

その先を考えるのは、やめた。

そもそもこんな組織に関わらなければ、あのときに盗み聞きなんかしなければ、こんな目にあわずにすんだのに。親父も空間に迷い込むことなんてなくて、あんな怪我を負わずにすんだのに。全部、全部俺を中心に死の連鎖を引き起こしてる気がする。

俺は今、死の中心に居る。

…死に捉われた者の集団という意味が、本当に分かった気がした。

よろよろと立ち上がり、一人本部へ向かった。












「よっと。さて、皆集まったか?」

司令室の中は黒い団員で埋め尽くされていた。隊長は一人デスクの上へ昇り満足そうに辺りを見下ろした。

「さて──今日ここに集まってもらったのには当然ながら理由がある」

俺はほとんど聞いちゃいなかった。隣にはサリンと、いつぞやにあった変態が居た。名前はなんだったけか──ああ、ダンか。ダンなんとかってやつだ。彼らも、BかAなんだ。強いのか。

「昨日起きたMAの大量発生は必然として起きた事件だ」

隊長は真剣な眼差しで、団員達をじっと見た。

「今世界中でMAの発見件数が爆発的に増えている。それに伴い、もうハンターズという組織
を隠し切れずにはいられない状態だ。俺にしてみれば、出来れば──もう少し後が良かったんだが。今日より、MAの発見が多い国では政府が正式な警告を出すだろう」

ここで、隣のサリンが手を挙げた。

「ん?何だサリン・ソンクラーか。言ってみろ」

「ハイ。政府は具体的にどのような処置を取るのでしょうか?」

隊長はこめかみを指で掻きながら少し考える素振りをした。

「ん〜…そうだな…政策は国によってそれぞれ異なるから、俺からは何もいえない。それよりも、俺達ハンターズがこれからどう動くかが重要だ」

悪戯っぽく笑った隊長は、俺と少し目を合わせた。別に目線を外したりしなかった、面倒くさかったからな。少し視線を交わして、隊長は何かを決めたように言った。

「……よし。まずBクラスだとかAクラスだとかでは分けない。こちらであらかじめグループのメンバーは決めておいた。それぞれの能力を照らし合わせて、過不足なくしたつもりだ。おい、メンバー表を配れ」

そう合図すると、隊長の傍の付き人のような人が白い紙を配り始めた。回ってくる紙を受け取り、空ろに見つめる。無気力状態だった。一応自分の名前を探す。

すると紙にはこう書いてあった。

【グループ1・特攻部隊】 

*ロイス・ターキン(隊長)S
*グレイス・ケイト(隊長補佐)A
*クリストフ・フランズ(隊長補佐)A
*サリン・ソンクラー(情報係)B
*ハヤシ・ヤマト(情報係)B
*ダン・ブラウン(情報係)B

「……知ってる奴らばっかり…」

「そうみたいね」

独り言のつもりなのに、隣のサリンが覗き込んできたので思わず驚く。

「なんか意図的なものを感じるメンバー表ね………て、特攻部隊!?」

サリンが甲高い声を上げた。周りの団員が一斉にこちらを振り返る。

「あ……」

隊長が野太い声で笑った。

「がっはっは!そうだよ、グループ1・特攻部隊だ。ちなみに数字が少ないほど強い奴らが集まってる。つまり強いMAが現れたときに真っ先に特攻する奴らってことだ。さて、皆自分のメンバーを確認したか?したな?なら、解散!グループ1の奴らは残れよ!」

ザワザワと、密やかな会話を交わしながら団員達が出て行く。グループ1・特攻部隊と呼ばれた、俺を含める5人だけが薄暗い司令室へ残る。ケイトとクリスもその場にはいた。高熱を出しておきながら、2・3日で復帰するケイトの精神力に内心舌を巻いた。心なしか、目の下に(くま)が出来ている。

「…さーてと、特攻部隊、お前らは俺と一緒により危険な任務についてもらう」

資料を抱えて、隊長は六角形の銀製テーブルに座るように合図した。

「……」

俺はまだ、頭の中に霧がかかったみたいだった。ずっと果てしなく続く白い霧の中で、一人取り残されて。周りには誰も居ない、一人でこのモヤモヤの中を歩いていくしかない気がした。

「ヤマト?」

「……え」

心配そうに、覗きこむのはサリンだった。思わず頭を左右に振る。ロイス隊長は煙草をふかしながらこちらを見た。

「おい、ハヤシ・ヤマト。お前そのまま任務地に行ったら100%死ぬぜ?」

白い煙が、シューと蛇のように伸びた。別に、無気力の俺にそんな事を言っても無駄なのに。

「……きっと、疲れてるんだよ。ねぇヤマト?」

向かい側に座ったケイトが、首を傾げるようにして同意を促した。どうにかこの場の雰囲気を和ませようとしているらしい。その仕草が妙に慌てていて、俺は変な気持ちになった。

「…──ケイト。放っておけ、そんな奴。どうせ任務に行けば疲れなんぞ吹き飛ぶ」

ロイス隊長が直線的な眉をより直線的にして、すっかり短くなった煙草を銀の灰皿でねじり消した。もう5本溜まっている。ごつい手の平は歴戦の戦士を思わせた。

「……さてと、俺ら6人はこれからとある場所へ向かう」












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